チョコレートドーナツ(Any Day Now)のネタバレ解説・考察まとめ

『チョコレートドーナツ』とは、実話から生まれた物語を2012年にトラヴィス・ファイン監督が映画化。数々の観客賞を受賞し、日本でも異例のロングランを記録した感動のヒューマンドラマ。
歌手を夢見るゲイのルディはダウン症のマルコと出会い、麻薬所持で逮捕された母親の代わりにマルコを育ることを決意する。しかし恋人のポールとともに家族になった3人の幸せな時間は、同性愛を犯罪とする当時の社会によって引き裂かれていく。

『チョコレートドーナツ』の概要

『チョコレートドーナツ(Any Day Now)』は、2012年公開のアメリカ映画。「1970年代のブルックリンで、母親に育児放棄された障害児が、ゲイの男性と家族のように過ごしていた」という実話に着想を得て書かれたシナリオを、俳優としても活躍する監督のトラヴィス・ファインがリライトし、映画化した。

全米中の映画祭で上映され、数多くの観客賞を受賞したこの作品は、2014年に日本でも公開。ミニシアターでの公開でありながら、口コミで評判が広まり大ヒット。全国各地で次々と上映が決まり、4月の公開から12月まで続くという超ロングランとなった。

『チョコレートドーナツ』のあらすじ・ストーリー

1979年、カリフォルニア。歌手を夢見るルディは、ダンサーとして働くショーパブで、客として訪れた検察官のポールと出会う。ポールはゲイであることを周囲に隠していたが、二人はすぐに惹かれ合い、親密な関係となる。
ルディの住むアパートの隣の部屋には、若い母親とダウン症の息子・マルコが住んでいた。しかし母親は麻薬中毒で、毎晩のようにマルコを残し男と出歩いていた。

見かねたルディは助言を求め、マルコを連れてポールの働く事務所を訪れるが、ポールは施設に入れろと言うだけ。ポールの冷たい態度に失望しアパートに戻ると、マルコの部屋には家庭局の職員が来ており、母親が薬物所持で逮捕されたためマルコを施設へ連れて行くと言う。施設が酷い所だと知っているポールは必死に止めるが、マルコは施設へと連れて行かれてしまう。

ルディに冷たい態度をとったことを謝るため、ポールは再びショーパブを訪れる。仲直りをした二人が車を走らせていると、一人で夜道を歩くマルコの姿が。ルディが慌てて駆け寄りどうしたのかと聞くと、家に帰るため歩いてきたのだと言う。マルコを放っておけないルディは自分の部屋に連れて帰るが、それを管理人に見られてしまう。通報されたかもしれないと心配するルディにポールは「考えがある」と言い、二人を自宅に招いた。

マルコを連れてポールの家を訪れたルディ。三人で食卓を囲むが、マルコは食事に手を付けようとしない。そんなマルコにポールが「好物は?」と尋ねると、マルコは「ドーナツ」と答えた。「夕食にドーナツなんて体に悪い」というルディをなだめ「たまになら害はないよ」と家にあったチョコレートドーナツを差し出すポール。するとマルコは満面の笑みでドーナツを頬張り「ありがとう」と言った。

ベッドに横になったマルコはルディに「お話を聞かせてくれる?」と頼む。本がないので話を作るというルディに「ハッピーエンドね」とせがむマルコ。ルディが家族に囲まれ幸せに暮らす少年の話を始めると、マルコはその少年の名を尋ねた。ルディが「もちろんマルコよ」と答えるとマルコはにっこりと笑った。

マルコを引き取りたいという思いが強くなっていくルディに、ポールは「合法的に引き取る手がひとつある」とある提案をする。それは母親が出所するまでの暫定的緊急監護権を認めてもらうことだった。母親に署名をもらい、ポールといとこ同士として同居することで住環境を整え、ルディは無事監護権を取得。ポールが用意したマルコの部屋にはロボットやテディベア、そして立派なベッドが置かれていた。それを見たマルコは嬉しくて涙を流す。そんなマルコをルディは優しく抱きしめた。

ホームパーティーに招かれたポール(左)、マルコ(中央)、ルディ(右)の3人。

こうしてルディとポール、そしてマルコの三人の生活が始まった。ポールは歌手を夢見るルディがデモテープを作れるよう、録音機をプレゼントする。マルコは学校へ通い始め、文字を覚え、歌を歌えるようになった。ハロウィン、クリスマス、誕生日、三人の笑顔にあふれた毎日はあっという間に過ぎて行った。ある日ポールは上司のホームパーティーにルディとマルコとともに招かれる。しかしポールと親しくする秘書の女性に嫉妬するルディの姿を見た上司は、ポールとルディの関係がいとこ同士ではないことを確信。彼らがゲイであると通報した挙句、ポールを解雇してしまう。

いとこ同士と嘘をついたため、二人は権利を失い、マルコは再び施設へと預けられてしまう。そんなマルコを救うため、ポールとルディは社会を変えようと裁判を起こす。法廷でマルコの学校教師は「お二人ほど愛情深いご両親はいません」と訴え、調査員も「二人のもとで暮らすのが最善だ」と証言した。しかしマルコ側の弁護人は、マルコにとって何が最善かではなく、ポールとルディの関係ばかりを取り上げた。真実を捻じ曲げ印象操作をしようとする弁護人に対しポールは「これはマルコの審理だ」と訴えるが、二人の裁判は敗訴に終わった。

悲しみに暮れるルディの元にデモテープを送ったクラブオーナーから連絡が入り、ルディはクラブで歌い始める。そしてポールとルディはマルコを取り戻すべく、黒人で切れ者の弁護士・ロニーを雇い再び裁判に挑む。ロニーの活躍で勝機が見えたかに思えた裁判だったが、マルコ側の弁護人はポールたちの訴えを突然棄却。法廷には服役中のはずの母親が現れた。ポールの元上司が仲立ちし、監護権の回復を求めることを条件に早期仮釈放させたのだ。元々ルディの監護権は母親が出所するまでの暫定的なものだったため、母親の申し出は即刻受理された。さらにポールとルディにはマルコへの接近禁止令まで出されてしまう。

家に帰れると言われ喜ぶマルコ。しかし車が着いたのはかつて母親と暮らしたアパートだった。マルコは「ぼくのうちじゃない」と何度も訴える。彼にとっての「うち」はポールとルディと暮らした家だったのだ。母親との生活は、以前と何も変わらなかった。母親はすぐにドラッグを始め、男を連れ込んだ。そして「ママがいいって言うまで廊下に出てて」とマルコを部屋の外へと追い出してしまう。廊下に出たマルコは、思い立ったように歩き出す。本当の「うち」へ帰るために。

数日後、ルディは何かを振り払うように、ステージの上で歌った。そしてポールは裁判で戦ったマルコの弁護人、裁判の判事、そして元上司らに、小さな新聞記事を添えた手紙を送った。そこにはこう書かれていた。

「新聞記事を同封します。ご覧になってはいないでしょう。知的障害のあるマルコという少年が、三日間家を捜し歩いた末、橋の下で独り、死んだそうです。マルコは心の優しい、賢く楽しい子供でした。笑顔は周りを明るくしました。チョコレートドーナツに目がなく、ディスコダンスの達人でした。寝る前の物語が好きで、せがむのはハッピーエンド。ハッピーエンドが、大好きでした。」

『チョコレートドーナツ』の登場人物・キャラクター

ルディ・ドナテロ(演:アラン・カミング)

クイーンズ出身。二十歳になる前に家を出て、今はショーパブでドラァグクイーンとして働いている。口パクで歌いながら踊っているが、本当は歌手になるのが夢。いつでも自分の気持ちに正直に行動するまっすぐな性格で、ゲイであることも周りに隠すことなく、常に堂々と暮らしている。
店に客として来ていたポールに好意を抱き、親しい関係に。隣の部屋に住むマルコの母親が薬物所持で逮捕されると、マルコを引き取って育てたいという思いが強くなる。

ポール・フラガー(演:ギャレット・ディラハント)

ワシントン州のワラワラ出身。大学を出て親の保険代理店を継ぐ。その頃は女性と付き合っていて結婚もしたが、自分の中の違和感に苦しみ離婚。自分らしく生きられない世界を変えようと、法律を学び検察官になる。しかし現実では周りに自分がゲイであると打ち明けられず、偽りの生活を送っていた。
ルディと出会い、何も恐れないその姿勢に惹かれるとともに、ルディとマルコを守るため、高い法律の壁と、それ以上に高い当時の常識の壁を壊そうと戦う。

マルコ・ディレオン(演:アイザック・レイヴァ)

ルディの隣の部屋に住むダウン症の少年。母親と2人で暮らしていたが、麻薬中毒の母はろくに面倒を見ず、男がいるときは部屋の隅に立っているか、廊下に出てずっと待っていた。母親が逮捕され、ルディたちと暮らし始めると、よく笑うようになる。
教育も受けていなかったが、学校に通い始めるとみるみるうちに学力が向上。周囲との関わり方も上手くなった。特技はディスコダンスで、ポールの上司のホームパーティーでも見事なダンスを披露。大好きなのはチョコレートドーナツとハッピーエンドのお話。

マリアンナ・ディレオン(演:ジェイミー・アン・オールマン)

マルコの母親。麻薬に溺れマルコを放置。いつも大音量で音楽をかけ、男を連れ込んでいる。薬物所持で懲役3年を言い渡され刑務所に入ると一度はルディに監護権を譲るが、仮釈放とともに監護権回復を申請。
しかしそれは心を改めマルコと暮らしたいという気持ちからではなく、早期仮釈放と引き換えの条件だったからである。案の定、仮釈放後もマルコの面倒を見ることはなく、すぐに麻薬に手を出し、マルコを放置するようになる。

ウィルソン(演:クリス・マルケイ)

ポールの上司で州検察官。マルコを連れて仕事場を訪れたルディを従兄弟だと話すポールを怪しんで、その素性を探るべく3人を無理やりホームパーティーに出席させる。
そこで秘書の女性に嫉妬するルディの態度を見て、ポールとルディがゲイであることを確信。そのことを通報し、ポールを解雇するだけでなく、マルコの母親を早期仮釈放させ、マルコを母親の元へ戻した。

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