あめつちだれかれそこかしこ(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『あめつちだれかれそこかしこ』とは、漫画家の青桐ナツによる和風ファンタジー漫画である。株式会社マッグガーデンが運営しているWebコミックサービス「マグコミ」にて連載が開始された。祖父の遺産として日本家屋を受け継いだ主人公・青司が、そこに住む神々を中心にさまざまな神々や妖怪、人々と過ごす日常を描く。時に切なく、時にホッとするハートフル和風ファンタジーとして人気を集めている。

『あめつちだれかれそこかそこ』の概要

『あめつちだれかれそこかしこ』とは、漫画家の青桐ナツ(あおぎり ナツ)による漫画である。話のジャンルは「土着日常奇譚」との事で、現代日本を舞台に、とある日本家屋に住む少年と神々、そして彼らの周りの神々や妖怪、人間の日常を描く和風ファンタジーとなっている。
連載が開始されたのは、2014年。株式会社マッグガーデンが刊行していた漫画雑誌『月刊コミックアヴァル』にて行われた。コミックアヴァルはその後、同年に出した「8月号」を最後に紙媒体を休刊。それに伴い、本作は後に誕生したマッグガーデンの漫画雑誌『コミックアヴァルス』に移転し、連載を続けた。その後、2016年頃に本作は同じマッグガーデン発のWebコミックサービス「マグコミ」に移転し、以降は「マグコミ」にて連載を続ける。
話の主人公である笹木青司(ささき せいじ)は、両親を亡くした男子高校生。親戚もおらず身寄りがないと考えていた青司だが、故人であった祖父が遺産として自身の家を青司に残していた事が判明する。青司は彼の遺産である古い日本家屋で暮らす事を決めるが、そこには年神と納戸と呼ばれる2人の神が住んでいた。こうして青司は、2人の神々と共に暮らしながら、さまざまな神々や妖怪、人々と交流をしていく事になる。

『あめつちだれかれそこかそこ』のあらすじ・ストーリー

神々との出会い

両親を失い、天涯孤独の身で過ごしていた中学生の笹木青司(ささき せいじ)は、ある日、自分の従妹叔母だという女性・カレンと出会う。彼女から「祖父が君に家を遺している」と教えられた青司は、顔も知らない祖父の遺産を受け継ぐ事を決意。中学を卒業と同時に、祖父が遺したという、かつて彼が暮らしていた日本家屋で暮らし始める。
しかし、もう誰も住んでいないはずの祖父の家には、年神(としがみ)だという男性と納戸神(なんどしん)だという子どもが住んでいた。実は、笹木家は昔から神々や妖怪との付き合いがあり、なかでも青司の祖父である稲造(いなぞう)は、特別彼らとの親交が深い人物だったのである。青司は笹木家の跡取りとして、彼らと共に暮らす事を余儀なくされてしまう。

家に集い始めるよくない者達

最初こそ自らを神だと名乗る相手に戸惑い混乱した青司だが、その内、彼らとの生活にも慣れていく。神としての信頼はなかったが、一緒に暮らす事が当たり前になり始めた頃、青司は家に妙な気配がある事に気づく。神々がいうには、それらは笹木家が誰もいなくなっていた時に集まっていた者達で、青司が家に住んだ事で一度はいなくなったが、家の神棚の札が古く効力が弱くなっていた為に戻ってきてしまったのだという。
神々も家がまだよくないから本調子ではないとの事で、彼らも追い払う事ができない模様。ひとまずは家にあった消臭剤で空気を浄化して事なきを得るが、それでも家全体を覆う空気はよくならない。そこで神々は、青司をよくない者達から守るために彼を警備する事に決める。彼らの周囲は確かに空気がよく、青司は自分が彼らの加護を受けている事を実感した。
翌日、神棚の札を変えた事とで、家にあった妙な気配はなくなる。これで一件落着かと思いきや、家から追い出された者の「親玉」にあたるケガレの塊が青司達の前に現れてしまう。
家を欲しがるケガレは、青司と年神が家を離れ、納戸がテレビに夢中になってる間に笹木家に侵入。青司はケガレを追い出そうとするが、どうしても家が欲しい彼は青司の心の隙につけ込む。実はこの時青司は、自身の親戚であるカレンとその家族に、「自分達の養子になって一緒に暮らさないか」と提案されていた。青司はそれを断ったが、その実、血の繋がりがある家族がいない事に寂しさも覚えており、その事をケガレに言い当てられた青司は、彼に取り込まれてしまう。
ケガレに飲み込まれかける青司だったが、理不尽な現状への怒りから、なんとか意識を保つ。するとそこへ、年神が帰宅。彼の力によって青司はケガレから救出される。その後、ケガレは納戸にかけられた消臭スプレーによって家の外に追い出され、風に吹かれてどこかへと飛ばされる事となった。
事態は収集したが、今回の事を通して青司は、自分が思っていた以上に現状に寂しさを覚えていた事を自覚してしまう。そんな彼を見た年神は、少しでもその寂しさを減らしてはやれないかと考え始める。

高校への入学、友・酒井巧(さかい たくみ)との出会い

4月になり、青司は家の近くの高校に入学する。だが、どうやら青司が思う以上に笹木家は地元の人々にとって有名だったようで、彼は「噂のお化け屋敷」に越してきた人物として注目を集めてしまう。
入学初日から「本当にあのお化け屋敷に住んでいるのか」「幽霊は出るのか」などといった質問責めに合う青司。神々がいうには、「それでもなんだかんだ地域社会には馴染んでいたから大丈夫」との事だが、青司の想像以上に祖父の稲造は人ならざる者達の事を近所の人々に話していたらしい事が判明し、絶句してしまう。さらに、青司は学校で人ならざる者を目にする。自分以外には誰もその存在が見えていない事に気づいた青司は、そこで初めてきちんと自分が普通の人には見えない者も見える人間になってしまった事を自覚。もともとは見えない側の人間だったが、家の影響でそうした者を見る目が開いてしまったのだろう、というのが神々の意見だったが、どんどん普通からかけ離れていく自分に青司は頭を悩ます。
するとその晩、笹木家に青司のクラスメイトである酒井巧が家にやってくる。実は巧は、「噂のお化け屋敷」に住んでいると注目を集める青司が嫌な思いをしているのではないか、と心配をしていたのだ。自分を気遣う巧のおかげで、青司の心は少しだけ軽くなる。この事をきっかけに、青司は学校で巧と一緒にいる事が増えていく。
しかし、巧相手にもどこか遠慮がちな距離感が拭えない青司。そんな青司の様子に納戸は、彼のために一肌脱ぐ事を決める。幽霊・足無し(あしなし)に、巧に取り憑いて笹木家に連れてくるように頼む納戸。それを知った青司は、巧を幽霊に取り憑かせるわけにはいかないと、足無しから彼を守ろうと奮闘する。だが、奮闘も虚しく、巧は足無しに取り憑かれてしまう。
その後、足無しに連れられ笹木家にやってきた巧は、そこで足無しから解放され、体調を崩す。笹木家で休みながら、事の経緯を青司から聞き、自分の身に起きた事を理解する。
自分の家の事に巻き込んでしまったと落ち込む青司。だが、巧は「こんな事もある」と言って、事態を緩く受け入れる。
驚く青司だったが、今回の出来事を通して巧との距離を縮めた彼は、以降は少しずつ巧やほかのクラスメイト達との交流を積極的に行っていくようになる。

稲造を知る者達の来訪

巧の件が落ち着き、しばらく経った頃、烏の姿を天狗・鳥天(とりてん)が笹木家を訪れる。稲造の友人であった彼は、稲造が亡くなったと知るや彼を弔う宴を開催する事を決める。
青司が嫌がるのを押し切って、笹木家の居間を使って宴を開始する鳥天。宴には、稲造と縁があったという地元の稲荷神社に仕えている狐達もやってくる。盛り上がる宴だったが、狐の1匹が青司の母・彩(あや)の少女姿に化けた事で事態は一変する。話の流れから鳥天が自分の部屋に勝手に入っていた事も判明し、我慢の限界に達した青司は自室にこもる。
どれだけ一緒に暮らしても、結局化け物は化け物、人は人、わかりあう事などできないと結論づける青司。そんな彼に年神は、「それでもお互いによき隣人であった」と、笹木家と人ならざる者達との付き合い方について話す。
その晩、鳥天と2人きりで話す機会を得た青司は、そこで鳥天が彼なりに稲造の死を偲んでいるらしい事を知る。鳥天の思いを知った青司は、少しだけ彼への態度を軟化。この事をきっかけに、青司は、こんな理解が難しい者達と仲が良かった稲造とはどんな人物だったのだろうか、自身の祖父に興味を持ち始める。
それからしばらくしたある日、再び家にやってきた鳥天によって、年神が久々に神として働かなければいけなくなってしまう。神としての力を使うのが久々だった年神は、相手がつつじという花にまつわる存在であった事から、家の庭を使って力を使う練習を開始する。しかし、上手く力がコントロールできず、庭を雑草だらけにしてしまった。
雑草を刈るため、稲荷の狐達に助けてもらう事になった笹木家。納戸いわく「稲造はよく利用していた」との事で、青司は稲造が地元の神の使いをこき使っていた事を知り、呆れる。そんな青司に納戸は「この家を出てからの両親は、どんな様子だったか」と訊く。狐達も自分達が知らない青司の両親の話が聞きたいと寄ってくるが、両親との思い出は幼い頃の薄ぼんやりとしたものしかない青司は、上手く答えられずに困ってしまう。
この事をきっかけに、青司は稲造だけではなく自身の両親である彩と光彦(みつひこ)についても考えるようになる。だが、何度思い出しても両親、特にこの家で生まれ育ったはずの彩が、実家の話をしていた様子がない。青司は、彼女が笹木家を嫌っていたのではないか、という疑問を持つ。
もっとしっかり親の事を思い出す事ができれば、と悩む青司に気づいた年神は、自分の力を使って青司に彩が好きだった花を庭に咲かせて見せる。それを見た青司は、その時、母がこの花を実家で見た時の事を自分に話していた過去を思い出す。
もう思い出せないと思っていた母との過去を思い出し、その光景を噛み締めた青司。同時に、初めて年神の事を「本当の神様かもしれない」と思い始めるようになる。

稲造が遺したとんでもないもの達

庭の件がひと段落したある日、その庭先に酒井家の犬が迷い込む。彼を酒井家まで送り届けた青司は、そこで巧の祖父から「いわくつき」の掛け軸を見せてもらう。巧の祖父が言うには、この絵は稲造がひどく気に入っており、本当なら彼にあげる予定でいたのだそう。だが、ぼんやりしている内に機会を逃し、今日に至ってしまったとの事だった。
稲造の代わりにと掛け軸を渡された青司は、悩んだ末に掛け軸を笹木家に持って帰る。すると、笹木家の影響を受けた掛け軸から、そこに描かれていた黒猫が具現化してしまう。変なお面をつけていた黒猫は、自分をこんな姿にした稲造への恨みを言いながら、笹木家から脱走する。
青司と神々は黒猫の捜索を開始。それを知った巧も、「うちが原因の事だから」と青司に手伝いを申し出て、一緒に黒猫を探し始める。だが、過去に、自分の家の事で巧に足無しを取り憑かせてしまっていた青司は、彼を今回の事態に巻き込むのを心の中ではよしとしていなかった。そんな時、神々の提案により、「笹木家にくればお面を外してやる」という嘘の噂を流して、黒猫を笹木家に呼び寄せる事になる。
青司は巧を巻き込まない為、自分と神々だけで作戦を行う。だが、一度酒井家に黒猫が戻ってしまっていた事から、巧は彼が稲造と同じ匂いを持つ青司に、己をこんな姿にした復讐をしようとしていると知る。そこで、またたびを持って笹木家へ突撃。青司や神々に敵意をむき出しにしている黒猫に、またたびを嗅がせて酔わせ、事態を収集させる。
事態の収集に喜ぶ巧と神々だったが、青司は巧を巻き込んでしまった事に素直に喜べずにいた。だが、巧自身から「友達が大変な事になっていると知れてよかった」と言われ、今後はもう少し彼に頼ってみようかと考えてみる。
その後、保護された黒猫は納戸が預かる事になった。だが後日、笹木家を気に入らなかった黒猫は、納戸を荒らした後、酒井家に脱走する。
結局、酒井家で掛け軸として暮らしていく事になった黒猫。その彼が汚した納戸を綺麗にする為、青司と巧は納戸の掃除を行う。すると、稲造の「宝」が入っているという箱が出てくる。
「これだけは触ってはならない」と、必死に宝を守る納戸。その尋常ならざる様子に驚く青司と巧に、年神は「あの箱は、稲造自身が納戸に託した物である」と話す。中身は知らないが、「この家を継ぐ者に宛てた物」だと聞かされた青司は、笹木家の跡取りとして納戸のもとに話をしに行く。
相手が青司だろうと渡せないと、頑なに箱の譲渡を拒む納戸。だがそれに対し、青司の返事は「祖父が遺した物などいらない」というものだった。実は納戸の掃除をしていた時、稲造の物という怪しげなアイテムを山のように発掘していた青司は、それだけでお腹いっぱいで、彼の遺した物などごめんだという気持ちになっていたのである。
稲造を可愛がっていた納戸は、青司の予想外の態度に怒り、無理やり箱を彼に渡そうとする。だがその時、箱が床に落ち、中身がばらまかれてしまう。箱の中から出てきた手鏡を拾う青司。すると、鏡の中から祖父の愛人だという相手が出てくる。彼女は稲造がすでにもうこの世にいないと知ると、稲造に似ている青司に口づけをしてその場から去って行く。
その後、箱に入っていた稲造からの手紙を通して、先ほど出てきた者は、かつて稲造をストーカーしていた人ならざる者である事が判明。彼女を退ける為に、稲造自身が鏡の中に閉じ込めたのだという。さらに、稲造いわく、この納戸にはこうした怪しいものをたくさん置いて行っているので、「跡を継ぐ者を頑張れよ」との事だった。
理不尽な内容に憤る青司。だが、稲造好きの納戸は必死で稲造を庇う。そんな納戸を見た年神は、青司に「納戸は、子どものようなであるため、人に愛でられやすかった」事を話す。そんな彼らの横で納戸は、今はもういない稲造の事を思い出しながら泣きべそをかくのだった。

従妹叔父・正太(しょうた)の登場

従妹叔母であるカレンに呼ばれ、彼女の家で夕ご飯を食べる事になった青司。そこで彼は、自分の従妹叔父にあたり、カレンの弟にあたる正太と遭遇する。正太は青司が末の子どもである自分以上に家族に可愛がられていると感じ、彼に嫉妬して拗ねてしまう。家を飛び出すが、どこにも行く宛がなく、結局は笹木家に青司を送りに行ったカレンと共に、笹木家に泊まる事になる。
正太が周りにはあまりいないタイプの性格だった事もあり、青司も最初は彼の扱いに戸惑うが、話していく内に存外優しい人である事を知る。そんな時、納戸が正太をからかう為に、電気を落とす。怖がりな正太はそれにビビる。そこへカレンがやってきて、青司はカレンと一緒に家のブレーカーを探しに行く事になる。
自分のお目付け役として毎日様子を見に来てくれているカレンに、実は少し引け目を覚えていた青司。そのせいで、彼女との距離がぎこちなくなっている事を神々から指摘された事もあった青司は、2人きりになった今、思い切って自分から色々と行動してみようとする。
だが、青司がせいいっぱい頑張って距離を詰めようと奮闘するのに対し、カレンの方はあっさりと、なんてことがないように対応をしてくる。その飄々とした態度に翻弄される青司だったが、言葉の端々から滲み出る彼女の優しさを感じる。そうして、今の距離感も存外嫌なものではないと自分が思っている事を実感するのだった。

此ノ山稲荷の来訪

カレンと正太との出来事があってからしばらくしたある日、今度は年神の知り合いである神・此ノ山稲荷(このやまいなり)こと稲荷がやってきた。稲荷は青司が年神に対する敬いの心が足りないと、彼を説教し始める。そこで青司は、神も消える可能性がある事を稲荷から教えられ、自分の神を信仰する心が年神の存在に大きく影響を与えていた事を初めて知った。
自身の信仰心について考え始める青司。最終的には「保留」という事で、これまでと変わらない態度で神々と接する事を決める。だが、心の中では自分自身の身勝手さに嫌悪感も抱いていた。
その事を知った年神は、青司を励まそうと考える。そこで稲荷の狐達からの助言ももらい、神としての力を使って大量の野菜を育ててみた。突然、溢れんばかりの野菜を貰った青司は驚くが、野菜の出来の良さに心を奪われる。
青司が喜んでくれたと思った年神は、「青司がこの家に来てくれたから、自分は消えずに神として今も存在できている」事を話す。実は青司が笹木家に来た時、年神はすでに消えかかっており、彼が戻ってきて家の中を綺麗にしてくれた事で、今の姿を取り戻す事ができたのだ。年神は青司への感謝の意を込めて伝えただけだったが、自分の行動が思った以上に年神の存在に影響する事を知った青司は、自分の信仰に背負わされたものへの重みを感じてしまう。
そんな青司の様子を見かねた稲荷は、彼を自分の神域に招く。そこで青司に、「今までの神々との記憶を消し、元の人間と神の距離感で暮らしていく」事を提案する。だがこの時、半ば強制的に神域に連れて行かれ、閉じ込められていた青司は、稲荷の提案に激怒。稲荷のやり方の乱暴さに説教をし始める。するとそこへ、なかなか家に帰ってこない青司を心配した年神が、稲荷の神域に割り込んでくる。青司は怒りながらも、年神に連れられて帰路に着く。そんな2人の姿を見た稲荷は、年神と青司が、自分が思う以上に仲良くなっており、彼らなりの関係を築いていた事を悟る。
その帰り道、年神は青司に「この前自分が言った事は気にしなくていい」と伝えた。気遣わせている事に気づいた青司は、自分がただ戸惑っていただけだという事を彼に話す。これまでずっと天涯孤独で、誰も家族と呼べるような相手はいないと思って育ってきた青司にとって、年神や納戸のように傍にいてくれるものの存在は予想外と呼べるものだった。その為、それらが自分の心持ち1つで消えるかもしれないという状況に戸惑っていたのである。それを知った年神は、いつの間にか自分が青司にとって、傍にあるべき存在になっていた事を知り、仄かな喜びを覚えるのだった。

母の愛した茶碗と両親が笹木家を出たわけ

稲荷の一件以降も、様々な神々や妖怪などの人ならざる者に振り回されながらも日々の生活を続けていく青司。そんな時、稲荷の狐が久しぶりに笹木家に訪れる。未だに稲荷へ怒りを覚えていた青司は彼らを追い出そうとするが、どうしても青司に怒りを収めてもらいたい狐の誘いや神々に押し負かされ、狐達が営んでいるという食堂へ行く事になってしまう。
後日、食堂があるという闇市へ向かった青司と年神。狐達の案内を受けて闇市を歩く青司は、そこで様々な妖怪や神々から稲造や母の彩に見間違われ、声をかけられる。思った以上に笹木家が神々や妖怪達と縁がある家系であった事を知り、辟易とする青司。するとそこへ、彩のものだったという着物姿の少年が現れる。少年は青司に「彩は父(稲造)を恨んでいた」と話す。そして驚く青司を置いて、1人どこかへ去ってしまう。
不穏な彼の言葉に、そこで青司は初めて、笹木家で暮らしていたはずの両親が家を出て行った理由に疑問を抱く。そこで両親の事を知っている狐や妖怪達に訊ねてみると、「稲造の婿いびり」が原因だった事が判明。一人娘を婿である光彦にとられた事で、稲造が彼をいびり始め、親子喧嘩が耐えなくなってしまったらしい。
闇市から帰宅後、改めて両親について考える青司。そこへ青司は納戸から「青司と暮らしてから、年神は変わった」という事を聞く。年神が、今まで以上に深く人との関わりを持とうとしているらしい事を知った青司は、母はどのように彼ら神々と接していたのかを考え始める。
するとそこへ、例の彩のものだったという少年が姿を現す。どうやら少年は、彩が笹木家を出て行く時に置いて行かれた存在で、自分が連れて行ってもらえなかった事を悲しみ、年神が彩を引き止めてくれなかった事に理由があると逆恨みをしているようだった。そこで、年神がこれまでにない親切心を見せている青司に恨みをぶつけるため、闇市から青司の後をついてきていたのである。
彼に襲われた青司だったが、年神と納戸に救出され、事なきを得る。少年は年神への恨みを述べながら、本当の姿である茶碗に戻った。神々いわく、「これはかつて彩が使っていた茶碗であったが、持ち主がいないまま笹木家に置いておいても澱んだものが溜まるだけ」という理由で稲造が手放した物だったという。事態はひとまず収束したが、一連の出来事から「母は笹木家を継ぎたかったのではないか」という考えが思い浮かんでいた青司は、本当に「婿いびり」だけが家を出て行った理由なのだろうかと、疑念を持ち始める。

稲造の初盆

再び神々や妖怪に振り回される日常に戻った青司。茶碗もなんだかんだと不満を言いながらも、いつの間にか茶碗として笹木家に腰を落ち着ける。そうして色々とひと段落し始めた頃、青司にとって笹木家での初めてのお盆がやってくる。それはひいては、祖父・稲造の初盆だともいえた。
稲造の初盆という事で、笹木家には夜になる度に稲造を弔う神々や妖怪が集い、宴を始める。年神と納戸いわく、「お盆の間はずっとこの状態である」とのこと。さらに日中は日中で、カレン達を含むまだ会った事のない親戚や稲造の人間の知り合いに顔を合わせなければならず、青司は日に日に疲弊していく。さらにその最中に、青司が両親の事を薄ぼんやりとしか覚えていないと知った妖怪達から「薄情」と言われる事態が発生。青司は気を落としてしまう。
するとそこへ、かつて笹木家を欲しがっていたケガレが、父・光彦の姿を模して青司の前に現れる。ケガレは「2人が家を出て行った理由を知りたくはないか」と青司に訊ねる。その問いに心を揺さぶられた青司は、そこを「隙」と捉えられ、ケガレに飲み込まれてしまう。
ケガレの中にあったシアターを通して、彩と光彦の笹木家での暮らしを見る事になる青司。一方、外では納戸と稲荷の狐、そして稲荷自身と年神が、ケガレから青司を救出しようと奮闘していた。ケガレは神々を煽り、青司を諦めさせようとする。納戸と稲荷はそれに翻弄される事はなかったが、未だに神として半信半疑の眼差しを向けられていた年神は、ケガレの狙い通り彼の言葉にショックを受けてしまう。だが、それが逆に年神の気持ちを強く刺激したようで、彼は直接ケガレの中に入り、青司を助けに向かう。
年神がやってきた事で、帰らなければならない事を思い出した青司は、年神と共に外へ出ようとする。だが、自分で自覚する以上に両親の姿を垣間見れた事に心を奪われていたらしい青司は、その場から動けなくなってしまう。
そのままケガレのさらに奥の方に飲み込まれた青司は、自己嫌悪に飲み込まれ始め、自分からはケガレの外に出れなくなる。年神は青司を助けるため、「気がかりな事はないか」「全てを捨てて食われたいか」と彼に問う。それにより青司は、携帯に巧からのメッセージが来ていた事を思い出す。それは、お盆中の青司の忙しさを知っていた巧が心配になって、青司に送ってきたメッセージだった。
友人への返信という気がかりを思い出した青司は、家に帰りたいという気持ちを取り戻す。そうして自分を助けようとしている年神に、助けを願う。それを聞き入れた年神は青司を助け出し、ケガレを弱体化させる。
今回の事で、自分が抱えている家族に対する弱さを自覚した青司。そんな彼に、年神は「抱えるものがあってもいい」と伝える。その言葉に、青司は救われたような心地になる。
その後ケガレは、稲造の初盆を終えて帰っていく妖怪達の行列に流され、笹木家から遠く離れた場所へと連れて行かれた。

知らなかった衝撃の事実

初盆後も相変わらず神々や妖怪は笹木家を訪れ、青司の周囲で様々な問題を巻き起こし続けていく。そんなある日、青司は自身の叔祖父でありカレンの父である秀美が、笹木家で暮らしていた時の話を納戸と鳥天から聞く。そこで判明したのは、実は秀美が稲造の実の弟ではなく義弟だったという事実だった。秀美は、稲造の父の後妻の連れ子で、彼とは一切の血の繋がりがなかったのである。しかし稲造によくしてもらっていた事から、彼の事を兄として慕っていたのだった。
カレンの家の者と血が繋がっていなかった事実に驚く青司。しかし、それを知らなかったのは青司だけで、カレンの家の者は皆知っている様子だった。自分だけが知らなかった事実にショックを受ける青司に同情した妖怪や神々は、青司が疑問に思っていた「両親が家を出て行った本当の理由」について教えてくれる。実は彩と光彦が笹木家を出て行ったのは、光彦が怪異に絡まれやすかった事に理由があるという。また、光彦は幽霊や妖怪などを見る力が弱かったとのこと。それでも「著しくのほほんと生きていた」という話に、青司は自身の父親の事でありながら呆れてしまう。
さらに青司は、茶碗から「年神はなぜか青司だけを特別に贔屓している」事を教えてもらう。両親が怪異に悩んでいても手を差し伸べなかった年神の事を知った青司は、「なぜ助けなかったのか」と年神に訊くが、それに対する答えは「望まれなかったから」というものだった。その冷たいを聞いた青司は、「両親に年神の助けがあったなら、家を出て行く事にはならなかったのではないか」という考えから、年神に強く当たってしまう。以降年神と一緒にいるのが気まずくなってしまう。

気まずくなってしまった年神と青司の関係

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