さよなら、人類(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『さよなら、人類』とは、2014年に公開されたスウェーデンのコメディ・ドラマ映画。第71回ヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映され、金獅子賞を獲得。第88回アカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされた。過去にカンヌ国際広告祭で何度も受賞を果たしているロイ・アンダーソンが監督を務め、同監督の手掛ける『リビング・トリロジー三部作』の3作品目として制作された。舞台は戦時の不況にあったスウェーデン。登場人物たちの日常が、哲学的で奇妙なユーモアをもって描かれている。

『さよなら、人類』の概要

『さよなら、人類』とは、2014年に公開されたスウェーデンのコメディ・ドラマ映画。
第71回ヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映され、金獅子賞を獲得。第88回アカデミー賞の外国語映画賞にもスウェーデン代表作品としてノミネートされた。ヴェネツィア国際映画賞での上映を皮切りに、スウェーデンでは2014年11月、日本では2015年8月に劇場公開された。また、日本では劇場公開に先駆け、2014年の第27回東京国際映画祭で『実存を省みる枝の上の鳩』という題でも上映されている。監督は、過去にカンヌ国際広告祭で何度も受賞を果たしているロイ・アンダーソンが務め、同監督による『散歩する惑星』『愛おしき隣人』の映画で構成される『リビング・トリロジー三部作』の最終作品として、本作『さよなら、人類』は制作された。固定カメラを使用して1シーン1カットで全39シーンを撮影。CG全盛期の時代ではあるが、巨大なスタジオにセットを組み、馬を含む膨大な数のエキストラを投入して撮影に臨んでおり、製作期間は4年にもわたる。

舞台は戦時下の不況にあったスウェーデン。全編を通して、人間という存在が抱える不条理や孤独、死生観が淡々と、しかしどこか哲学的で奇妙なユーモアと共に描かれている。一本の映画としてストーリーがある作品ではなく、そこに暮らす様々な人々の「深い意味がありそうで、これといって意味はない日常」を切り取ったかのような、オムニバス形式を取っている。
ただしジョークグッズを売り歩く2人の冴えない営業マン、サムとヨナタンの存在が全体を緩やかに貫く構成となっており、その断片がひとつの世界として繋がった、いわゆる「連作短編集」のような作品となっている。

『さよなら、人類』のあらすじ・ストーリー

ある3つの死とダンス講師の失恋

ある日、妻との夕食のため、なかなか開かないワインの栓を開けようとした夫。オープナーを使ってもなかなか開かないボトルを開けるために力を入れ続けていた彼は突如、胸痛に苦しみそのまま帰らぬ人となってしまうのだった。
またある日、高齢の母親が急変したという知らせを受け、病院へ駆け付けた3人の兄妹。母の容態が安定したため医師から帰宅を許可されるが、母は鞄を握り締めて離さない。取り上げようとする兄妹だが、よほど大事なものが入っているのか、母は声を上げてこれを拒否。意地になって引っ張り合いを展開した結果、母は帰らぬ人となってしまう。
さらに別のどこか。食堂で男性がそのまま倒れ、息絶えてしまった。職員は30分以上にわたって延命処置を施したが、息を吹き返すことはなかった。男の食事は一口も食べられることなく、放置されたまま。そこで、職員は他の客に食事を分けることを決めた。
フラメンコのダンススタジオにて、若いイケメンの生徒に触れたくて仕方ない講師。ダンスの練習中、何度も触れてはやんわりと拒まれてしまう。レッスン後、レストランにて講師は青年へモーションをかけたが、あっさり断られてしまうのだった。

親友のヨナタンと共に、ジョークグッズを販売して歩く営業の仕事をしているサムは、ある日散髪のために理容院を訪れていた。しかし、理容師の経歴を聞いて恐れをなし、逃げ出してきてしまう。サムは、予定どおりに散髪できなかったことに不満を抱いていた。
ヨナタンとの待ち合わせ場所であるカフェバーで彼と合流したサムは、不機嫌の理由について聞かれたものの返答を拒否し、ヨナタンを落ち込ませてしまう。
怒りっぽいサムに対してヨナタンは悲観的で落ち込みやすく、泣き虫だった。そんなヨナタンを見て哀れに思った他の客が、彼を元気づけようとグッズを買ってくれることになった。

サムとヨナタンが販売しているのは、吸血鬼の牙や笑い袋などのちょっとしたおもちゃだった。交渉は主にサムが行い、ヨナタンが実演する。新製品は歯抜けおやじの仮面だが、少々時代遅れなそれは、雑貨店の店主を頷かせることはできなかった。

黄金時代と暗黒の時代

1943年、サムとヨナタンが通う行けつけのカフェバーは満員御礼の人気店だった。店を仕切っている若く美しいママは歌声を披露しつつ、酒を配って歩いている。彼女が歌い始めると、他の客もこぞって歌い出すのがお決まりだった。
黄金時代を経ての現在。この古き良き時代を見てきた老人は、店員に手伝われてコートを着せてもらった後、戻らない昔を偲びつつ帰宅していった。

そんな荒んだ世の中で、雑貨を売り歩くサムとヨナタンは、自分たちが商品を卸した雑貨屋へ商品の売れ筋を確認しに向かう。納めた商品は数点売れた様子だったが、料金は支払われていない。彼らの再三の催促にも応じてくれない店主へサムとヨナタンは直接声をかけるが、支払いをする金がないのだと怒鳴りつけられてしまう。
その後、金を貸した人物の家に向かっている途中で道に迷ったサムとヨナタンは、付近のカフェバーに滞在し、そこでも商品の紹介をした。いつものように仮面を被って実演するヨナタン。だが、そこへ馬に乗った貴族然とした男性が現れ、店から女性を追い出した。サムやヨナタン、そして店内にいた男性たちは、突然目の前で起こったことに衝撃を受ける。
しばらく経つと、騎馬隊を伴ってスウェーデン国王のカール12世が現れた。陛下は馬から降りると、バーの店員に飲み物を注文した。出されたソーダ水を飲んだ陛下は美味いと感想を述べ、更に若く麗しい男性店員に対して「戦争へ随従しろ」と命令するのであった。どうやらこの若い店員は、陛下の好みだったようだ。

サムとヨナタンが住むアパートを、ある女性が訪れていた。仕入れ業者で働く女性は、2人がグッズの販売を休んでいることを詰問しに来た様子だった。ヨナタンは、サムが通りで車に轢かれて仕事を休んでいるということを説明した。女性はサムとヨナタンが仕入れた商品の金額を支払うように迫り、彼らに2週間の猶予を与えて去って行った。
行きつけのカフェバーへ来たサムとヨナタンは、軍人らしい男性の話を聞いている。彼は以前にも予定を勘違いして約束を果たせなかったのだと嘆いていた。

喧嘩してしまうサムとヨナタン

歯抜けおやじのマスクを被りながら音楽を聞いていたヨナタンの部屋をサムが訪れていた。ヨナタンはこの歌を何度も繰り返して聞いていると悲しくなると話し、サムはそんな彼に専門医への受診を勧める。
自分でも自分が心配になるヨナタンだったが、それでもひたすら同じ曲を何度も聞き続けるのだった。

陛下が訪れていたカフェバーの通りを、戦争帰りの兵士達が通り過ぎて行った。どうやら戦争には負けた様子で、兵士はみな、疲れ切った顔でうなだれている。すると、今回も陛下が来店。彼もまた酷く疲れており、自力で馬から降りる体力もないようだった。敗戦したせいで、国の半分を失ったと呟く。店を訪れていた女性たちも戦争で夫を失い、店内は涙に暮れているのだった。

車に轢かれた後遺症で歩行に杖が必要になったサム。ヨナタンも足が悪いため、彼の歩き方も独特だった。そんな彼に苛立ち、ゾンビが寝ながら歩いているみたいだと揶揄するサム。彼は不況の世と商売下手な相棒に苛立ちを募らせ、相棒を解消し販売の仕事を辞めると言い出す。しかし、そもそもこの仕事はサムが言い出したもので、ヨナタンは彼に誘われ相棒になったに過ぎない。それなのに自分を罵り、仕事をやめるというサムに、日頃は気弱なヨナタンも怒りを募らせ、身勝手なサムを責めるのであった。

戻ってきた日常

サムと仲違いしたヨナタンは、1人でも販売の仕事を続けようと奮闘していたが、どうにも上手くいかない。自宅へ戻ってしばらく後、たった一人の親友への態度を反省したサムは、部屋を訪ねて素直に謝罪の言葉を述べる。ひとしきり謝罪を聞いたヨナタンも反省し、自分も悪かったと許してくれた。仲直りしたヨナタンの部屋を、再びサムが訪れる。しょんぼりしたヨナタンは死者の夢を見たが、その死者たちの中には自分もいたと話していた。
サムは商売再開に備え「そんな様子では人を楽しませることはできない」と言って部屋を出て行ってしまった。するとヨナタンはサムを追い、人を利用して利益を得るのはいい行いといえるだろうか、と疑問を投げかける。
その頃、自転車屋の主人は店のドアを開け、中へ入る際に「また水曜に」と声を掛けて行く。すると、店の前にいた男性が、「今日は水曜だろうか」と周囲の人々に問い掛け始める。周囲の人々は間違いなく水曜だと言っていたものの、男性は木曜日のような気がする、としきりに頭を捻っていた。そこへ、自転車に乗った若者がやって来た。彼は空気圧を確認した後、去り際に「また水曜だ」と言って去っていく。それを見ていた男性は、何か納得した様子を見せて黙るのであった。

『さよなら、人類』の登場人物・キャラクター

主要人物

サム(演:ニルス・ヴェストブロム)

画像左側、杖をつきながらベッドに腰かけているのがサム

本作の主人公のひとり。四角い顔が特徴的な、怒りっぽい性格の男性。親友のヨナタンを誘い、2人でジョークグッズの営業の仕事に就いている。職務上は主に交渉を担当。物語中盤、車に轢かれて歩行に杖が必要になってしまう。
怒りっぽく偏屈だが繊細な一面もあり、本当はヨナタンのことを心から大切な友人だと思っている。

ヨナタン(演:ホルゲル・アンデション)

画像左側に立っているのがヨナタン

本作の主人公のひとり。顔立ちも体つきも丸っこく、気弱で悲観的、泣き虫な性格の男性。親友のサムと共にジョークグッズの営業の仕事についている。職務上は主に実演を担当。足が悪く、サムからは「ゾンビが寝ながら歩いているよう」とからかわれるほど特徴的な歩き方をしている。
非常に思慮深く、人を踏みにじってまで利益を得て生きることに対して疑問を感じている。

近隣住人たち

カール12世(演:ヴィクトル・ギレンベルイ)

1697年から1718年にかけて在位していた、実在するスウェーデンの王。しかし作中では「時代背景のズレ」というコメディリリーフとして、馬にまたがり、多くの臣下を連れた仰々しい姿でサムやヨナタンの前に現れる。立ち寄った飲食店の女性を全て追い出して若い男性を気に入った素振りを見せるなど、男色家として描かれているが、これは実際の史実には登場しない、本作のコメディ要素として付加されたオリジナル設定。

理容師(演:オーラ・ステンソン)

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