東京怪童(望月ミネタロウ)のネタバレ解説・考察まとめ

『東京怪童』とは、望月ミネタロウが​​2009年から2010年に講談社が発行する男性向けコミック誌『モーニング』にて連載した漫画作品。​​講談社モーニングKC全3巻。本作から、作者・望月峯太郎はペンネームを望月ミネタロウに改名している。
脳に疾患を抱える少年少女たちが、互いに反発したり、交わったりしながら入院生活をおくる中で成長する物語。差別や偏見の対象となるマイノリティをテーマに、人間の精神世界の神秘や芸術的創造性にも焦点を当てている。

目次 - Contents

『東京怪童』の概要

『東京怪童』とは、望月ミネタロウが​​2009年から2010年に講談社が発行する男性向けコミック誌『モーニング』にて連載したた漫画作品。​​講談社モーニングKC全3巻。本作から、作者・望月峯太郎はペンネームを望月ミネタロウに改名している。作中に主人公のハシが描くマンガが挿入されており入れ子構造になっている。
舞台は脳に問題を持つ青少年たちの治療と精神的ケアを目的として研究するクリスチャニア医院。
ここには嘘がつけないため周囲と軋轢を起こす19歳の青年ハシ、人前でも突然性的オーガズムが来る21歳の花(はな)、​​名前も記憶も曖昧な超健忘症の青年の3人と、スーパーパワーを持っており神様や宇宙人とコンタクトできると思い込んでいる10歳の英雄(ひでお)、自分以外の人間を視認しない6歳のマリらが入院し治療を受けている。彼らは疾患があるため社会との関わりが持てない。しかし、彼らには人間的な問題はなくただの疾病で、関わりが持てないのは症状のせいである。と、ハシの主治医である玉木健一郎(たまきけんいちろう)は思っていた。玉木は著作が出版される程の新進気鋭の脳科学者だ。脳に疾患を持つハシたちが社会にうまく適応できないのと同様に、玉木も社会とうまく適応できていないと感じており、ある日突然妻子を置いて失踪してしまう。残されたハシたち5人は、それぞれに​​反発したり交わったりしながら成長してゆく。

『東京怪童』のあらすじ・ストーリー

クリスチャニア医院の子どもたち

クリスチャニア医院は、脳に​​問題がある青少年の治療と精神的なケアをする病院だ。ハシ、花(はな)、ハシが健忘症と呼ぶ名前も記憶も曖昧な超健忘症の青年、英雄(ひでお)、マリの5人は、それぞれ脳に問題を抱えてクリスチャニア医院に入院している。
主人公のハシは19歳と半年。新進気鋭の脳外科医・玉木健一郎(たまきけんいちろう)を主治医とし入院治療を受けていた。事故で脳に小さな破片が残り、思ったことをすべて口にしてしまう症状を持っている。嘘をつけないハシはしょっちゅうトラブルに巻き込まれ警察のお世話になる事も多かった。そんな時は主治医の玉木が迎えにゆく。ハシは玉木が自分たち患者をなんとかしたいと思い、人間として率直に接してくれる姿に信頼を寄せていた。
21歳の花は、脳に生じた疾患が原因で突如勝手にオーガズムが訪れてしまう。それは家族の前でも好きな人の前でも、場所を問わず起きて花は隠しておきたい事がつまびらかになってしまうのを止められずにいた。ハシが玉木と警察から戻ってきたこの日も、嘘をつけないハシに痴女と罵られ頬を叩いたら、ハシは手に持っているスケッチブックを落としたことも気づかず怒って部屋に帰ってしまった。スケッチブックには、『TOUKYOUKAIDOU』というタイトルのマンガが描かれていた。
花はハシが描いた『TOUKYOUKAIDOU』のあらすじを、自分をスーパーヒーローだと信じ込んでいる10歳の英雄に話す。すると、自分も学校で気味悪がられていたし、不死身で超人だし、死なないからと、ハシのマンガの主人公のハシが自分の事のようだと興味を示す。そんな英雄は、自分以外の人間を視認せず1人の世界にいる6歳のマリを気にかけていた。マリが見る人のいない世界が英雄には美しい宇宙に感じられていた。英雄は超人の自分がマリの世界に行ってあげようと、病院の屋上から飛び降りる。幸い子供の体の柔らかさと、植木や車がクッションとなり足や膝の骨折などはしたものの一命は取り留めたが、そんな状態でも英雄の脳は痛みを感じないのだった。

玉木の失踪とハシの決意

院長はハシに、ハシと非常に似ている疾病の患者が脳の異物を取り除くオペに成功して通常の生活を送っているという論文を読んだと話し、論文を書いたドクターとコンタクトをとったと言う。そして、そのドクターがハシの症状に興味を持ち治療をしたいと申し出ているとも。ハシの手術は命の危険が伴い、疾病前の元の状態に戻れる可能性は五分五分。最終的に手術をするかどうかを決めるのはハシ本人。こんな大切な判断を迫られている時に、主治医の玉木は失踪してしてしまう。玉木を信頼していたハシは、行方知らずの玉木のことを裏切り者と罵る。
その頃、失踪した玉木は元々持っていた女装癖が高じたのか女性の姿になっていた。そして、自分らしい本来の姿のままベラドンナという源氏名でショーパブでアルバイトをはじめようとしていた。玉木は性自認が曖昧な自分が、ハシたちの世界を疾患だと診てしまう事に疑問を感じており、人間の細胞の捉え所のなさを含めてこの曖昧な世界のどこかに、全てを包容する世界があるのではないかと考えていた。
玉木がショーパブで働いているとを知ったハシは、花と健忘症の3人で玉木が働いているというショーパブ・愛と秘密の美術館に向かう。定休日の店には、店の従業員に誘われて玉木が来ていた。店には玉木が思っていた以上に厄介でハードなSM部屋があった。そこに監禁された玉木はなんとか逃げ出すものの、通りに止めた自分の車に辿り着こうとした時に車に撥ねられて病院に運ばれてしまう。偶然、玉木を探してその場にいた妻も一緒に病院に付き添う事になる。その事故の現場の近くにはハシ達3人もいた。玉木が事故にあったとは知らず、健忘症はパトカーのサイレンで発作を起こし凶暴になり、その様子を収めようとハシは警察に罵詈雑言を浴びせた挙句2人はパトカーに押し込められた。そして、警察にはハシ達が入院するクリスチャニア医院の院長と同医院の警備員である二本木(にほんぎ)が迎えに来た。
ハシは、玉木を探しに行った時に花が健忘症が迷子にならないように手を握っていたのを見て、自分も花にふれたいと思っていた。花にふれるには頭の中のうざったいものを取り除くしかないと思い、脳に残った破片を取り除く手術を受ける決心をする。そして、その開頭手術には玉木に立ち会って欲しいと院長に頼む。玉木は事故で入院中だったが、ハシの手術には立ち会えるように最大限の努力をすると院長は約束する。結局ハシは手術中に命を落としてしまうが、命が尽きようとしている間際まで玉木に、身近な人々への愛と感謝を語る。そして、愛されたくてたまらなかった自分が今度は人を愛したいと言い命が尽きる。ハシのその言葉が本心なのか嘘なのか、嘘なら手術は成功したことになる。しかし、玉木はそんなことはどうでもよかった。

ハシのマンガ

1作目のハシのマンガのタイトルは『TOUKYOKAIDOU』。事故で死んだハシが妖怪になり墓場から家に帰ってくる。母の目には今までと変わらないハシなのだが、父親や学校では気味悪がられて人々を恐怖に陥れていた。そんなハシを救ったのが霊媒師たち。その中には英雄くらいの少女がいた。ハシのマンガを読んだ英雄は、マンガの主人公のハシを自分のようだと思い、ハシを救った霊媒師のように自分がマリを救いたいと思っていた。
2作目のハシのマンガは『超スピードで空を飛ぶペンギンとニワトリ』。1作目とは画風が変わり、生まれながらに空を飛べるペンギンの話になっていた。空を飛べるペンギンのスカイウォーカーは仲間のペンギンたちに、気持ちの悪い奇形だと言われていた。それでもスカイウォーカーは大氷山の向こうにある世界を目指して高速で飛ぶ練習をし、高速で空を飛べるようになる。そして、スカイウォーカーはマチという場所を目指して飛び立った。長い旅の途中でニワトリのブラッドウッドと出会い、一緒にやっとの思いで辿り着いたマチには何もなく、ただそびえ立つ渦の柱があった。スカイウォーカーはその柱が空の先のウチュウというところに繋がっていると確信し、渦の柱に飛び込んで飛べば希望の地に行けると思った。ブラッドウッドが止めるのも聞かず、今とは何か違う自分に変われると思い高速の壁を突き抜けてスカイウォーカーは飛んだ。キレイな星を見た瞬間、スカイウォーカーは高速で飛んだため燃え尽きてしまった。ブラッドウッドは、スカイウォーカーが寂しすぎると思った。あの柱みたいなものはどこかに繋がっているかもしれないし、どこにも繋がっていないかもしれない。スカイウォーカーの行動は勇気かもしれないが、皆がそのように生きたらこの世界は誰もいなくなってしまう。とにかく自分は帰ってトウモロコシを食べて眠って交尾して卵を産もうと思った。
ハシが亡くなった後、花はハシがいつか応募しようとしていた、DYSTOPIA出版のヤングブラックマンガ賞宛てに、ハシがマンガを描いていたスケッチブックとともに、原稿を送る。

『東京怪童』の登場人物・キャラクター

主要人物

ハシ

クリスチャニア医院に入院する患者、19歳と半年。
事故にあった時に小さな破片が脳に残存してしまったことが原因で、感じた事や思った事をすべて口にしてしまう症状を持つ。手術で残存している破片を全摘出すれば完治の可能性はなくもないのだが、その手術が成功しても元の状態に戻れるかどうかは五分五分。思った事をなんでも口にしてしまうので実生活ではトラブルに巻き込まれやすく、本人は病気のせいだと自覚しているため、人を傷つけたことで自分も傷つきトラブル相手に一方的に殴られてもされるがままだ。いつも持ち歩いているスケッチブックに自分が主人公のマンガを描いていて、そのマンガをいつか出版社の公募に送ろうと思っている。
自分や入院患者を人間として素直に接してくれる主治医の玉木を信頼し、同じ病院に入院している患者たちや病院スタッフのことも大切に思っている。

山田花(ヤマダハナ)

クリスチャニア医院に入院する患者、21歳になりたて。
大脳にできた疾患が原因で、場所や時を選べす人前でも突然オーガズムがやってきてしまう。その詳しいメカニズムは解明されておらず本人は抗うことができない。それ以外は、普通の優しい21歳の女性だ。自分の人生が疾患から逃れられないことで世の中の人間全てが自分のことを無視して欲しいと願い、それが無理ならせめて放っておいて欲しいと思っている。まわりの人が花を腫れ物にさわるように接する中、ハシだけは病気のせいもあり思った事をストレートに話してくれるので、ハシの毒舌に怒りながらも嬉しいと感じている。

シュチュワート英雄(しゅちゅわーとひでお)

クリスチャニア医院に入院する患者、10歳。
先天的に脳に疾患があり、幻聴、幻覚、妄想の症状がある。その上、自分にはスーパーパワーがあり神様や宇宙人とコンタクトできると思っており、痛みを感じないため怪我をしても気づかず不死身だとも思い込んでいる。同じ病院に入院している人間を認知せず自分ひとりの世界でいるのに、生き生きとした表情でいるマリが好きだ。そんな彼女の病状が悪化して完全に孤独な世界に行ってしまいそうなのを、とても気にかけ救いたいと願っている。
ハシが描くマンガが好きで、ハシのマンガ『TOKYOKAIDO』の主人公は自分自身だと信じて疑わない。

マリ

クリスチャニア医院に入院する患者、6歳。
脳に存在する何らかの障害で人間を認識しない。そこに人が存在していても選択的排除がなされ、脳はそれを見ようとはせず声も聞こえない。しかし、実世界の人は認識しなくても画面の中の人間は認知するので、映像を介しての会話や筆談で他者とのコミニュケーションをとっている。症状は徐々に悪化しており、視界の左半分や動くものも認識しなくなってきている。今までは自分が認識する世界で楽しんでいたマリだが、症状の悪化とともに強い孤独を感じるようになってきている。

健忘症(けんぼうしょう)

nancyrose7
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@nancyrose7

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