鬼灯の冷徹(鬼徹)のネタバレ解説・考察まとめ

『鬼灯の冷徹』とは、江口夏実による漫画作品。2014年にアニメ化し、2017年冬に分割2クール編成で第二期が放送。日本の地獄を舞台に、日本神話・御伽噺・妖怪などを元にしたキャラクターが多数登場する。主人公「鬼灯」は、地獄の王「閻魔大王」の第一補佐官を務める鬼神である。カリスマ性を持った秀才であるがドSな性格の鬼灯を中心に、地獄での日常を描く。

本当は怖いカチカチ山

童話は、小さい子供が読みやすいように本来の物語が段々とまろやかな表現に変わっていることがある。
かちかち山もそんな作品の一つで、残酷なシーンがカットされているものもある。
残酷なシーンのカットされたかちかち山の物語は、とあるお爺さんとお婆さんの元に悪さをする狸が現れ、狸はお婆さんを怪我させてしまい、話を聞いた兎は狸と山へ行き、狸の持った薪に火をつけて狸を懲らしめ、狸はお婆さんに謝って改心するという物。
しかし、本来のかちかち山はもっと容赦のない内容となっている。
狸はお婆さんを殺し、お婆さんで婆汁を作ってお婆さんに化ける。
何も知らないお爺さんは婆汁を食べてしまい、狸は「爺が婆汁を食った!」と嘲笑い逃げていく。
この話を聞いた兎は狸と一緒に山へ出かけ、狸の背負っていた薪に火打石で火をつける(この時、石を擦り合わせるカチカチという音が「かちかち山」の名前の由来である)。
狸は背中に大火傷を負い、兎は薬だと嘯いて火傷に辛味噌を塗りたくり、狸は痛みで悶絶する。
その後兎は狸を誘って漁に出かけ、兎は木の船に、狸は泥の船に乗らせる。
当然狸の乗った泥舟は沈んでしまい、兎は助けを求める狸の頭を櫂で押さえつけ、狸を溺死させた。
兎は狸を殺し仇を取った、という結末が本来の物語である。
作中で鬼灯は、物語の残酷な部分を削ってしまうことで悪役となるキャラクターの悪役性が削られてしまい、物語の構造がおかしくなってしまうという。
例えば、桃太郎で鬼が何も悪いことをしていないのに桃太郎に退治されてしまうなどの違和感が起こってしまう。
かちかち山の兎である芥子は、生前にお爺さんとお婆さんにお世話になった兎で、死後桃源郷で修行をした後に狸の悪逆を知って復讐したという時系列になっている。
この過去があるため、芥子は狸という単語を聞いたためで凶暴な性格に豹変してしまう。

ざっくり分かるイザナギとイザナミの話

日本神話で日本を作ったとされているのが、イザナミとイザナギの夫婦である。
イザナギとイザナミは沢山の子供を作るが、ある時イザナミは火の神カグツチを生み酷い火傷を負ってしまい、それが原因で死亡する。
悲しんだイザナギは、イザナミに会いに黄泉へ行く。
イザナミは腐って醜くなってしまった自分の姿を見られたくないため、イザナギに絶対に自分を見ないように言う。
しかしイザナギはイザナミの姿を見てしまい、イザナミは恥をかかされたと怒り、イザナギを追い回す。
イザナギは黄泉と現世の間にある黄泉比良坂(よもつひらさか)まで逃げ、黄泉の入り口を巨大な岩で塞いだ。
イザナミは岩の向こうから、こんな酷いことをするなら現世の人間を一日1000人殺すと言う。
イザナギは、それならこっちは一日1500人の人間を生まれるようにすると答えた。
本作でこのエピソードは教養番組「ザックリTV」のパロディで説明された。

プリンセスサクヤのショータイム

日本神話に登場する女神「木花咲耶姫(このはなさくやひめ)」は、天照大神の子孫のニニギの妻である。
サクヤは妊娠したが、ニニギはサクヤが身籠った子供が本当に自分の子であるのか自信がなく、サクヤを疑ってしまう。
サクヤは「天津神であるニニギの本当の子なら何があっても無事に産めるはず」とし、産屋に篭って点火し、その中で出産した。
見事に生まれた子供を見せ、ニニギの子であることを証明した。
本作ではこの日本神話のエピソードに幼少期の鬼灯が登場し、サクヤに助言してイリュージョンのように出産する提案をする。
産屋ではなくパースのついたハリボテを燃やし、元々焦げていた壁や、煙幕、鬼火などで演出が施され、サクヤはその奥で一人度胸で出産した。
鬼灯はニニギが近づかないように腕力で留まらせ、電灯の無い夜であることやニニギが焦って判断力が欠けていたことなどで仕掛けがバレることなく、無事出産を成功させ2人を仲直りさせた。

読んでいるだけで知識が付く、豊富な情報量

小難しい感じのする日本神話も、ギャグ調のアニメで見たら分かり易い。

本作は仏教や、古事記や日本書紀などの日本神話、桃太郎やかちかち山などの日本人なら誰もが知っている童話を元にして作られているキャラクターが多数存在する。
古事記など知ってるようで意外と知らないものも、物語の中で軽く解説をしてくれる。
他にも日本の地獄についての詳細や、エジプトやヨーロッパ方面の神話や地獄の話、史実や想像上の生き物なども出てくる。
本作を見ていれば自然とそれらの知識が増えていく。
漫画には質問コーナーがあり、作者が細かい設定や元ネタになっている史実や神話などを答えてくれている。

可愛い動物キャラクターたち

桃源郷の従業員たち。

本作には人型のキャラと同じくらい動物のキャラクターが多い。
代表的なところでは、桃太郎のお付の三匹の「シロ」「柿助」「ルリオ」、かちかち山の兎の「芥子」、凛々しい猫の「漢」、記者の「小判」など。
地獄に動物が多いのは鬼灯が動物好きという事もあり、近年獄卒に動物も採用しているためである。
地獄以外では、桃源郷に居る兎たちは漢方を勉強している見習いの従業員で、喋らないが画面の背景などに良く映りこむ。
瑞獣の「麒麟」「鳳凰」、エジプト地獄の「アビヌス」と言った、架空の生き物も数多く登場する。
白澤も女の子とデートするために人間の姿をしているが、本来の姿は白い獣の姿である。

パロディー要素

大きくて丸っこい閻魔は、よくトトロに例えられる。

本作には、他のアニメ・漫画・ドラマ・バラエティーなど幅広いジャンルのパロディネタがある。
第一期の一話では「世界ふしぎ発見!」を鬼灯が見ていたり、この回のエンディングは同番組で流れる日立のCMソング「日立の樹」のパロディであった。
絵柄からシリアスホラーアニメと勘違いされる事が多いが、原作未読の視聴者が一話でギャグ作品だと知り、しかもパロディエンディングだったことで放送時話題となった。
鬼灯はジブリ作品が好きなようで、ジブリネタも数多く存在する。
一期の白澤登場回では鬼灯が白澤の手を握り「バルス」と言ったり、二期の座敷童子回では閻魔をトトロに見立てたシーンがある。

『鬼灯の冷徹』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

表現手法

作者「江口夏実」は、本作の執筆にあたり最初に考えたネームを大事にしており、後から考えたことをネームに反映させないようにしている。
人気の出たキャラクターも贔屓する事はなく、無理に出番を増やさないように心がけているという。
また、主人公・鬼灯はドSキャラという立ち居地ではあるが、あくまでも他者を苛めて喜ぶサディストでは無いため、関係者にはなるべくそういう言葉を使わないで欲しいと頼むこともある。
鬼灯は原作でもアニメ化以降も女性人気が高いが、作者は鬼灯を流行り廃りの無い美しさを意識していたことから、イケメンキャラとして扱われて驚いたと言う。
キャラクターの作りは見た目も中身も完璧なキャラより、様々な顔の個性的なキャラクターが動く方が面白いと考え、岩長姫など原典で書かれている通りの醜女として描いた。
桃太郎などもあくまで平安時代の美形として描かれ、現代の美的感覚とは外れてしまうのが面白いギミックとなっている。
キャラクターの行動や設定は作者の体験を元にしており、芥子が自分の糞を食べるシーンは、昔兎を飼っていたため兎の糞食の習性を知っていて、友人に話したら引かれたところから。
本作の登場する動物キャラクター達は、ただ可愛いだけの存在ではなく、動物ならではの恐ろしさも秘めている。
これは身勝手にペットを飼い、捨ててしまう現代人たちへ、動物は怖ろしい存在でもあることを伝えたいという気持ちを込めている。
また、作者が漫画家になる前に勤めていた会社の上層部へ言いたかった事が、本作にある言葉尻の強いツッコミになっている。
バイト経験から万引きを許さないマキなども作者の体験から来ているようである。

影響を受けた物

作者は親の影響で『ゲゲゲの鬼太郎』『悪魔くん』『笑ゥせぇるすまん』『まんが日本昔ばなし』などに触れてきた。
特に妖怪漫画を読む機会が多かったため、「ゲゲゲの鬼太郎」の影響が特に大きいと語る。
鬼太郎に出てくるおどろおどろしくも可愛い個性的なキャラクターが楽しかったという。
非ホラーでは『ドラえもん』から影響を受け、アニメ版の教育要素の強さと、原作の狂気的な要素が鬼灯に影響を与えた。

作者は美大で日本画を先行したことから、構図やカラリングは日本画から影響を受けている。
着物のデザインは「上村松園」の女性図を参考にし、男性の武将や着流し姿は「月岡芳年」の作品を参考にしている。

作者がユーモアで影響を受けた作品には、岡田あーみんの『こいつら100%伝説』や柴田亜美の『南国少年パプワくん』が上げられている。
鬼灯が棍棒を振り回すシーンなど、小さい子が半端に真似しないよう、むしろやりきってしまった方が良いと考えている。
言葉選びはお笑いコンビ『ラーメンズ』から影響を受けた。

「となりの怪物くん」のキャラが登場

6muroheart
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