アノネ、(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『アノネ、』とは、今日マチ子によって秋田書店の『Eleganceイブ』の2011年4月号から2013年6月号にかけて連載された戦争漫画である。単行本は上巻が2012年12月に、下巻が2013年7月に、それぞれ秋田書店より刊行された。
『アンネの日記』から着想を得て描かれた物語。アンネフランクをモチーフとする少女・花子と、アドルフヒトラーをモチーフとする青年が不思議な四角い部屋で出会い恋をするというフィクションならではの展開と、2人が巻き込まれていく戦争の悲惨さが見どころである。
真子の死後、自身の衰弱した姿を目の当たりにした花子が心の中でつぶやいた言葉。花子は自分が世界の主人公と信じて疑わず、どれほど過酷な環境に追い込まれても自分だけは生き延びることができると信じていた。そのため、隠れ家でも強制収容所でも明るく自由奔放に振る舞えていたが、自分を支え引き立ててくれる真子の存在を失ったことで、花子は自分が物語の中から弾き出されてしまったことを自覚する。さらに、水たまりに映った自分の姿は死んだ姉と同様、痩せ細り衰弱しきっていた。花子は自身が生き延びることができないと悟り「私、主人公じゃなかったの?」と心の内でつぶやく。この時まで、花子は収容所に来る前と同様の華やかで生き生きとした見た目で描かれていたため、水たまりに本来の姿が映し出される瞬間は衝撃的なシーンとなっている。
浅田花子「あなたが永遠にひとりでも正しい道を歩めるように」
死の間際に、ポケットの中に持っていた飴玉を太郎にあげようとした花子が、心の中で太郎に語りかけた言葉。それまで飴玉は主人公の象徴として描かれてきたアイテムであり、収容所内で飴玉がなくなったと騒ぎになった時も、フミ子にもらった飴玉に多くの人が群がって取り合いをしていても、花子はたったひとつの飴玉がポケットに入っているという事実だけで落ち着いていられた。また、花子にとっての飴玉の意味を察してか、花子から一度飴玉を受け取った真子は、「自分は主人公にはなれない」とその飴玉を花子のポケットに返している。
その飴玉を手放そうとしたこのシーンでは、花子が主人公の座から降りようとしている、さらには人生を諦めようとしていることが暗示されている。また、「あなたが永遠にひとりでも正しい道を歩めるように」という言葉には、幻想の中で愛を育んできた太郎に対する花子の想いが溢れており、アンネとヒトラーが愛し合うというあり得ない設定で描かれたこの物語のフィクション性を強めている。
『アノネ、』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
『アノネ、』は戦争をエンタメとして描いた作品
『cocoon』『アノネ、』と戦争漫画を描き続けてきた作者の今日マチ子であるが、「戦争反対ということを訴えるために漫画を描いているわけではない」と語っている。現在の戦争漫画は「平和を訴える道徳的に正しい漫画か、もしくはバトルものや兵器・軍服萌えの方向に行くしかないので、完全に煮詰まっている状態」だとして、「自分はそこじゃないものを描きたいなというのがあり、エンターテインメントの方にもっていくような気持ちで(戦争を)使っています」と述べている。
アンネとヒトラーという「絶対に会わせちゃいけない2人」が出会うという展開は、ストーリーやキャラクターの面白さに注目してもらうために思いついたと語っている。
『アノネ、』の登場人物がすべて日本名なのはエンタメを強調するため
『アノネ、』は、アンネフランクとアドルフヒトラーをモチーフとする人物が登場する物語でありながら、キャラクターにはすべて日本人の名前がつけられている。これについて作者の今日マチ子は、「フィクションであるということ、エンタメであるということを印象付けたかった」と語っている。また、本作の世界観については、「舞台として60〜70年代の少女漫画的な世界観というか、日本なんだけど日本じゃない、ある種のファンタジーとしての昔の少女漫画を再現してみたかった」としている。
戦争とリンクする「お菓子」のモチーフ
本作では飴玉が印象的に登場しているように、今日マチ子の戦争漫画には「お菓子」のモチーフが多用されている。これについて今日マチ子は、「”なくてもいいのにやめられないもの”という点で、お菓子と戦争は繋がるところがある」と述べている。お菓子と戦争は「見た目が良く、食べている(戦っている)最中には高揚感があり、中毒性がある」という点で類似しているため、戦争漫画でお菓子のモチーフを使用している、と語っている。
また、今日マチ子は本作のあとがきにおいて飴玉のことを「宝石から永遠をひいたもの。ポケットに入れたままにしておくといつの間にか溶けてしまっている。口に含めば確かに心を満たすのに、何も語ることがない」と述べている。
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『cocoon』とは、今日マチ子によって2009年3月から2010年5月にかけて秋田書店の『Eleganceイブ』に連載された戦争漫画である。単行本は2010年8月、文庫版は2015年4月に、それぞれ秋田書店より刊行された。 沖縄のひめゆり学徒隊から着想を得た戦争と少女の物語。女学校に通う少女・サンの視点から、刻一刻と悪化していく戦況と、その中を懸命に生きた少女たちの姿が描かれる。戦争の悲惨さと、その中でも失われない主人公の少女性の描写が見どころである。
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『もものききかじり』とは、2017年1〜8月に資生堂のwebメディア「花椿」に連載された漫画作品である。作者は、ブログに掲載していた漫画『センネン画報』が話題となりデビューした今日マチ子であり、代表作『cocoon』は2013年に舞台化された。 『もものききかじり』は、2018年に文藝春秋よりフルカラーで上下巻が発刊された。 舞台女優を目指す主人公・さとだももが、夢と現実の間を揺れながら成長する姿を描く。ごく普通の女性が、迷いながらも夢に向かって前進する姿が見どころである。
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目次 - Contents
- 『アノネ、』の概要
- 『アノネ、』のあらすじ・ストーリー
- 東方系の花子の一家が隠れ家へ移住
- 隠れ家での暮らしと四角い部屋の幻想
- 花子の第2次性徴とはじめての恋
- 画家を目指す太郎のもとに現れたもう1人の自分
- 通過収容所での暮らしと原麗子との出会い
- 強制収容所での過酷な毎日
- 過酷な環境で衰弱していく人々
- 独裁者の道を歩む太郎
- 自分は主人公にはなれないと悟る真子
- 命を落としていく人々と破滅に向かう総統
- 脱走を企てた麗子の最期
- 真子の死と花子の物語の終わり
- 戦争の終焉
- 『アノネ、』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 浅田 花子 (あさだ はなこ)
- 太郎 (たろう)
- 浅田家の人々
- 浅田 真子 (あさだ まこ)
- 花子の父 (はなこのちち)
- 花子の母 (はなこのはは)
- キティ
- 隠れ家の人々
- 三船さん (みふねさん)
- 藤原 浩 (ふじわら ひろし)
- 浩の父(ひろしのちち)
- 浩の母(ひろしのはは)
- 桃(もも)
- 収容所の人々
- 原 麗子 (はられいこ)
- フミ子(ふみこ)
- 太郎の家族
- 太郎の父 (たろうのちち)
- 太郎の母 (たろうのはは)
- その他
- 総統 (そうとう)
- 恵麻(えま)
- 『アノネ、』の用語
- 東方系(とうほうけい)
- 新制帝国 (しんせいていこく)
- 邦照国 (ね-でるらんど)
- 強制収容所(きょうせいしゅうようじょ)
- 『アノネ、』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 浅田真子「花子がずっと夢をみつづけていられますように」
- 浅田花子「わたし、主人公じゃなかったの?」
- 浅田花子「あなたが永遠にひとりでも正しい道を歩めるように」
- 『アノネ、』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 『アノネ、』は戦争をエンタメとして描いた作品
- 『アノネ、』の登場人物がすべて日本名なのはエンタメを強調するため
- 戦争とリンクする「お菓子」のモチーフ