ベイビー・ブローカー(是枝裕和)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ベイビー・ブローカー』とは2022年に公開された韓国映画である。監督は日本人である是枝裕和。2022年5月に行われたワールドプレミアでは、上映終了後12分間にも及ぶスタンディングオベーションが起こった話題作だ。赤ちゃんポストに入れられた乳児をこっそり連れ出し子どもを望む夫婦へ違法に売る2人の男。ひょんなことから赤ちゃんを置き去りにした母親が現れ、一緒に養父母を探すことになる。養父母を探す旅に出た彼らを現行犯逮捕しようと、2人の刑事が尾行していた。それぞれが複雑な状況を抱え物語は進んでいく。

ミスク(演:チェ・ヒジン)

ソヨンが殺害した男の妻。4000万ウォンでウソンを引き渡すように要求する。

『ベイビー・ブローカー』の用語

赤ちゃんポスト

赤ちゃんポストとは、諸事情により育てられなくなった赤ちゃんを預けるポストのことである。ポストがあるから母親が無責任になるのか。ポストがあるから子供が救われるのか。物語は堂々巡りの質問を繰り広げる。

「必ず迎えにくる」

赤ちゃんポストを利用する母親の多くがメモに記す言葉。ソヨンが残したメモには連絡先も書いていないことから「迎えに来る気はないね」とドンスは決めつける。実際に迎えに来る母親は40人に1人。ドンスの母親もこうメモに残し、彼は自分の母親がこの1人だと信じて待っていた。しかし母親が迎えに来ることはなかった。この経験から、ドンスは最初ソヨンを許せなかった。

家族

本作品のテーマでもある。捨てられた子供達が家族のように一緒に生活する施設。彼らの「父親のようでありたい」と言う施設長。行き場のない女性達に「お母さん」と呼ばせ家に住まわせ売春斡旋をする女主人。違法と知りつつ養子を迎えようとする夫婦達。赤ちゃんの兄になりたいと願う少年。それぞれに疑似家族を形成する人たちを描き「家族とは何か」を観る者に問いかける。

『ベイビー・ブローカー』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ソヨンが許せなかったスジン

減刑を条件に人身売買の現行犯逮捕の協力を打診する2人の刑事だが、スジンは子を捨てたソヨンが許せない。「堕ろすという選択もあったんじゃない?」と言うスジンに「産んで捨てるより産む前に殺す方が罪は軽いの?」とソヨンが聞く。「望まれずに生まれる方が不幸なんじゃない?」と答えたスジンにソヨンは「ウソンの前で言ってみろよ!」と声を荒げた。そんなソヨンに対してスジンは「捨てといて何言ってるの?」と一喝する。
「捨てるなら生むなよ」と子供を捨てる母親に対して嫌悪感を抱いていたスジンは常に冷静を装っていたが、ソヨンを前につい感情的になってしまった。その後、夫に電話し「ごめんね」と伝え涙を流す。現行犯逮捕に固執し、仕事一筋とも見えるスジンもまた様々な葛藤を抱えている。

家族になれない5人

遊園地の観覧車の中でドンスはみんなで家族になろうとソヨンに提案する。ソヨンは否定し、自分は人殺しとして逮捕されると告げる。ソヨンは初めて涙を見せた。
親子として夫婦として兄弟として、5人が家族を形成しようとするシーンが随所に登場する。しかしどれだけ親しくなっても、またどれだけ願っても犯罪者達が逮捕を逃れて家族になることは不可能だ。ソヨンは刑事スジンからも「あの人たち(サンヒョンとドンス)は親にはなれない」と言われる。それに対しソヨンは「私もよ。今日会った夫婦が”捨てられたんじゃなくて守られたのよ”と話しかけてウソンを育てると言った。そんな親に育ててほしい」とウソンを手放す決意をした。
サンヒョンは、ソヨンが自分たちを警察に売ったと確信している。ソヨンはウソンのためなら何でもするし、親ならそれでいいと納得していた。

「生まれてきてくれてありがとう」

ウソンの受け渡しの前日の夜、サンヒョンはソヨンに「最後に声かけてやれば?」とウソンに何か伝えるよう提案する。ソヨンがウソンにあまり話しかけないことを指摘するのだ。ドンスもそう思っていた。ソヨンがあまり積極的にウソンの世話もしないことも指摘したことがある。息子に何を言っていいのかわからないと躊躇するソヨンに、ヘジンが「じゃあみんなに言ってよ」とこの言葉をここにいるみんなに伝えることをお願いする。最後にヘジンがソヨンに「ソヨン、生まれてきてくれてありがとう」と伝える。家族に存在を否定されたと感じている人たちへ、是枝監督が伝えたかったメッセージである。

『ベイビー・ブローカー』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

雨風のシーンを好む撮影

雨のシーンや雨上がりのシーンが印象的な当作品。撮影担当であるホン・ギョンピョは雨風が大好きだという。冒頭から暗い雨の中でソヨンが子供を置き去りにするなど主要なシーンは雨に濡れた場面が多い。

是枝監督はホン・ギョンピョについて”現場でも、撮影前に日本語で「風よ吹け。風よ吹け」とずっと言ってるんです。ペ・ドゥナさんがすごくいいお芝居をして「カット」と声をかけた後に、僕のところに来て「すごくいい風だった」と最初に言うのがその一言で(笑)、そのくらい場面の中で、煙とか蒸気とか、風とか雨とか、花びらとか、そういうものが風で動いたり揺れたりしているのが大好きな人なんです。”と語っている。

出典: otocoto.jp

手を焼いた子役探し

「家族」をテーマにした作品を多く手掛ける是枝監督。当然子役もそれなりに扱った経験がある。当作品へジン役のイム・スンスも今までの作品と同じように、オーディションで起用を決めたという。しかし韓国では子役が所属する事務所がなく、子役の数がそもそも少ないのだそう。演技塾のようなところに通っている子ども達に声をかけてオーディションを行った。

オーディションをやってみて、脚本を渡さない方が楽しそうだった子たちを残したんですね。その中でもコントロールが効かない子を選んだら、本当に効かなかった(笑)。現場でうまく泳がせながら撮ろうと思っていたんだけど、本当に遠くまで泳いで行っちゃうタイプだったから、今までで一番大変だったかもしれない。ただ、すごく頭のいい子だったから、順撮りをしていくなかでその後の展開を先に掴んじゃうタイプだったの。脚本の内容を知らないのに、面白い子でしたね”と手を焼いた経験を語った。

出典: eiga.com

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