アノネ、(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『アノネ、』とは、今日マチ子によって秋田書店の『Eleganceイブ』の2011年4月号から2013年6月号にかけて連載された戦争漫画である。単行本は上巻が2012年12月に、下巻が2013年7月に、それぞれ秋田書店より刊行された。
『アンネの日記』から着想を得て描かれた物語。アンネフランクをモチーフとする少女・花子と、アドルフヒトラーをモチーフとする青年が不思議な四角い部屋で出会い恋をするというフィクションならではの展開と、2人が巻き込まれていく戦争の悲惨さが見どころである。

『アノネ、』の概要

『アノネ、』とは、今日マチ子によって秋田書店の『Eleganceイブ』の2011年4月号から2013年6月号にかけてに連載された戦争漫画である。単行本は上巻が2012年12月に、下巻が2013年7月に、それぞれ秋田書店より刊行された。同作家の「戦争3部作」の第2作にあたり(第1作は『cocoon』、第3作は『ぱらいそ』)、第18回手塚治虫文化賞や新生賞を受賞したり、文化庁メディア芸術祭にて審査委員会に推薦されたりするなど、高い評価を受けた。
『アンネの日記』から着想を得て描かれた物語。アンネフランクをモチーフとする少女・花子と、アドルフヒトラーをモチーフとする青年が不思議な四角い部屋で出会い恋をするというフィクションならではの展開と、2人が巻き込まれていく戦争の悲惨さが見どころである。

『アノネ、』のあらすじ・ストーリー

東方系の花子の一家が隠れ家へ移住

浅田花子(あさだ はなこ)は、東方系の人々が通う中学校に通う少女。華やかな見た目と明るい性格の花子は、マドンナと呼ばれるほどの人気者ぶりで、将来は女優になることを夢見ていた。
花子は、両親と姉の浅田真子(あさだ まこ)と共に、邦照国(ネーデルランド)で暮らしていた。邦照国はもともと自由の国と呼ばれていたが、最近は戦争によって新制帝国(しんせいていこく)に脅かされていた。新制帝国は花子たち東方系の民族を迫害の対象とみなしており、東方系の人々は左胸に黄色い星のワッペンをつけたり、他の民族とは別の学校に通ったりしなければならなかった。
そんなある日、姉の真子のもとに、新制帝国軍からの強制労働の招集状が届く。これは新制帝国による「東方系狩り」がすぐそばに迫っていることを示していた。連れて行かれたら殺されてしまうと怯える真子を抱きしめた父は、隠れ家を用意していたことを家族に打ち明ける。一家はその日のうちに荷物をまとめ、家を出ることにした。飼い猫のキティは置き去りにせざるを得ず、花子は泣きながら新しい住処を目指すのだった。

隠れ家での暮らしと四角い部屋の幻想

浅田家の隠れ家での暮らしが始まった。隠れ家は父の会社の上階にあり、本棚が隠し扉になっていた。4名の社員のみが浅田家がそこで暮らしていることを知っており、他の人に気づかれないよう、昼間は息を潜めて暮らさねばならなかった。そんな窮屈な暮らしを、父の会社の社員である三船さん(みふねさん)がいつも笑顔でサポートしてくれるのだった。
隠れ家での暮らしの中で、花子の唯一の楽しみは、誕生日にもらったノートに日記をつけることだった。友人に語りかけるように「あのね、」と書き始めるのが、花子の日課だったのだ。しかしこのところ、花子は日記を書くたびに、白い四角い部屋に迷い込む幻想を見るようになっていた。そこにはいつも見知らぬ青年がいて、挑発的な笑みを浮かべて、花子に「出ていけ」と言うのだった。しかし、幻想の中の四角い部屋で繰り返し出会ううちに、青年との関係に変化が生じ始める。ある日青年は「飼ってやろう。名前をつけてやる」と花子に告げる。「おれは太郎(たろう)だからーーおまえは花子だ」という青年の言葉に、花子はハッとして目を覚ましたのだった。

花子の第2次性徴とはじめての恋

浅田家が暮らす隠れ家に、藤原一家が加わった。一人息子である藤原浩(ふじわら ひろし)は真子と花子とも年が近かったが、ろくに挨拶もしない上に、飼い猫の桃(もも)を連れていた。反感を抱いた姉妹は、浩にピロシというあだ名をつけたのだった。
そんなある日、花子に初潮が訪れた。三船さんから新しいワンピースをもらった花子は、両親や浩たちから「似合う」「素敵」と称賛を受ける。そんな花子を見て、参考書を受け取った真子は厳しい表情を浮かべていた。
ある日、桃を追いかけて屋根裏に上がった花子は、そこで浩が天窓から空を眺めていることを知り、たびたび浩と屋根裏で過ごすようになる。花子と浩は次第に打ち解けた仲となっていくが、そんな2人の様子を、真子は苛立ちのこもった目で見つめていた。
浩と初めてキスを交わした日、花子は真子が日記を盗み見ているところを目撃する。姉を問い詰める花子だが、「浩とデキてるんでしょ」と真子に逆に詰られた花子は、真子も浩が好きだと気づいてはいたが…と謝罪する。真子は激昂し、「主人公気取りもいい加減にしなさいよ」と泣き喚くのだった。

画家を目指す太郎のもとに現れたもう1人の自分

花子が幻想の中の四角い部屋で出会う青年は、現実世界では画家を目指す太郎という青年だった。しかし太郎の父親は息子が画家になることを真っ向から反対しており、太郎の絵を「気持ち悪い」と踏みつけにし、太郎を蹴り飛ばした。母は仲裁はしてくれるものの、父の暴力を止めることはできなかった。
父の横暴に憤った太郎は、自室に戻りスケッチブックを開いた。花子が日記帳から四角い部屋に迷い込んでいたのと同様に、太郎はスケッチブックから四角い部屋に迷い込んでいたのだ。その日、部屋の中には太郎とそっくりの軍服を着た人物・総統(そうとう)がいて、「あいつ、処分してやろうか」と囁いた。彼は太郎に「お前は選ばれた人間なんだ」と自信たっぷりに語りかけるのだった。
総統は、今後の太郎に何が起こるか知っているかのような言動を見せた。太郎が父への憎しみを込めてスケッチブックに「死ね」と書き連ねていた時、総統は「心配するな。すべて思いどおりになる」と太郎に語りかけた。その後、程なくして父は交通事故により命を落とした。
父の死後、太郎は次第に総統の言葉をそのまま口にしてしまうようになる。奨学金を借りて美術学校へ行くことを母に反対された際は、「奨学金なんて踏み倒せばいい」と総統の言葉がそのまま口をついて出てしまう。さらに、病床に伏した母には、「死にかけてるならさっさと行けよ。てめえの治療費がなけりゃ学費にまわせるだろ」と総統が言った通りの言葉を投げつけてしまう。まもなく母は亡くなり、太郎は母のベッドに突っ伏して「本当にそうなった!」と泣いた。その背後には総統が立っており、太郎の様子を悠然と見下ろしていた。

通過収容所での暮らしと原麗子との出会い

新制帝国による東方系住民の摘発はさらに厳しくなっていた。隠れ家の中にも緊張感が立ち込め、真子は神経質になり、浩は桃を抱きしめて泣いていた。そんな中で花子は、ロマンティックな秘密の隠れ家で暮らす少女を演じ続けようと、明るい表情を崩さなかった。
しかしその後まもなく、隠れ家につながる秘密の扉が見つかってしまう。花子たちは慌ただしく連れて行かれた。三船さんは、無人になった隠れ家の中に残された花子の日記帳をそっと持ち出したのだった。
花子たちがまず連れて行かれた通過収容所には、摘発された東方系の人々が一時的に集められていた。その中には人気女優の原麗子(はら れいこ)もいて、時には彼女の芝居を見ることもできた。2年ぶりの外の世界でのびのびと暮らすことができたが、収容所の周囲には鉄条網が張り巡らされており、花子は自分たちが囚われの身であることを実感せざるをえなかった。
翌月になり、花子たちは貨物列車に乗せられて、強制収容所に連行された。列車内にすし詰めにされた人々は、いつどこに着くかもわからない状態で3日間立ちっぱなしの状態を余儀なくされた。お手洗いはなく、用を足すためのバケツが一つあるのみという過酷な環境だった。やがて列車が止まり、花子たちはようやく外に出ることができた。

強制収容所での過酷な毎日

列車から降ろされた人々は、持ち物をすべて没収され、男女別に並ばされた。麗子は女性たちに、「元気のない者はシャワー室と呼ばれるガス室で殺される」と告げる。しかし女性たちは麗子の言葉が信じられず、デマだと一蹴した。
女性たちはさらにグループ分けされ、花子と真子は、母とは別のグループに振り分けられてしまう。花子と真子が連れて行かれた部屋では、服をすべて脱いで長い髪は肩までの長さに切り落とすよう指示された。彼女たちの持ち物は、新制帝国のためのリサイクル用の資源として没収されたのだった。
全裸になった女性たちは、そのままシャワー室に移動させられる。花子たちが入ったシャワー室では無事にシャワーを浴びることができたが、妊婦と幼い子連れの母親ばかりが集められた隣のシャワー室からは、まだ誰も出てきていないようだった。
幻想の中の四角い部屋の中でも、花子は全裸になっていた。そこに太郎がやってきて、「服はどこへやった?」と詰問する。しかし、太郎は次第に花子の乳房を直視できなくなり、「探してくる」と部屋を飛び出した。そんな太郎を取り囲むのは、彼の絵をバカにするクラスメイトや、就職を説得してくる母親などだった。太郎はなんとか服を探し出すが、そこでは夥しい数の幼児とその母親、妊婦たちが殺されていた。呆然とする太郎の元に総統が現れ、「こんな毒ガス臭いところにいたのか。早く出ないと死ぬぞ」と声をかけるのだった。

過酷な環境で衰弱していく人々

浩は、過酷な労働で命を落とした人々の亡骸を燃やす焼却炉の担当になっていた。しかし、たくさんの亡骸を詰め込んで燃やすため、一回だけでは燃え残ってしまい、生焼けの亡骸に油をかけて再び燃やさなければならなかった。そのグロテスクな光景に、浩はたまらず嘔吐してしまう。
一方、花子たちの父と浩の父は、土木作業をさせられていた。家族への心配からつい作業の手を止めると、監視官に殴られるという過酷な作業環境だった。花子の父は、家族の心配よりまずは自分が生き延びなくては、と作業に集中しようとするのだった。
花子たちが寝泊まりをする小屋では、麗子が責任者を務めることになっていた。ある夜、真子が草むらで用を足していると、後ろから走ってきた人物にぶつかられ、穴のようなくぼみに落ちてしまう。そこには夥しい数の死体が捨てられていて、真子は悲鳴をあげる。また、先ほど走り去っていった人は鉄条網にぶつかり、そのまま息絶えていた。そこに麗子が現れ、鉄条網には高圧電流が流れており、触れると即死できるのだと説明する。また、自殺者を報告することは評価の対象とされており、麗子が電流自殺を報告した翌日、麗子の小屋のメンバーの食事の量は増えていた。麗子はその後も、ルール違反を犯す人物を冷酷に告発していった。飴玉がなくなったことを騒ぎ立てた少女も、麗子によって精神科棟に連れていかれ、その後まもなく焼却炉に送られたのだった。

独裁者の道を歩む太郎

学校の休み時間、机に突っ伏して仮眠をとっていた太郎は、再び、四角い部屋の幻想の中に迷い込む。
太郎は、花子が部屋の中で一言も発していないことに気づく。花子は日記帳を失ったことで、言葉をなくしていたのだった。太郎は花子に、「言葉を探しにいこう」と提案し、2人は部屋の外に出る。
日記帳を探すうちに、太郎の思考は幻覚と現実世界を行き来し始める。太郎の前には、死んだはずの母親がいて、太郎の美術学校の受験を後押ししてくれた。しかし太郎は合格することができず、失意の中、軍隊へ入隊する。そこで頭角を表した太郎は政党の党首となり、やがて太郎が率いた党は新制帝国の第一党となった。太郎は、自分を支持する群衆の中に花子の姿を見つけふと我に帰るが、一瞬で見失ってしまった。
その後も太郎は、新制帝国の頂点に上り詰めるために自らの手を汚し続けた。将来邪魔になりそうな人物を暗殺した太郎が次にやろうと考えたことは、国内の不満を解消するために、東方系を絶滅させることだった。
太郎は、繭のような入れ物に包まれていた。太郎が入れ物から抜け出すと、太郎のぬけがらは、他の誰かのぬけがらと共に、東方系を絶滅させるための政策について議論していた。そこに総統が現れて、1人の女性を紹介する。その女性は花子に瓜二つだった。しかし総統は、その女性の名前は「恵麻(えま)」だと言い、「お前の花子は外だ」と部屋の外を見やる。そこには強制収容所の景色が広がっており、花子は夥しい数の死体の上に、微笑みを浮かべて腰かけていた。

自分は主人公にはなれないと悟る真子

ある日花子は、他の収容者たちに、歌と踊りを披露していた。それを眺めていた麗子は、隣にいた真子に「あなたは何になりたいの?」と問いかける。しかし真子は、その問いに答得られなかった。花子に感想を求められた麗子は「なかなかよかったわよ」と花子を褒めた。真子には「妹さんのマネージャーになればいい」と声をかけ、ポケットにそっとパンの切れ端を忍ばせたのだった。
ベッドに入った後、真子は花子にそのパンを渡す。笑顔になった花子は、お返しに真子に飴玉を渡した。それはいつの日か、小屋の中で無くなって騒ぎになったあの飴玉だった。寝静まった部屋の中で飴玉を眺めた真子は「私は主人公にはなれない」と考え、飴玉をそっと花子のポケットに戻したのだった。
ある日、花子のもとに、隣のブロックにかつての友人のフミ子がおり、花子に会いたがっているという連絡が入る。花子、真子、麗子の3人は、鉄条網越しにフミ子と対面した。花子は明るく未来を語ったが、痩せ細ったフミ子は、花子の言葉には答えなかった。袋のようなものを鉄条網越しに投げ入れたフミ子は、「さよなら花子」と叫び、走り去っていった。それは、袋一杯に入った飴玉だった。地面に散らばった飴玉を拾おうと、他の収容者たちが群がってきた。真子がそれを取り返そうとし、その場は乱闘騒ぎとなった。その様子を、花子はただ微笑みを浮かべて見守っていた。麗子が監視員を呼び寄せたことで、事態は収拾した。空からは雪が降り始めており、その中でフミ子は亡くなっていた。

命を落としていく人々と破滅に向かう総統

花子の母は、厳しい労働をこなすうちに激しく衰弱していた。 そんな中、隣のブロックで高校生くらいの若い姉妹が亡くなったという噂を聞き、ついに力尽きてしまう。焼却炉で働く浩のもとには、花子の母の亡骸が送られてきた。優しかった花子の母を思い返す浩の顔にも発疹が浮かび、不自然に発汗していた。浩は、飼い猫の桃と雪の中で遊んだ日のことを思い出しながら、雪の中に倒れ込んでしまうのだった。 
幻想の中では、太郎が床に座り込む花子を背後から抱きしめていた。太郎が名前を呼ぶように促しても、花子は黙ったままだった。苛立った太郎は花子を抱きしめ、乱暴に口づけながら、「全部あいつのせいだ」と言葉を絞り出した。
その様子を、総統が眺めていた。総統は、紅茶に映る影を見ることで、花子と太郎の様子を監視することができたのだった。苛立った総統はカップを倒し、恵麻にあの白い影のような服を着せてもらい会議に向かう。
戦況とともに、総統の健康状態も悪化していた。恵麻は主治医に、太郎の幻覚症状のことを相談する。「私のことを花子と呼ぶ」「お茶に向かって話しかけている」と、総統の精神状態は傍目から見ても危うくなっていたのだった。

脱走を企てた麗子の最期

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