脂肪と言う名の服を着て(やせなきゃダメ!)のネタバレ解説・考察まとめ
『脂肪と言う名の服を着て』とは安野モヨコが『週刊女性』にて1996年6月から1997年9月まで連載した、過食やダイエットを題材にした漫画である。タイトルが連載時の『やせなきゃダメ!』から単行本化の際に改題された。自信がなく食べることに安心感を得ている肥満体型のOL・のこは、恋人の浮気から過食に陥ってしまう。テレフォンクラブで出会った謎の「デブ専老人」からもらった大金を手に、エステに通い痩せて行くのこは幸せになれるのか。美しさとは何なのかを問う、女性の心の闇を描いた問題作。
テレフォンクラブ
1985年〜1990年代前半に流行した風俗業。略称は「テレクラ」で、2000年以降は急激に店舗数を減らした。男性は有料で店舗に来て、自宅などから電話をかけてくる女性を待つスタイル。女子高生の援助交際(売春)を斡旋するとして規制が強まり衰退していった。女性が無料のため女性誌にもたくさんの広告が掲載されていて、実際に会うかは自身で決められた。いたずらも含めて多くの女性が気軽に電話をしていた。作品の掲載された時代を考えると特に抵抗なく電話自体はできたと思われる。
『脂肪と言う名の服を着て』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
のこ「食べてれば大丈夫」
「食え!食って食って食いまくれ!そして力をつけるんだ。食べて力をつけるんだわ。大丈夫。食べてれば大丈夫」
「食べられれば大丈夫。何とかなる」
「食べてればいい。何も考えなくてすむから」
暴食に走るのこは「大丈夫」と自分に言い聞かせ、食べることに安心感を得ていく。
キヨ「心がデブなんだもの」
のこが「斉藤やマユミが自分が痩せたせいで変わってしまったから」「みんなが太れと言うから」と、再び太ってしまった理由を他人のせいにしたことに呆れて「自分の体なのよ」と叱咤する。太っていたのは誰のせいでもない、他人のせいにしてばかりいる自分のせいなのだ。どうありたいかは自分で決めることだ。叱られてうつむくのこを残し、キヨは「繰り返すわ。心がデブなんだもの」と言う。のこに必要なのはエステよりも心のカウンセリングなのだろう。
のこ「カワイイというだけで キレイというだけで やせているというだけで マユミはすでに私よりも 上の人間なのだ」
マユミと斉藤の浮気を知りつつも指摘できないのこは、2人で自分を笑っているのではないかと言う不安と、マユミが斉藤のことを匂わせバカにされたストレスで暴食に走る。こんなに辛い目にあうのは美人のせいだと「カワイイというだけで キレイというだけで やせているというだけで マユミはすでに私よりも 上の人間なのだ」と僻んでいる。
自己肯定感の低いのこが自分を卑下しているのに、キレイであることを「だけ」と強調して、自分の存在が軽んじられて弱いのは自分のせいではないという思考に陥っている。いつも自分の不幸を人のせいにしているのこの根本的な内面の問題点を象徴している。
実際にのこは、痩せても不幸になるばかりで上にはいけない。
過食嘔吐の始まり
エステからの指導で食事制限を始め、実際に体重が落ちてきたのこ。一方でマユミから斉藤を取り返せない。斉藤と連絡が取れず、不安に陥っていく。痩せたことからの自信でマユミに言い返せたが、2人でそれを笑っているのではないかと思い始めると止まらなくなる。
「せっかく痩せたのに」「食べちゃダメ」と頭ではわかっているが、スーパーに行き山ほど菓子パンやお菓子を買って食べてしまった。完食した後、明日エステで怒られるのではと泣いてしまう。「体に悪いことは知っているけど」「一回だけなら」と自分に言い訳をしながら嘔吐する。その2ページ後には過食嘔吐がクセになっており、のこの精神力の弱さを表している。嘔吐が日常的になるまでのスピーディな展開が恐怖を感じさせる。
『脂肪と言う名の服を着て』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
極限状態の女性を得意とする作家
安野モヨコは他に『美人画報』などの美容をテーマにした作品を残している。『ハッピーマニア』などに代表されるように、リアルな女性の根底には見た目だけを磨いても幸せになれない、というテーマがある。
よく比較される作品に整形に取り憑かれた女性を描く岡崎京子の『ヘルタースケルター』が挙げられるが、安野モヨコは岡崎京子のアシスタントをしていたことがある。
美容に取り憑かれた極限状態の女性の狂気を描き、主人公が幸せにはなれずルッキズム信仰に警鐘を鳴らす作風に共通点が見られる。
岡崎京子のファンだった安野モヨコがファンレターを送ったことが関係の始まりである。安野モヨコが誕生日にも関わらず、1人で原稿作業をしていたところへ岡崎京子がケーキを持って訪れてくれたことがあり感激したというエピソードもあり、親交は深かったようだ。
斎藤の歪んだ女性観と母親の存在
斉藤は充分な給与とルックスを持ち合わせており、モテて当然でいくらでも女性を選べる立場である。にも関わらず、のこと8年も付き合っているのは斉藤が女性に臆病だからである。
母のヒステリーが原因で両親は離婚しており、斉藤は母と2人で暮らしている。狂言自殺を繰り返す母を1人にできず、殺したい願望とこの母のせいで人生を棒に振りたくもない悔しさで、ドアの外で叫ぶ母に謝り続け頭を抱えて部屋にこもっている。近所にも声は届いており、有名な存在だ。
こんな母のせいで斉藤の価値を決めつけてくるような女が苦手だ。のこのように惨めで自信がなく、誰にも奪われず、何も言い返してこない女に安心感を求めている。確実に自分が上に立てて、自分が内面で選ぶ優しい男のように演出してくれるのこは、斉藤を癒してくれる。
こんな女しか選べない自分が嫌になって、美しく自分に自身があるマユミのような女と付き合うが、上には立つことはない。マユミとのセックスでは、マユミが馬乗りになりタバコを押し付けられたり、首を締められたりする。のこにダイエットを告げられると、のこが普通の強い女になってしまう恐怖から無理やり食べさせようとする。
斉藤を捨てるマユミにすがっても「のこを苦しめるために会ってただけ」と斉藤自身に興味がないと言われてしまう。
ホテルを飛び出して家に帰り「怖い女はいやだ」と泣き伏してしまう。母はドアの外で怒鳴っている。斉藤は優れた要素を持ち合わせていながら心が弱く、幼いままだ。
のこと別れた後も、結局はのこと似た女を選び結婚する。斉藤とのこは、お互いが特別な存在でお互いを必要としあっていたのだ。
Related Articles関連記事
働きマン(漫画・アニメ・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ
『働きマン』とは、2004年に講談社『モーニング』で連載を開始し2008年まで連載した安野モヨコによる仕事漫画である。雑誌『JIDAI』の女性編集者・松方弘子(まつかた ひろこ)は28歳独身。上司や同僚、後輩たちと「よい雑誌」を作るために日夜奮闘中だ。一旦仕事モードになると寝食を忘れ、恋人よりも仕事を優先する。そんな彼女の痛快お仕事ストーリーである。20006年にアニメ化、2007年にテレビドラマ化された。ドラマの主演は菅野美穂が務めた。
Read Article
花とみつばち(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『花とみつばち』とは2000年から2003年に講談社の『週刊ヤングマガジン』で連載された安野モヨコによる青年コメディー漫画である。コミックスは全7巻。高校生の小松正男(こまつ まさお)は、モテたいが地味でファッションにも容姿にも自信がない。格差社会で構成されるスクールカーストの底辺にいる小松が、モテる男になるために悪戦苦闘する。風変わりなメンズエステに通いそこで出会った「オニ姉妹」に指導されながら、小松が成長していく青春コメディー作品だ。
Read Article
ハッピー・マニア(安野モヨコ)のネタバレ解説・考察まとめ
『ハッピー・マニア』とは1995年より安野モヨコが『FEEL YOUNG』で連載した漫画、およびそれを原作としたドラマ作品。2017年に続編となる『後ハッピー・マニア』の読み切りを発表、その後連載が開始された。理想の恋人を求めて突っ走る、破天荒な主人公シゲカヨ(重田加代子)が、男と付き合っては別れてを繰り返しながら「しあわせさがし」をしていく様子を描く。恋愛と性に関する女子の本音が赤裸々に語られている作品。何度痛い目に遭っても立ち直るシゲカヨの姿がおかしくも魅力的な、恋愛コメディー。
Read Article
オチビサン(安野モヨコ)のネタバレ解説・考察まとめ
『オチビサン』とは、主人公・オチビサンの四季折々の日常を描いた安野モヨコによるフルカラー漫画である。1話ずつ1ページでストーリーが進む。『朝日新聞』に2007年4月から2014年3月まで連載され、2014年4月から2019年12月まで『AERA』(朝日新聞出版)に移籍して連載された。単行本は全10巻。オチビサンとその仲間たちのほのぼのとしたストーリーと、水彩画の絵が人気を呼んだ。絵本になりテレビアニメ化され、さらには動画配信サイトでも公開された。
Read Article
シュガシュガルーン(漫画・アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ
『シュガシュガルーン』とは安野モヨコが2003年から2007年まで『なかよし』で掲載した少女漫画、それを原作としたアニメ。次期女王候補である魔女のショコラ=メイユールとバニラ=ミューは、女王試験の為にお菓子でできた魔界から人間界へやってきた。どちらが女王にふさわしいか、気持ちを結晶化した人間のハートをめぐって勝負を繰り広げる。やがて対立するオグルとの戦いで魔界がピンチになってしまう。ライバルで親友である2人の友情や恋の行き先をファンタジーに描いた。第29回、講談社漫画賞児童部門を受賞した作品。
Read Article
漫画家ごはん日誌(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『漫画家ごはん日誌』とは、50名の漫画家が自身の食についてエピソードを元に描いた漫画を掲載した漫画本である。後半には特別インタビューとスペシャル対談が記載される。2015年5月8日、祥伝社により刊行された。漫画家52名が1名2ページで、日頃食べているごはんや漫画家が持っている食についての考えをラフなスタイルで描いている。人気漫画家が日頃どのような食生活を送っているかを知ることが出来る本であり、さらに食とは何かを考えるきっかけとなる作品である。
Read Article
漫画家ごはん日誌 たらふく(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『漫画家ごはん日誌たらふく』とは、50名の漫画家が自身の食についてのエピソードを元に描いた漫画を掲載した漫画本である。漫画家50名が1名2ページで、日ごろ食べているごはんや、漫画家自身が持っている食についての考えをラフなスタイルで描いている。後半には、特別インタビューとスペシャル対談が記載されている。人気漫画家が日常どのようなモノを食べているかを知ることが出来る本であり、更に食とは何かを考えるきっかけとなる作品である。本書は2015年5月に刊行された『漫画家ごはん日誌』の続編である。
Read Article
真似したい♡ファッションが可愛い少女漫画まとめ【オールカラー!!!】
出てくる登場人物がやたらおしゃれな漫画ってありますよね♡一度は真似したい ファッションが可愛い漫画をまとめてみました。
Read Article
女性漫画家の顔写真・画像まとめ!中村光・柴田亜美などの美人な素顔にびっくり!
俳優や声優と比較するとなかなか表舞台に姿を見せない漫画家たち。特に女性漫画家が顔を出す機会は貴重であり、ネット上などでその姿を見た人々からは「すごい美人!」と驚かれることも多いのだ。本記事では「特に美人である」とファンから人気の高い女性漫画家と、その人が描いた有名作品をまとめて紹介する。
Read Article
タグ - Tags
目次 - Contents
- 『脂肪と言う名の服を着て』の概要
- 『脂肪と言う名の服を着て』のあらすじ・ストーリー
- ある日脂肪は増殖しはじめる
- それぞれが抱える病
- 痩せた先にあったもの
- 『脂肪と言う名の服を着て』の登場人物・キャラクター
- 花沢 のこ(はなざわ のこ)
- 橘 マユミ(たちばな まゆみ)
- 斉藤 利彦(さいとう としひこ)
- 藤本(ふじもと)
- 田端(たばた)
- キヨ
- 松原 千夏(まつばら ちなつ)
- 川原 ヨーコ(かわはら よーこ)
- 斉藤の母
- 三島(みしま)
- 高見(たかみ)
- 『脂肪と言う名の服を着て』の用語
- 地下室
- 過食嘔吐
- テレフォンクラブ
- 『脂肪と言う名の服を着て』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- のこ「食べてれば大丈夫」
- キヨ「心がデブなんだもの」
- のこ「カワイイというだけで キレイというだけで やせているというだけで マユミはすでに私よりも 上の人間なのだ」
- 過食嘔吐の始まり
- 『脂肪と言う名の服を着て』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 極限状態の女性を得意とする作家
- 斎藤の歪んだ女性観と母親の存在