あめつちだれかれそこかしこ(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『あめつちだれかれそこかしこ』とは、漫画家の青桐ナツによる和風ファンタジー漫画である。株式会社マッグガーデンが運営しているWebコミックサービス「マグコミ」にて連載が開始された。祖父の遺産として日本家屋を受け継いだ主人公・青司が、そこに住む神々を中心にさまざまな神々や妖怪、人々と過ごす日常を描く。時に切なく、時にホッとするハートフル和風ファンタジーとして人気を集めている。

作中に登場する神の1人である年神。

人智を超えた存在であり、宗教的な観念における象徴にあたる用語。本作では、主人公の青司が暮らす町で神として活動している地元神達を指す事が多い。年神や納戸、稲荷や熊野がこれに当てはまる。

妖怪

想像上の化け物。もともとは、人が起こしたものとは考えられない不思議な現象を元に生まれた存在とされる。全国的に知られている有名な妖怪もいれば、一部の地域でしか知られていないマイナーな存在もいる。
本作では、神様以外の人智を越える存在の事を示す単語として用いられる事が多い。ほとんどがモブキャラクターとして登場するからか、各妖怪の詳細や名前は不明である。

稲荷神社(いなりじんじゃ)

稲荷神社内にある一室で、稲荷(画像2・3コマ目の長髪の男)と青司(画像3コマ目の黒髪の少年)が話すシーン。

笹木家と縁があり、年神と同じ神である稲荷が祭られている神社。本作に登場する狐のほとんどが、この稲荷神社に仕えている。地元の神様である事からか、青司も笹木家の1人としてお参りなどをしている模様。
元ネタは、京都伏見にある伏見稲荷大社を総本山とする、豊穣の神・稲荷神を祭る稲荷神社と推測される。

闇市(やみいち)

神や妖怪など、人智を越えた存在が集まる市場。人が開いていた市場を真似して始めたのが、起原だという。
本来は人間は来れない場所だが、稀に偶然人間がやってきてしまう事もある。神様や妖怪と何かと縁のある笹木家の人間は、自らの意思で遊びに来ていた模様。特に青司の祖父・稲造は、闇市場にて様々な妖怪と交流があった。青司の両親である彩と光彦も時々来ていた事が、作中のモブ妖怪達のセリフから伺える。

『あめつちだれかれそこかそこ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

年神「そんなことをいわないで 受け継がれ繋がれ 君の元へ辿り着いたのだから」

青司と年神が初めて邂逅した際に、年神が口にしたセリフである。
祖父・稲造が遺した遺産として、彼が暮らしていた家を受け継ぐ事になった青司。家を引き取るよりも前に両親を亡くしていた青司は、自らは天涯孤独の身と思っていた為、自身の身内がいたという場所がある事に確かな安心を覚え、稲造の家に越してきた。だが、そこは人が暮らしていたような跡はもうなく、彼は1人で家を住める場所にする為の掃除をしなければいけなくなる。そうしている内に、身内が遺してくれた場所とはいえ、もう誰もいなくなってしまった現実に、青司が抱えていた安心感は虚しさへと姿を変えていってしまう。そんな心もとない現実に青司が打ちひしがれかけた時、年神が現れる。そうして、「自分にはなにもない」と言う青司に、「そんなことをいわないで 受け継がれ繋がれ 君の元へ辿り着いたのだから」と声をかけたのである。
一見すると、この時の青司を安心させる為にかけたと思われるセリフだが、『あめつちだれかれそこかしこ』の本編が進む程に、ここに込められた年神の深い思いが判明していく。実はこの時の年神は、自分が知る人間よりもどこか表情が冷たく固い青司の事が気になっていた。本編では、この出会い時の年神からの青司への印象を基に、年神が青司の役に立つような事をしたいと奮闘し始めている。このセリフは、年神にとってその奮闘の第一歩にあたる最初の行動だといえる。
青司と年神の初の邂逅シーンであると同時に、本編の肝にもなるセリフとなっており、印象的な年神の名セリフだ。

青司「僕の家ですから 僕とあと二人が暮らしている家ですから」

青司が名言を言った回が収録されている巻の表紙。

大天狗・向山紅白坊が、部下の天狗達と共に笹木家にやってきていた時に、青司が口にしたセリフである。
この時、青司は向山紅白坊に振り回されている最中であった。わざとじゃないにしろ、家の一部も壊されており、それも相まって天狗達に怒りを抱いていた青司。自分の事を弱い者とみなし、むちゃくちゃにやりたい放題振り回す向山紅白坊に怒っていた青司は、その怒りをぶつけると同時に、「自分はここの当主である」という事を彼に自覚させようとする。そうして、当主として天狗の理不尽な暴挙から家を守るという宣言のため、「僕の家ですから 僕とあと二人が暮らしている家ですから」と述べる。実はこれは、作中において青司が初めて口にした笹木家当主らしいセリフである。この家に越してきたばかりで、まだ神々や妖怪に慣れず、笹木家の当主であるという事にも上手く自覚が追いつかずに日々の暮らしに辟易とし続けていた頃の青司からは、想像もつかないほどに毅然としたセリフだといえる。
また、家に越してきた当初は年神の事を疑い、納戸とも上手く折り合いがつけられずに居た彼が、二人の事を笹木家の住人として認めるようになった証のセリフともとれる。作中の様々な出来事を通して、青司の中で笹木家や神々に対する思いが少しずつ確実に変わってきている事が伝わってくるセリフだ。

納戸「いまこの家のいちばんの財産とはなんだと思う」

「この家の一番の財産」を思って笑みを浮かべる納戸。

年の瀬の騒ぎのせいで年神の依り代が壊れ、年神が不在になってしまった笹木家。その後、年神は無事に帰宅したが、一連の出来事を通して青司を泣かしてしまう。その様子を影から見ていた納戸が、普段はなかなか涙を見せない青司のありようについて鳥天と話している時に述べたのが、この「いまこの家のいちばんの財産とはなんだと思う」という問いかけだ。
納戸は、その名前の通り納戸に宿る神である。代々笹木家の者から、様々なお宝や隠しておいてほしいと頼まれた物などを預かり、それらを一族の財として納戸の中で大事に守り続けてきた。そのような役割故、年神以上に人との付き合いが深く、人の営みというものを傍で見続けてきた。人に対しての造詣も深く、その様を知っていた鳥天も彼の事を「本当に人が好き」と評価する。だが、納戸はそれを肯定はせず、「自分はただ神としての役割を担っているに過ぎない」と返す。そして、「いまこの家のいちばんの財産とはなんだと思う」と鳥天に問い返した。
その明確な答えを鳥天が返す事も、納戸が答える事もなかったが、次のシーンには青司の部屋の扉が映し出されている。その事から、この家のいちばんの財産が青司自身である事が推測される。
青司と出会った当初、彼の事を笹木家の跡継ぎとしては認めないといった素振りを見せていた納戸。だが、その評価も彼との暮らしの中で少しずつ変化していき、いつの間にか、彼こそが笹木家の大事な財産であり、自分が守るべきものという認識に変わっていた。青司に対する納戸の想いの変化がわかる名セリフである。

『あめつちだれかれそこかそこ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

作者のXだけで公開されている稲荷の洋装

『あめつちだれかれそこかしこ』の作者・青桐ナツのXのアイコン。

本作の作者である青桐ナツは、自身のXのアカウントにて時折『あめつちだれかれそこかしこ』の1枚絵の公開を行っている。
コミックスの宣伝などで描かれる場合もあれば、ただのラクガキとして制作されたものもあり、そのなかには「稲荷の洋装」という漫画では目にできない光景が描かれたものもある。
稲荷は神社に祭られている神である事からか、作中では常に和装で描かれていた。正に彼の洋装が見られるのは、青桐ナツのX限定といえる。イラストは、冬服とスーツ姿の2種類が存在する。

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