最強のふたり（映画）のネタバレ解説・考察まとめ

『最強のふたり』の概要

『最強のふたり』とは、2011年にフランスで公開された、実話をもとに作られたヒューマンヒストリー映画である。パラグライダーの事故による頸髄損傷で首から下が麻痺してしまった大富豪の男フィリップと、その介護人として雇われた、スラム街出身の移民の黒人青年ドリスとの交流を描いた作品である。
まったく共通点のない2人が衝突しながらも次第にお互いへ理解を深めていき、友情を育んでいく様子がコミカルに描かれていく。

無職の青年ドリスはとある豪邸で介護人の面接を受けるが、はなから働く気などなく、就職活動をした証明書のサインをもらうためだけにやって来た。それは3件不採用になると失業手当が受け取れるからであった。その面接を行ったのがフィリップと秘書のマガリーである。マガリーを口説こうとしたり、フィリップを小馬鹿にするような態度をとるドリスをフィリップは気に入り、「明日9時に来なさい。書類にサインしておく」と伝える。
翌日、書類を受け取るため昨日の場所に向かったドリスは、迎え入れられたフィリップの助手に屋敷を案内される。何も分からないまま豪華な一室に案内されたドリスはフィリップの元へ連れて行かれ、「君に1ヶ月の試用期間を与えたい」とフィリップから提案される。思いがけない言葉に黙って書類だけ受け取り部屋を出るドリスだったが、翌日から住み込みで働くこととなった。

とことん正反対で共通点がまるでない2人は、始めの内は反発し噛み合わないものの、まるで足りないものを補い合うかのようにお互いの文化や趣味を共有し合うようになる。ドリスはフィリップに影響され芸術に造詣を深め、フィリップはドリスに影響され下ネタという名のユーモアを覚えていく。育ってきた環境や立場が違っていても絆を深め合えたのは、お互いに「偏見」がまったくないからであった。
シリアスなテーマでありながらパセティックな展開はなく、障害者と健常者の日常がコミカルに展開される。

監督・脚本は、フランスの2人組監督のエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュが担当している。
フィリップを『唇を閉ざせ』のフランソワ・クリュゼ、ドリスを『ショコラ〜君がいて、僕がいる〜』のオマール・シーが演じ、本作はフランスでの歴代観客動員数で3位の大ヒット作となった。
2001年に公開され大ヒットとなった『アメリ』の日本国内動員数103万8763名を、本作は公開63日目で超えており、動員数131万1452名で興行収入が16億円を突破する。日本で公開されたフランス語映画の中で歴代1位と輝いた。

『最強のふたり』のあらすじ・ストーリー

フィリップとドリスの出会い

大豪邸の廊下に何人もの人達がスーツでいる中、デニムにジャンパーの黒人の青年ドリスは明らかに浮いていた。この豪邸に住むフィリップの介護人の面接だった。
面接を行う部屋には秘書のマガリーと車椅子に乗ったフィリップがいる。ドリスは順番を待ちきれずに、勝手に部屋に入って行く。書類を机に置き、「これにサインしてくれ」と言うドリス。ドリスの態度に驚くフィリップとマガリー。
マガリーが座るように促すが、ドリスは座ろうとしない。質問に対して的外れな答えとドリスの態度に戸惑うマガリーとフィリップ。フィリップは話を変えて「書類とは？」と尋ねる。ドリスは書類を広げ、不採用にしてくれと答える。
ドリスは働く気などなく、就職活動の証明が欲しかった。3件で失業保険が出るからだ。フィリップは「すぐにはできない」と答え、サインをしておくので明日9時に来るように言う。

ドリスはスラム街出身の移民で、たくさんの妹や弟と暮らしている。母親の帰りを待つドリス。母親が帰宅し、ドリスは「やるよ」と言って卵の形をしたオーナメントのようなものをテーブルに置く。しかし母親は、連絡もよこさずに居なくなったり帰ってきたりするドリスに、うんざりしている様子だった。そしてドリスの他にもいる子どもたちのために、もうここには帰ってこないでと言う。黙って出ていくドリス。その後、母親は静かに泣いていた。
ドリスは実の息子ではなかった。ドリス以外は全員本当の子供だったため、母親は複雑な思いを抱えていた。

行くあてのないドリスは、夜通し悪友たちと過ごす。夜が明け、書類を受け取るためにフィリップの元へ向かった。
フィリップの家につくと、助手のイヴォンヌに屋敷を案内される。イヴォンヌはドリスを新しい介護人として接し、必要なことを説明している。ドリス専用の部屋もあてがわれた。
その部屋の奥のバスルームを抜けると、フィリップがベッドに寝てケアを受けていた。ドリスに気づいたフィリップは、書類にサインしたことを伝えた。書類を手に部屋を出ようとするドリスに、声をかけるフィリップ。そして「君に1ヶ月の試用期間を与えたいんだが、どうだ？」と提案される。

思いがけない言葉に訝しげるも、ドリスは黙って部屋を出た。

フィリップの介護人として働くドリス

翌日、住み込みで働くことを決めフィリップの元にやってくるドリス。介護士のマルセルから介護の説明を受ける。ドリスはストッキングを履かせることに抵抗を覚えたり、便をかき出すことを拒否したりと前途多難だ。

夜、ドリスが屋上で食事していると、フィリップの1人娘であるエリザと恋人のバスティアンが屋上にやってくる。二人はドリスに気付かずキスを始めるが、ドリスは揶揄して追い払う。

フィリップに確認しながら郵便物を仕分けているドリス。マッサージの広告のハガキを手に取ったドリスは、「風俗ファイル作る？」と笑う。

絵画を見に来たフィリップ。ドリスは値段に驚愕し呆れる様子。そんなドリスにフィリップは、人が芸術に惹かれる理由を尋ねる。ドリスが商売になると答えるが、フィリップは「地上に残せる唯一の足跡だから」と正す。

アントニーという友人に呼び出され、カフェで落ち合うフィリップ。ドリスはその間外で待っていた。アントニーはドリスに対して不信感を抱いていて、フィリップを心配していた。しかしフィリップは、気にしていなかった。フィリップはドリスが自分に同情しておらず、情けをかけていないことを気に入っていた。それを聞いたアントニーは、少しの間フィリップを見つめるが「それならいい」と言う。

フィリップの過去

夜中、眠っていたドリスは赤ちゃん用モニターから聞こえてくるフィリップの苦しそうな呼吸で目が覚める。無視しようとしたが、一向に治まらなかったため駆けつける。苦しそうなフィリップに、ドリスは優しく声をかけ落ち着かせる。次第に呼吸が落ち着くが、傍で見守るドリス。再び発作を起こしたフィリップは「空気を」と苦しそうに囁く。ドリスはフィリップを車椅子に座らせ、急いで外に出る。
「空気が気持ちいい」。フィリップはドリスに車椅子を押されながら言う。発作について聞くドリス。フィリップは幻想痛と言われるもので薬も効かず、感覚がないのに苦しいと答える。少し怒りをにじませるドリス。

二人はカフェに入った。フィリップは自身の過去のことを語り始めた。妻のアリスをとても愛していたこと、妊娠した妻が5回続けて流産したこと。アリスは不治の病に侵されていた。そのため養子をとったこと。涙ぐみながらフィリップは話す。

そして頸椎を損傷し下半身不随になった経緯を話し始めた。フィリップは、パラグライダーが好きだった。パラグライダーは天気が悪いとできないが、フィリップはやった。不治の病に苦しむ妻と繋がりたい思いでやり、結果頸椎をやられ頭以外は麻痺。障害になったが、それよりも妻が居ないことがフィリップにとっては辛かった。

フィリップは話題を変え、日付を確認する。その日はドリスの試用期間が終わる日だった。本採用に嬉しそうなドリス。フィリップが「信頼してもいいか？」と聞くと、「もちろん」と答えるドリス。するとフィリップは「ファベルジェの卵を返してくれ」と言った。ドリスは息を呑んだ。ドリスが盗み、母親に渡したものだった。それはアリスがフィリップに25年間毎年1個送っていた大切な品であった。しかしドリスは、盗んだことを言わずにとぼけた。

フィリップの文通相手

フィリップが文通相手のエレノアに出す手紙の文章を読み上げ、マガリーが書き取っている。ドリスは手紙がつまらないと口を挟む。相手の顔も知らずに半年間手紙だけのフィリップに驚くドリス。するとドリスは電話番号を探し出し、勝手に電話をかけ始める。フィリップはムキになって通話を拒否するが、しつこいドリスに負けて戸惑いながら通話を始める。これがきっかけでフィリップとエレノアの電話での交流が始まった。

フィリップはその少しの間でもエレノアと電話していた。ドリスは、もう一歩先に進むために写真交換を勧める。
エレノアに送る写真を選んでいるドリス。フィリップは障害を明かすことにまだ抵抗がある様子だ。踏み切れないフィリップをドリスは後押しする。送ることを決心するフィリップだが、どこか複雑な表情を浮かべていた。

ドリスが自室で絵を描いていると、フィリップの娘エリザがノックもせずに入ってくる。絵を描くドリスを見て馬鹿にするエリザ。苛立ったドリスはエリザを追い払う。

ドリスが選んだ写真と事故前の写真を入れ替えるよう、イヴォンヌに頼むフィリップ。ドリスには内緒のようだ。そこに突然ドリスが入ってくる。イヴォンヌはとっさに「風俗ファイル」に最初の写真を隠す。ドリスはエリザのことを躾けてくれとフィリップに頼みに来た。ドリスは絵を描いていて馬鹿にされたことを話し、エリザの人を見下す態度が問題だと訴える。ドリスの話を聞きながらイヴォンヌも小さく何度もうなずいていた。ドリスの訴えにフィリップは自ら話すと答える。落ち着きを取り戻したドリスは部屋を出ていく。しかしフィリップは、エリザのことよりドリスの絵のことが気になっていた。

友情を育むフィリップとドリス

絵を書くことに興味を持ったドリスは夜な夜な楽しそうに絵を描いていた。
だいぶ慣れた手付きで介護出来るようになったドリス。嫌がっていた便の処理もやるようになった。ドリスは充実した日々を送っていた。

ドリスの完成した絵は、フィリップの想像以上の出来栄えだった。「いくらで売れると思う？」と聞くドリスに、真剣に鑑賞しながら「検討しよう」と答えた。
二人は改造した電動車椅子で走り回ったり、一緒にマッサージに行ったりと、色んなことを共に経験していった。

毎年行われるフィリップの誕生日会が今年も開かれようとしていた。フィリップにとっては退屈な会のようだ。誕生日会当日、大広間でクラシック演奏会が開かれていた。
フィリップは友人のアントニーにドリスの絵を見せ、売ろうとしている。アントニーは感心しながら迷っている様子だ。無名の画家と嘯きアントニーを迷わせ、フィリップはおかしそうに微笑んでいた。

演奏会は、ドリスの流した音楽に合わせてみんなが自然と踊り始め、楽しそうな様子だ。それを満面の笑みでフィリップは見ていた。

その日の夜、ドリスはエレノアから返事が来たことをフィリップに告げた。手紙を開封し、エレノアの姿を初めて見るフィリップ。どうやらブスではないようだ。手紙には「来週パリに少し寄る予定です。電話くれたら…」とメモ書きも同封されていた。嬉しそうなフィリップとドリス。

エレノアとの待ち合わせのカフェにいるフィリップとイヴォンヌ。フィリップはしきりに時間を気にして、落ち着かない様子だ。ドリスはその間、母親の職場の前まで来ていた。仕事をしている母親を、車の中から眺めるドリス。するとフィリップから電話がかかってくる。フィリップは障害を知られることに怖気づいて逃げ出したかった。ドリスはそんなフィリップを受け入れ、迎えに行く。フィリップがカフェを出ると、すれ違うようにエレノアがカフェに入ってきた。

自家用ジェットに乗り込むフィリップとドリス。ドリスはどことなく嬉しそうな様子だった。するとフィリップはスタッフを呼び、プレゼントのような包を持ってこさせ、それをドリスに渡す。包みの中には札束があり、ドリスは驚く。札束はドリスの絵が売れてえたお金で、フィリップはドリスを褒め続けるように言う。上機嫌になったドリスと嬉しそうなフィリップであった。

夜が明ける朝になると、フィリップとドリスは丘の頂上でパラグライダーを眺めていた。フィリップが一足先に、インストラクターと宙に舞う。ドリスは怯えてやりたくないようだが、半ば無理やり飛ばされてしまう。悲鳴を上げるドリスだが、次第に爽快感に包まれ楽しそうにはしゃいだ。フィリップとドリスは笑顔で顔を見合わせながら、大空を飛び回っていた。

家族の元へ帰るドリス

上機嫌の二人が帰宅すると、怪我を負ったドリスの弟のアダマが訪ねてきた。怪我や何があったのかを聞くドリスだが、強がって話そうとしないアダマ。妹のミナに電話をして、状況を確認するドリス。その様子をフィリップは見つめていた。

フィリップはドリスが部屋に入ってくると、弟によく似ていることを言う。そこからドリスは、ゆっくりと家のことを話し始めた。養子に入ったので親は実の親じゃないこと、本名が「バカリ」ということ。複雑な家庭環境について話した。涙ぐむドリスをフィリップは気遣った。ドリスに家族の元へ帰るように促す。ドリスは涙をこらえながら、フィリップを見つめていた。

出ていくドリスを玄関で待っていたイヴォンヌ。最後の言葉を交わし笑顔で見送るイヴォンヌだが、何かを思い出しドリスを呼び止める。そしてドリスが作った風俗ファイルを手渡す。
ドリスが去っていく様子を部屋から眺めていたフィリップは、深い溜め息をついていた。
イヴォンヌから受け取ったファイルを開けるドリス。すると送ったと思っていた車椅子に乗ったフィリップの写真が入っていた。その写真をドリスはじっと見つめていた。

ドリスが去ってから、フィリップは退屈な日々を過ごしていた。新しい介護人とは会話も少なく、馬が合わないようだ。
その頃ドリスは、アダマのトラブルの原因であろう男たちの元へ行っていた。穏やかじゃない様子ながらも決着が着いた様子を、アダマは遠くから見つめていた。

フィリップの3人目の介護人は、赤ちゃん用モニターから聞こえてきたフィリップの苦しそうな息遣いで飛び起きた。部屋へ駆けつけるも、フィリップに邪険に扱われ戸惑ってしまう。
イヴォンヌから連絡を受けたドリスは、フィリップの家へ向かう。イヴォンヌにフィリップの様子を聞き、さっきまで居たという庭に向かう。庭へ向かうと部屋にいるフィリップを窓越しに見つけ、笑いかける。フィリップはドリスを見つめ黙ったままだが、安心したような表情を浮かべていた。

オープニングシーンの続きが始まる

フィリップとドリスは夜通し車で移動し、朝方にイギリス海峡に到着する。砂浜にある建物にフィリップを連れていくと、そこには視界いっぱいに広がる海があった。「最高だろ？」と言うドリスを見上げ、フィリップは目に涙を浮かべ微笑んだ。

フィリップを連れ、予約していたレストランにやってきたドリス。席に案内されるとドリスは、もうすぐデートの相手が来るから席を外すと言う。驚き戸惑うフィリップ。ドリスは「大丈夫。上手くいくよ。今度は逃げられないからな。ああそうだ。遅くなったけど見つけたよ」と言い、ファベルジェの卵を置く。そして去っていく。フィリップは何度も呼び止めるが、無駄に終わる。
落ち着かない様子のフィリップの元に、一人の女性がやってくる。「フィリップね」と微笑んだ女性は、エレノアだった。フィリップは感極まる。ふと外を見ると優しい笑顔で見つめるドリスの姿があり、言葉をかわさず見つめ合った。
ドリスは二人を確認するとその場から立ち去った。フィリップとエレノアは会話が弾んで、楽しそうな様子だ。

ドリスはそのまま海岸沿いを歩いて行った。

『最強のふたり』の登場人物・キャラクター

フィリップ（演：フランソワ・クリュゼ／日本語吹替：小川真司）

パグライダーの事故で下半身不随になってしまい、介護人を雇うが次々と辞めて行ってしまう。そんな中ドリスと出会い、障害者に対しても容赦がないドリスを気に入り介護人として雇うようになった。芸術に造詣が深く真面目な性格だが、ドリスに感化され新しい価値観やユーモアを覚えて行く内に、ドリスと不思議な絆を結んでいく。アリスという妻がいたが不治の病で亡くしている。妻の死後、半年間文通をしているエレノアという女性がいるが、自身の障害を知られることに怖気づいてしまい1度待ち合わせ場所から逃げ出してしまう。しかしその後、ドリスの粋な計らいによってエレノアと初めて顔を合わせることが出来たのだった。

ドリス／本名：バカリ（演：オマール・シー／日本語吹替：菅原正志）