岩元先輩ノ推薦(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『岩元先輩ノ推薦』とは、椎橋寛による伝奇ロマン漫画。2021年3月号から『ウルトラジャンプ』にて連載され、『ぬらりひょんの孫』を描いた椎橋の作品として注目を集めた。物語の舞台は、明治時代である1910年代の日本。陸軍直属・栖鳳中学に通う岩元胡堂が、軍の訓令により全国各地で起こる超常現象を調査し、軍事利用可能な異能者を学園に推薦し、仲間として共に敵国・英国の異能者たちとの対戦に臨む様子が描かれている。美しい絵柄と悲哀やゾッとする怖さがあるストーリーが魅力である。

『岩元先輩ノ推薦』の概要

『岩元先輩ノ推薦』とは、椎橋寛による伝奇ロマン漫画。『ぬらりひょんの孫』を描いた椎橋の作品として注目を集めた。2020年3月30日に読み切りとして『ジャンプ+』に掲載された後、2021年3月号から『ウルトラジャンプ』にて連載がスタート。2022年3月に3巻が発売された際には、発売記念として、2022年3月18日~4月3日まで秋葉原にあるDUG GALLERY AKIHABARAにて限定グッズなどを販売するポップアップショップがオープンした。

TVアニメ化はされていないが、2巻の発売に合わせて、2021年11月19日にYouTubeにてコミックスPVが公開。主人公の岩元胡堂を福山潤、青沼静馬をファイルーズあいがそれぞれ演じている。

物語の舞台は、明治時代である1910年代の日本。陸軍直属・栖鳳中学に通う岩元胡堂(いわもとこどう)は、軍の訓令により全国各地で起こる超常現象を調査し、軍事利用可能な異能者を学園に推薦するという任務を遂行していた。しかし、岩元自身の目的は能力者の軍事利用ではなく、学園の隔離施設にて能力者を保護し、無暗に兵器化されないよう能力者を強化・育成することだった。そんな中、英国の能力者のリーダー的存在であるウォーターガンとの戦闘をきっかけに、英国の能力者が日本の能力者を引き抜こうとしていることが明らかとなる。岩元とその後輩は日本を敵国から守るべく、迫りくる英国の脅威に立ち向かっていくのであった。

美しい絵柄と悲哀やゾッとする怖さがあるストーリーが魅力である。

『岩元先輩ノ推薦』のあらすじ・ストーリー

黒い雪の降る村の調査

訓令を受けて調査に乗り出す岩元。

学長から「『黒イ雪』ノ降ル村ヲ調査セヨ」と訓令が下され、超常現象を調査する岩元胡堂(いわもとこどう)は噂の村を訪れた。村で得た情報を元に薬堂の屋敷近くの花畑を訪れた岩元は、雪の中で咲く大量の花を目にする。散策していると急に足元の地面が崩れ、地下の空間に投げ出され意識を失った。薬堂の屋敷で目を覚ました岩元は、怪我をしたはずの箇所の痛みが消えていることに気付く。薬堂こと青沼製薬の主人は薬の効果だと言い、岩元に治療の見学を提案。そこで痛みを消す薬を求め、多くの人が薬堂を訪れていることを知る。

岩元は地下で見た人物が気になり再び花畑を訪れ、落ちたあたりを調べて穴を見つけた。地下牢のような場所を進むと、薬堂の孫・青沼静馬(あおぬま しずま)を発見。岩元が声をかけると、「それ以上近づくと黒い雪が見える体になります」と言われる。騒ぎを聞きつけた薬堂たちが集まり、「長くここにいると体に毒だ」と忠告をする。地下牢を後にした岩元は体調に異変を感じ、呼吸困難に陥り倒れた。その時、辺りに黒い雪が降っていることに気付く。実は静馬が黒い雪に深く関わっていたのだった。

静馬のもとに戻ろうとすると、村の者たちが立ちはだかる。岩元は薬堂に「お前の薬はあの子の体から出ているものだろう!!」と問いかける。すると薬堂は、静馬は痛みの記憶を消す不思議な花が咲く特殊体質で薬童子、神童として崇められていたこと、幻覚や脱抑制症状、強い依存性という花の副作用で両親が犠牲になったことを機に地下にこもるようになったことを告げた。

それを聞いた岩元は、静馬に学園に迎える推薦を出す約束をした。

この年、陸軍栖鳳中学校には静馬を含め44名の生徒が入学した。

縁切リノ鎌の調査

岩元にある神社の御利益について追加調査の訓令が出される。前任者と接触するよう記されていた為、現地で1年後輩の前任者・原町海(はらまちかい)と接触。彼は岩元と共に書記長選挙に立候補したが落選しており、岩元を目の敵にしていた。建物の隙間に建てられた調査対象の神社に足を踏み入れた岩元は恐怖を覚える。実はこの神社の御利益とは縁切りであり、ご神木に人々の縁切りの願いが込められた鎌が無数に突き立てられていた。異常なほど願いが叶うことから能力者がらみと疑われ、岩元が派遣されたのだ。

ご神木の前で2人が話していると、突然巨大な枝が落ちてきた。これは、原町が岩元の名前を書いた鎌を木に突き立てたためで、その後も岩元に次々と危険が迫る。

危険を脱した岩元は原町が突き立てた鎌を見つけ引き抜き、血相を変えて原町を殴った。岩元は木に刺さっていた鎌を抜き始め、木の根元付近を破壊。すると中から強力な能力者の死体が出てきた。その死体は、昔自らの血を用いて呪いをかけていた術師で、死後もその血のみが枯れずに人々に利用されてきたのだった。

調査を終えた2人は互いを認め合い、原町は岩元を慕うようになる。

学園内の虫騒動

学園内の前線部隊の宿舎に巨大な繭が出現。能力者の関与は分かったが、岩元が把握している限り学園内に該当する能力者はいない。しかし、隔離施設を疎む前線部隊の教官・鳩柳博(はとやなぎ ひろし)から、犯人探しを命じられてしまう。岩元は前線部隊の権藤(ごんどう)や原町から隔離施設以外に能力者はいないと聞かされ、犯人探しは行き詰る。
そんな時、雨男の佐々眼流雨(さざめ りゅうう)が隔離施設の宿舎で時々強い雨が降る場所があると伝えに来た。現場へ向かうと、使用されていないはずの部屋の鍵が開いており、中には密林に似せた環境が作られていた。部屋の通気口が破れており、岩元は部屋にいた何かが育ての親の近くで繭を作るため、通気口を通り前線部隊の宿舎へと移動したと推測。犯人候補として前線部隊の2年生で鳩柳のお気に入りでもある岡野三郎(おかのさぶろう)の名が挙げられた。

岡野を訪ねた岩元たちはある洞窟へ案内され、彼が育てた虫が独自の色形に進化する能力を持っていることを知る。岡野は能力を自認していたが、体格の良さが軍部の人間の目に留まり、栖鳳中学校へ入学。入学後に隔離施設の存在を知った岡野は、能力が軍事利用されることを恐れ素性を隠して過ごしていたのだ。今回の事件は、岡野がたまたま出会った虫を愛しすぎ、隠れて育てていたことが発端だった。責任を感じた岡野は処分を覚悟で岩元達に全てを打ち明け、岩元も鳩柳に事実を報告する。
しかし、鳩柳もお気に入りの生徒が処分になることを良しとせず、この件は自然発生した繭を優秀な学生が処分・対処したことになった。
岩元は能力で繭に火をつけ、岡野に「繭の中の蛹は熱で温めると羽化が早まると聞いたことがある」と告げた。次の瞬間、繭の中から羽化した成虫が出てきた。岩元は軍事利用されたくなければ、自分で使い方を考えればいいとアドバイスする。

屍人伝説の真相

岩元は屍人伝説がある街を訪れていた。学長からは警告を受けていたが、岩元は自分で調べてから判断したかったのだ。
喫茶店にいると、学園長の机から伝説に関する資料を盗んできた天羽総一郎(あまばそういちろう)が現れる。資料には「右足湖の屍人伝説」という怪談に関係する、人肉が付着した白骨死体が描かれていた。
2人が伝説の元となった湖の周りの調査を開始すると、観光地に似合わない瓦斯工場が目についた。工場の裏口を探していると、喪服のような服を着た大勢の人達がおり、棺が中に運び込まれていった。集団に紛れて侵入した2人は、工場内部で特殊な液で凍った遺体が砕かれるところを目撃。岩元は堪えきれず声をあげるが、工場関係者は悪びれる様子もなく、液体窒素で遺体を凍らせていると説明を始めた。この村には昔から死後蘇ってくる不可思議な子供が生まれることがあり、昔は屍人を取り押さえ再火葬することで対処していた。しかし火葬しても骨が残ると甦るらしく、工場で遺体を処理し、近くの湖に撒く完全葬が行われるようになった。ただ遺体を粉砕しても蘇りは完全には防げず、時折不完全な状態で岸に現れるのだという。
「これは能力者の殺害じゃないのか」と怒る岩元は、天羽に止められ工場を後にした。
岩元は自分の管理下に置き遺体を回収するように上に進言すると決意。「俺は能力者に優劣はつけん」と呟く。天羽はその言葉を聞き、工場から盗んできた骨を渡してその場を去った。

人気女優の秘密

岩元は天空橋須磨子(てんくうばし すまこ)という女優の調査を命じられ、原町・天羽と共に浅草を訪れた。熱狂的なファンに顔を切り付けられたというが、2日後に舞台に戻り、3週間ほど経った今では傷1つ見当たらなかい。原町は須磨子が能力者だと疑い、天羽は整形の可能性もあると考える。岩元は2人の意見も受け入れつつ、調査を進めることにした。3人は女優達に招き入れられ楽屋に入ることができた。しかし、楽屋に須磨子の姿はなく、女優達も楽屋で須磨子の姿を見たことは1度もないとのことだった。出入り口には大勢の出待ちがおり、見つからずに楽屋から出ることはほぼ不可能だ。3人は楽屋の出入り口で須磨子が出てくるのを待つが、この日は会えなかった。
翌日も朝から楽屋を張っていたが、本人はいつの間にか舞台にいた。その日も深夜の2時まで楽屋を張ったが、須磨子は現れない。今日もダメかと思った時、楽屋の警備員が「そこまで須磨子に惚れてんのかい」と岩元に声を掛けた。女優としてではなく人間として興味があると岩元が答えると、警備員は岩元を須磨子専用の「洗顔部屋」へ連れて行き、熱湯の入った鍋に自分の顔をつけた。

そして蝋のように溶けた顔を皿で受け止め、化粧台の前に座ると、手慣れた様子で顔に塗り始め、須磨子の顔を完成させた。彼女は講演が終わると警備員に顔を変えていたのだ。蝋のような皮膚を持ち、かなり昔から傷を治したり時代の流れに合わせて顔を変えて生きてきたという彼女の話を聞いた岩元は、「今後も女優の道を歩まれることを推薦します」と告げ、楽屋を後にした。

飛沫原との戦い

死傷者80人超の能力者による事件が起き、討伐の緊急任務を受けた岩元は原町、天羽と現場に向かう。現場の料亭は外まで血の匂いが漂い、多くの陸軍の軍人が倒され、至る所に黒い薔薇が咲いていた。奥に進むと体中に黒い薔薇を咲かせた軍人達が襲い掛かってきたが、岩元は彼らを傷付けないように倒しながら先へ進む。奥にあった巨大な賭場にいた1人の男がとびかかり、岩元は頬にかすり傷を負う。すると傷口から黒い薔薇が咲いた。男は人斬りの飛沫原建蔵(しぶきばら けんぞう)で、黒い薔薇は彼の能力だった。
彼の能力は血液から黒い薔薇を咲かせるというもので、無暗に摘んだり足掻いたりするとさらに体が傷つき薔薇が咲く範囲が広がるという厄介なものだった。
岩元の動きを封じた飛沫原は原町と天羽に挟まれるが、飛沫原は薔薇が咲いた死体を操作し、残る2人の動きも封じた。
しかし、天羽は肩に担いでいた刀を使い、時間稼ぎをする。その間に岩元は能力で傷口を焼いて止血。薔薇から抜け出すと、周囲の薔薇も利用し辺りを炎で焼いて飛沫原を倒した。

一件落着かと思いきや、倒れていた飛沫原が全身から体液を吹き出し、主犯と思われる異国の男が現れる。男は自分はスペック厨だと言って岩元の能力を讃え、飛沫原を能力で殺した。男は「私はネプチューン・ウォーターガンだ」と名乗り、岩元を大英帝国側に引き入れようと勧誘する。
しかし、岩元はウォーターガンのやり方に賛同できず、誘いを断る。その返答を聞いたウォーターガンは、液体を操る能力で出現させた水の龍で襲いかかってきた。苦戦を強いられる岩元に、原町は1度撤退することを進言し、岩元もそれに賛同。撤退に成功した3人だったが、あたりに転がっていた遺体の血液から龍が現れた。ウォーターガンは再び窮地に陥った岩元に凡人ではなくもう少し優れた者を仲間にすべきだと告げ、天羽を手にかける。岩元は攻撃を仕掛けるが、ことごとく敵の能力に消されてしまう。しかし、岩元の手元の炎だけは消えずに残った。ウォーターガンは岩元の能力にさらに興味を示し、天羽たちを殺して早く行こうと岩元に告げる。その言葉が岩元の逆鱗に触れ、ここでウォーターガンを狩ると宣言する。

ウォーターガンとの戦い

敵に優勢の戦況が続く中、ウォーターガンに掴まれていた天羽が結っていた髪を解いた。髪は意思を持ったように動き出し、ウォーターガンを襲う。これにより戦況が変わった。しかし、天羽の能力は制御不可能で、使うほど天羽の身も危険にさらされる。天羽の姿を見て奮起した岩元の炎がウォーターガンを捉えた。

ついに敵を倒した3人だったが、能力を使いすぎたためか原町以外の2人はその場で倒れてしまった。
学園に戻った岩元が報告のため学園長室を訪れると、学園長の橘城(きつじょう)からウォーターガンが魔法のように消えた消えたとの報告を受ける。ウォーターガンは単独犯ではなく、英国にいる仲間とともに組織で日本の能力者を狙っていたのだ。そして、橘城は現在の戦力差は歴然だが、英国からの刺客たちを退ければ日本の能力者の未来も安泰だと言い、それを聞いた岩元は覚悟を決めた顔で学園長室を後にするのだった。

魔女の侵攻

ロンドンのレッドウッド女学校の旧校舎では、ウォーターガンをはじめ英国魔女が集まり、日本にいる能力者の調査と捕獲を企んでいた。

岩元達は英国の魔女達が真っ先に狙うであろうコピー能力を持った少年の保護の為、埼玉県の山中に来ていた。山中には能力者が作った大量の仏像があり、その中をしばらく歩くと溶けた仏像と触れたものを溶かすシャボン玉が無数に飛んでいた。岩元たちは何とかその攻撃を防いでいたが、割れたシャボン玉から凶暴な妖精が出てきて大群で襲い掛かってきた。岩元は能力で作った小さい炎を使う。炎は妖精に燃え移り、シャボン玉を作っている能力者へと繋がる道になった。それを辿った岩元達がシャボン玉の能力者を捕らえたところ、イグニィが現れた。

イグニィとの接触

英国魔女の2人が物を複製する能力を持男に接触していた頃、岩元達はシャボン玉の能力者・クリスタルを捕らえ、英国魔女のイグニィと対面していた。
コインを使い攻撃を仕掛けてきたのをきっかけに、イグニィと岩元の戦いが始まる。
交戦中、イグニィの背後に茨が現れ、中からコピー能力者を捕らえた魔女が出てきた。岩元は英国魔女達を引き留めようとするが、茨を使う魔女の能力に阻まれてしまう。コピー能力者を連れ去られそうになったところへ、佐々眼が現れる。英国魔女たちは岩元以外の日本の能力者が戦力になるとは考えておらず、イグニィは計画を変更しその場に留まった。

英国魔女との対決

茨を操る魔女ローズマリィと佐々眼の戦闘が始まった。ローズマリィの茨は鋼でできており普通の武器で防ぐことは困難だが、佐々眼は茨を錆びさせ脆くし、その攻撃を傘で防ぐ。激しい戦いが繰り広げられる中、ローズマリィは最後の手段として地中の茨の球根を使って攻撃を仕掛けた。しかし雨で緩くなった地盤と佐々眼の周りの高気圧が重なり、地崩れを起こしてローズマリィは地面の下に落下。佐々眼が勝負に勝ったのだ。それを見たイグニィは日本にも戦える能力者がいると認め、英国魔女を連れて撤退した。

ウォーターガンとの戦いで意識を失っていた天羽が目を覚ました。見舞いに来た岩元と原町がとの会話が弾む中、天羽の髪の毛を研究していた研究棟の生徒たちが質問をするために行列を作っていた。その様子を眺めていた岩元は天羽たちを連れ、隔離施設に向かった。隠し階段から地下に入ると、開発途中の能力を持った多くの生徒の姿があった。岩元は上には自分以外の能力者はまだ訓練が必要だと報告しており、実際は隔離施設に隠し生徒たちが無暗に兵器化されないように保護していたのだ。

学園長室では橘城が相手側の情報を聞き出そうと、クリスタルと話していた。相手の警戒を解く為に橘城は紅茶占いを始め、その手にかかったクリスタルはおだてに乗せられ、コピー能力者に何をしたのか話しかけたが、途中で我に返った。その後、橘城が1人で資料を読んでいるところに岩元と原町が訪れて来た。岩元が橘城に今後について話していると、ある人物が学園長室を訪ねて来た。しかし、その人物は本の匂いが苦手とのことで、隔離施設で待つとだけ告げ、その場を後にした。岩元と原町が隔離施設に戻ると、そこには先程の声の主でもある鳳栖中学校4年、生徒会副会長の奥秋雄弐が隔離施設の後輩たちを従え待っていたのだった。

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