アノネ、（漫画）のネタバレ解説・考察まとめ

一方強制収容所では、麗子が小屋長からブロック長に昇進し、後任の小屋長には花子が指名された。真子は「花子には荷が重すぎる」と反対するが、麗子の判断は変わらなかった。花子と真子は、麗子にあてがわれたブロック長の部屋に案内される。ブロック長の部屋は個室であり、床のすぐ下は土になっていた。麗子はベッド下の床に穴を掘り、脱走しようと画策していたのだった。それ以降、花子と真子は麗子の部屋に呼び出され、穴を掘るのを手伝わされるようになった。麗子は脱走できた後、そして戦争が終わった後の未来を2人に語った。花子のことは女優志望として自身の事務所に紹介し、真子は花子のマネージャーとして事務所でバイトをする。麗子自身は脚本を選んで映画に出て、ファンたちに「奇跡の生還」と賞賛される。そこまで語った麗子は、「ほんとわたしってーー物語の中でしか生きられないんだわ」と呟くのだった。
その時花子は、いつものように幻想を見て、ふらふらと穴から出ていってしまう。真子が慌てて追いかけるが、時すでに遅く、花子は監視員に見つかってしまった後だった。真子は咄嗟に、「ブロック長が脱走しようとしています！」と告発する。連行された麗子は、見せしめとして射殺されてしまうのだった。

真子の死と花子の物語の終わり

幻想の中で、花子は日記帳を、太郎はスケッチブックを手にしていた。2人は自分の好きなものを書き、同じ時間を過ごして愛し合った。2人の世界は幸せそのものだった。しかし、どれだけ紅茶をかき混ぜても、総統が2人の姿を見ることはできなかった。
真子は衰弱し、わずかな食事も花子に譲るようになっていた。就寝後、花子と並んでベッドに横たわった真子は、花子が生まれる前の日々を回想する。真子は母親と、「花子を守る」という約束を交わしていたのだ。花子が「お姉ちゃんあのね」と声をかけたが、朦朧とする真子は「朝になったら」と返すのが精一杯だった。翌朝花子が目を覚ますと、真子は息を引き取っていた。
真子の亡骸は、焼却炉へと運ばれていった。花子は必死で追い縋るが、水たまりに足を取られて転んでしまう。その時水たまりに自身の姿が映り、花子は愕然とする。これまでずっと明るくて可愛い花子を演じ続けてきたが、水たまりに映った自分は痩せ細り、すっかり変わり果てていたのだ。死の訪れを予感した花子は「私、主人公じゃなかったの？」と膝をついて倒れ込んでしまう。

戦争の終焉

新制帝国は、戦争においていよいよ窮地に陥っていた。首都が陥落し、降伏するしかないと人々が騒ぐ中で、総統は恵麻と共に部屋に閉じこもっていた。そこに、長い間姿が見えなかった太郎が現れる。総統は太郎を迎え入れ、「お前が引き金をひくんだ」と拳銃を太郎に差し出した。しかし太郎は拳銃を受け取らず、総統は自ら恵麻を銃殺し、次に自身のこめかみに銃口をあて、自決した。
一方花子は、ポケットに入った飴玉のことを思い出す。包み紙を開けて口に含もうとするが、そこに太郎と過ごした幸せな日の幻想が蘇ってきた。花子は飴玉を太郎にあげようと、虚空に向かって手を差し出した。太郎の幸せを願った花子は、ついに力尽きて水溜まりの中に倒れ込むのだった。
教室で居眠りをしていた太郎は、長い夢から覚める。机の角には、飴玉が一つ置かれていた。太郎は花子の姿を求めて校内をさまよい歩くが、ついに彼女を見つけることはできなかった。
戦争が終わり、家族で唯一生き残ることができた花子の父は、隠れ家に戻ってきた。そこに、花子の日記帳を持った三船さんが現れる。花子の父は、花子と真子の身長を記録した柱を指でなぞり、花子が確かに存在していたことを実感する。「でも今はこの中にしかあの子を語る言葉はない」と日記帳を開いた彼は、「花子ーー」と娘の名前を呼び、涙した。

『アノネ、』の登場人物・キャラクター

主要人物

浅田 花子 （あさだ はなこ）

邦照国（ネーデルランド）に住む、女優志望の女子中学生。美しい容姿と明るい性格で、誰からも好かれている。『アンネの日記』の著者であるアンネフランクをモチーフとした人物である。
新制帝国において迫害の対象である東方系の家系の出身であり、収容所送りを逃れるために家族と共に隠れ家に移り住む。不便な生活の中で起こったことを日記帳に「あのね、」と書き綴るが、次第に心が不思議な四角い部屋に逃避するようになり、そこで太郎という青年と出会い恋に落ちる。
隠れ家が暴かれたことで強制収容所に連行され、厳しい労働を強いられる。過酷な環境の中でも主人公然とした振る舞いを崩さず、明るさを失わなかったが、次第に衰弱して命を落とす。

太郎 （たろう）

花子が四角い部屋の中で出会った青年。ナチス・ドイツ総統アドルフヒトラーをモチーフとした人物である。
現実世界では画家を目指すことを父親から反対され、クラスメイトたちには描いた絵を馬鹿にされるという、鬱屈とした日々を送っている。美術学校の進学を諦めたのちは、軍服を着たもう1人の自分（総統）に導かれて独裁者となり、新制帝国を築き上げた。
四角い部屋の中では、最初は花子に厳しく当たるが、次第に打ち解け優しさを見せるようになっていく。

浅田家の人々

浅田 真子 （あさだ まこ）

花子の姉。眼鏡とそばかすという容姿で、人気者の花子に引け目を感じ続けてきた。
真子の元に収容所への招集書が届いたことが、浅田家が隠れ家に移り住むきっかけとなった。隠れ家が見つかり、強制収容所での生活が始まってからは、いつでも物語の主人公気取りでいる花子に苛立ちを感じながらも、「自分は主役にはなれない」と悟り、花子を支える立場に終始した。収容所の過酷な暮らしの中で、花子よりひと足先に命を落とした。

花子の父 （はなこのちち）

花子と真子の父親。邦照国（ネーデルランド）でジャム製造の会社を経営をしていた。迫害の対象である東方系の出身であったことから、収容所送りになることを恐れ、会社の上階に隠れ家を作り、家族を連れて潜伏する。
浅田家で唯一、厳しい収容所での生活を生き延び、三船さん（みふねさん）が預かっていた花子の日記を受け取ることができた。

花子の母 （はなこのはは）

花子と真子の母親。末っ子の花子を何かと甘やかす癖がある。収容所では娘たちと引き離され、「姉妹が2人ともチフスで亡くなった」という噂を真子と花子のことだと早合点し、ショックを受けていた。
浅田家の中では誰よりも先に死亡し、藤原 浩 （ふじわら ひろし）の手によって火葬された。

キティ

浅田家で飼われていた猫。家族から愛されていたが、隠れ家に連れていくことは叶わず、置き去りにされた。花子の小学時代の同級生の少年に拾われて、生き延びることができた。