黄泉のツガイ(荒川弘)のネタバレ解説・考察まとめ

『黄泉のツガイ』とは、『鋼の錬金術師』の作者・荒川弘による伝奇バトル漫画である。『月刊少年ガンガン』2022年1月号から連載開始。物語は山奥の村落に住む少年・ユルが突然襲撃に遭うところから始まる。双子の妹・アサを守るために彼女の元にユルは向かう。そこには自称本物の妹・アサがいて奇妙な力で妹・アサを殺害。混乱の最中、ユルは村の守り神である「ツガイ」の左右様と契約して、自称本物の妹・アサを追う。迫力あるバトルとコミカル要素が人気の作品。「全国書店員が選んだおすすめコミック2023」で第2位を獲得。

東村を突然襲撃されて、意味も解らないまま左右様と契約をしたユル。左右様の主となったがユルは守り神に命令することを嫌い、あくまでも願い事として生きている村人の保護を頼む。そして、もう1つの願い事として村の襲撃者の1人であるガブを倒すため「あのチビは俺の獲物だ。手を出すな」と頼んだ。

平和に暮らしていたある日に、突然親しかった村人を殺されてしまったユルは状況を飲み込めないまま左右様と契約をした。そこに、ツガイを連れたガブが現れて、ユルが「村のみんなを殺したのはおまえか」と問う。ガブが「そうだよ」とこたえるとユルの拳が怒りに震えた。ユルは左右様は村の守り神であるため、自身が主として命令するのはおこがましいとして、命令ではなく頼み事として、生きている村人の保護と、ガブを倒すのは自身がやるから手を出すなと頼む。ガブの連れているツガイであるガブリエルを左が相手している間に、ユルはガブに矢を放つ。この時のユルは口調こそ冷静であるものの、表情からは村を破壊されたこと、村人を無惨に殺されたことへの強い怒りが見えて、村や村人たちを大事にしていたことが伺えるシーンとなっている。

アサ「運命の双子に生まれたのは自分で選んだ道じゃなかったけど、ここからは自分で選んだ道だから自分で手を汚すよ」

東村から逃げ出したアサは影森家に保護されてたいたが、病気を患ったことで影森家から出て病院へ入院していた。そこを東村の人間にさらわれてしまい、殺されてしまう。そこで、アサはツガイと契約することで「解」の力を手に入れる。そして、その力を使い東村の人間を殺した。アサは東村に残されたユルのことを想い、助け出すために自身の手を汚すこともいとわない覚悟があるとして「運命の双子に生まれたのは自分で選んだ道じゃなかったけど、ここからは自分で選んだ道だから自分で手を汚すよ」と言った。

アサは運命の双子の片割れとして刺客につけ狙われる日々を過ごしているなかで両親が行方不明になり、東村に取り残されたユルのことも心配していた。その最中、影森家から少し離れた隙をつかれてアサは殺されてしまう。黄泉平坂で出会ったツガイの解から、双子の力は1度死ぬことによって身に着けることができると知らされる。アサはユルの命が危ないことを知り、「解」の力を使ってユルを救うことを決意する。
これまで、両親や影森家に守られて逃げるだけという他者が主導となる生活を送っていたアサが、自身の手を汚してでもユルを救うために戦う道を自分で選んだ。何もできない守られるだけの少女から脱却した成長のシーンとなっている。

ユル「東村だ影森だとごちゃごちゃ面倒くさい。どっちだろうが俺の首を取りたい奴は取りに来い!」

影森家襲撃を乗り越えて、影森の主要人物たちがユルとアサ、これからも夜と昼を別つ双子を生む可能性のある東村、「解」と「封」の力についての考えを述べる中、ユルは「東村だ影森だとごちゃごちゃ面倒くさい。どっちだろうが俺の首を取りたい奴は取りに来い!」と言った。

双子の力を狙っている組織が自分の知らないところで争い、さらに大事な妹の命も1度奪われてしまっていたことを知ったユルは複雑な心境を抱えていた。そして、自分が悪いことをしていないにも関わらず、何かにつけて謝るアサの姿に、誰が肩身の狭い思いをさせているのかと怒りも抱えていた。東村と影森の双子についてのごちゃごちゃとした考えなどユルからしたら知った事でなく、アサの負担を少しでも軽くするために、自分の方に刺客の手が伸びるように誘導する発言をした。妹を守りたいという兄の気持ちとユルの戦う覚悟が表れたシーンとなっている。

『黄泉のツガイ』裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

登場人物が方言を使わない理由は作者が方言を使えないため

地方取材で地元住民から話を聞くも、方言が聞き取れない作者(下)

本作は地方が舞台であるためある程度の方言が用いられているはずだが、登場人物は皆標準語を喋っている。これは、作者が本作を描くにあたっての地方取材で、地元民の方言が聞き取れず苦労したためであるとコミックスおまけ漫画にて明かしている。

東村の造りのモデルは高取城

高取城を自身の足で登り、あまりのしんどさに空からの襲撃を決めた作者

東村の造りのモデルは日本3大山城の一つである高取城である。高取城は標高583.9mある高取山の頂上に位置し、城内周囲は約3km、郭内周囲は約30kmとなっている。標高が高いことに加えて、登坂があまりにもキツく、石垣を運ぶ人が嫌がってしまったため「米一升をボーナスとして支給するから」と説得したという話が有名である。その険しさは最早、登城ではなく登山である。現在は城としての姿を無くしてしまっている高取城だが、本丸・二の丸跡の立派な石垣は残っている。
作者が東村の襲撃をどこからするかという構想のために、登ってみたところ地上ルートがあまりにも険しかったため、ヘリコプターによる襲撃を決めたとコミックおまけ漫画にて明かしている。

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