ウォンカとチョコレート工場のはじまり(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』とは、2023年12月に公開されたミュージカル・ファンタジー・コメディ映画である。
ウィリー・ウォンカの若かりし日の冒険の物語であり、夢と挫折、友情が甘くもほろ苦く描かれている。
1964年に出版され、映画化もされているロアルド・ダールの小説『チャーリーとチョコレート工場』の原点を描いた作品である。
ティモシー・シャラメが主演であるウォンカ役を演じ、ワーナー・ブラザース・ピクチャーズによって公開され、2023年の興行収入第8位の映画となった。

ウィリー・ウォンカ役は、ティモシー・シャラメとトム・ホランドが有力候補であった。2人の見た目や雰囲気には何か近いものがある。トム・ホランドは、『スパイダーマン』を演じたイメージが強いが、9歳の頃からダンスをしておりミュージカル向きの俳優でもあった。その他にも、ライアン・ゴズリング(『ラ・ラ・ランド』主演)なども候補であった時期もあり、いかにミュージカル性を重要視している映画であるかということが分かる。
脚本・監督を務めたポール・キングは、『君の名前で僕を呼んで』(2017年)や『レディ・バード』(2017年)でのティモシー・シャラメの演技に感銘を受けており、YouTubeで高校時代のティモシー・シャラメによるパフォーマンスを見た後、オーディションなしでウォンカ役に配役することを決定した。
映画の評価には、ティモシー・シャラメの演技に対する高評価が多く、ゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門の主演男優賞にもノミネートされたことから、キャスティングは大成功したといえる。

小人症コニュニティからの反発を招いたウンパルンパのキャスティング

ティモシー・シャラメのキャスティング成功例だけではなく、キャスティングにおいて批判を受けた点もある。
これまで、1971年と2005年の『チャーリーとチョコレート工場』ではウンパルンパ役には小人症の俳優が起用されていた。今作では初めてウンパルンパ役に小人症の俳優を起用せず、ヒュー・グラントを抜擢したことで小人症のコニュニティから反発を受けた。
ヒュー・グラントはかつて『ブリジットジョーンズの日記』などで大ブレイクし、ラブコメの王子様として認識されている超二枚目俳優であった。プライベートでのスキャンダルなどもありラブコメの王子様を演じることが難しくなってからは、二枚目俳優としてだけではなく、様々な役柄に挑戦していた。
ヒュー・グラントをウンパルンパ役に抜擢するにあたり、ポール・キングは「ウンパルンパの皮肉で、残酷で、面白く、しかし邪悪な声のイメージが、ちょっとヒューに似ていると思った」と語った。皮肉めいた演技は、ヒュー・グラントが俳優を続ける上で獲得した新たなイメージと言える。また、イギリス訛りの英語と特徴的な声も個性を際立たせている。
実際には、ヒュー・グラントはラブコメの王子様とは違う新たな一面を見せつけ、最終的には演技も評価を受けた。

続編製作に意欲的なポール・キング

ウォンカとポール・キング

本作で脚本・監督を務めたポール・キングは、Total Filmのインタビューに対し「I would definitely like to do more. And I'd like to spend more time in this world, and meet some more Oompa Loompas.(絶対にもっとやりたいね。このウォンカの世界でもっと時間を過ごして、そしてもっとウンパルンパに会いたいね)」と語り、続編製作への意欲を覗かせた。

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の主題歌・挿入歌

『A Hatful of Dreams』

『A Hatful of Dreams』は、お金はないけど自慢のチョコレートと帽子いっぱいの夢があるというフレーズが印象的なサウンドトラックである。
ウォンカはソブリン銀貨(イギリス硬貨)12枚を持ちイギリスに上陸し、ギャラリーグルメ(有名チョコレート店が軒を連ねるショッピングストリート)に向かう。途中、幼い靴磨き職人に捕まり半ば無理やり靴を磨かれ、お金を要求される。
ギャラリーグルメに到着したウォンカは『A Hatful of Dreams』に合わせ歌って踊っており、居合わせた人々もウォンカと一緒に踊る。しかし、それは空想の世界であることに気づき、目の前には警察官が立っている。警察官はウォンカに「空想の罰金」と言い、罰金を要求する。
現実の世界に戻り、『A Hatful of Dreams』は静かなトーンに変わる。そして、ウォンカはお赤ちゃんを抱いたホームレスの母親に出会う。母親は「どこかに泊まるためのお金がない。」とウォンカに話し、ウォンカは「好きなだけ持って行って。」と持っているソブリン銀貨を差し出す。母親が去った後、残ったソブリン銀貨はたった1枚になった。
ウォンカはその1枚のソブリン銀貨をコイン投げのように飛ばしポケットに入れるが、ポケットが破れておりソブリン銀貨はポケット内をすり抜け地下の用水路に落ちてしまう。
一文無しになったウォンカは悲しそうな顔をするが、「A Hatful of Dreams(帽子いっぱいの夢がある)」と口ずさみ微笑む。

『You've Never Had Chocolate Like This (Hoverchocs)』

『You've Never Had Chocolate Like This (Hoverchocs)』は、こんなチョコレート見たことないでしょ?みんなを驚かせることができるのはウォンカのチョコレートだけという内容が歌われているサウンドトラックである。
ギャラリーグルメの空き店舗の前でウォンカは『You've Never Had Chocolate Like This (Hoverchocs)』を歌いながらホバーチョコを紹介し始める。人々が集まり、付近の有名チョコレート店のショコラティエ達も騒ぎを聞きつける。
ウォンカがチョコレートの入った瓶のふたを開けると中からチョコレートが飛び出し、有名ショコラティエは飲み物を吹き出し驚く。たまたまギャラリーグルメを通りかかったヌードルも目撃し目をキラキラさせる。ホバーチョコは有名ショコラティエ3人から「チョコレートはシンプルであるべきだ」などと批判を受けるが、チョコレートを食べた彼らが宙に浮かぶ姿を見た人々が次々にホバーチョコを欲しがり完売した。

『Scrub Scrub』

『Scrub Scrub』は、スクラビンの宿の宿泊者たちが仕事中に歌っていたサウンドトラックである。Scrub Scrubは日本語ではゴシゴシという意味のオノマトペであり、洗濯物をゴシゴシと洗う様子を表現している。このサウンドトラックでは契約書を読まずにサインした後悔と、クリーニング店での仕事のつらさが歌われているが、コミカルな曲調となっている。

『Sweet Tooth』

『Sweet Tooth』は、警察署長を買収しようとした際にチョコレート・カルテルが歌っていたサウンドトラックである。Sweet Toothは日本語では甘党という意味である。警察署長は「妻に痩せると約束した」などと断るが、ショコラティエ3人はなんとか警察署長とまるめ込もうと交渉する。100箱、700箱チョコレートではウォンカを脅迫することは断ったが、1800箱のチョコレートの誘惑には負けてしまい、警察署長はチョコレート・カルテルと再び取引をする。

『For a Moment』

『For a Moment』は、束の間の幸せについてヌードルにより歌われているサウンドトラックである。ウォンカも曲に加わり踊り出す。2人は走り出し、大量の風船を手に取り2人は宙に浮かぶ。動物園にいたフラミンゴも2人に続き飛び立ち、ギャラリーグルメまで飛んできた2人は屋根で踊る様子が非常に美しい映像となっている。

『You've Never Had Chocolate Like This』

Kyoka_Nakano
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@Kyoka_Nakano

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