ちいさこべえ(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ちいさこべえ』とは、望月ミネタロウが2012年9月から2015年2月まで小学館『ウィークリービッグコミックスピリッツ』にて連載していた漫画。単行本は全4巻。原作は山本周五郎の同名の時代小説で、時代設定を現代に変更した翻案作品である。
舞台は東京「一の町」に古くからある大留工務店。一人息子である若棟梁の茂次が、鎌倉に泊まり込みで仕事に来ている最中に大留工務店が火事で焼け、棟梁である父と母がこの世を去る。残された茂次は、父の言葉を胸に大留工務店の再建に取り掛かる。

『ちいさこべえ』の概要

『ちいさこべえ』とは、望月ミネタロウが2012年9月から2015年2月まで小学館『ウィークリービッグコミックスピリッツ』にて連載していた漫画(単行本全4巻)。原作は山本周五郎の名作時代小説『ちいさこべ』で、現代に時代設定を変更し、望月ミネタロウワールド全開で描かれた翻案作品である。2013年に第17回文化庁メディア芸術祭漫画部門最優秀賞を受賞。この他、海外での評価も高い。
舞台は東京「一の町」に古くからある職人大工の「大留工務店」(だいどめこうむてん)。一人息子である若棟梁の茂次が、鎌倉に泊まり込みで出仕事に来ている時に大留工務店が火事で全焼する。この火事で茂次の父である大留工務店・棟梁の留造と、女将の母がこの世を去る。数ヶ月前から体調を崩し寝たり起きたりの状態だった父・留造は、もう現場は無理だと考え茂次に次の普請から「大留」の看板を背負ってもらいたいと告げていた。その普請の最中の火事である。傷心の茂次は、父が言った「どんなに時代が変わっても人に大切なものは、人情と、意地だぜ。」の言葉を胸に「大留」の再建に取り掛かる。幸い火事場から少し離れていた「大留」の自宅は火からまぬがれており、住み込みの作業員と、作業員の世話人として幼馴染のりつを雇い共同生活が始まる。しかし、りつが勝手にこの火事で焼けた町内の福祉施設の子供達を引き取っていた。意地っ張りで頑固者同士の茂次とりつと、行き場のない子供達との生活。大留工務店の再建を進めてゆく中で、人情と意地の大切さを感じながら新たに家族を作ってゆく物語である。

『ちいさこべえ』のあらすじ・ストーリー

火事のあと

東京にある大留工務店が火事で焼け、棟梁の留造(とめぞう)と女将さんが亡くなった。若棟梁として鎌倉にいた息子の茂次(しげじ)が戻ると、無事だった自宅屋敷では、焼け出された作業員や同じ境遇の福祉施設の子供達を幼馴染みのりつが面倒を見ていた。古参の弟子筋の横浜(よこはま)は葬儀や「大留」の再建について心配するが、茂次は自分の力でやるから放っておいてほしいと告げる。
翌日の朝、火事の跡地で「一の町信用金庫」一の町支店長の娘・福田ゆうこ(ふくだゆうこ)に出会う。しかしゆうこの家は融資してくれる信用金庫の支店長の家。茂次は福田家との付き合いを避ける決意を固める。

りつが引き取った子供達は問題児が多く、茂次は役所に頼るしかないと考えるが、りつは子供達を心配する。結局、子供達はそのままで、茂次は日々の仕事に追われていた。経理の夏子(なつこ)から横浜の手助けを受けてくれと頼まれたり、再三に及ぶ横浜の手助けの申し入れにも首を縦にふらない茂次。茂次は独自の力での再建を貫く決意だった。茂次はその足木場の材木問屋「和泉材木店」へ出向き、和泉社長(いずみしゃちょう)と交渉し、共に協力してもらう約束を取り付けた。

数日後、役所から福祉課のスタッフと福田が来訪し、子供達の世話の無茶さを指摘する。そして「保育士」と「幼稚園教諭」の資格を持っているゆうこが手伝う意向を示し、行政も茂次もこれを受け入れる。子供達もゆうこに懐き、問題がひと段落したように見えたが、茂次はりつが表面上だけ平静を装っていることを心配する。

ちいさこべのすがる

「大留」の内情は火の車だ。工務の焼け跡の前に佇む茂次を見た大は、数年前にふらっといなくなった茂次を思い出して不安になる。大丈夫かと聞く大に、茂次は「ちいさこべ」を知っているかと尋ねる。

日本書紀に出てくる「ちいさこべのすがる」とは、昔の天皇が側近の「すがる」に国内の「こ」を集めるように命じた話だ。「こ」とは蚕のことだが、すがるは「こ」を「子供」と勘違いし、たくさんの子供を集めて来た。それで天皇は大笑いして「ちいさこべのすがる」という名をつけたのだった。
ゆうこが茂次の様子を見て、「大留の家は「ちいさこべ」のようだ」と話し笑ったのだと、りつが茂次に話した。それで茂次は大に知っているか尋ねたのだった。大は茂次に「若棟梁はちいさこべのすがるにでもなるんですか」と言い、横浜の助け舟を断ったり、棟梁や女将さんの葬式を出さない事がどうにも納得がいかないと茂次に言う。
数日後、ゆうこに会った茂次が「ちいさこべのすがる」の話を聞いたことを話すと、ゆうこは話の続きを教えてくれた。その後、「すがる」は天皇の怒りを買い、無理難題を命じられ苦労の末に、沢山の子供達の面倒を見ながら責任を果たし、天皇との約束も果たした。だから、いろいろと大変な事もあるだろうけど、茂次ならきっと何とか出来ると思う、とゆうこは言う。茂次はゆうこの直接的に言わない励ましや優しさを感じ、いい女だと感謝する。

その日の夕方、茂次が帰宅すると、子供たちが逃げたとりつが慌てていた。昼間に一の町のこども福祉課の人が訪れたため、子供たちは連れて行かれると誤解したのだ。2人であちこち探し回るがなかなか見つからない。すると、ゆうこから子供達が信用金庫の前にいたので家に連れて来ていると連絡が入る。急いでゆうこの元に行ったが夜も遅く、子供達は一晩ゆうこの家で過ごすことになる。
翌朝、りつは子供たちを迎えに行ったが、帰り道にはいつもの冷静さを失い、子供達をぶってしまった。茂次が晩飯を食べている時、りつは迎えに行った時の出来事を話すが、彼女の気持ちは複雑だった。ホッとする反面、悔しい思いもしていたのだ。茂次は子供たちのことよりもりつの様子を気にし、ゆうこはどうだったかと尋ねる。数日前、子供達の誰かが「りつがいなくても、ゆうちゃんがいるからいい」と悪態をついていたのを聞き、りつの事を心配していたのだった。

無事に子供たちが帰ってきたが、りつは一番年上の菊次(きくじ)が常に自分を見ていることに気づいた。菊次は小学校高学年だと思っていたが、実際は中学生くらいで、学校に行っていない様子だった。その視線がいやらしく感じられ、りつは不快な思いを抱いていく。

意気地なしより、意地っ張り

普請が終わりかけていた「三の町」の現場が火事になった。損害の負担をしなければいけない「大留」にとって途方もない痛手だ。茂次は福田に今までの経緯を話し、商売としてケジメをつけて融資して欲しいと願い出る。
銀行からの融資が決まり、茂次は目の回るような日々を過ごしていた。現場から帰宅して疲れ果てていた茂次は、つんけんした態度のりつをつい叩いてしまう。りつがつんけんしていた理由は、茂次が両親の葬式は出さないのに、他人の法事の手伝いをしていた事だった。茂次は「大留」が再建するまでは両親の死を認めたくないのだと心の内を語り、お互いのわだかまりがとける。りつは経理の夏子から茂次が一の町信用金庫で融資を受けた時、福田から「それ相応の利息が付く」と言われて了承した話を聞いていた。夏子によると、その利息とはゆうこをお嫁にする事で、若棟梁も了解したと言っていた。そして、2人はお似合いだし子供達もなついているからゆうこが「大留」の女将になるのは自然な流れだと、周囲の人たちは思っているようだった。

一番小さなあっちゃんは、些細な事から怖い想像にとらわれていつも怖くて泣いている。りつはなんとかして楽しい想像が出来るようにと教えるが、なかなかうまく伝わらない。
それでも、りつなりに子供達のためにと、拙いながら伝えたいことを物語にして書き始める。

薄情者と人でなし

子供の一人、又吉(またきち)がスーパーで万引きをした。スーパーを経営している幼馴染の一徳(いちとく)は、親がいないからと子供達をクズ扱いする。茂次は、親や家がないだけで子供を警察に任せるなんてあまりにも人情がなさすぎる、と一徳を押し切った。
大泣きしながら謝る又吉に茂次は又吉をさとし、思いっきり尻をぶつ。又吉はもちろん、他の子供達全員の反省の号泣は夕食まで続いた。

茂次は、りつが「大留」に来た頃に何かいいたげにしていた言葉は、「あなたが あの子達の立場でなくてよかったわね。 薄情者、人でなし」だったのではないかとたずねる。りつは言いよどむが、茂次には「薄情者」「人でなし」と口に出さなかったりつの言葉こそが、父が病床で言った「意地」や「人情」の話より頭に響いていたのだった。一方、りつはそんな些細な事を茂次がよく覚えていたと感心する。
昔のことを思い出したりつは、茂次はゆうこよりも自分のことを好きなのではないかと思う。しかし、育ちも教養も器量もゆうこにまさる物は自分にはない。自分が出ていくのはあまり遠い未来ではないと考える。

ある時、りつが眠っている部屋に菊次がそっと入ってきた。りつは身構えるが、菊次は「お母ちゃん、おやすみなさい」と言い、部屋を出て行った。菊次はりつに母親を重ねて見ていただけだったのだ。
今まで菊次の事を勘違いしていたことを恥じたりつは、自分が子供達を預かるなんて間違っていたと茂次に泣きながら告げる。茂次は驚きながら、明日の朝にした方がもう少し冷静になれるんじゃないかと言う。りつは部屋に帰ったが、りつの様子から明日の朝にして良かったのかと思い返す。

重要な事

置き手紙を残してりつが出て行った。子供達は大慌てで周囲一帯を探すが、りつの姿はない。
りつは母親の墓に来ていた。お墓の掃除を終えてベンチに座り、おにぎりを入れたタッパを開いた時、目の前にと茂次が立った。茂次は、現場から逃げ出して別のところで働いているものの、上手くやれていない下っ端のクロの話を始める。大がクロを見つけた時に、クロは「一人前ってのはいつからなるんだ?誰が決めるんだよ?」と言ったのだと言う。茂次はいつ一人前になるかなんてわからないが、クロが仕事をした現場に行って下手なところは頭を下げて、こちらで直させてもらうしかないだろうと大に告げたと言う。
茂次は続けて、「俺だってまだ半人前だし、お前だってまだ二十歳やそこらだ。菊二の件のような思い違いも、お前が結婚して、子供を産んだり親になったりいろいろな経験をしたら、また違うふうに変わるんじゃねえか」と言い、さらに、学生の頃放浪の旅に出たが、最近になって自分1人で生きているのではないと分かってきたという話をした。そしてひどくもどかしく焦ったい言い方をした茂次は、りつにプロポーズした。

きれいなお嫁さん

本来なら喪中で非常識だということはわかっていたが、茂次は来年への願いを込めて新年を祝う事にした。
そして両親の一周忌も終え、いくつかの季節がすぎた頃。児童福祉施設は新しく建ったが、子供達は「大留」の家から学校に通っている。茂次は福祉課の人達と子供達の先行きについて話し合いを重ねており、まだ先の事はわからないが子供達は元気に過ごしている。
そして、茂次とりつは、「大留」の面々や子供達が見守る中、昔ながらの祝言をあげた。子供達が「大留」の家にきてまもない頃、あっちゃんが箱の中身がわからないから怖いと話した時に、りつがステキな想像をすればいいと言って、「箱の中にはきれいなお嫁さんがいる。」と言った事をあっちゃんは思い出して喜んでいた。
夜の宴が終わり、静けさが訪れる中、疲れた茂次が布団でうとうとすると、りつは静かに立ち、亡くなった大留の両親の仏壇の前で頭を下げ、「これからどうぞよろしくお願いします」と小声で語りかけた。その言葉は、かすかに茂次の耳にも届いていた。

『ちいさこべえ』の登場人物・キャラクター

主人公

茂次(しげじ)

東京一の町にある、昔ながらの職人大工「大留工務店」の一人息子。26歳。
世襲制の「大留」に育ち、幼い頃から家を継ぐことが当たり前と父に仕込まれた。そして、有名大学の建築科を卒業した。父の元で働くうちに、重要な事は外の世界にあるのではないかと思い、たくさんの世界遺産を回る放浪の旅に出た。そこで今まで1人で生きていると思い上がっていた自分に気づく。その後再び、「大留」の若棟梁として働き出すが、父が体調を崩し寝たり起きたりの状態になる。病床で父から「大留」の看板を背負って次の普請から棟梁として皆をひっぱれと言われる。その普請の最中に「大留工務店」が火事で焼け、両親が亡くなた。茂次は、「大留工務店」の立て直しに奔走するが、若い衆の面倒を見させるために雇ったりつが、火事で焼けた児童福祉施設の悪ガキ5人を勝手に預かり、さらに問題が増える。

りつ

子供の頃から一の町に住んでおり茂次とは幼馴染。20歳。
病弱な母親の治療費のために隣町のキャバクラに勤めていたが、母親が亡くなったので一の町に帰ってきた。「大留工務店」が火事になった時に、焼け出された若い作業員の世話人を探す大に、自分が育った町で家政婦として皆の食事のこしらえや、身の回りの世話を引き受けたいと言い、「大留」の家で皆の世話をするために雇われる。
同じ火事で焼け出された児童福祉施設の子供達を見かねて、勝手に「大留」の家に引き取ってしまう。とても意地っ張りで頑固な性格で、子供の頃に本ばかり読んで相手にしてくれない茂次に、ちょっかいを出しぶたれた事がある。子供の頃からずっと茂次の事が好きである。

茂次の両親

ろすもち
ろすもち
@rosumochi

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