出禁のモグラ(江口夏実)のネタバレ解説・考察まとめ

『出禁のモグラ』とは江口夏実による漫画。2021年より『モーニング』で連載している。文学部の大学生、真木栗顕と桐原八重子は百暗桃弓木と名乗る仙人に関わり、今まで見えなかったものが見えるようになる。彼は刑罰としてあの世に行くことを禁じられている。あの世に行くためには道標となる“灯”を霊から集めなければならない。その行く先で彼らが不可思議な現象に出会う姿を描いた物語。登場人物の作り込みが細かく、人間の拗れを上手く描いている。地獄の存在が仄めかされているが、前作『鬼灯の冷徹』との関係性は不明。

『出禁のモグラ』の概要

『出禁のモグラ』とは2021年より江口夏実が『モーニング』で連載している漫画。江口夏実の前作『鬼灯の冷徹』は地獄が舞台であったが今作は現世が舞台。第2巻では地獄の存在がほのめかされているが、『鬼灯の冷徹』との関係性は明らかではない。
八目大学文芸学科3年の大学生、真木栗顕(まぎ くりあき)と桐原八重子(きりはら やえこ)が飲み会の帰り道に空から降ってきた広辞苑で頭を怪我した男に遭遇する。この男に関わってしまったことがきっかけで2人は霊を視認できる様になってしまう。男の名は百暗桃弓木(もぐら ももゆき)、通称モグラである。モグラも霊を視認でき、霊の灯を少しずつ集めている。モグラは死ぬことができない。しかし、カンテラに灯を満杯に集めればあの世に行くことができる。モグラは2人にこれの手伝いを頼み、彼らを巻き込んで様々な事件に遭遇する。本作では幽霊よりも人間が怖いというような物語が多く、霊はその要因になっているに過ぎないというものだ。登場人物の作り込みが細かく人間の拗れを上手く描いている。

『出禁のモグラ』のあらすじ・ストーリー

仙人モグラとの遭遇編

灯を集めるための格好の人材が集い、興奮を隠せないモグラ(右)。

八目大学文芸学科3年の大学生、真木栗顕(まぎ くりあき)と桐原八重子(きりはら やえこ)は、飲み会の帰り道に空から降ってきた広辞苑で頭を打った百暗桃弓木(もぐら ももゆき)と出会う。真木たちは救急車を呼ぼうとするが、モグラは戸籍がない上、金もないのでそれを拒んだ。しかし、真木たちは引き下がらなかった。結局、真木たちの親切さに負けたモグラは、住処に2人を招待する。そこでモグラは自分が仙人であり、死ぬことが許されていないこと、あの世に行くためにはカンテラに灯を集めなければいけないことを告げた。灯は霊から得られるもので、もしそういう話があったら呼んでほしいとモグラに頼まれ、真木たちは協力することとなる。
その後、八重子のバイト先の新人、犬飼詩魚(いぬかい しお)もやたらと霊を引き付けやすいということで協力者となり、また自らに憑いている化け猫を使役して霊を祓う猫附梗史郎(ねこづく きょうしろう)も仲間に加わった。モグラにとっては、灯を貯めるには都合の良い人材が集まったことになったのだった。

レッサーパンダの怪編

真木のバイト先で怪現象がおき、店長が霊媒師を紹介してほしいと真木に相談したのが事の発端であった。真木はモグラを通じて猫附家の協力を得る。猫附家の者は化け猫に憑かれている影響で体が弱い。モグラのカンテラで延命を施すことを交換条件に、猫附家はモグラに協力しなければいけないのだ。真木のバイト先の霊障の原因はレッサーパンダのマギー君によるものだった。マギー君がポルターガイストを起こしたことによって除霊は難航したが、女子高生ながらも凄まじい膂力を持つ犬飼詩魚の助力により、あと一歩まで追い詰めた。しかし、マギー君は最も怒らなさそうな真木を盾にしたのだ。それでは祓えないということで、真木がしばらくマギー君の面倒を見ることとなった。

真木の弟編

真木の弟、真木梅晴(まぎ うめはる)が不思議なことがあったと、真木に相談したのが事の発端であった。梅晴曰く、「女友達のミヤの家に遊びに行き、家族と一緒に夕食を食べていると謎の人形も椅子に座っていたその人形に対しての説明は一切なく、恐怖を感じたまた、帰り際人形が座っていた場所にきれいな女の霊がいた」というものだ。真相としては、女の霊は弟の女友達“ミヤ”の姉“マヤ”であった。マヤは幼年にして亡くなっていた。マヤの葬式の時、親戚の男が言った「なんで可愛い姉の方が」という一言でミヤを傷つけたことを恨んでいたのである。長い年月をかけて、親戚の男をあの世へ連れていこうとしたが、モグラのカンテラによって危篤状態だった男は回復してしまい、失敗に終わった。モグラ曰く、生者に危害を加えた亡者はあの世の裁判で地獄行きになってしまうとのことだった。

猫附婦人と小野坂咲良子編

猫附梗史郎の母、または八目大学教授であり真木のゼミで教鞭をとっている猫附藤史郎(ねこづく とうしろう)の妻である猫附杏子(ねこづく きょうこ)はヘンなものが見える。いわゆる未来視のようなもので、画像や動画として先に起こることが見えるのだ。小野坂咲良子(おのさか さくらこ)が軽トラックに轢かれるという予言をし、事故を事前に防いだ事がきっかけで彼女に異様に盲信されてしまったのが事の発端であった。その後、小野坂咲良子は災難があるたびに猫附家を訪れるようになった。彼女は家で起きる怪現象とひどい頭痛に悩まされていた。原因はたちの悪い霊によるものだったが、除霊だけでは根本的な解決にはならない。以前、妹のために叔父を殺そうとした幽霊の“マヤ”の力を借りて、モラハラ夫に仕返しをし、心機一転。杏子と咲良子は友人になった。

人魚様編

真木が祭りについてのレポートを書くために、八重子の出身の島に行くことになった。八重子の曽祖父はモグラの戦友であり、まだ存命であるためモグラもついていく。モグラは島に行くほどの金も持っていないため猫附家にたかり、ついでに犬飼詩魚もついていく事になった。島の祭りのメインである人魚様は住民には見えていないが、島の海に幽霊として漂っている。女と赤ん坊と多くの霊が集まったもので、かなり大きい。
祭りの最中、八重子の同級生である「森くん」こと森奏芽(もり かなめ)と出会う。森くんは高校生の頃から容姿が激変しており、八重子が話しかけても一目散に逃げてしまった。森くんは数年前から狂言自殺をしており、度々島を騒がせている。その原因は島を仕切っている一族、鮫島一家によるものだった。森くんは高校生時代、容姿端麗だった。その時、島の当主の娘である鮫島鮋衣(さめじま ゆい)からの誘いを断ったことで、逆恨みで悪い噂を流され、精神的に追い詰められていったのだ。
狂言自殺の翌日、鮋衣と遭遇してしまったことにより自殺願望が人魚様の霊とリンクし、森くんは人魚様のいる海に引きずり込まれ、転落死しそうになる。だが真木とマギーくんの助けにより、海には落ちたものの致命傷は避けることができた。その後猫附家、2人の化け猫で人魚様を除霊した。
鮫島一家の悪事は暴かれ、事件は解決の兆しを迎えたが島の住民は鮫島一家全てに責任を押し付け、考える事をやめてしまった。諸悪の根源は鮫島一家だが、一方で島の経営をしていたのも彼らである。島の行く末がどうなるかは分からない。
モグラたちの帰り際であった。八重子の曽祖父が「百暗」の名前を思い出し、「アンタの祖父か曽祖父に戦時中セレベス島に行った人はいないか?」「生きているか?」と尋ねた。モグラは「いや もう亡くなりました」と告げる。こうして一連の事件は幕を閉じた。

ブーギークラッシュ編

モグラは抽斗通りに住んでいる。そしてモグラの監視役である浮雲(うきぐも)もそこに住んでいる。浮雲は監視の傍ら、抽斗通りで駄菓子屋を経営している。その駄菓子屋で真木たちが『ブーギーmanクラッシュ』というゲームをしているときだった。突如としてゲームの世界に入り込んでしまう。モグラ曰く霊の作り出した仮想空間に脳をハッキングさせられ引きずり込まれたらしい。浮雲はこのゲームが得意でランキングにも入るほどだったので霊に気に入られたのだ。しかし、浮雲ではなく、真木たちが巻き込まれてしまった。
モグラは猫附梗史郎を呼び、化け猫の力を借りて除霊を試みたが、化け猫も一緒にゲーム内に入ることができず、この作戦は失敗した。残る方法は霊が満足するようにゲームをクリアすることしかない。しかしこの方法は危険だ。ゲームの世界にいる時は脳が休息を取れないため、命の危険がある。霊体ながらVTuberをしている毒繭アケロンティ(どくまゆあけろんてぃあ)の力を借り、ちょうど上京してきたばかりの森くんの協力も得ることができた。実は森くんはこのゲームのファンで、ゲームクリアに大きく貢献した。
ゲームをクリア寸前まで進めるが、ゲーム制作者の霊に仮想空間に永遠に閉じ込められそうになる。そうなるとモグラは異次元に閉じ込められてしまう。つまり、現世で生きているとはいえないのだ。モグラは現世で生きなければいけないという刑罰があるため、看守の浮雲が仮想空間をこじ開けた。そしてゲームを構成していた他の霊たちをなぎ倒し、地獄直行の係に引き渡そうとする。これにゲームを作った少年が抵抗しようとするが、毒繭アケロンティアの中の人であり、48歳でこの世を去った熊谷誠治(くまがい せいじ)が突然割り込んできた。彼の説得で少年は抵抗せず、素直に除霊されたのだった。

『出禁のモグラ』の登場人物・キャラクター

主要人物

百暗桃弓木(もぐら ももゆき)

通称モグラ。彼曰く、仙人。後に浮雲がオオカムヅミの弓という名の元神様であると明かす。抽斗通りで銭湯を経営している。モグラはあの世に行くことができない。とある罪の刑罰としてあの世に行けないのである。幽霊になっても、あの世に行くための道標を剥奪されているため、カンテラの中に幽霊の周りに漂っている「灯」を集める必要がある。戸籍や住民票も持っていないため、正式に働くことができない。昭和に戸籍を作っていた時期もあるが、戦場での体験がトラウマになっているため戸籍を作っていない。そして戦場でカンテラの灯を使い切ってしまったと言う。カンテラの灯には延命作用があり、他人にも使うことができる。モグラはその灯で肉体にの年齢を30代くらいに保っている。
猫附家との関係は戦場で出会った猫附桜史郎に息子の延命を頼まれたことから始まった。モグラは戦場で大怪我した者を灯を使って治そうとしたところを見られてしまったのだ。猫附家の者は化け猫に取り憑かれるため短命な者が多く、桜史郎の息子は10歳まで生きられるか危うかった。そのため、猫附家はできる限りのことはなんでもするという約束をしている。

真木栗顕(まぎ くりあき)

左:マギー君 右:真木

真木は八目大学文芸学科3年の大学生。児童文学のゼミを取っている。モグラと関わってしまったことで霊が見えるようになった。100円ショップで働いており、霊障がでたと騒ぎになったついででマギー君の世話をすることになった。真木には弟が一人おり、真木梅晴という。

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