雑貨店とある(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『雑貨店とある』とは、上村五十鈴による雑貨店での人々の交流を描いた漫画作品である。『週刊漫画TIMES』で2023年まで連載していた。お人好しな店長・守澤智己が営む小さな雑貨店には優しい時間が流れている。コンプレックスや小さな悩みを抱える客達は、守澤が提供する季節のメニューによって元気を取り戻す。大好きな祖父を亡くしたアルバイトの越湖裕介も、守澤と過ごす日々の中で少しずつ悲しみを受け入れていく。単行本は2020年に1巻が発売され、2023年に発売された5巻で完結を迎えた。

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『雑貨店とある』の用語

季節の貼り紙

守澤の手描きで季節ごとのメニューが紹介され、この貼り紙を見て客達は店にやってくる。

「とある」の店頭に定期的に貼られる、季節のメニューを知らせる貼り紙。絵を描いていることもあれば、文字だけのこともある。
店で今出しているメニューがわかるようになっており、ほとんどの客はこの貼り紙を見て店内に入ってくる。ヨモギ茶の時には木月と日野の再会をアシストした他、プディングの時は越湖と祖父の思い出が蘇るきっかけにもなった。貼り紙は守澤の直筆で、手描きならではの味わいがある。

ロミオとジュリエット

英語劇ではロミオとジュリエットを男女逆転で演じた。越湖(右)はジュリエット役を演じたことで観客の注目を浴びた。

イングランドの劇作家ウィリアム・シェイクスピアによる戯曲。対立するモンタギュー家とキャピュレット家、それぞれの息子であるロミオとひとり娘のジュリエットが恋に落ちるが、周囲の心無さに巻き込まれた結果命を落としてしまう悲恋の物語である。本作では越湖の通う高校での英語劇として、越湖が主人公の1人であるジュリエット役を演じた。また、この経験によって越湖が心の奥に秘めていた祖父の死への悲しみと改めて向き合うきっかけにもなる。
ロミオ役は帰国子女のクラスメイト・山口が演じており、英語劇を演じるにあたって、越湖は海外の大学に進学した経験のある守澤に台本の読み合わせを依頼した。そのため、英語の発音は山口にも褒められるほど上達した越湖だが、監督の横川からは「大切な人を意図しながら演じて欲しい」という趣旨のアドバイスを受ける。ここで越湖の中に浮かんできたのが亡くなった祖父であり、このアドバイスを受けた後、越湖は「祖父に会いたい」と感じた時のことを思い出しながらその想いを演技に含めた。
その結果、練習にも関わらずクラスメイト達を引き込むような見事な演技となり、もらい泣きするクラスメイトもいたほどに進化。横川からも太鼓判を押され、本番は高校の歴史に残るほどの大盛況となった。

銀河宇宙系ゆるっと戦隊ゴショクダン

「野原しおり親衛隊」により結成された動画配信用の戦隊ヒーロー。

ミソラを筆頭にした「野原しおり親衛隊」が配信している戦隊ものの動画コンテンツのこと。通称「銀ダンゴ」。
人々をコントロールしようとするネガティブなエネルギーを増大させる「闇系」と呼ばれる宇宙人に立ち向かおうとする宇宙系地球人5人からなるヒーロー戦隊。主人公のゴショク・レッド(紅子)をしおりが演じており、あとの4人を野原しおり親衛隊で演じている。子供から大人まで幅広い層の人気を集めており、ゴショク・ブラック(玄美)を演じるミソラが一番人気、次いでイエロー(黄味江)を演じるみどりが人気を獲得しており、しおりが演じる主人公は現実世界と同様にミソラ達に埋もれてしまっている。
変身前は本人たちがそのまま出演しているため、一番人気のミソラは街中で視聴者に気付かれそうになることもしばしば。詳細なストーリーは不明だが、作中ではクロミがゴショクダンを裏切るような描写がされていた。銀ダンゴにハマった木月は「とある」でミソラに出会ったことがきっかけでオープニングを制作することになり、更に日野と揃ってミソラに召集され、銀ダンゴの大晦日生配信のカウントダウンライブに新メンバーとして登場した。木月が有名なミュージシャンであったことなどもあり、銀ダンゴは炎上騒ぎとなった。また、大晦日生配信が行われた廃校は、守澤と越湖が仕入れ旅で訪れた「奥村」で、村の美しい村にも視聴者から注目が集まり、問い合わせが相次いでいる。
なお、銀ダンゴの活動期間は高校卒業までとされており、その後の活動については未定だが、ミソラは飽きるまでしおりについていくと公言している。

『雑貨店とある』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

守澤智己「大丈夫 君はきっといい実になるよ」

学校に行けない自分に悩んでいた梅。そんな自分を励ます守澤の言葉は梅の心に強く響いた。

1巻で梅の不登校の話を聞いた守澤の梅に対しての言葉。明確な理由はわからないが、急に学校へ行けなくなってしまった梅。ある雨の日、店頭にいた子猫に誘われるように入った「とある」で守澤と出会い、初対面にも関わらず収穫した梅のへそ取りをしないかと誘われる。へそ取りを手伝う梅は、自分が皆の中に入れないことに恐怖を感じていること、学校に行かなければと思っていることを守澤に打ち明けた。
梅の想いを聞いた守澤は「そりゃ梅ちゃんの冬なんだよ」と言われる。守澤は冬の厳しい寒さで蕾を閉じる時期があるからいい梅の実がなること、人にも春夏秋冬のような巡りがあり、冬の後には春が来ると梅に伝え「大丈夫 君はきっといい実になるよ 梅ちゃん」と伝えた。学校へ行けない自分をどこかで責めていた梅だが、守澤の言葉で冬はいつまでも続かないことを思い出し、自分のこの辛さも永遠ではないと気付けた梅は少し安心して涙をこぼした。厳しい冬を越す梅の実になぞらえて、辛い時期が永遠に続くわけではないと気付かせてくれる言葉でもある。

日野「楽しい事って一番人を癒やすんだって 木月君の言葉も きっと皆の薬になるよ!!」

自分の言葉は人に届かないと思っていた木月(左)を、日野(右)は笑顔で励ます。

「とある」を時々利用する客の木月と日野の少年時代の思い出の中で、日野が木月に伝えた言葉。大人になってからは有名なアーティストとなり、作曲などをしている木月だが、子供の頃は自分のことを宇宙人だと思い込んでおり、自分の言葉は誰にも届かないと思い込んでいた。当時の木月は口に出す代わりにノートにたくさんの言葉を書いており、心が満たされるその行動を自分の中の儀式のようにとらえて大切にしていた。
日野は、木月が通っていた小学校に来た転校生。明るく行動力のある日野は、世間に疎い木月にいろいろなことを教えてくれ、木月が世界に持つ違和感も温かく受け入れる優しい少年だった。日野の将来の夢は「医者」。木月は、自分の将来の夢を「皆と心から楽しいと思えるような言葉が欲しい」と話すと、日野は笑顔で木月の書いた言葉の楽しさを肯定した。日野は「薬ってさ 草カンムリに楽しいで書くじゃない」と話した後、「楽しい事って一番人を癒やすんだって 木月君の言葉も きっと皆の薬になるよ!!」とキラキラした笑顔で告げた。
木月はこの時のことを、「とある」のヨモギ茶を飲んで思い出した。ヨモギは、土手で転んでひざを擦りむいた木月に、日野が傷薬として渡してくれた野草だった。ヨモギの香りからインスピレーションを得た木月は、店内で1曲作って自然と口ずさむ。その曲は守澤と越湖の心にもしっかり響き、日野の言葉通りに、自分の言葉が人に伝わる感動を味わった。更に、この日偶然に店の外を通りかかった日野と再会を果たし、2人で「とある」を訪れるようになった。

越湖裕介「時に人には命よりも守るべき大切な事があると カジ君見てたら思い出した」

全力で理不尽な状況に挑む加持を助ける越湖。静かな強さで周囲を圧倒させる。

4巻での中学時代の越湖にまつわる加持の回想での越湖の言葉。
剣道の初稽古終了後、1人で残って道場内の掃除をしていた加持は、居残りでの稽古をするという言づてを聞き稽古場へ向かう。そこにいたのは、1つ年上の鮫島とその仲間達だった。鮫島は明るいがやや軟派な雰囲気の加持を快く思っておらず、剣道への情熱はあるものの腕はいまいちな加持に対し、5人がかりで「立ち切り稽古」をつけると伝えた。
「立ち切り稽古」は、3時間で33人と休む間もなく立ち合う厳しい修行のことで、強くなりたい加持がいつかやりたいと夢見ていた稽古だった。更に鮫島は「負けた方が道場をやめる」という条件を出した。明らかに分が悪い状況だが、加持はこの勝負を受けることを決意し、5人に対して1人で立ち向かった。
勝負では何度も倒される加持だったが、しぶとく何度も立ち上がる。諦めの悪い加持に苛立つ鮫島だが、向かってきた加持の喉元に突きを入れてしまう。故意ではなかったが、突きをまともに受けた加持は倒れ込んだまま立ち上がれなくなってしまった。危険な状況を想定し、鮫島達も焦り始めたが、そんな時に道場に越湖が入ってくる。
立ち上がれない加持を見た鮫島は「道場を辞めてもらう」と加持に言い放つが、倒れたまま咳混じりに何か言おうとする加持の様子を見て、越湖はこれまでに起こっていたことをなんとなく察する。
誰もが加持の負けだと思っていたが、加持はまた立ち上がった。ふらふらしながらもまだ諦めない加持に、越湖は代わりに勝負を請け負うと告げる。全国大会に出場している越湖にはさすがに勝てないことを理解している鮫島は、代わりに弟の逸に立ち切り稽古をさせようとする。この条件出しに憤った越湖は、静かだが激しい怒りを露わにし、鮫島達を戦慄させた。更に「防具はいらない」と告げ、先輩達に対してハンデを与える。越湖は「よくおじいちゃんが言ってるんだ 時に人には命よりも守るべき大事な事があると」と話し始め 「カジ君見てたら思い出した」と続けた。
その直後、越湖は宣言通り防具なしで5人を一気に倒した。明らかに自分に勝てない相手を「目ざわり」という理由で辞めさせようとしたり、卑怯な条件出しをした鮫島達を前に、それでも剣道への情熱を持ち続けて折れない精神力を見せた加持に越湖の心が動かされていたことがわかる台詞。
この一件の後から、加持は越湖を素直に尊敬するようになり、友好的に接するようになった。

越湖節子「鏡の中の自分にいっぱいいっぱいありがとうって言ってみて きっと必ずその自分は もっとあなたを素敵にしてくれるわよ」

櫻子に手鏡をプレゼントし、笑顔で去って行く節子。いつでも周囲を明るくする越湖の祖母だ。

越湖の祖母・節子と一緒に「とある」を訪れることになった櫻子が、帰り際に節子から手鏡をプレゼントされた時に節子から言われた言葉。
偶然「とある」の前で出会った節子に連れられ、一緒に店を訪れることになった櫻子は、帰り際に節子が大量の買い物をしている横で螺鈿の手鏡を見つける。買わずに元の場所に戻して店を後にしたが、節子との別れ際に先ほど自分が手に取った手鏡を渡された。戸惑う櫻子だったが、節子は手鏡を見ている時の櫻子がとても素敵だったと話し、櫻子にこの手鏡を使ってもらいたいと伝える。
節子は「あなたはとっても素敵よ とっても頑張ってるじゃない 鏡の中の自分に いっぱいいっぱい ありがとうって言ってみて」と話し「きっと必ずその自分はもっとあなたを素敵にしてくれるわよ」と言い笑顔で去っていった。
意地っ張りで素直になれない自分にコンプレックスを抱いていた櫻子は、祖父に才能を見込まれており、実力もある越湖に憧れと同時に嫉妬もしていた。そんな越湖が、自分の欲しいものを手にしていながら剣道をあっさりと手放したことを許せずにいた。だが、本当は越湖が剣道を辞めたことではなく、自分が「道場を守らなくては」というプレッシャーから解放されたかったのだと気付く。
櫻子には、学園祭でジュリエットを演じていた越湖を見たときに「前に進んでいる」姿が眩しく見えていた。本音では、意地を張るのをやめて、自分も越湖や節子のように輝きたいと感じていた。
帰宅後、櫻子は鏡に映る自分に向かって、自分の気持ちが分からずにいたことへの「ごめんね」と頑張ってきたことへの「ありがとう」を声に出して伝えた。鏡の中の櫻子は、ようやく自分を見てくれたと嬉しそうに櫻子を包み込んだ。きちんと自分で自分を受け入れることができた気がした櫻子は、もう一度自分に「ありがとう」と告げて涙ぐんだ。

祖父の死を受け入れた越湖の涙

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