あめつちだれかれそこかしこ(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『あめつちだれかれそこかしこ』とは、漫画家の青桐ナツによる和風ファンタジー漫画である。株式会社マッグガーデンが運営しているWebコミックサービス「マグコミ」にて連載が開始された。祖父の遺産として日本家屋を受け継いだ主人公・笹木青司が、そこに住む神々を中心にさまざまな神々や妖怪、人々と過ごす日常を描く。時に切なく、時にホッとするハートフル和風ファンタジーとして人気を集めている。

『あめつちだれかれそこかそこ』の概要

『あめつちだれかれそこかしこ』とは、漫画家の青桐ナツ(あおぎり ナツ)による漫画である。話のジャンルは「土着日常奇譚」との事で、現代日本を舞台に、とある日本家屋に住む少年と神々、そして彼らの周りの神々や妖怪、人間の日常を描く和風ファンタジーとなっている。
連載が開始されたのは、2014年。株式会社マッグガーデンが刊行していた漫画雑誌『月刊コミックアヴァル』にて行われた。コミックアヴァルはその後、同年に出した「8月号」を最後に紙媒体を休刊。それに伴い、本作は後に誕生したマッグガーデンの漫画雑誌『コミックアヴァルス』に移転し、連載を続けた。その後、2016年頃に本作は同じマッグガーデン発のWebコミックサービス「マグコミ」に移転し、以降は「マグコミ」にて連載を続ける。
話の主人公である笹木青司(ささき せいじ)は、両親を亡くした男子高校生。親戚もおらず身寄りがないと考えていた青司だが、故人であった祖父が遺産として自身の家を青司に残していた事が判明する。青司は彼の遺産である古い日本家屋で暮らす事を決めるが、そこには年神と納戸と呼ばれる2人の神が住んでいた。こうして青司は、2人の神々と共に暮らしながら、さまざまな神々や妖怪、人々と交流をしていく事になる。天涯孤独であった少年・青司が神々に振り回されながらも、少しずつ成長・変化していく様に胸を打つ読者が多い。時に切なく、時にホッとするハートフル和風ファンタジーとして人気を集めている。

『あめつちだれかれそこかそこ』のあらすじ・ストーリー

神々との出会い

両親を失い、天涯孤独の身で過ごしていた中学生の笹木青司(ささき せいじ)は、ある日、自分の従妹叔母だという女性・カレンと出会う。彼女から「祖父が君に家を遺している」と教えられた青司は、顔も知らない祖父の遺産を受け継ぐ事を決意。中学卒業と同時に、祖父が遺したという、かつて彼が暮らしていた家で暮らし始める。
しかしそこには、年神(としがみ)だという男性と納戸神(なんどしん)だという子どもが住んでいた。実は、笹木家は昔から神々や妖怪との付き合いがあり、なかでも青司の祖父である稲造(いなぞう)は、特別彼らとの親交が深い人物だったのである。青司は笹木家の跡取りとして、彼らと共に暮らす事を余儀なくされてしまう。

家に集い始めるよくない者達

年神と納戸が神であるという事実に半信半疑のまま、彼らと暮らす青司。そんなある日、笹木家にケガレの塊がやってくる。笹木家を欲しがるケガレを撃退する為、青司は神々と一緒に対策を行う。その中で青司は、自分が神々の加護を受け、ケガレといった悪いものから守られている事を知る。
しかし撃退策も虚しく、家を欲しがるケガレは、青司と年神が家を離れ、納戸がテレビに夢中になってる間に笹木家に侵入してしまう。どうしても家が欲しいケガレは、青司の心の隙につけ込む。実は青司は、心の奥底では血の繋がりがある家族がいない事に寂しさを覚えていた。それが心の隙となってしまったのである。
ケガレに飲み込まれかける青司だったが、理不尽な現状への怒りから、なんとか意識を保つ。そこへ年神が帰宅。彼の力によって青司はケガレから救出される。
事態は収集したが、今回の事を通して青司は、自分が抱えていた寂しさが自分が思う以上のものであった事を自覚してしまう。そんな彼を見た年神は、少しでもその寂しさを減らしてはやれないかと考え始める。

高校への入学、友・酒井巧(さかい たくみ)との出会い

4月になり、青司は家の近くの高校に入学する。だが、笹木家は地元の人々にとって有名だったようで、彼は「噂のお化け屋敷」に越してきた人物として注目を集めてしまう。さらに青司は、自分が神々や妖怪達が集う笹木家の影響で、家の外でも幽霊や妖怪などが見える体質になっている事を知る。普通からかけ離れていく自分に青司は頭を悩ます。
すると、そんな青司を心配して、クラスメイトの酒井巧が声をかけてくれるようになる。しかし、今まで友達がいなかった青司は、巧や彼の周りの友達にも遠慮してしまい、上手く距離を縮められずにいた。そこで納戸は青司の為に一肌脱ぐ事を決意。幽霊・足無し(あしなし)に、巧に取り憑いて笹木家に連れてくるように頼む。青司は、巧を幽霊に取り憑かせるわけにはいかないと、彼を守ろうと奮闘する。だが奮闘も虚しく、巧は足無しに取り憑かれてしまう。
足無しに連れられ笹木家にやってきた巧は、そこで事の経緯を青司から聞き、自分の身に起きた事を理解する。そして落ち込む青司に対し、「こんな事もある」と事態を受け入れる。
驚く青司だったが、今回の出来事を通して巧との距離を縮めた彼は、以降は少しずつ巧やほかのクラスメイト達との交流を積極的に行っていくようになる。

稲造を知る者達の来訪と家族の謎

巧の件以降、笹木家の家に稲造を知る人ならざる者達が訪れるようになる。彼らの理不尽な言動に振り回された青司は、「化け物と人はわかりあう事などできない」と怒ってしまう。そんな彼に年神は、「それでもお互いによき隣人であった」と、笹木家と人ならざる者達との付き合い方について話す。その晩、稲造を慕う烏の天狗・鳥天(とりてん)と2人きりで話をした青司は、言動こそ理不尽だが、彼らなりに稲造の死を偲んでいるのだと気づく。
この事を機に青司は、「稲造とはどんな人物だったのだろうか」と自身の祖父に興味を持ち始める。さらに後日、狐達からこの家を出て行った後の両親の話をせがまれた青司は、両親がなぜ家を出て行ったのか、その理由についても考えるようになる。
そんなある日、年神の知り合いである神・此ノ山稲荷(このやまいなり)こと稲荷が笹木家にやってくる。稲荷は青司の年神に対する敬意が足りないと考えており、その事で説教をしにきたようだった。
最初は反発心を見せていた青司だが、「信仰されない神は消えてしまう」という事実を知り、年神や納戸に対する己の態度について考え始める。しかし結論を出すのが難しく、「保留」という事で、これまでと変わらない態度で神々と接していく。だが、心の中では自分自身の身勝手さに嫌悪感も抱いていた。
その事を知った年神は青司を励まそうとする。だが、その励ましは逆効果だったようで、逆に青司に信仰に背負わされたものへの重みを感じさせてしまう。
そんな青司の様子を見かねた稲荷は、彼を自分の神域に閉じ込め、「今までの神々との記憶を消し、元の人間と神の距離感で暮らしていく」事を提案する。だが、提案内容の理不尽さに青司は激怒。稲荷のやり方の乱暴さに説教をし始める。そこへ、家に帰ってこない青司を心配した年神が稲荷の神域に割り込んでくる。青司は怒りながらも、年神に連れられて帰路に着く。そんな2人を見た稲荷は、年神と青司が自分が思う以上に仲良くなっており、すでに彼らなりの関係を築いていた事を悟る。

青司の両親が笹木家を出たわけ

稲荷の一件以降も、様々な神々や妖怪などの人ならざる者に振り回されながらも日々の生活を続けていく青司。そんなある日、先日の稲荷の件への謝罪の意から、青司は稲荷の狐達に連れられて彼らが運営する食堂がある闇市へ連れて行かれる。
神々や妖怪が店を開いている闇市には、稲造や両親の事をよく知る人ならざる者達がたくさんいた。そこで青司は、彼の母親が愛用していた茶碗だという少年と出会う。
茶碗から「彩は父(稲造)を恨んでいた」と聞かされた青司は、笹木家で暮らしていたはずの両親が家を出て行った理由に疑問を抱く。そこで彼らをよく知る狐や妖怪達に訊ねてみると、「稲造の婿いびり」が原因だったという。一人娘を婿である光彦にとられた事で、稲造が彼をいびり始め、親子喧嘩が耐えなくなってしまったらしい。
だが、母の事を愛する茶碗や彼女と親しげだった妖怪達の様子を目にする内に、青司の中に「母は本当は笹木家を継ぎたかったのではないか。本当に『婿いびり』だけが家を出て行った理由なのだろうか」という疑念が浮かび始める。

稲造の初盆

青司の疑念の答えが見つからないまま、祖父・稲造の初盆がやってくる。すると稲造を弔うという名目で、神々や妖怪が笹木家で宴を始めてしまう。日中は日中で、まだ会った事のない親族や稲造の人間の知り合いに顔を合わせなければならない青司は、忙しない日々に疲弊していく。
そんな青司のもとへ、再びケガレが現れる。ケガレの「2人が家を出て行った理由を知りたくはないか」という問いに心を揺さぶられた青司は、それを心の隙とみなされ、ケガレに飲み込まれてしまう。
青司がケガレに飲み込まれたと知った納戸と年神、そして稲荷と稲荷の狐は、ケガレから青司を助けようと試みる。年神は青司を助ける為、自らケガレの中に入って彼を助けにいく。
一方の青司は、ケガレの中にあったシアターを通して、自分の両親の姿を垣間見ていた。2人が家を出て行った理由がわかる気配はなかったが、もう目にできない両親の姿に心を奪われてしまう。そのせいで、ケガレの奥底へと飲み込まれる。
青司を助けるため、必死に彼に声をかける年神。それにより現実世界でまだやりたい事があると思い出した青司は、「帰りたい」という意思を取り戻す。青司に助けを願われた年神はそれを聞き入れ、青司を助け出し、ケガレを弱体化させる。
今回の事で、自分が抱えている家族に対する弱さを自覚した青司。そんな彼に、年神は「抱えるものがあってもいい」と伝える。その言葉に、青司は救われたような心地になる。

知らなかった衝撃の事実

初盆後も相変わらず神々や妖怪は笹木家を訪れ、青司の周囲で様々な問題を巻き起こし続けていく。そんなある日、青司は自身の叔祖父でありカレンの父である秀美が、稲造の実の弟ではなく義弟だったという事を知る。しかもそれを知らないのは青司だけで、カレンの家の者や稲造と仲良くしていた神々や妖怪にとっては既知の事実だった模様。自分だけが知らなかった事実に、青司はショックを受ける。
青司に同情した妖怪や神々は、彼が疑問に思っていた「両親が家を出て行った本当の理由」について教えてくれる。実は彩と光彦が笹木家を出て行ったのは、光彦が怪異に絡まれやすかった事に理由があるという。
さらに青司は茶碗から、両親が怪異に悩んでいても年神は手を差し伸べなかった事を教えられる。青司が2人を助けなかった理由を年神に訊くと、返ってきたのは「望まれなかったから」という冷たいものだった。「両親に年神の助けがあったなら、家を出て行かなかったのではないか」と思った青司は、思わず年神に強く当たってしまう。
以降、年神と気まずくなる青司。そんな時、年神が年配の神々に連れられて旅行へ向かう。すぐに帰ってくるだろうと考えていた青司だが、年配の神々の無茶ぶりのせいで、どんどんと旅行の期間は延びていく。さらに納戸から「人ならざる者は時間の感覚が人と違う」という話を聞かされ、青司は「自分が生きてる間に年神は帰ってくるのだろうか」と不安を覚え始める。
そんなある日、年神から笹木家に電話が入る。「もう少しで帰って来られる」とのことだったが、それがいつの事になるか判明する前に電話が切れてしまう。我慢の限界に達した青司は、年神のもとへ直接殴り込みに行く事を決意。だがそのタイミングで、笹木家の庭先に年神と神々が不時着。怒りが一周まわって呆れに変わった青司は自分の部屋にこもってしまう。
その後、納戸に説教をされた年神は、どうしても渡したかったお土産のテラリウムを手に青司のもとへ向かう。テラリウムを気に入った青司は、それを受け取る。両親の件が解決したわけではないが、以降、2人の間にあった気まずさは消え、元の距離感へと戻っていく。

年神の優しさの理由

年神が不在の一件後も、妖怪や神々、時には人間の友達に振り回されたりしながらも、それなりに平穏な日々を過ごしていく青司。祖母に懸想していたという大天狗・向山紅白坊とも知り合いになり、以前よりも妖怪や神々との縁も深くなっていく。
そんなある時、青司は年神と出かけた先で、熊野という名の神と出会う。青司が年神との付き合い方で失敗する事が多いと知った熊野は、自身の力を使って神域内で熊野神社に祀られている別の神と話す年神の姿を青司に見せる。そこには、青司との付き合い方に悩みながらも青司の安泰を願う年神の姿があった。
年神や納戸に助けられている事を自覚していた青司は、「お供えをするといい」という熊野の助言に従い、彼らにお供えをしてみる。青司からお供えを貰った年神と納戸は大喜び。なんとなくいつもより空気がよくなったように感じた青司は、そこでふと年神に「どうして自分に優しくしてくれるのか」と疑問をぶつけてみた。だが、返ってきたのは「かわいそうだったから」というもので、それが天涯孤独の身であった自分に同情からのものだと解釈した青司は、年神に激怒する。
しかし実は、この言葉の裏には、ずっと笹木家と共にあり、様々な人間の喜怒哀楽を見てきた年神だからこそ、この家に来たばかりの頃の青司の表情の固さが気になってしまったという深い理由があった。だが、それが青司に伝わる事はなく、そんな2人のすれ違いを横で見ていた納戸は、年神の言葉の足りなさに呆れるのだった。

帰ってこない年神

妖怪や神々に振り回されながらも、日々の暮らしを続けていく青司。その中でいつしか彼は、納戸や年神の事を家族のように感じ始める。
そんななか迎えた年の瀬は、稲造の初命日と重なっており、笹木家は稲造の初盆の時同様に人ならざる者達の宴会場と化す。しかし正月の神である年神は、年神としての仕事をしに山へ向かってしまう。年神の不在を察した妖怪達は、稲造を黄泉から呼び出す術を行おうと企む。彼らの企みに気づいた稲荷の狐達と向山紅白坊の部下の天狗達により、術は発動寸前で止められるが、反動で笹木家の庭と玄関にあった年神の依り代の木が吹き飛んでしまう。
家に帰る為の目印である依り代を失い、迷子になってしまった年神を助ける為、青司と納戸は新たな依り代の制作を始める。しかし、それでも年神が帰ってくる事はなかった。
それどころか、謎の黒い化け物が笹木家を目指している事が発覚。青司は化け物を家におびき寄せて撃退しようとする。だがしかし、化け物の正体が年神であった。依り代を失い、家に帰れなくなった事で焦っていた年神は、途中で遭遇した澱に飲み込まれ、このような姿になってしまったのである。
なんとか澱から元の姿に戻り、無事笹木家に帰還した年神。しかし、この出来事以降、青司の年神への態度がしおらしいものになってしまう。予想外の青司の態度に困った年神は、青司を元気づける為に、自らの力を使って庭を改装してみるが、それが青司の怒りを買ってしまう。だが、自分のために年神が何やら奮闘していた事を察した青司は、自分が胸の内に抱えていた不安を彼にぶちまける。
実は、青司は年神がいなくなってしまった事に、ずっと恐怖を覚えていた。両親を失った経験がある彼にとって、家族といって差し支えない者が失われる感覚はトラウマに近いものだったのである。
青司の不安に気づいた年神は、自分が澱に飲み込まれていた時、自分の意識をギリギリのところで支えてくれていたものが、青司が己を呼ぶ声だった事を思い出す。

年神と青司のこれから

青司を泣かせた年神は、その後、納戸から彼を泣かした事を責められる。年神は自らの行いを反省し、青司と改めて話をする事を決める。だが、この翌日から青司の態度はそっけないものになってしまう。それは、年神に泣きついてしまったという羞恥心からのものだったのだが、年神は青司の心情に気づけずに戸惑ってしまう。
そこで年神は狐達と青司を連れて闇市に行く。闇市では、年神の帰宅祭という建前上の祭りごとが行われていた。青司はそれなりに祭りを楽しむが、年神への態度は一向にそっけない。
年神が頭を抱えていると、そこへ熊野がやってくる。年神の悩みを聞いた熊野は「人の暮らしから離れる」事を提案する。だが、先日の青司の様子を見ていた年神は、それだけはやってはいけない事だと首を横に振った。
その後熊野の提案で、年神達は空飛ぶ茣蓙に乗って花見をしながらご飯を食べる事になる。そこで青司と2人きりになれた年神は、以前は上手く語れなかった、自分が青司に優しくする本当の理由を彼に語る。年神の本心を知った青司。互いに心の内を明かしあった2人は、ようやくお互いに心が軽くなり、これからもこうやって紆余曲折しながらも一緒に暮らしていく事を決めるのだった。

kinokoro
kinokoro
@kinokoro

目次 - Contents