もものききかじり(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『もものききかじり』とは、2017年1〜8月に資生堂のwebメディア「花椿」に連載された漫画作品である。作者は、ブログに掲載していた漫画『センネン画報』が話題となりデビューした今日マチ子であり、代表作『cocoon』は2013年に舞台化された。
『もものききかじり』は、2018年に文藝春秋よりフルカラーで上下巻が発刊された。
舞台女優を目指す主人公・さとだももが、夢と現実の間を揺れながら成長する姿を描く。ごく普通の女性が、迷いながらも夢に向かって前進する姿が見どころである。
『もものききかじり』の概要
『もものききかじり』とは、2017年1〜8月に資生堂のwebメディア「花椿」に連載された漫画作品である。作者は、ブログに掲載していた1ページ漫画『センネン画報』が話題となりデビューした今日マチ子であり、有名作品には『cocoon』『アノネ、』『いちご戦争』などがある。『cocoon』は2013年に劇団「マームとジプシー」によって舞台化されている。
『もものききかじり』は2018年1月にコミックス上巻が、翌月2月にコミックス下巻が、文藝春秋よりそれぞれフルカラーで発刊された。
派遣社員として働きながら舞台女優を目指す26歳の主人公・さとだももが、夢と現実の間を揺れながら成長していく姿を描く物語である。ネット上では、「自分のやりたいことに向き合って決断していく姿にひたむきさを感じる」「上手に生きられないところが自分に似ている」と共感の声が多く上がっていた。スーパーウーマンではないごく普通の女性が、迷いながらも夢に向かって前進していく姿が見どころである。
『もものききかじり』のあらすじ・ストーリー
舞台女優を目指すももの日常と葛藤
さとだももは、26歳のごく普通の女性。2年付き合った彼氏とは、ももの方から結婚を仄めかしたことで破局してしまい、現在は独り身である。派遣の事務員として週3回勤務するかたわら、大学生の頃から所属している「劇団水玉コルセット」で舞台女優としても活動しており、それなりに充実した日々を過ごしていた。
ある日、22歳の頃からルームシェアをしている友人・栗山さんこと栗山ひとみ(くりやま ひとみ)から、新しい彼氏ができたと報告を受ける。栗山さんは先日前の彼氏と別れたばかりだったため、ももは驚く。「そんなにすぐに好きになれないし、好きになってもそんなにすぐに付き合わない」というももに対し、栗山さんは「付き合いながら大好きになれればいい」と返答する。実際、栗山さんと彼氏の仲はすぐに親密になり、栗山さんは彼氏の家に長期で外泊することが増えるようになった。ひとりで家に残されたももは、過剰な期待を抱いてなかなか次の恋人ができない自分との違いを感じずにはいられない。
一方、所属している「劇団水玉コルセット」では、次の公演に向けて準備が進んでいた。ももの1つ上の先輩で劇団主宰の柿沼さんこと柿沼レイナ(かきぬま れいな)は、シングルマザーとして家事と育児をこなしながら、新鋭の演出家として注目を浴びつつあった。また、看板女優の泉さんこと泉摩耶(いずみ まや)は、「自分はプロだ」と繰り返し発言し、舞台の仕事のみで生計を立てていた。そんな劇団の仲間と自分を比較して、ももは「自分は2人ほど演劇に打ち込めていないのではないか」と思い悩む。
泉さんとのルームシェアでももに生じた変化
栗山さんは、彼氏の家からなかなか帰って来なくなった。ももは栗山さんのことが気になって、なかなか舞台の練習に身が入らない。練習中に覚えておくべきセリフが言えなかったことで、とうとう柿沼さんからも「そういうことは家でやってきてよ」と注意を受けてしまう。
そんな折、ももから「ルームメイトが帰って来ない」と聞いた泉さんが、「部屋空いてるんでしょ?そこわたしが使うから」と突然ももの部屋に押しかけてくる。ももが作った料理を野菜しか食べなかったり、早くに寝たと思ったら早朝からランニングに誘ってきたりと、ももは泉さんのマイペースぶりに戸惑う。しかし、泉さんはランニングの合間にももがセリフを覚えるのを手伝ってくれ、ももは「泉さんは行き詰まっている自分のために泊まりに来てくれたのだ」と考えるようになる。
早朝の特訓の甲斐あって柿沼さんに褒められたももは、「もう大丈夫!帰ってもらってもへいき!」と泉さんにお礼を伝えるが、実は泉さんは母親とけんかをして家出をしているだけだった。栗山さんが不在の中、ももと泉さんのルームシェアはしばらく続くことになる。
アツヒロと月野さんとの出会い
次の日から公演が始まるという日に、ももは会社の同僚との合コンに参加していた。ももは演劇をやっていることを会社では秘密にしていたのだ。その理由は「一番大切なものを失うのが怖いから」であった。ももは翌日の公演のため、理由も告げずに早めに合コンを後にする。
翌日、公演初日は大成功だった。しかし観客の中に昨日の合コンに参加していたアツヒロがいて、ももは声をかけられてしまう。アツヒロは人懐こく賑やかな性格で、その後なぜか泉さんと3人で夕食に行くことになる。「ヤバイ」を連発するアツヒロにももは辟易とするが、解散後、泉さんは「いい人だね」と意外な反応を見せる。実際アツヒロは、泉さんとももが挙げた絵本や演劇雑誌の話にも適切な反応を返し、泉さんは久しぶりに演劇以外の好きなことが話せて嬉しかったのだった。一方ももは、アツヒロがいい人かどうか、確信が持てずにいた。
「劇団水玉コルセット」の公演も終盤に近づき、劇団主宰の柿沼さんや看板女優の泉さんは多数の雑誌で取り上げられていた。「脇役の自分は誰からも書いてもらっていないだろう」となかば諦め気味のももだったが、カルチャー評論家として活躍する月野玄(つきの げん)のブログ「月のザレゴト」に「さとだももの演技に注目」という記載を見つける。
後日、公演後に月野さん本人から挨拶されたももは「自分にも見てくれている人がいた」と嬉しい気持ちになる。その後も映画館で偶然出くわしてその後お茶をする機会などがあり、月野さんとももの距離は急速に縮まっていく。栗山さんと泉さんは「月野さんとはどうなったのか」と追及するが、ももは「何でもないんだって!」と月野さんとの関係を否定するのだった。
派遣を辞めることへの躊躇とももの決心
年が明け、ももは新年の抱負として「派遣を辞めて演劇1本で食べていく」という目標を立てる。しかし、職場の人になかなか「辞めたい」と言い出せない。アツヒロからも「ガツンと決めちゃえよ!」と背中を押されるが、それでも決心がつかないでいた。
そんな折、雑誌で月野さんが元会社員であることを知ったももは、月野さんに連絡を取り元会社員の立場からのアドバイスを求める。月野さんは「会社で働いていたことはいい経験になった」「しかし迷うってことは次のステップに進む時期なのではないか」とアドバイスをしてくれた。さらに月野さんは、現在演劇の脚本を描いていると言い、「ぜひその演劇に出演してほしい」とももにオファーを投げかける。月野さんの演劇に出演する時間を作るためには派遣を辞めるしかなく、「早く会社に退職の意志を伝えなければ」とももは頭を抱えてしまう。
一方、ももの母は許可も取らずにももを結婚相談所に登録していた。「ママの代わりに行ってほしいところがある」と言われて訪れた結婚相談所では、婚活アドバイザーの幸田真奈美(こうだ まなみ)から、「演劇に打ち込むためには経済面でも支えてくれるパートナーが必要ではないか」と提案される。仕方なく年収1800万円の男性と待ち合わせをしてみるも、ももは直前で怖気付いてしまい、約束をすっぽかしてアツヒロと飲みに行く。アツヒロは「金ヅル逃したし覚悟決めて派遣やめちゃおーぜ」と笑い飛ばすのだった。
恋愛や結婚について悩むももの葛藤
長い間悩んでいたももだったが、桜の時期、ついに派遣を辞めることができた。しかし、元同僚たちとのバーベキューでアツヒロから「本気出せばもっと上に行けるっしょ!」と言われたももは、「本気ってどうやって出すんだっけ?」と自分がまだ夢に全力で向き合えていないことを自覚する。
後日ももは、「まだ本気の演劇の人になりきれていない」と栗山さんに相談する。栗山さんは、「そんなすぐに変身できないよ。舞台の役だって稽古を重ねて少しずつ作っていくんでしょ」とももを励ましてくれるのだった。
ももは、月野さんの演劇出演のオファーを受けることにした。月野さんは、「脚本の中に出てくるから」とももを遊園地に連れ出す。その後ももはテレビに出ている月野さんを見るたびにドキドキしてしまう自分を自覚し、これが恋心かどうか慎重に吟味しようと考える。しかしその直後、柿沼さんの双子の父親が月野さんだと知ってしまう。出産前に別れてはいるとは言え、ももは強い衝撃を受けるのだった。
ももは、「自分は月野さんにときめいたのではなく遊園地にときめいたのではないか」という疑問を検証するため、アツヒロを誘って再度遊園地を訪れた。しかし、アツヒロと過ごしても、月野さんと過ごした時と同じ胸のときめきは訪れなかった。アツヒロは「相手の選択肢を増やしたほうがいい」「いちいち検証なんてしてたらマジヤバイ」とももにアドバイスをする。月野さんを選ぶわけにいかなくなったももは、その言葉を受けてお見合いすることを決意する。しかしお見合い中も、「結婚はしたいけどその先にある生活は生々しい」といまいち乗り気になれない。結局お見合いは断られてしまうのだった。
月野さんの裏切り
月野さんの舞台の公演日程が決まるが、劇団水玉コルセットの公演日程と被ってしまっていた。ももはどちらの舞台に出るべきか思い悩む。ちょうどその頃、月野さんは女優の丸山ペケ子(まるやま ぺけこ)との熱愛がスクープされており、ももは「マスコミが落ち着いたら公演日程を組み直してくれるだろう」と甘い考えを抱いていた。しかし後日、月野さんは丸山ペケ子との熱愛を否定すると同時に、彼女が自身の舞台に出演予定だと明かすのだった。同じ舞台の出演オファーを受けていたももは、月野さんに確認を取ろうとするが、連絡が返ってくることはなかった。
ショックを受けたももは、アツヒロに励ましてもらおうとするが、アツヒロは「なんでやるべきことがわかってるのにそこから逃げんの?」と手厳しい言葉を残して立ち去ってしまう。
そんな折、栗山さんの結婚式が開かれた。ももと泉さんは余興タイムで「2人の結婚エピソード」という寸劇を披露する。ももは改めて「やっぱりおしばいが好きかも」と自覚するのだった。
それぞれの旅立ち
泉さんはももに、「1年間ロンドンに演劇留学することにした」と打ち明ける。「今から出発する」と言う泉さんにももは驚くが、泉さんは「目が覚めた時にもうここにはいられないって思ったから」と迷いなく語る。今までずっとお手本としてきた泉さんが去っていくことに心細さを感じるももだったが、「栗山さんは結婚したし桃ちゃんは仕事やめたし」「わたしも進まなきゃ」という泉さんの言葉を聞き、「手を伸ばすだけじゃ夢はつかめない」と自身も前に進む決心をする。
月野さんの舞台出演が白紙になったももは、劇団水玉コルセットの舞台の方に出演することにする。看板女優の泉さんがロンドンに行ったことで、ももは泉さんの代わりに主演を務めることになった。またももは、栗山さん、泉さんとルームシェアしていた家を引き払い、ワンルームでの新生活をスタートさせた。演劇関係の予定でいっぱいのスケジュールを見ながら、「家賃と生活費を演劇で稼ぐ!」とももは決意を新たにする。
そんなももに、アツヒロは27歳の誕生日プレゼントとして貯金箱を贈ってくれた。「わたしは小学生かっ!!」と突っ込むももだったが、中に入っていた「TOP女優になるまでしっかり貯めろよ!!!頑張れ!!!」というメッセージを見て、今自分が夢の入り口にようやく立てていることを自覚するのだった。
『もものききかじり』の登場人物・キャラクター
「劇団水色コルセット」の人々
さとだもも
本作の主人公。27歳。月水金は派遣の事務員として働きながら、「劇団水玉コルセット」で舞台女優としても活動している。
「一番大切なものを失うのが怖いから」と、会社の同僚には演劇をしていることを秘密にしている。
「会社を辞めて演劇1本で生きていく」という目標を立てるも、自信のなさや将来への不安からなかなか目標に全力投球できず、会社にも退職の意志をなかなか伝えられずにいた。
男性と交際する際は必ず両親と会わせる、婚前旅行は反対など、友人の栗山ひとみ(くりやま ひとみ)と泉摩耶(いずみ まや)からは「恋愛に対する考え方が固すぎる」と突っ込まれている。仕事関係の知り合いとして出会った月野さんにときめくも、それが恋愛感情かどうか確信が持てずにいた。
結婚はしたい、生きていくためにお金が必要、しかし演劇の夢も見続けたいと、夢と現実の間で揺れ動きながら成長していく。最終的には演劇1本で生きていく決意を固める。
柿沼レイナ(かきぬま れいな)
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目次 - Contents
- 『もものききかじり』の概要
- 『もものききかじり』のあらすじ・ストーリー
- 舞台女優を目指すももの日常と葛藤
- 泉さんとのルームシェアでももに生じた変化
- アツヒロと月野さんとの出会い
- 派遣を辞めることへの躊躇とももの決心
- 恋愛や結婚について悩むももの葛藤
- 月野さんの裏切り
- それぞれの旅立ち
- 『もものききかじり』の登場人物・キャラクター
- 「劇団水色コルセット」の人々
- さとだもも
- 柿沼レイナ(かきぬま れいな)
- 泉摩耶(いずみ まや)
- 内野さん(うちのさん)
- 仕事関係の人
- 月野玄(つきの げん)
- ももの友人たち
- 栗山ひとみ(くりやま ひとみ)
- アツヒロ
- 婚活関係の人々
- 幸田愛美(こうだ まなみ)
- もものお見合い相手
- その他
- ももの母親
- 丸山ペケ子(まるやま ぺけこ)
- 『もものききかじり』の用語
- 劇団水玉コルセット
- 「月と酢とポン!」
- 「月のザレゴト」
- 「恋のチクタク」
- 『もものききかじり』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- さとだもも「身軽になりたいって思うけど、抱えてるものが多いほど頑張ることができるのかもしれないなぁ」
- 栗山さん「そんなすぐに変身できないよ。舞台の役だって稽古を重ねて少しずつ作っていくんでしょ?」
- さとだもも「進まなきゃ。手をのばしてるだけじゃ夢はつかめないのだ」
- 『もものききかじり』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 連載中に路線変更されたストーリー
- ももが舞台女優になったのは他作品の舞台化がきっかけ
- 「同じ仕事はしない」が作者のモットー