ヴィンランド・サガ(VINLAND SAGA)のネタバレ解説・考察まとめ

『ヴィンランド・サガ』とは、幸村誠による漫画。講談社発刊・月刊アフタヌーンにて連載された。主な舞台は11世紀初頭の北欧。主人公のトルフィンは、幼い頃に父・トールズをヴァイキングに殺され、復讐を果たすために戦士となる。やがてその道程での心の成長と共に、平和な場所『ヴィンランド』を求める旅へ。戦乱や紛争、暴力や罪、愛の中を生き抜く人間たちを描いたアクション・ヒューマンドラマ。

ケティルの家で侍女として働く奴隷。金色で長い髪。細身。美しい顔。その美貌と献身的な性格からケティルは相当入れ込んでいて、正妻にいびられながらも健気に働いている。
トルフィンやエイナル、スヴェルケルにも優しく、気遣いもあり、特にエイナルは最初に遭った時に彼女に一目惚れをしている。

かつてスウェーデンのとある集落で、夫のガルザル、息子のヒャルティとともに暮らしていたが、そこから離れた土地に鉄の採れる沼地が見つかるとそれを巡って戦が起きた。ガルザルを含む集落の男達は戦へと出かけたが、その隙に敵が襲来し、集落は滅ぼされ、ヒャルティと引き離されたアルネイズは奴隷として売られた。その後、ケティルに買われて農場へとやって来たのだった。

そしてある日、行方の知れなかったガルザルが、逃亡奴隷となってアルネイズを迎えに現れた。数日前からガルザルの噂を仕入れていた農場の用心棒「客人達」は、懸賞金の掛かったこの逃亡奴隷が凄腕であり、殺害された者がいる事にも警戒していた。そして偶然ガルザルを発見するも、返り討ちに遭ってしまう。「客人達」に追われながら現れたガルザルは、アルネイズに元の暮らしに戻ろうと語りかける。息子のヒャルティと一緒に三人で暮らそうと。だが、「客人達」の頭である「蛇」はガルザルが実は既に手負いである事を見抜き、その傷に一撃加えて無力化させ、取り押さえた。
ガルザルと共に逃亡する事を提案するエイナルだったが、アルネイズはこの時ケティルの子を宿していて、その子を護るために嵐が過ぎるのを待ちたいと訴える。だが、傷の手当てのために捕縛されたガルザルの元へ行くと、ガルザルはかつて戦に出てしまった事を悔やんでいると告げる。束の間に揺れてしまうアルネイズの心。そこへ見張りの一人がやって来ると、ガルザルはその男の首に食らいつき、殺害してしまう。こうして選択の余地を無くしたアルネイズはガルザルの縄を解いてしまう。解放されたガルザルは狂暴化し、残りの見張りを皆殺しにしてしまうのであった。
一晩、手負いであるガルザルの身をスヴェルケルの家に匿ったのだが、結局「蛇」によってそれが発覚し、ついにガルザルは殺されてしまう。
そして王都イェリングからクヌートに追われる身となって戻って来たケティルはこの事態を聞きつけ、アルネイズも逃亡を謀ったものと決めつけ、棒で殴打する。これによって致命傷を受けたアルネイズは、パテールの手当で一命は取り留めるものの、戦場と化した農場を脱出すべくトルフィンとエイナルに連れられ
て馬車で移動をしている最中に絶命してしまう。トルフィンとの最期の会話の中で、生きる事にどれ程の希望があるのか問いかけるアルネイズ。トルフィンはこれに即座に答える言葉を、持ち合わせていなかった。

トルフィンとエイナルはアルネイズの死を受け、また、最期の問いかけに対する答えを出す為にも、ヴィンランドに平和な国を作る事を強く心に誓うのだった。

ガルザル

アルネイズの元夫。赤茶の長い髪。屈強で凄腕の男。
かつては、妻のアルネイズとまだ一歳の息子ヒャルティとの三人でスウェーデンのとある集落に暮らしていたが、遠方の鉄が採れる沼地を巡っての諍いに巻き込まれ、戦をしに出かけ集落を留守にしてしまい、その隙を突かれて集落は滅ぼされる。帰る場所も失い、家族と離れ離れになり奴隷としてデンマークの農場で働かされていたが、数々の侮辱や望郷の想いに耐えられず、ついに農場主であるキャルラクとその一家を惨殺して逃亡し、アルネイズを迎えにケティルの農場に現れる。ケティル農場の用心棒「客人達」と交戦し、これを返り討ちに。後に「客人達」の頭「蛇」によって取り押さえられ、アルネイズの手によって一度は解放されるが、結局「蛇」の手で致命傷を受けて絶命。

かつての優しい顔を見せる時もあるが、長い奴隷生活が疲弊させたのか、元々持っていた戦士としての本能なのか、狂暴な一面を度々見せて、また、手負いであったために意識も朦朧としていたため、アルネイズとの再会で語る言葉は極端なものが多かった。

蛇(ロアルド・グリムソン)

大地主ケティルの農場で用心棒として雇われている「客人達」と呼ばれる職業戦士集団の頭。やや癖のある黒髪と不精な黒髭。体格は中肉中背といったところ。
戦に慣れており、剣の腕もかなりのもので、トルフィンと対峙した時には反応の速さをアシェラッドと同じかそれ以上と驚かれている。ケティルの長男トールギルに剣の稽古をつけていた時期もあった様で、トールギルにも一目を置かれ、また友人関係でもある。
冷静で義理堅く、しかし奔放な性格でもある「蛇」は「客人達」の「キツネ」や「トカゲ」や「アナグマ」達からも頭として頼られ、慕われている。

農場で大旦那として隠居している先代当主のスヴェルケルの家にしょっちゅう出入りし、そこ飯を食べたりたわいのない口喧嘩などをしてみたり、聖書を読んだりとしながら、その親交は深く、高齢のスヴェルケルの身を案じてもいた。

雇われていた忠義から、クヌートの軍勢との戦にも参加し、やはり敗戦の色が濃いと判断し退却を指示するなど、犠牲者を最小限に抑える事にも努めた。結果的に農場の接収を撤退させ一家の国外追放も免れたが、この時にわが身の危険を顧みずに活躍したトルフィン達に感謝し、そこで本名が「グリムの子、ロアルド」であると明かす。
その後は農場に残り、生き残った「客人達」とともにケティルの次男オルマルのもとで復旧に向けて働くのであった。

グズリーズ

世界を旅する事に憧れていた19歳の少女。黒髪(単行本15巻の表紙では茶髪)?もともと後ろ髪は長かったが、レイフと「男女の生き方の違いについて」の口論の末に女の象徴である髪を切り捨ててショートカットに。女性らしい振る舞いを苦手としており、機織りなどの繊細な作業や家事なども苦手。かつて幼かった頃にレイフに語られた広い世界へ船乗りとして自由に旅する事を諦められず、しかして現実は「女だから船乗りにはなれない」という男の決めた掟に縛られ、尚かつ苦手な「女らしい生き方」を期待され、或いは強要されていたが、本心では全く納得していなかった。

ケティルの農場を後にしアイスランドへ一時帰郷したトルフィン一行がヴィンランド開拓計画の融資を相談しにハーフダンの元を訪れた際に、偶然にもハーフダンの息子シグルドとの結婚を控えたグズリーズと会う事となる。
グズリーズは元はレイフの弟ソルヴァルドに嫁いだのだが、ソルヴァルドは戦死。未亡人となっていたグズリーズはそのままグリーンランドのレイフの妹チューラとともに暮らしていた。そこへハーフダンの側から結婚の話が舞い込んできた。
政略結婚であるが、周囲の人間からすれば、何不自由のない暮らしが約束されたハーフダンの家との婚礼なので、本人の意思とは関係なく話は推し進められた。花嫁修業中であり結婚式を控えてもなお、スカートを履かずズボン姿で男っぽい恰好をしていたグズリーズは、やはり乗り気じゃない結婚よりもずーっと夢に見ていた世界への自由な旅を諦めきれずにいた。そこへレイフとの再会が重なり、憧れや夢への熱意に拍車がかかる。
ギリシャ行きの旅支度を始めていたレイフやトルフィンの前に現れ、男勝りの体力をアピールするが、やはり「男だったらよい船乗りになれた」と、断られる。この時、「それが聞けてよかった」と、複雑な表情で納得した様に振る舞うグズリーズ。結婚式が始まり、宴を経て、初夜の支度をし、シグルドと二人きりでその瞬間を迎えた。だが気が付くと、本人の意識とは無関係に、シグルドの脚に短剣を突き刺していた。
こうして、花嫁は急きょハーフダンの一家(主にシグルド)から追われる身となってしまった。慌てて駆け込んだのが、トルフィンやレイフの船であった。
反対するレイフだが、トルフィンは事態の深刻さを察知し、グズリーズの命を助けるために乗船を促す。そして追いかけていたチューラのあと押しもあり、グズリーズはヴィンランド開拓を目指すこの一団と旅をともにする事となった。

体力は男勝りだが、船酔いをする体質。情に脆く、仲間思いの優しい少女である。

シグルド

アイスランドの農場主「鉄鎖のハーフダン」の息子。黒髪で黒髭。中肉中背。若い頃のハーフダンに姿はよく似ているが、少し思い込みが激しく軽率な行動に出がちな青年。父親と同じく鎖を武器として使い、また、鎖の先に剣を着けたものも愛用している。「鉄鎖のハーフダン」の息子である事に誇りを持ち、父親に畏怖の念を抱きつつ尊敬もしている。
同年代の友人達からは「シグやん」よ呼ばれ、また、元来争い事には向かず素直な性格で、ハーフダンの息子としてではない部分にシグルドの魅力はあると悟られつつ、親しまれている。本人は「シグやん」よ呼ばれる事を嫌っているが、友人達はこれを全然やめない。

グリーンランドとの交易のパイプとしてレイフの義理の妹にあたるグズリーズと事実上の政略結婚をする事になったシグルド。だが結婚式の夜、足を短剣で刺され、花嫁であるグズリーズはレイフやトルフィンらとともに逃げてしまう。これを友人達とともに追いかけるが、やがてバルト海で海賊に囲まれ、奴隷市に売られて行ってしまうのであった。

ややコメディ担当なのか。

カルリ

シェトランド諸島の、レイフの友人アルングリムの住まう村が戦に遭い焼かれていた。そこへ立ち寄ったトルフィン一行。これが戦の後だという事を察知したトルフィンは、まだ脅威が去っていない可能性から単身船を下り、様子を探っていた。すると一匹の犬と出会う。犬ははじめ警戒していたが、トルフィンの誠意を見ると、生存者の元へと案内してくれた。
焼け落ちた家屋の地下に、赤子を抱いた女性が居た。深手を負っていた女性はこの子の名前を告げ、トルフィンの対応に安心すると絶命。
この赤子の名はカルリだった。

里親を探すために、カルリを連れて、まずはレイフの思い当たる家に声をかけていくが、やっと見つかったアルングリムのいとこは里親となる事を拒否する。敵対する部族との遺恨が知られると、争いに巻き込まれてしまうという負の連鎖に関わりたくないというものだった。
これを納得こそしていないが、かつて戦士であったトルフィンは理解出来てしまった。ノルドの男社会では、負けた者は報復を恐れられ皆殺しにし、皆殺しにしなければ勝った者さえ非難される。死者が出た以上、報復は死者を伴う。

カルリを、血縁や知人の居ないどこかで育てなければならないと決意するトルフィン一行。
しかし、そもそも赤子を育てるという経験を全く持たないトルフィン一行は、その難しさを痛感するのであった。

その後、ようやく里親の候補が見つかったが、いざ別れるとなると情が移ってしまったグズリーズは「やっぱ無理」と連れ戻してしまう。これにはトルフィンも内心喜んでいると語っている。

諸々があり、自力で立ち上がるまで成長したカルリ。
今後にどんな運命が待ち受けているのか。

ヒルド

自作の弩(いしゆみ)を手に、ノルウェーはスカンジナビア半島の西部・ベルゲンに狩人として暮らす女。金髪でやや長身。額にはバンダナのように布を巻いており、右目の周りに痣の様な大きな傷跡がついている。男勝りな狩りの腕に、男名の様な喋り方。

ギリシャを目指すトルフィン一行がここへ上陸した際に、冬眠していないクマに襲われるが、そこを助けたヒルド。
鍋を囲みながら話をしているうちに、互いの名を知るや、ヒルドの態度は一変する。

ヒルドは8年前、ベルゲンの南『凪の入り江』がヴァイキングの襲撃に遭った事を話し始める。そのヴァイキングの首領はアシェラッドであり、母と妹が殺され、父とともに森へと逃げ込んだが、追いかけて来たのが当時14~15歳の少年戦士で両手に短剣を持ち、仲間からトルフィンと呼ばれていた。そしてトルフィンが目の前で自分の父親の喉を裂いて殺したのだと。

ヒルドはトルフィンに復讐するこの機会を待っていた。そして決闘を申し込み、一騎打ちとなる。俊足で間合いを詰めてヒルドを取り押さえようとするトルフィンだが、自作の弩の連射と鍛えた狩人の腕前でトルフィンを身動きが取れなくなるまでに追い詰める。だが、とどめを刺そうとしたところにエイナルやグズリーズが説得に入り、庇い、グズリーズが背負っていた赤子のカルリは大声で泣き叫んだ。葛藤するヒルドだが、ついに留めの一矢を放つ。

だが、その矢はヒルドの意識とは無関係に、天に向かって飛び、虚空を掠めるに留まった。

ヒルドは、思い出していもいた。『凪の入り江』の首領であり、大工でもあった父。そして襲撃から逃げ延びて、崖から落ち怪我こそしたがそこを助けてくれて、狩りを教えてくれた師匠。二人との思い出と、この日のために燃やしてきた復讐心。大工の血が培った弩の改良と、必ず獲物を仕留める事の出来る狩りの腕。だが、二人とも、ヒルドに生きる事の希望を伝えていたはずであった。

トルフィンに留めの一矢を放った時、ヒルドの横には、その二人の霊が居たのかも知れない。赦せと。

そしてヒルドは、ヴィンランドに平和な国を作り生きて償いをしたいというトルフィンの言を聴き入れ、それが実現するまで監視者として同行する事となった。

トルフィンの命を、ある意味で所有しているとも言えるヒルドは、旅先でトルフィンに危険が迫ると物陰から援護射撃をするなど、結果的にトルフィンを護る行動もとっている。

例に漏れず、赤子であるカルリの扱いには苦労している様子。

『ヴィンランド・サガ』の用語

舞台

アイスランド

トルフィンの故郷。ノルウェー王ハラルドの支配から逃れてきた人々が、自由を求めて移住してきた土地。農作物が育ちにくい土地のため、漁業と牧畜が生活の基盤となっている。島民同士の諍いは民会(シング)で調停する。その土地柄により争いが少なく、周辺国に比べると平和な土地となっている。

フェロー諸島

アイスランドとノルウェーの中間に位置している島々。アイスランド、グリーンランドと本土の人と物をつなぐ中継地点、補給地点として機能している。

イングランド王国

アングロ・サクソン人によって統一された国。9世紀にウェセックス王アルフレッドがそれまでの諸王国を併合し、その後、南部のウェセックス地方が国の中心となった。首都はウィンチェスター。北部のデーンローを支配するデーン人とは友好的ではないにしろ安定した関係を保ってきたが、11世紀初頭のイングランド軍によるデーン人虐殺をきっかけに関係が悪化、その後デーン軍相手に敗北を重ねる。1018年、賢人会議でアングロ・サクソンの王に代わりデンマーク王が推戴され、実質的にデンマーク王国に併合される。

デーンロー

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