キャロル(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『キャロル』(原題:Carol)とは、パトリシア・ハイスミスの半自伝的小説に基づいた、1950年代を舞台に2人の女性の恋愛模様を美しくリアルに描いた恋愛映画。監督は、トッド・ヘインズで、主演をケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラの2人が務め、2015年公開となった。ルーニー・マーラが第68回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞したほか数々の映画賞にノミネートされた。ニューヨークを舞台に離婚調停中の人妻キャロルと、彼女に心を奪われた女性テレーズとのせつない恋愛が描かれている。

キャロルがテレーズの背後から肩に手を掛けるシーンが全部で3回登場する。キャロルのマニュキュアで真っ赤に塗られた手でテレーズの肩に妖艶な雰囲気で手を掛けるのだが、とても印象的なシーンとして描かれている。というのも、このシーンは物語の変わり目を表すシーンとなっているから。1度目は、キャロルの家でテレーズがピアノを弾いている時。それは、これから2人に恋愛感情が芽生える事への予兆。2回目はニューイヤーズ・イブのモーテルで。この後のキャロルはテレーズを抱く展開への変わり目。3回目はリッツカールトンのカフェで再会をし、キャロルがテレーズに一緒に暮らさないかと言った申し出をキャロルが断った後。これは最終章への余韻となっている。

ラストシーン

監督であるトッド・ヘインズはインタビューでラストシーンについて次のように話している。「原作がなく内容を自由に変えられたら、このラブストーリーを悲劇的な結末にしたと思いますか?」とインタビューアーに聞かれ「いや、そうは思わない。『キャロル』のエンディングで気に入ってるのは自殺したり療養所送りになったりしないことだ。だが何の保証もない。これは始まりのようなもの、終わりは始まりなんだ。このシーンを撮っていた時、ケイトとルーニーに『卒業』のエンディングの話をした。あの大胆な花嫁奪還のシーンだ。ベンジャミンは教会に乗り込み、家族の制止を振り切り、ドアに十字架をかけてエレインをさらい、二人でバスに乗り込む。その後は『さてどうしよう』だ。これから待っているのは現実。映画はここでおしまいだが。僕はこの作品でも同じように感じたんだ。テレーズがキャロルの所へと歩き出す前に、彼女にこの瞬間を与えたかった」と言っていることから、このラストは原作に忠実であることがわかる。原作にも、キャロルとテレーズがどうなったのかは描かれていないのだ。しかし、キャロルを探すテレーズの視線の動きや、テレーズを見つけて微笑むキャロルの姿で、ハッピーエンドであることを察することができる。明確なハッピーエンドであることを示す描写をせずに視聴者側にゆだねる形のラストであるが、監督のインタビューから、これがハッピーエンドでこれからも2人の始まりであるということがよくわかる。

『キャロル』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

大幅にカットされたキャリー・ブラウンスタインの出演シーン

人気TVドラマ『ポートランディア』で人気の女優キャリー・ブラウンスタインが本作でスクリーンデビューをしている。彼女の名前はオープニング・クレジットではかなり早い段階で登場するのだが、彼女自身の登場シーンはラスト間際に少し登場するだけで、セリフもほとんどない。役名もある登場人物であるにも関わらず不自然さが目立つ彼女の配役だが、そうなってしまった理由は、上映時間を短くするため。そのため、脚本の段階では用意されていたキャリーのセリフは大幅にカットとなってしまったそう。キャリー自身は出演シーンカットに落胆していたようだ。実際用意されていた脚本にはジュネヴィエーヴがパーティーで出会ったテレーズを自分のアパートに誘うシーンがあり、ジュネヴィエーヴが他の女性と抱き合う光景を見たことでテレーズがキャロルの待つレストランへ向かう決断をするきっかけとなるシーンだったようだ。

ロケ地はニューヨークではなくシンシナティ

この映画の舞台は1950年代のニューヨークが舞台となっている。しかし、この映画のロケはニューヨークではなくシンシナティで行われたと監督であるトッド・ヘインズはインタビューで答えている。監督は、現代のニューヨークでは、1950年代のニューヨークに全く見えないことと、ニューヨークでロケをすると予算オーバーとなってしまうことを理由にロケ地を変えたそうだ。監督のインタビューで次のように語っていた。「今のニューヨークが1950年代のニューヨークにはまったく見えないのがひとつ、それから予算オーバーで撮れなかった。考えたよ、『どこに行けばいい?どうする?』ってね。『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』では1930年代のLAをニューヨークで撮った。税制上の優遇措置のお蔭でずいぶん助かったよ。だが今回はそれも難しそうだったし、予算も少なかった。オハイオ州がちょうど優遇措置を増やしたところだった。リズの夫のスティーヴン・ウーリーは10年以上前に時代物の『レイジ・イン・ハーレム』をシンシナティで撮っていた。クリーブランドも候補だったが、シンシナティの方が楽しそうな予感があった。シンシナティの通りにはそのまま1952年のニューヨークに使える本物の信号機があって、それも撮影した。街が気に入った。役者たちも気に入ってた。宿泊していたホテルもどこもよかった。個性的で小さくて温かくて。地元で見つけたちょっとした役の役者やエキストラも素晴らしかった。満足のいくロケだった。本当によかったよ」

運転を猛特訓したアビー役サラ・ポールソン

アビーは1949年型のパッカードを運転している。1950年代にAT車は存在していなかったためこのパッカードはミッション車。しかし、サラはこの映画を撮影するまでミッション車を運転したことがなかったなかったそう。監督がこのパッカードの色を気に入り撮影に使われたそうなのだが、サラはこの車を乗りこなすために駐車場などで練習を重ねたそう。ちなみに、サラは助手席にケイト・ブランシェットを乗せてこのパッカードを運転しているシーンが撮影最後のシーンだったとインタビューで話している。

『キャロル』の主題歌・挿入歌

ED(エンディング):『The Extra End』

挿入歌:Billie Holiday『Easy Living』

テレーズがキャロルの家のピアノで弾いた曲。

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