さよなら絵梨(藤本タツキ)のネタバレ解説・考察まとめ

『さよなら絵梨』とは、映画好きの少年・伊藤優太の半生をドキュメンタリー映画風に描いた藤本タツキの読み切り漫画である。『チェンソーマン』などの話題作を次々と送り出した作者の新作ということで、公開前から注目を集めた。
母の闘病から死までを撮影した自作映画を撮った伊藤優太だったが、それが酷評されたことで自暴自棄となるも、ふとしたことから出会った絵梨という少女に作品を絶賛され、彼女を題材にもう一度映画を撮り始める。その絵梨もまた余命いくばくもないことを知り、優太は映画作りにのめり込んでいく。

優太の母。自分が病と戦う様を動画に残すよう12歳になった優太に依頼する。
優太の映画では理想的な優しい母であるかのように編集されていたが、実際は自分の仕事の成功のことしか頭にない傲慢な人物で、優太に自分の闘病生活の撮影を頼んだのも「快復したらこれをドキュメンタリーにして成功すること」を目論んでいたためだった。

優太の父。妻の性格を熟知しており、彼女が「自分が死にゆくまでの姿を動画に撮らせる」というある種の虐待じみたことを息子に強いていることを案じてはいたが、見て見ぬふりをしていた。
しかし優太の作った「デッドエクスプロージョンマザー」を見て、その中で描かれた妻の姿が“理想的な優しい母親”であったことに驚き、息子に映像編集の才能があることを知る。絵梨との別離の運命を知って混乱する優太を「お前には人をどんな風に思い出すか決める力がある」と諭し、彼に再び映画製作に取り組む勇気を与えた。

『さよなら絵梨』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ラストシーン

絵梨と再会し、彼女の正体が吸血鬼であること、脳の容量が限界を迎えて記憶をリセットしたことを知る優太。絵梨は優太が学生時代に作り、今もなお「何かが足らない」気がして編集し続けている映画を称賛し、この映画のお陰で前の自分のことを思い出すことができたと優太に感謝する。
映画の中では“絵梨が吸血鬼”という設定で、それこそが自分の作品の特徴である“ひとつまみのファンタジー”のつもりだったが、彼女が本物の吸血鬼だったのだとすればあの作品にはファンタジーが存在しなかったのだ。

自殺するつもりでここを訪れた優太は、自分の作品に何が足らなかったのかを理解し、絵梨と「さよなら」と言葉を交わして廃墟を後にする。刹那、彼の背後で大爆発が起こり、廃墟は吹っ飛ぶ。
本作はほぼすべてのコマがシネマ風のサイズとなっており、特に印象的な場面のみ大コマが使われている。このシーンはその代表格で、見開きで廃墟が吹き飛ぶところが描かれている。ここに込められていたのが「優太が映画に加えた“ひとつまみのファンタジー”」なのか、「優太による“永遠に生き続ける絶望の中にいる絵梨の解放”」なのか、あるいは「優太が囚われていた映画からの脱却」なのかは読者に判断が委ねられている。いずれにせよ、本作の全ての要素が集約した鮮烈なシーンであることは変わらないだろう。

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