平家物語(アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『平家物語』は、鎌倉時代の軍記物語である『平家物語』を古川日出男が現代語訳した版を底本として、サイエンスSARUが制作した2022年1月から放送されたテレビアニメ。物語の語り部となる琵琶法師の「びわ」がアニメオリジナルキャラクターとして主人公に据えられている。未来が見える力を持つ琵琶法師の娘「びわ」が平家の屋敷で暮らすようになり、滅びゆく一族の栄華と衰退をその目で見つめていく。平家の人々と「びわ」の交流を軸に、時代に翻弄されながらも懸命に生きた人々の群像物語。

びわに語る徳子と流れる涙。
望まない婚姻で嫁いだ高倉天皇に、少しずつ恋をした徳子。しかし、高倉天皇が心休まるのは徳子のそばではなかった。一人の人間として誰かを愛して、愛されることは平家の娘として生まれた自分には無理なのだろうという諦めが滲む言葉。猫のようにやってくる話し相手のびわに、「私は世界が苦しいだけじゃないって思いたい。だから私は許して、許して、許すの」と涙を流しながら話した。平家に反く者を戦いで打ち負かしていく自らの一族も、そんな一族の血が流れる自分から離れる愛する人も、「許したい」徳子の気持ちが溢れている。
びわ「平家の行く末を見届けようと思う。見届けて、祈りを込めて琵琶を弾く」
びわはかつて白拍子で、自分と父を置いていった母に再会を果たした。理不尽に連れていかれた母は、いつもびわと父を想って祈っていた。その話を聞いた時、先が見えても何もできない自分がもどかしかったびわは、今できることを見つける。母を探す旅を終え、再び平家と道を共にするためにびわは「平家の行く末を見届けようと思う。見届けて、祈りを込めて琵琶を弾く」と母に告げる。
敦盛の一騎打ちと死に様

トドメを刺すように敵へ叫ぶ敦盛。
朝日に照らされた浅瀬をかける馬に、敦盛は乗っていた。一人の源氏武者に「敵に背中をお見せなさるのか」と呼び止められ、先に自ら命をたった清経の姿が敦盛の脳裏に浮かぶ。憧れていた戦や、戦場は思っていたよりも暗く命の削れる場所だった。敗走を続ける平家に悔しさも感じていた敦盛は、「武士として立派に戦う」と清経との約束を思い出して一騎打ちに臨む。相手は自分よりも大きく、荒々しい風貌であったが敦盛は臆せず刀を振るう。敦盛の幼さに殺すのを躊躇う敵に、「さっさと首を取れ」と叫ぶ様は勇ましく、その手に握られた笛が哀しく映る場面である。敦盛が源氏武者にトドメを刺された後、海辺に聞こえる笛の音がより一層切なさを際立たせる。
平重盛・びわ「祇園精舎の鐘の声」

出典: fugaofftime.com
阿弥陀仏から伸びる五色の糸を握る徳子。
壇ノ浦の戦いの後に生き残った徳子は、後白河法皇にびわが語り継ぐ物語の始まりを伝える。「祇園精舎の鐘の声」から始まるその物語の冒頭を、敦盛を討って後に僧となった源氏武者、どこかに逃げおおせたかもしれない平家の一族、後白河法皇たちが順に繰り返して声が重なっていく。徳子のいる山寺の仏像からのびる五色の糸を徳子が握り、祈りをつぶやく。そこに重盛の声が重なり、次第にびわと重盛の声だけになって『平家物語』の冒頭が「ひとえに風の前の塵におなじ」で結ばれる。
『平家物語』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
徳子の物語
徳子を演じる早見が、山田尚子監督に初めに言われたのは「徳子の物語でもあります」だったという。その言葉で早見自身はプレッシャーをより強く感じたようで、平家に翻弄されながら成長する徳子を「強い意志をもって生きている」と語った。また、そんな徳子を気になるキャラクターとして、入野や花江もインタビューでは名前を挙げている。徳子の儚げで、凛とした美しさを感じる声にも注目の作品。
びわの歌はプロお墨付き
びわの歌う琵琶歌は、実際に声優の悠木が声をあてている。櫻井や早見も見所として挙げている琵琶歌は、プロの監修のもと作られていった。悠木は「初めての試みだったが、かなり上達したため監修の先生からの要求もどんどん増えていった」と話している。合戦時の疾走感や声の抑揚、強弱による物悲しさも丁寧に表現されている。
維盛の弱さが『平家物語』には必要
『平家物語』の原作を訳し、アニメ化の原作となる著書を書いた古川は、その魅力的な登場人物たちについて語っている。特に、重盛の長男であり清盛の直系の孫である維盛を、『平家物語』が長く読まれる原動力として挙げている。維盛は戦いになると命のやり取りに震えて逃げ出したり、「怖い」と言って向き合おうとせずに最期は平家から逃げて海に飛び込んだ人物である。しかし、「あっさりと普遍的な弱さを見せてくれる」維盛がいることで、現代人は『平家物語』の中で共感する人物を見つけることができると古川は分析していた。「愛の方が大事だとわかっているだけなんです」と、古川は維盛の現代人らしさを表現している。
『平家物語』の主題歌・挿入歌
OP(オープニング):洋文学「光るとき」
『光るとき』は、ボーカルの塩塚モエカがアニメ主題歌として書き下ろした。洋文学としてはTVアニメの主題歌書き下ろしは初の試みとなる。塩塚は制作に伴って「台本を読むたびに、傲慢なイメージで語られがちな平家の人々の、人間らしく美しい側面を知りました。そんな姿を、私たちなりに讃え、照らし出す曲を作ることができたと思います。」とコメントを寄せている。優しく爽やかな曲調は前向きに進む気持ちを生み、『平家物語』を感じる言葉が並ぶ。伴奏のギターはどこか琵琶を彷彿とさせる音で、世界観を強める一曲。
ED(エンディング):agraph feat. ANI(スチャダラパー)「unified perspective」
『平家物語』の音楽を担当する牛尾憲輔のソロユニット、agraphによるANI(スチャダラパー)のラップをフィーチャーした楽曲となっており、3rdアルバム「the shader」から実に5年半ぶりのリリースとなる。海に沈んでいくような静かなイントロから始まり、淡々とした語りのようなラップ、曲調が変わってポップなサウンドが現れたりと波のある不思議な音楽。主人公のびわが、平家との幸せで哀しい日々を思い出しているように流れる一曲。
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目次 - Contents
- 『平家物語』の概要
- 『平家物語』のあらすじ・ストーリー
- 平家とびわの出会い
- 妓王の運命と徳子の輿入れ
- 厳島の思い出と延暦寺の強訴
- 鹿ヶ谷の陰謀
- 以仁王の令旨
- 敦盛の登場、富士川の戦い
- 清盛の死
- 倶利伽羅峠の戦いと都落ち
- 清経の死、びわの母
- 一ノ谷の戦いと敦盛
- 維盛の最期
- 滅びる平家と語り継ぐ物語
- 『平家物語』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- びわ
- 平重盛(たいらのしげもり)
- 平家の人々
- 平徳子(たいらのとくこ)
- 平維盛(たいらのこれもり)
- 平資盛(たいらのすけもり)
- 平清経(たいらのきよつね)
- 平経子(たいらのつねこ)
- 平宗盛(たいらのむねもり)
- 平知盛(たいらのとももり)
- 平重衡(たいらのしげひら)
- 平敦盛(たいらのあつもり)
- 平清盛(たいらのきよもり)
- 平時子(たいらのときこ)
- 平時忠(たいらのときただ)
- 平高清(たいらのたかきよ)
- 新大納言局(しんだいなごんのつぼね)
- 平忠度(たいらのただのり)
- 平教経(たいらののりつね)
- 源氏の人々
- 源頼朝(みなもとのよりとも)
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- 後鳥羽天皇(ごとばてんのう)
- 以仁王(もちひとおう)
- その他の登場人物
- 妓王(ぎおう)
- 浅葱の方(あさぎのかた)
- びわの父
- 藤原成親(ふじわらのなりちか)
- 俊寛(しゅんかん)
- 『平家物語』の用語
- 琵琶(びわ)
- 琵琶法師(びわほうし)
- 禿(かぶろ・かむろ)
- 棟梁(とうりょう)
- 摂政(せっしょう)
- 白拍子(しらびょうし)
- 強訴(ごうそ)
- 恩赦(おんしゃ)
- 令旨(りょうじ)
- 小枝の笛(さえだのふえ)
- 『平家物語』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- びわ「いつかというのはいい言葉だの。明日、明後日。先のことが少し、楽しみになるの」
- 平重盛「其方を巻き込んでしまった。滅びゆく、平家という一族に」
- 平徳子「私は世界が苦しいだけじゃないって思いたい。だから私は許して、許して、許すの」
- びわ「平家の行く末を見届けようと思う。見届けて、祈りを込めて琵琶を弾く」
- 敦盛の一騎打ちと死に様
- 平重盛・びわ「祇園精舎の鐘の声」
- 『平家物語』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 徳子の物語
- びわの歌はプロお墨付き
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