ヘアスプレー（2007年の映画）のネタバレ解説・考察まとめ

『ヘアスプレー』の概要

『ヘアスプレー』とは、2007年にアメリカ・イギリスで制作され、公開されたミュージカル・コメディ映画である。元はジョン・ウォーターズ監督・脚本で1988年に公開されたアメリカのミュージカル映画で、根強いファンを持つこの作品を原作に2002年にブロードウェイでミュージカルが上演された。ミュージカルはトニー賞においてミュージカル作品賞を含む8部門を受賞した。本作は、このミュージカル版を映画化したものである。
舞台は黒人差別の風潮が色濃く残る1960年代初頭のアメリカ・ボルチモア。高校生のトレイシー・ターンブラッドと親友のペニー・ピングルトンは、地元の10代向け人気TV番組『コーニー・コリンズ・ショー』に夢中になっていた。番組に出演して憧れの人気ダンサー、リンク・ラーキンと踊るのを夢見るトレイシーは、番組の新メンバーのオーディションが開かれることを知る。これをきっかけに黒人生徒たちと知り合い、打ち解けたトレイシーは『コーニー・コリンズ・ショー』への出演を勝ち取り、人気者になる一方で、いまだ根強く残る人種差別を目の当たりにする。人種差別やマイノリティへの様々な差別と出会い、乗り越えていくトレイシーと仲間たちをミュージカルで描く青春映画作品である。
主人公・トレイシーの母親役を、ジョン・トラボルタが特殊メイクで女装して演じている。
製作費7,500万ドルで、世界中で興行収入2億ドルをあげるヒットとなった。

『ヘアスプレー』のあらすじ・ストーリー

『コーニー・コリンズ・ショー』のオーデション

1962年、黒人差別の風潮がいまだ色濃く残るアメリカ合衆国ボルチモア。ダンスとおしゃれが大好きな16歳のトレイシー・ターンブラッドは、かなり太めの女の子。親友のペニー・ピングルトンと共にティーンに人気のテレビ番組『コーニー・コリンズ・ショー』に夢中で、いつか自分も出演して憧れのダンサーであるリンク・ラーキンと踊ることを夢見ていた。

ある日、番組の出演者に欠員が出て、新メンバーのオーディションが開かれることになった。夢を実現するチャンスを知ったトレイシーはオーディションを受けたいと両親に伝えるが、母のエドナ・ターンブラッドは体型のことでトレイシーが傷つくのではないかと思い、オーディションの参加に反対する。母からの意外な反対により、気落ちするトレイシーだったが、父のウィルバー・ターンブラッドから激励され、気を取り直してオーディションに挑戦するのだった。
意気揚々とオーディション会場にやってきたトレイシー。しかし、番組プロデューサーのヴェルマ・フォン・タッスルはトレイシーの容姿が気に入らず、オーディションではろくに踊らせてもらえなかった。結局、「背が低くて太っている」「発言が過激」という理由で、トレイシーはオーディションを落とされてしまうのだった。

オーディションのために授業に遅刻したトレイシーは、教師から居残りを命じられる。居残り教室に向かったトレイシー。そこでは、普段は一緒に授業を受けることのない黒人の生徒たちが踊っていた。華麗なステップで楽しそうに踊る彼らを見たトレイシーは、躊躇することなく輪の中に入る。すぐに皆と打ち解け、仲良くなったシーウィード・スタッブスからR&Bのステップを教えてもらうのだった。これを同じ高校に通うリンクが目撃し、トレイシーを『コーニー・コリンズ・ショー』の司会者であるコーニー・コリンズが主催するダンスパーティーに招待する。憧れのリンクから誘われ、トレイシーは有頂天だった。翌日、このパーティーでトレイシーがダンスを披露すると、コーニーは彼女のダンスを気に入って番組にスカウトしたのだ。ついにトレイシーは憧れの『コーニー・コリンズ・ショー』に出ることになった。

『コーニー・コリンズ・ショー』への出演

『コーニー・コリンズ・ショー』に出演すると、トレイシーのパワフルでエネルギッシュな歌とダンスは注目を浴び、彼女はすぐに人気者になった。おかげで番組スポンサーの商品であるヘアスプレーの売り上げが伸び、スポンサーは喜ぶ。最初は反対していたエドナだったが、活躍する娘の姿を見て応援するようになった。
一方、トレイシーの親友のペニーは、トレイシーを通じてシーウィードと知り合う。ペニーはシーウィードの優しさとダンスの才能に惹かれるようになり、やがて2人は恋に落ちるのだった。

オーダーメイドの用品店を経営するミスター・ピンキーが、イメージキャラクターにトレイシーを起用する。これを機にトレイシーはエドナにエージェントを依頼するが、自らの肥満を恥じ、これまで家に引きこもりがちだったエドナは外に出たがらない。トレイシーの説得を受けて思い切って外に出てみたエドナは、ミスター・ピンキーと対面し、エドナも共にイメージキャラクターを務めることになった。

『コーニー・コリンズ・ショー』のスター・ダンサーであるアンバー・フォン・タッスルは、これまで3年連続で選ばれてきた「ミス・ヘアスプレー」の座をトレイシーに奪われるのを恐れ、母のヴェルマと共にトレイシーを番組から追い出そうと画策する。アンバーはトレイシーと急速に接近するリンクを自分のものにしようとしたり、ヴェルマはトレイシーの父・ウィルバーを誘惑しようとしたりするが、いずれもうまくいかなかった。

人種差別廃止を訴えデモを実施

『コーニー・コリンズ・ショー』には、月に1度だけ黒人が出演できる「ブラック・デー」がある。
ブラック・デーの司会は、シーウィードの母親である“モーターマウス” メイベル・スタッブスが務めていた。トレイシーとペニー、リンクは、モーターやモーターの娘でシーウィードの妹のアイネス・スタッブスとも打ち解ける。その中でペニーはシーウィードに惹かれ、トレイシーとリンクの仲も近づくのだった。

トレイシーは黒人の友人たちができたことで、黒人文化に魅了され、影響を受ける。その気持ちが高まり、番組出演時に「すべての放送回を”ブラック・デー”にしたい！」と叫んだことに刺激を受けたコーニーは、番組プロデューサーのヴェルマに差別の廃止を提案する。しかしヴェルマは聞く耳を持たず、逆にブラック・デーを廃止してしまった。
モーターたちは気落ちするが、トレイシーの提案で反対デモを行うことになる。トレイシーはリンクにも参加を勧めるが、リンクは番組から降ろされるのを恐れて拒否するのだった。

デモの当日、デモ隊がテレビ局までたどり着くと、待ち構えていた警官隊ともみ合いになってしまう。その場から逃げたトレイシーは、なんと警察から追われる身となってしまった。
トレイシーはペニーにかくまってもらうが、彼女の母親にばれてしまう。敬虔なキリスト教徒で厳格なペニーの母は激怒し、トレイシーとペニーをそれぞれ別の場所に軟禁する。これをシーウィードが助け出したことで、ペニーとシーウィードはますます惹かれ合うようになった。

一方、ニュースでトレイシーが追われていることを知ったリンクは、心配になり彼女の家へと駆けつける。追われる身となったトレイシーは不在だったが、デモへの参加を断った自分の無力さを恥じ、トレイシーの勇気ある行動に刺激され、影響を受けたことに気づいた彼は、トレイシーへの愛を確信する。

ミス・ヘアスプレーコンテストの開催

そんな中で迎えた「ミス・ヘアスプレー」を決めるコンテストの当日。ヴェルマはテレビ局に大勢の警備員を配備し、トレイシーがコンテストに参加できないように画策する。しかしトレイシーは、両親や仲間たちの協力を得て警備員の目をかいくぐり、コンテスト会場に潜り込むことに成功した。

そしてトレイシーはコンテストで歌とダンスを披露。彼女の圧倒的なパフォーマンスを目にした人々は熱狂する。これに危機を覚えたヴェルマはトレイシーを会場から追い出し、娘のアンバーが優勝するようコンテストの投票数を操作しようとする。しかし、トレイシーの仲間たちに妨害され、計画は失敗に終わった。
やがて、リンクに誘われたアイネスが飛び入りでコンテストに参加すると、その愛らしいパフォーマンスに会場の熱気は最高潮となる。「ミス・ヘアスプレー」の投票はアイネスに票が殺到し、トレイシーでもアンバーでもなく、アイリスが新しい「ミス・ヘアスプレー」となった。

ペニーはシーウィードと踊りながら、カメラの前で「私の彼氏は黒人よ」と叫び、2人はキスを交わした。テレビでコンテストを見ていた母・プル―ディーは娘の姿を見てショックを受け、ひっくり返るのだった。
会場はさらに盛り上がり、黒人と白人が入り乱れて踊るミックスダンスとなる。ヴェルマは自分の思い通りにならないことに苛立ちを隠すことができず、コーニーに止めるよう促す。しかしコーニーは「止められない。これが未来だ」と毅然と言い放ったのだ。そしてカメラに向かって、番組から永久に人種差別を撤廃することを宣言する。
舞台では人種は関係なく、皆それぞれが得意のダンスを披露する。大盛り上がりの中、トレイシーとリンクは見つめ合い、キスを交わすのだった。

『ヘアスプレー』の登場人物・キャラクター

主人公

トレイシー・ターンブラッド （演：ニッキー・ブロンスキー）

日本語吹き替え：渕崎ゆり子
ダンスとおしゃれが大好きな16歳の女の子。太っているが、楽天的で体形など気にしない天真爛漫な性格。人気のテレビ番組『コーニー・コリンズ・ショー』に夢中で、いつか自分も出演したいと夢見ていた。
『コーニー・コリンズ・ショー』のオーディションを受けるが、体型を理由に落選。オーディションを受けるために遅刻したため居残り授業を受けるが、そこでシーウィードら黒人の生徒たちと出会い、ダンスを教えてもらう。
やがてそのダンスがコーニーの目にとまり、『コーニー・コリンズ・ショー』に出演する夢がかなう。
番組に出演したことで一躍人気者になる。しかし、番組から「ブラック・デー」が廃止されたことに対し、デモをすることを提案。自身も参加したことで追われる身となる。その勇気ある行動はリンクを始め周りを刺激し、影響を与えていく。
やがて追跡をかいくぐり、念願の「ミス・ヘアスプレー」を選ぶコンテストに挑む。

ターンブラッド家

エドナ・ターンブラッド （演：ジョン・トラボルタ）

日本語吹き替え：山寺宏一
トレイシーの優しい母。クリーニング店を営む。太っている自分を恥じており、引きこもり気味。トレイシーが『コーニー・コリンズ・ショー』のオーディションを受けたいと言うと、体型のことでトレイシーが傷つくのではないかと心配し、反対する。
やがてトレイシーの影響を受け、外の世界へも目を向けるようになる。

ウィルバー・ターンブラッド（演：クリストファー・ウォーケン）

日本語吹き替え：堀勝之祐
トレイシーの理解ある父。『コーニー・コリンズ・ショー』のオーディション参加をエドナに反対されて落ち込むトレイシーを励ますなど、常に彼女を応援する。
妻のエドナへの愛は深く、トレイシーを陥れるために言い寄ってきたヴェルマにもなびかなかった。