秘密への招待状(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『秘密への招待状』とは、2019年アメリカにて公開されたヒューマンドラマである。インドで孤児院を経営するイザベルに、ニューヨークのメディア会社で長年辣腕を振るってきたテレサという実業家から大口の寄付の話が舞い込む。イザベルはテレサの強引な要請で、契約をまとめるためにニューヨークに飛ぶ。そこでイザベルを待ち受けていたのは、心の奥底に封じ込んでいた自らの過去だった。18歳で訳あって別れた元恋人オスカーと、2人の間に生まれた娘グレイスとの突然の対面に揺れるイザベルの心を、テレサの愛情が溶かしていく。

『秘密への招待状』の概要

『秘密への招待状』とは、2019年アメリカにて公開されたヒューマンドラマである。2006年に公開され、第79回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたデンマーク映画『アフター・ウェディング』のリメイクである。オリジナル版では、「デンマークの至宝」と称されるマッツ・ミケルセンが主役を演じた。
2007年にデンマークの映画会社からリメイク権を獲得したプロデューサーのジョエル・B・マイケルズは本作を監督するのにふさわしい人物を探すのにかなりの時間をかけた。その結果、2016年にバート・フレインドリッチ監督が決定する。
バート・フレインドリッチ監督は製作と脚本も兼ね、妻であるジュリアン・ムーアも製作に名を連ねている。オリジナル版では主人公と元妻の結婚相手はともに男性だったが、本作では2人の女性の物語として描かれる。アメリカでは2019年夏に公開。全世界での興行収入は294万ドル。
テレサを演じるジュリアン・ムーアはフレインドリッチ監督が脚本を完成させた段階で出演を決意。監督とともに、本作のテーマである、「究極の家族愛とは何か」を追求した。
さらに、ミシェル・ウィリアムズが出演を即決したことはムーアを感動させた。この魅力的な作品に共感した2大女優の火花散る演技にも注目が集まった。また、本作の持つ普遍的な愛の選択に魅了されたフレインドリッチ監督の手腕は他の配役にも生かされており、テレサの夫を演じたビリー・クラダップはフレインドリッチ監督の親友とのこと。
クラダップの抑えた演技は、過去の恋人と現在の妻との関係に直面させられた夫の心情をうまくとらえている。女性2人の陰になっている感はあるものの、夫としての決断が家族の要となることを示唆する重要な役どころだ。

インド・カルカッタで孤児院を経営するイザベルと、ニューヨークで活躍する実業家テレサという対極にある2人の女性が、イザベルの施設への寄付という名目で対峙し、その心の内側を探り合うところから物語は始まる。
経営難に苦悩するイザベルに朗報が入る。ニューヨークの大企業からの寄付の話が舞い込んだのだ。すぐにでも資金を手に入れたいと願うイザベルにテレサからある提案がなされる。
寄付の手続きのためにはイザベルの渡米が必須条件となったのだ。しかたなくニューヨークに着いたイザベルには高級ホテルのペントハウスが与えられた。これもテレサの差配であった。どうしてこんなにも待遇がいいのかといぶかるイザベルだったが、その先にはさらなる驚きの展開が用意されていたのである。
孤児院支援の話に興味を示すどころか、イザベルをニューヨークにとどめておこうというテレサの思惑が明らかになるにつれ、イザベルの心中に「テレサはなぜ自分をニューヨークに来させたのか」という疑念が巻き起こる。一刻も早くインドに帰りたいイザベルをテレサは週末に郊外の自宅で行われる自分の娘の結婚式に誘う。結婚式当日、車の渋滞で遅刻したイザベルは自分の目を疑う。新郎新婦の横に座っているのは、18歳で別れた元恋人オスカーだったのだ。
続く新婦グレイスの両親への感謝の言葉にイザベルは真実を知る。ここにいるのはまぎれもなく、元恋人と、出産後すぐに養女に出したはずの愛娘だった。この予想外の出来事はイザベルを混乱させた。家族写真を撮り終えたオスカーがイザベルに近づいてくる。「なぜ君がここにいるんだ」と詰問されたイザベルは言い返す言葉が見つからなかった。
思いがけない元恋人、出産後に一度も会わなかった娘との再会が意味するものとは何か。不安を隠しきれないイザベルは、テレサの策略に引きずり込まれていく。

ムーアはテレサが自分にとって正しい決断をしたことに感動したと語る。実際にテレサと同じことをする人たちを見て来たこと、撮影前に多くの人たちから話を聞いたことで共感したのだ。ムーアは、テレサの選択は複雑だけれど、人間味にあふれた行動だと感じたからこそリメイクの製作を望んだという。
また、ウィリアムズもこの映画は2人の決断を批判するものではないと発言している。テレサとイザベルは、自分たちの子どもにとっての最善の選択をしただけであると。イザベルの感情の起伏に強く惹かれたウィリアムズの芯のある演技が、本作をいつでも起こり得る現実だと教えてくれる。
男性2人が主役のオリジナル版とは違う、2人の女性の目を通して語られる優しさに満ちた本作は、ヒューマンドラマとしても十分見ごたえのある作品となった。

『秘密への招待状』のあらすじ・ストーリー

イザベルを待ち構えるテレサ

インド・カルカッタで孤児院を経営する社会活動家のイザベル・アンダーソンに、ニューヨークの女性実業家のテレサ・ヤングから多額の寄付の申し入れがあった。それには、寄付金の使い道の説明をしにニューヨークに行く必要があるが、たとえ数日でも自分が孤児院を留守にするなどできるわけがない。

しかし、テレサからは200万ドルの資金援助を提供されている。経営難にあえぐイザベルは、どんなことがあってもこのチャンスを逃してはならない。イザベルは渋々ながらテレサの要求を飲み、ニューヨークへと旅立つ。

その頃、ニューヨークのテレサは郊外にある自宅に車を乗り入れた。2階に上がると8歳になる双子の息子たちがテレサを迎えてくれる。造形作家である夫のオスカー・カールソンは自分のオフィスで顧客と新しい個展の打ち合わせをしていた。

その日、ニューヨークに着いたイザベルは、テレサの会社のスタッフに高級ホテルのペントハウスに案内される。イザベルの世話を担当するジョナサンからテレサの情報を聞かされた。
テレサは22年前にゼロからホライズン社を立ち上げ、全米一のメディア代理店に成長させたという。4年前にホライズン社に入社したジョナサンは、今週末に娘のグレイスと結婚する予定だ。

ホライズン社に到着したイザベルは、会議を終えたテレサと対面する。イザベルは自分の活動内容を詳しく説明することにした。
インドでは孤児院経営だけでなく、児童のための慈善活動も行っている。持参した資料をテレサに差し出す。
テレサはイザベルに「結婚しているの?子どもはいるの?」と質問する。イザベルは「仕事で手一杯です」と曖昧に答えた。

雑談がひと段落すると、テレサはイザベルをグレイスの結婚式に招待する。

テレサの娘グレイス、そして元恋人・オスカーとの運命の再会

グレイスの結婚式が始まった。
車の渋滞で到着が遅れたイザベルが空いている席に滑りこむ。周囲を見回すイザベルの視点が止まった。そこには妻テレサの肩に腕を回して何かを話しかけている男性がいた。

ふいにその場を後にし、家の中に入ったイザベルは窓辺に置かれたカタログに目を止める。表紙に書かれていたのは『オスカー・カールソン作品集』という文字だった。
パラパラとめくった先にあったのは元恋人・オスカーの写真。イザベルはカタログを閉じ、再び庭に出る。

家族写真を撮っているテレサ一家の様子を見ていたイザベルに気づいたオスカーが静かに近づいてきた。「君はなぜここにいるんだ?」と問いかけるオスカー。
返事に窮したイザベルを救ったのはテレサだった。「あら、ここにいたのね」と屈託のない笑顔を向ける。
イザベルに「主人とはもう挨拶は済んだ?」と聞き、オスカーに「寄付を考えている孤児院の経営者よ。せっかくだから招待したの」とイザベルを紹介する。

出席者たちがテントの中にしつらえられた食卓に着くと、グレイスが話し始めた。
グレイスは1歳までオスカーと2人暮らしだったが、ソーホーで話しかけてきたテレサに懐いたグレイスが橋渡しとなり、テレサとオスカーが結婚。3人家族になったという。

ここまで聞いたイザベルの耳に、警鐘が鳴りひびく。
実は、イザベルには若くして出産した直後に養子に出す約束で手放したひとり娘がいたのだ。当時の恋人のオスカーもそれに同意した。彼らを病院に残し、イザベルは2人から逃げるように唐突に姿を消した。

つまり、このグレイスこそ18歳で出産後に行き別れた我が子だったのだ。イザベルの動揺をよそに、グレイスから「あの時ママを選んで本当に良かったわ」と言われたテレサは涙ぐむ。
いたたまれなくなったイザベルは乾杯のタイミングで席を立った。

すっかり暗くなった式場を歩き周りながら、客と談笑するグレイスを目で追い、物思いにふけるイザベルにオスカーが近寄る。そして、集団から距離を置くように歩いていく彼にイザベルが追いつき、「これはいったいどういうことなの?」と問いかける。
オスカーは「今は話せない。明日電話するよ」と言い残し、花火が始まるビーチに去って行った。

盛大に上がる花火を横目に、早足でテレサの家を後にするイザベルの胸には言いようのない憤りが渦巻いていた。それは生まれて間もない我が子を養子に出す約束を破ったオスカーへの怒りだった。

祝宴が終わり、自室で薬を飲んだテレサは夫が待つベッドに横たわる。そして「知らなかったの。グレイスの母親がイザベルだったなんて」とオスカーに言い訳をする。しかし、オスカーは黙ったまま身動きもせず、じっと暗闇を見つめていた。

翌朝。オスカーからの電話を待ちきれないイザベルが、テレサの家に乗り込む。ドアが開けられるとさっさと室内に入り、家族の間に立った。
イザベルが放つ深刻な雰囲気に気づいたテレサが、イザベルとオスカーを隣室に連れていく。

オスカーが「それで、何が望みだ?」とイザベルに開き直る。
「どうして私の娘があそこにいるの?よく平気でいられるわね!」とオスカーに食ってかかるイザベルへのオスカーの返事は、「他人に渡すよりマシだ」という言葉だった。

大学生だったイザベルには娘を育てる自信がどうしても持てなかった。断腸の思いで病院をあとにしたのだ。
しかし、オスカーには当時の記憶が残っていた。イザベルは出産後、急に「死ぬ」などと言い出し、精神的におかしくなっていたと責め立てる。
「君は何も言わずに心を閉ざしてゾンビにしか見えなかった」と突き放す。「嘘よ!そんなこと、絶対に言ってない!」と叫ぶイザベル。

落ち着きを取り戻したイザベルが「なぜ黙って育てたの?」と一番知りたい問いを発する。
オスカーは「養子に出すことを思い直した時、君は消えていて見つからなかった。弁解はしないよ。僕には何の負い目もないからな!」と断言する。イザベルは「とにかく真実をあの子に話して」と静かに言い、帰っていった。

家族だけになると、オスカーはグレイスとジョナサンを前にして、ことの次第を打ち明けた。ショックを受けたグレイスは涙を浮かべ席を立つ。後を追うジョナサン。
オスカーからイザベルの滞在先を聞いたグレイスは行動を起こす。

イザベルの部屋で対面した2人は「ハイ」と挨拶を交わす。飲み物を用意するイザベルをじっと見つめるグレイスが、「両親からあなたは死んだと聞いていた。だけど、生きていたことがわかったから会いに来たの」と言う。イザベルがもうしばらくニューヨークにいると聞いたグレイスは、「電話する」と言って帰っていった。

翌日。グレイスがアルバムを持ってイザベルに会いにきた。イザベルが知らないグレイスの歴史。
食い入るように写真を見るイザベルに、グレイスは「私なら子どもを捨てない」と言う。ついにこの瞬間が来た。

覚悟を決めたイザベルは「あなたを手放したくはなかった。でも育てるのは不可能で、産むのが精一杯だったの」と静かに答える。つかのまの親子の時間を過ごした2人は、心のこもった抱擁をして別れた。

翌朝。イザベルはホライズン社のテレサのオフィスに呼ばれた。テレサは孤児院への援助の金額を引き上げると切り出す。
詳細を詰めるためにもう2~3日滞在を伸ばしてほしいと言う。イザベルがグレイスの母親だとわかったことで弁護士と相談の結果、イザベルとグレイスの名前で基金を設立することにしたと言う。
「6年で2千万ドル出す」と説得するテレサに、イザベルは「何が狙いなの?」と疑問を投げかけるが、最後にはその申し出を了承する。

その頃、テレサの自宅の裏山で作業をしていたオスカーにグレイスが近づく。彼がイザベルの了解を得ずに自分でグレイスを育てる判断をしたことを許す代わりに、過去の事情を残らず話すことを要求してきた。
オスカーの告白が始まった。

「子どもを養子に出す時、30日間の猶予期間がある。“恩寵(グレイス)期間”だ。29日目にグレイスを養子に出すと決めた。出産が済んだら2人とも去ることに同意していた。イザベルは約束を守り、僕もそのつもりだった。でも生まれた赤ちゃんに会いに行った。1時間だけ一緒にいたくて。それから毎日会いに行った。ただ顔を見たり、話しかけたりした」と語る。

イザベルが生みの母親だと知ったグレイスの、心境の変化は著しかった。
ジョナサンとの新婚旅行先をインドにしたいとさえ言い出す。孤児院への寄付の件が片付き、イザベルがインドに帰っても彼女に会いに行けるからだった。
当然ジョナサンの不満は増していく。結婚して1週間で妻が変わってしまったことへの苛立ちがつのっていた。「君がイザベルに捨てられた事実は消えない」と怒鳴ってしまい、2人の間に不協和音が流れる。

テレサの病気を知ったオスカーとイザベル

テレサの部屋の引き出しで薬を見つけたオスカーは、彼女の病気を知る。
テレサと双子が外出先から帰宅した。着替えたテレサがオフィスに行こうとしているとオスカーが呼び止める。

「医者と話をした。3ヵ月も病気のことを内緒にしていたのか?」と詰問すると、「グレイスと息子たちには黙っていて。すでに手遅れだから、自分が弱っていく姿を愛する家族には見せたくない」とテレサは突っぱねて車を出す。

その日、ホライズン社に呼ばれたイザベルを驚かせる出来事が待っていた。イザベルがニューヨークに住むことが寄付の条件になっていたのだ。
テレサからは基金の管理のためだと説明されたが、納得がいかない。自分の拠点はインドなのだ。

「インドと半年ずつにしてはいけないの?」との提案に、テレサは「ダメよ。手こずらせないで。援助を蹴る気はないでしょ?」と痛いところを突いてきた。
さらに、「あなたを調べたの。39歳。ニューヨーク生まれ。養父母に育てられ、大学を1年で中退。平和部隊でオスカーと出会う。善意にあふれる理想主義者。このお金で幸せに暮らせるのよ。子どもを捨てても善行で帳消しだとでも思ってるの?」ととどめをさす。

あまりの屈辱に我を忘れたイザベルは、オフィスを飛び出す。テレサが後を追ってきた。
「何様のつもり?」とイザベラが問い詰めると、テレサは「グレイスもオスカーもあなたが必要なの。私は病気で死ぬのよ!」と追いすがる。

「お金のためだけにあなたを呼んだんじゃないわ。息子たちはまだ8歳なの。私を助けて。お願い、助けて。インドまで追わなきゃダメ?」と鬼気迫る形相で助けを請う。
あまりのことに動転したイザベルは、逃げるように立ち去った。

あの元気はつらつとしたテレサが死ぬなんて、とても信じられない。しかし、それで辻褄は合う。
テレサは孤児院への寄付をちらつかせ、なかば強引に自分をニューヨークに呼び寄せた。無理に娘の結婚式への出席を企んだ。

その裏で、元恋人・オスカーと自分が生み捨てた娘との突然の対面が計画されていたのだ。さらに、寄付金の増額を前提に、イザベルのニューヨークへの定住までも求めてきた。
あらゆる疑惑がイザベルの頭の中をグルグル回っている。しかし、分っていることがひとつある。とにかく早急にニューヨークを去ることだ。理由が何であれ、自分をここに縛り付けることを他人にさせてはならないのだ。

ホテルに戻り、インドに帰る荷造りをしているとグレイスが訪ねてきた。ジョナサンと暮らすマンションを出てきたらしい。傷ついた心を抱えたグレイスを今夜はここに泊めることにした。

翌朝。ホテルのカフェにいるイザベルをオスカーが訪ねてきた。合流したグレイスにテレサの病気を告げる。オスカーとグレイスと別れたイザベルはホライズン社に行き、基金設立の契約書に署名を終えた。
そこへグレイスが来て、テレサに面会を申し込む。同席を求められたイザベルは辞去した。
テレサと2人きりで話すことになったグレイスは、テレサを抱きしめる。「大丈夫よ。あなたにはイザベルがいるわ」とテレサはグレイスを慰める。

テレサの慟哭、そして新しい家族の旅立ち

ホライズン社の社員が計画してくれたテレサの誕生祝いが終わった。オスカーと寝室でくつろいでいたテレサの自制心がついに崩壊する。「私は死んだらどこへ行くの?死にたくない。まだ終われない。終わりたくない!終わってない!」と泣きじゃくる。オスカーには「わかってるよ。君は終わってないよ、テレサ。愛してる。分かってるよ」という言葉で抱きしめるしかなかった。

ある日の雨上がり。オスカー・グレイス・犬を連れた双子の兄弟・イザベルが、テレサの家の裏にある森の中を歩いて行く。作業室に置かれていた石でオスカーが彫った球体の前に着くと、グレイスとオスカーが小箱に入れられていたテレサの遺灰を地面に撒いた。それが終わると、5人は身を寄せ合って家に帰っていった。

イザベルは数週間ぶりにインドに帰ってきた。孤児院へと向かう車窓から街並みを眺めながら、テレサとその家族に思いを馳せる。彼らが今は自分の家族になったのだ。
孤児院に着き、ジェイと再会をしたイザベルは、彼が成長したことを知る。ジェイは赤ちゃんの時に孤児院に捨てられていた男の子で、イザベル以外とのコミュニケーションが苦手だった。だが、仲間に囲まれた彼の顔は輝いている。イザベルはジェイの親離れを知り、涙がこぼれた。ジェイはもうイザベルの手を必要とはしていないのだ。

今にして思えば、死期を悟ったテレサがイザベルに用意してくれていた新しい家族。テレサの意志が今なら理解できる。テレサは無理強いしてでもイザベルをニューヨークに呼び寄せ、彼女が自分の意にかなう人物であるかをテストしたのだ。テレサは愛する家族を遺していかざるを得ない。イザベルがその家族を託せる資質を持ち合わせた女性なのかどうかを見極めようとしたのだ。

テレサはイザベルに様々な試練を与えた。その期待にイザベルは見事に応えたのである。その折々に誠実な対応を見せたイザベルへの、揺るぎない信頼を確信したテレサ。イザベルの存在そのものが、最期の時を過ごすテレサの支えになっていたことにも気づく。
運命が繋ぎ合わせた、血縁を越えた家族愛。それはテレサという稀代の実業家によってもたらされたものだった。

再びの渡米を前に、イザベルはテレサの強さに感服した。夫の元恋人であり、義理の娘の生みの親であるイザベルに自分の愛する家族を託す。テレサにとってそれは身を切るような葛藤を覚えたに違いない。仮にイザベルが、予想していたような人物ではなく、身勝手な女性だったらテレサにとって強力なライバルになり得た。

自分が築き上げた家族と、社会的地位を奪われる危険性をはらんでいた。それにもかかわらず、テレサは自分の後継者にイザベルを選んだのだ。イザベルは、テレサの深い洞察力と人間力を称えるとともに、逝ってしまったかけがえのない友人の魂と共に生きていくことを誓った。

『秘密への招待状』の登場人物・キャラクター

主人公

イザベル・アンダーソン(演:ミシェル・ウィリアムズ)

10代でアメリカの「平和部隊」に参加し、慈善活動家としてのスタートを切る。実直であるがゆえに、人の言動に懐疑的になる傾向があるが、慈愛に満ちた性格も持ち合わせている。
インドで孤児院を経営していて、子どもたちに注ぐまなざしは優しい。とりわけ、1歳の時に孤児院に捨てられていたジェイという7歳の少年を可愛がっている。しかし、孤児院経営は逼迫しており、誰かの援助を取り付けるのが急務となっていた。そこへ持ち上がったのがニューヨークのホライズン社の経営者テレサからの寄付話だった。テレサの要請に仕方なく渡米をし、資金援助の詳細を決めようとしていた。じつはイザベルには18歳の時に出産し、養女に出した娘がいた。それがニューヨークに来たことにより表面化し、運命の歯車は意外な方向へとイザベルを導いていく。
グレイスの結婚式でオスカーと再会する。封印していた自分の過去に直面したイザベルは、テレサの言動に疑惑の目を向けるようになっていく。そんな境地にありながらも、グレイスと接するうちに彼女への愛情が芽生え、娘として受け入れていく。

ミシェル・ウィリアムズ
1980年アメリカ・モンタナ州出身。9歳で演技を学ぶ。テレビのゲスト出演で女優のキャリアをスタート。1998~2003年に放送された人気ドラマ・シリーズ『ドーソンズクリーク』で人気者になる。2005年の問題作『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、その演技力を高く評価された。その後も数々の主要な賞のノミネートや受賞の常連となる。ドラマ性の強い作品を得意としながらも、スリラーやファンタジー映画・ミュージカル映画など幅広い作品で独特の存在感を放つ。故ヒース・レジャーとの間に生まれたマチルダという娘がいる。

テレサ・ヤング(演:ジュリアン・ムーア)

アメリカ有数のメディア代理店を経営する辣腕実業家である。自分の力で業界にのし上がり成功を手にした。今は1000人の社員とその家族を守る守護神としてホライズン社に君臨している。だが、ここにきてその巨大企業を売ろうとしている。その理由は誰も知らない。家庭では、もうすぐ結婚するひとり娘と8歳の双子の兄弟の母親であり、芸術家であるオスカーの良き妻である。ニューヨーク郊外に邸宅を構え、誰もが羨む成功者であるテレサは、最近インドの孤児院への寄付を考えていた。孤児院を経営する理想主義者であるイザベルをニューヨークへと招聘し、資金援助の最終調整を企画する。テレサは不治の病を抱えていた。それが会社売却にも繋がることが次第に明らかになっていく。
主治医から不治の病で余命わずかとの宣告を受け、残されたわずかな時間を愛する家族のために有用することを決意。オスカーとの結婚により義理の娘となったグレイスの生みの母親であるイザベルを捜しだし、自分の家族の今後のサポート計画を練る。そして、思いついたのがイザベルをニューヨークに来させる策略だった。真意は隠し、あくまでもイザベルが経営する孤児院への大口寄付を全面に押し出すことでその目的を達成する。次第に衰弱していくが、薬で痛みを隠して人前では気丈に振舞っている。

ジュリアン・ムーア
1960年アメリカ・ノースカロライナ州出身。高校・大学で演技を学び、ニューヨークで本格的に女優活動を開始。以後、舞台・テレビを経て、1990年に映画デビュー。高い演技力であらゆる賞でのノミネートと受賞歴を誇り、2014年『アリスのままで』で第87回アカデミー賞主演女優賞を獲得。また、2002年『エデンより彼方に』でヴェネツィア映画祭・女優賞、2002年『めぐりあう時間たち』でベルリン国際映画祭・銀熊賞(女優賞)、2014年『マップ・トゥ・ザ・スターズ』でカンヌ国際映画祭・女優賞と、世界三大映画祭での受賞という偉業を達成し、映画界を代表する女優としての地位を築く。

孤児院関係者

プリーナ(演:アンジュラ・ベディ)

インドの孤児院でイザベルを支えるスタッフの1人。テレサからの大口寄付に大きな期待を抱く。
いつも大きな愛情でイザベルやジェイを包み込んでくれる祖母のような存在である。イザベルがニューヨーク滞在中に迎えたジェイの8歳の誕生日にはお約束のアイスクリームで祝ってやる。

アンジュラ・ベディ

ジェイ(演:ヴィル・パチシア)

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あの頃ペニー・レインと(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

あの頃ペニー・レインと(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『あの頃ペニー・レインと』とは、2000年に公開されたアメリカ映画で、若者の成長と挫折を描いたヒューマン・ストーリーである。弁護士を目指す優等生のウィリアムは、ある日姉の影響でロックに夢中になる。伝説的ロック・ライターに自分を売り込んで取材の仕事を得ることに成功したウィリアムは、”スティルウォーター”というバンドに気に入られ、楽屋へ招待されることになった。そこでバンドのグルーピーであるペニー・レインにウィリアムは一目惚れする。15歳の少年を変えたのは、ロックと初恋だった。

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『ドリフターズ』と史実や他メディアでの同名キャラとを比べてみた!

『ドリフターズ』と史実や他メディアでの同名キャラとを比べてみた!

『ドリフターズ』とは、『ヘルシング』でもお馴染み平野耕太先生の作品。それぞれ異なった時代の人物たちが登場し、世界を壊さんとする「廃棄物」側と、それを阻止せんとする「漂流者」側とに別れ戦う、史実ごっちゃ混ぜ気味なマンガなのです。今回こちらでは、作中に登場する人物と、史実やマンガ及びゲームなどの人物像とを比べつつ、簡単な解説と共にまとめさせて頂きました。

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【MCU】スパイダーマンの原作に登場するヴィランまとめ【マーベル・コミックス】

【MCU】スパイダーマンの原作に登場するヴィランまとめ【マーベル・コミックス】

マーベル・コミックスの代表的なヒーロー、スパイダーマン。ここではスパイダーマンの原作に登場するヴィランについてまとめました。サム・ライミ監督版『スパイダーマン』三部作や、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズに登場したヴィランをはじめ、ヴェノムやカーネイジなど、映画『ヴェノム』シリーズに登場したキャラクターなども紹介しています。

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【閲覧注意】食欲なくなる!グロテスクな映画12選!ハンニバル・ソドムの市・ムカデ人間など衝撃作ばかり!

【閲覧注意】食欲なくなる!グロテスクな映画12選!ハンニバル・ソドムの市・ムカデ人間など衝撃作ばかり!

ここでは食欲がなくなるほどグロテスクな映画をまとめた。人間が人間を食べるシーンのある『ハンニバル』、人間の口と肛門を繋げたものを生み出す『ムカデ人間』など、衝撃的な内容のものばかりだ。体調の優れない時は見ない方がよいかもしれない。

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【パーフェクトブルー】夢と現実の境界がわからなくなる映画まとめ!脳がとろける不思議な感覚を味わえる!【ビッグ・フィッシュ】

【パーフェクトブルー】夢と現実の境界がわからなくなる映画まとめ!脳がとろける不思議な感覚を味わえる!【ビッグ・フィッシュ】

数ある映画作品の中には、夢なのか現実なのか区別がつかなくなるような世界観を持つものがたくさんあります。たとえば、『パーフェクトブルー』や『ビッグ・フィッシュ』などでしょうか。他にもいろいろあるので、この記事でまとめました。こういう映画には相性があり、ハマる人はハマるのですが、ダメな人はトラウマになってしまうこともあるようです。紹介した映画を実際に観るかどうかは、あなた次第ですよ。

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あなたはどこまで見た?TSUTAYAのDVDレンタルランキング【お願い!ランキング】

あなたはどこまで見た?TSUTAYAのDVDレンタルランキング【お願い!ランキング】

バラエティ番組「お願い!ランキング」で紹介された、TSUTAYAのDVDレンタルランキングをまとめました。最新作のランキングではなく、「ハンニバル」や「タイタニック」をはじめ、様々な年代・ジャンルの名作のランキングです。100位から順に、作品のあらすじを交えながら紹介していきます!

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