獣王と薬草(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『獣王と薬草』とは2023年より原作:艮田竜和・作画:坂野旭らが『裏サンデー』で連載している漫画作品。魔王が勇者に倒されたのち、残されたダンジョンとそこに巣食うモンスターたちは冒険者によって次々と攻略され、バランスが壊れつつあった。そんな中で彼らを医師として救う、かつて「獣王」と恐れられた魔族ガロンと、彼と共に新しい冒険者のあり方を模索する、中堅冒険者ティナの冒険を描く。

『獣王と薬草』の概要

『獣王と薬草』とは、2023年より原作:艮田竜和・作画:坂野旭らが『裏サンデー』で連載している漫画作品である。
かつて勇者が魔王を倒したのち、世界各地に残ったダンジョンを攻略し、モンスターを倒して生計を立てる冒険者という職業が盛んになった世界で、かつて魔王軍の六将軍の内のひとり、「獣王」と恐れられた魔族ガロンが医師となって、世界各地のモンスターを治療するようになる。
たまたまダンジョンで死にかけていたところでガロンと巡り合い、助ける代わりに治療の手助けを命じられたB級冒険者ティナ・クーアイズは、彼の生きざまに冒険者としての魂を刺激され、その旅路に付き添うことになる。

緻密な世界設定やモンスターの生態、そしてどれほど苦しくとも生き延び、多くの同族を救いつつ使命を果たそうとする獣王ガロンや、若干天然でお調子者ながらも自分の意見をしっかりと持ち、冒険者としてガロンに同行するティナなど、深みのあるキャラクター設計により、多くの支持を集めている。
迫力のある戦闘シーンや美麗なダンジョン・風景の描写など、作画に関しても評価が高い。 キャラクター原案に関しては、ももちち氏が担当している。

『獣王と薬草』のあらすじ・ストーリー

蒸気の窯編

新人冒険者らの引率役として、ダンジョン蒸気の窯(じょうきのかま)を訪れたC級冒険家のティナ・クーアイズは、狩りつくされたはずの凶悪モンスター・エンリルタイガーと遭遇する。何とか新人冒険者らを逃がし、エンリルタイガーとも相打ちまでもっていったティナだったが、重傷を負ってしまう。
死の危機に瀕する中、通りがかった冒険者に助けを求めるが、それはかつて魔王軍六将軍のひとりに数えられ、獣王として恐れられてきた魔族・ガロンだった。

ガロンは治療と引き換えに、絶対服従の血の契約を結ぶようティナに強いる。
契約を受け入れ、ガロウによる治療を受けたティナは、契約に従いガロンと行動を共にし、蒸気の窯深くへと降りる。
そこで幼い子供を冒険者に殺され、その死骸に寄り添ううちに感染症に侵されてしまった、ダンジョンの主モンスターであるルビードラゴンに出会い、その治療を助けることになる。

子を失い、主である魔王や仲間たちの敗北を悟り自暴自棄になっていたルビードラゴンの攻撃をかいくぐり、背中の燃焼孔に詰まったカスを排出するガロン。
そこにティナの得意魔法である火炎を食らい、ルビードラゴンの体内に炎が巡り、本来の姿である火を纏った炎龍としての姿を取り戻した。
子を失った悲しむにくれるルビードラゴンに、守るべき魔王を失った後も生き続ける己の姿を重ねあわせ、呪いを背負いながらも生き続けろと説くガロン。その言葉を受け入れ、ルビードラゴンは再びダンジョンの主モンスターとして活動を始め、その息吹きにより蒸気の窯内部の環境も改善されることとなった。

蒸気の窯の攻略完了認定を下すため、ルビードラゴンの炎角を持たせ、ギルドへと帰らされたティナ。
そのまま逃げることもできたが、炎角が高値で売れたことや、B級へと昇格したこと、ガロウが暴力を振るわずに「治療代」を求めるという姿勢から、戦士ではなく医者なのだと理解したこと。
そしてモンスターやダンジョンについてもっと知りたいという冒険者としての好奇心から、わざわざガロウの元に戻り同行させてほしいと願い出る。

あきれたガロウは、酒に酔って寝てしまったティナを蒸気の窯に運び、その実力と冒険者としての在り方を図ることにする。
目覚めていきなり万全の状態のエンリルタイガーに襲われ、窮地に陥るティナだったが、生態系からエンリルタイガーから逃げる力を持ったモンスターのディグモールを利用し逃走。地上を目指すも運悪くエンリルタイガーの子供がいる巣にたどり着いてしまい、母エンリルタイガーに襲われる。
子供を盾にすることもできたが、ティナは真正面からの勝負を選ぶ。火炎魔法とそれによる風を目くらましに接近し、エンリルタイガーの角に接触。
ガロウが同じようにしてエンリルタイガーを従えていたのを見ていたためとった行動だったが、これによってエンリルタイガーは敗北を認め、戦意を失う。

難敵を退けたティナだったが、同業の冒険者で影を操るミカゲという男にモンスターを手なずけている姿を見とがめられてしまう。
冒険者を管理し、犯罪捜査も行う特務官を名乗るミカゲに対し、ティナは先ほどの光景は自分の固有魔法のモンスターテイマーによるものだと虚偽の報告をする。
一度は納得したかのように見え、ダンジョンの表層まで案内してくれたミカゲだったが、ティナの手にある血の契約の文様を見逃さず、影で拘束しナイフを突きつける。
血の契約は魔族によるものだとし、裏にいる魔族の情報を渡せとせまるミカゲだったが、命の恩人であるガロウの情報は渡せないと口を閉ざすティナ。
死を覚悟するものの、実はミカゲはガロウの部下の魔族であり、ここまでが試験だったと明かされる。

善意や良心を嘘で試すような試験の内容に憤慨し、協力関係などこちらから願い下げだと本気で憤慨するティナに対し、ガロンは膝をついて謝罪をし、お詫びに今後なんでもひとつだけいうことを聞くと告げる。
その姿にティナも怒りを収め、改めて協力関係を結ぶことになる。
その後、蒸気の窯最寄りの街ハイマーでスライムによる治療を受けたのち、ふたりは次の街を目指して旅に出かけるのであった。

コランドール・天衝の塔編

次の目的地、コランドールまでの道中にて、ふたりは冒険者によって傷つけられた希少モンスター・アルマジカの治療を行う。
アルマジカの死を偽装し、冒険者をも退けた一行は、関所にて調査を受ける。
その大柄な体格と、素顔を隠すペストマスクによって疑われるガロウだったが、ミカゲの固有魔法によって人間に変装し難を逃れる。
しかし今回のようなトラブルが今後ないよう、ティナはガロウに冒険者になることを提案する。

冒険者は仇だとして提案を突っぱねるガロウだったが、先日約束したばかりの一度だけのお願いを行使され、しぶしぶながらも冒険者になることを受け入れたガロウ。
そのまま冒険者の街コランドールに入り、ギルドにて冒険者登録を行うことになる。

道中で治療したモンスターから譲り受けた高品質の素材を換金しているところを他の冒険者に見られたティアは、同じB級冒険者のチャル・マーヴェスらのパーティから勧誘を受ける。
その場で断ったティアだったが、彼女らが攻略しようとしていたダンジョンが、ガロウが状況を調査し保護しようとしていた天衝の塔(てんしょうのとう)だったため、妨害のためにパーティに加わることになる。
優秀な冒険家がそろったチャルのパーティは順調にダンジョンを攻略していくが、6層でいるはずのない主モンスターに遭遇し、全滅寸前まで追い込まれる。
傷の治療のために体に張り付いていたスライムのリリンによって脱出したティアは、新人冒険者の試験として苔取りを行っていたガロウと合流する。

主モンスターの名はモスゴラといい、ダンジョン内で滞った魔素(まそ)によってせん妄状態になっていた。暴れさせ、体内の魔素を消耗させたうえで鎮静剤と睡眠薬を飲ませてモスゴラを無力化したガロンは、ダンジョンの機能を取り戻すためにモスゴラの髪を編み、かつて失われた翼の代わりとして空を飛ばせようとする。
ガロンのツメの一撃によって地面に巨大な亀裂を入れ、そこからの風をつかみ宙に舞うモスゴラ。バランスを崩し落ちかけるが、ティアの炎によって生まれた風によってふたたび浮き上がり、飛び方を思い出す。
そのまま塔の機構を起動させ、大空へと飛び立つ。そこでかつての恩師、ドライケンの姿を垣間見て、モスゴラは涙を流すのだった。

無事ダンジョンは再生し、ガロンもF級冒険者としての資格を手に入れる。ギルドに怪しまれないためにも街中の便利屋めいた仕事をこなすガロンだったが、その中で商人の護衛の依頼を受ける。
道中でモンスターに襲われるもそれを退け、商人のモンスター素材の密売も暴いたゴラムとティアは、かつて六将軍の一人バグラの残した魔族にとってのセーフティゾーン・落葉の揺り籠(らくようのゆりかご)で補給を行う。
そしてエルドモからの連絡で、かつての部下たちが守るダンジョンに訪れることになる。

月鏡の城編

鏡に覆われた城型ダンジョン・月鏡の城にたどり着いたふたりは、そこでガロウのかつての部下であるモモスロとクロウに再開する。
崩壊しつつあるダンジョンの護衛についていた彼らだったが、冒険者によってクロウが足を負傷してしまっていた。
人間を憎み、襲い掛かってくるクロウ。何とか取り押さえ、気を失っている間にガロウは治療を行う。
治療自体は成功したものの、ダンジョンを守るためには秘術を発動させるしかないというモモスロ。しかしそのためには、クロウが鏡の世界に入り、生涯をその中で過ごさねばならないという物だった。

真実を映し出す月鏡の城(つきかがみのしろ)の鏡の前で、かつて幼いころ身寄りのない孤児として、常に飢え生気のない目をしていた自分の姿を見てショックを受けるティア。自分ですらこうなら、とガロウを心配して駆け寄ると、そこではかつての自分を前にしながらクロウの義足を作るガロウがいた。
治療の傍ら、かつての自分たちの姿を振り返りながら同じ時間を過ごすガロウとモモスロ、クロウ。
そして一週間後、儀式発動の夜に、クロウはガロウに自分たちに言いたいことはないのかと問う。
自分の敗北のせいで苦痛に満ちた20年間を過ごさせてしまったと謝罪するガロウに、クロウは声を荒げ、自分たちの弱さのせいでガロウを一人ぼっちにさせてしまった。一緒にいてくれと言ってほしかったと本心を打ち明けるクロウ。
鏡の世界へと消え去る寸前、ガロウはこの20年間ずっと心の中にはお前たち部下がいて、そのおかげで医者になれたと告白する。お前は俺の誇りだという言葉に、クロウは笑顔を見せて鏡の中へと旅立っていった。
もはや見ることも感じることも出来なくなった城の前で、ガロウは月夜に一人吠えるのだった。

B級冒険者実力試験編

月鏡の城の宝をギルドに提出し、攻略認定を下させるティア。冒険者たちの金の事しか考えていない短慮さを憂うティアだったが、そんな中で迷宮特務官のサリィ・クライバルに話しかけられる。
元はC級だったティアの最近の功績に疑問を感じ、実力を測りたいというサリィ。逃げ出そうとするティアだったが追いつかれ、実力不足としてC級へ降格されそうになる。
なんとか一週間後にもう一度、決闘形式の実力試験を受けられるようになったものの、サリィの魔法発動速度と、水属性という自分の炎と相性の悪さに自信を失うティア。

ガロウは降格したところで問題はないだろうというが、ティアは冒険者やギルドを正しい方向に導くためにも冒険者ランクを上げ、発言力がないといけないと語る。
その思いをくみ取ったガロウは、ティアに実戦形式で特訓を科す。
ガロウとの特訓の中で、かつて魔法を使い始めた頃に抱いていた勇者パーティの一人、ミリィ・ウィザースへのあこがれを思い出し、それを自身の強さのイメージとすることで強大な魔法を使うことに成功、サリィとの決闘に勝利を収める。
晴れてB級冒険者として認められたティアは、改めてガロウと共に旅に出るのだった。

拳聖ガレウス・蠢く大樹編

旅の道すがら、港町マーディンでモンスターと共存する人々を見るなど、世界の広さを実感するガロウとティア。
そんな中、腐った魔素・大地の毒によって侵された土地を見るなど、この世界の歪みも実感することとなる。
そんな中、先行して情報を集めていたミカゲは、ダンジョン・水楼の洞穴(すいろうのどうけつ)の水が完全に抜け、攻略されてしまっているのを発見する。
ガロウになんて報告すればと嘆くミカゲの前に、大地の毒に侵されて苦しむ男が現れる。
何でもいいから薬を分けてくれという男に、ガロウから受け取っていた薬を渡すミカゲ。男は感謝しフードを取るが、その顔はかつて勇者と共に魔王を倒したパーティのひとり、拳聖ガレウスその人だった。
薬の効能の高さから、ミカゲが人間に与するものではないと即座に見破ったガレウスはミカゲを殺害しようとするが、ミカゲは自分は人間と魔族のハーフだといい、見逃してくれるなら先ほど渡した薬の残りを渡すと持ち掛ける。
ガレウスはその提案を面白がり、拳一撃で天井を崩壊させ、お互いにこの崩落から生き残ったらその提案に乗ってやると言う。
そしてたまたま生き残り、狂笑するガレウスはミカゲの提案に乗る。しかしこの薬を作ったのは間違いなく魔族だと言い、そいつをおびき出すためにダンジョンを破壊し続けると宣言するのだった。

遅れて水楼の洞窟にたどり着いたガロンとティアは、その崩壊した様とミカゲの残したメッセージから、彼がガレウスに捕まったことを知る。
ガロンをサポートする魔道宰相のエルドモは、ティアを利用してガレウスの暗殺を提案するが、ガロンはそれを拒否。
ミカゲを確実に救出するために、ダンジョンを利用する作戦を立てる。

一方ガレウスは、ミカゲをとらえた後に現在のパーティのダモスと合流し、アマミオの街でダンジョンの攻略申請を出す。
そこに血の契約を利用し、記憶を封じたティアが接触。ガロンの仲間だと悟られることなく、ガレウスらが向かうダンジョが高難易度指定されている蠢く大樹(うごめくたいじゅ)であるという情報を手に入れる。
先回りして待ち受けるため、トドロジラの背に乗って海沿いの川を渡る2人。ダンジョンの虫を遠ざけるためサウナに入り、準備を整える。

ミカゲは監視のザイールを眠らせ逃げ出そうとするが、失敗。逆に薬の製造主が魔族だと確信を抱かれてしまう。
遅れて蠢く大樹に到着したガレウス一行は、主モンスターのマスタートレントの力を借りてダンジョンと接続したガロンにより、完全に作り替えられたダンジョン内を攻略する。
しかしキノコの寄生や、それにおびき寄せられた大ムカデなどの罠によってダンジョン奥へと導かれ、そこで人間に偽装したガロンとの1対1の戦いに持ち込まれる。
互角の戦いを繰り広げる両者だったが、自身の好調に逆に疑問を抱いたガレウスの隙を突き、ガロンは活性薬を注入。
ガレウスの全身にあらかじめ張り巡らせたキノコの菌糸を活性化させ、ガレウスの戦闘の要である闘気による電撃を封じることに成功する。
力を封じられ、並の人間まで落とされたガレウスは、死に場所をよこせとガロンに叫ぶ。
しかしガロンは仇であるガレウスも今や自分の患者だといい、お前を生かすことが復讐だと告げるのだった。

『獣王と薬草』の登場人物・キャラクター

主人公パーティ

ガロン

かつて魔王軍の六将軍の1人の「獣王」として数多の戦場を渡り歩いた、獅子族の魔族。
20年前に勇者一行に倒され、死亡したものと思われていた。
魔王軍敗北後は、守るべき魔王を失いながらも、その魔王からの「魔族の未来を頼んだぞ」という言葉のために死ぬこともできずにいた。
その言葉を呪いとすら思う中で、師と仰ぐ医者に出会い、生き続けてさえいれば呪いが祝福に代わることもあると言われ、その言葉を信じ本人も医者としての道を歩み始める。
現在は世界各地のダンジョンを巡り、滞った龍脈の流れを正して冒険者によるダンジョン攻略を阻止し、同時に魔王の娘エルザの病を治す方法を見つけることによって、魔族の未来を救おうとしている。

戦前は武人然とした苛烈な性格だったが、現在はぶっきらぼうながらも思慮深く、他者の気持ちを思いやる優しさを見せることもある。その変化は多くの魔族から驚かれるほどである。
しかし現在でも戦闘の実力は変わっておらず、モンスターや魔族の治療の際には暴れる患者を押さえつけるために力をふるう。

ティナ・クーアイズ

ガロンと血の契約を結び、行動を共にする冒険者。ランクは物語開始時点ではCだったが、現在はBランク。
珍しいアイテムや金銭に目がなく、調子に乗りやすい。モンスターの生態やダンジョンの秘密、知られざる歴史の真実などに強い好奇心を抱き、それを解き明かすために行動するなど、総じて冒険者らしい性格。
しかし魔族やモンスターに対する偏見などはなく、思考は柔軟。恩人は決して裏切らないという信念や、危機的状況でも逃げることなく立ち向かい、新人冒険者の盾となるなど、善良でお人好しな部分も多い。
善意をエサに騙されたときには相手が獣王ガロンと知りながら本気で激昂するなど、一本芯の入った性格の持ち主。
かつては孤児だったが火炎魔法の才能を開花させ、冒険者となる。憧れの存在は勇者パーティの一員だった大魔法使いのミリィ・ウィザース。

ミカゲ

固有魔法の影を操る、人間と魔族のハーフ。
その中途半端な生い立ちから魔族の中でも差別され、唯一分け隔てなく接してくれたガロンに忠誠を誓い、魔王軍なき今でも斥候や密偵を務める。
性格は少々陰湿だが、仲間思いで忠義に篤い。

isaki
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