炎の転校生(炎転)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『炎の転校生』とは、熱血漫画家として名高い島本和彦による、学校に巣食う悪と戦う転校生の活躍を描いた少年漫画。島本和彦がデビュー直後に描いた作品で、画風も構成も粗が目立つものの「熱血を装ったギャグ」という同氏の作風が確立した傑作とされている。略称は「炎転」(ほのてん)。
滝沢昇は、親の都合で転校を繰り返す高校生。しかしなぜか彼が転校する高校には常に悪党が跋扈しており、毎度大立ち回りを演じることとなる。実は昇の父は学校に潜む悪を討つ秘密教育委員会の一員で、彼は自ら父の仕事に首を突っ込んでいた。

『炎の転校生』(島本和彦)の概要

『炎の転校生』(ほのおのてんこうせい)とは、熱血漫画家として名高い島本和彦による、学校に巣食う悪と戦う転校生の活躍を描いた少年漫画。略称は「炎転」(ほのてん)。
島本和彦がデビュー直後に描いた作品で、その奇想天外な発想と荒唐無稽な展開と口先三寸の理屈をとにかく勢いで押し通していく「熱血を装ったギャグ」というスタイルは大きな反響を呼び、同氏の出世作にして代表作の1つとなった。

画風も構成も粗が目立つものの、同業の漫画家から高く評価されていることでも知られ、あだち充や高橋留美子といった大御所漫画家も後に「新人の作品の中では特にインパクトがあった」、「おもしろかった」と語っている。
アニメ版も制作されたが、史上初のOLA(オリジナル・レーザーディスク・アニメ)という非常に独特な販売形態を取った。販売当時、レーザーディスクそのものの普及率が低かったため売り上げが伸び悩み、後にビデオ版やブルーレイ版が発売された。この顛末について、島本和彦は多少の漫画的脚色を加えた上で後の作品である『燃えよペン』で紹介している。

滝沢昇(たきざわ のぼる)は、親の都合で転校を繰り返す高校生。しかしなぜか彼が転校する高校には常に様々な悪党が跋扈しており、昇は彼らを相手に毎度大立ち回りを演じることとなる。
実は彼の父の昇一(しょういち)は学校に潜む悪を討つために活動する秘密教育委員会の一員で、昇はそうとも知らずに自ら父の仕事に首を突っ込んで引っ掻き回していたのだった。しかし秘密教育委員会の宿敵である裏の教育委員会が本格的に動き出した結果、昇一は深手を負って入院。昇は父の代わりに秘密教員委員会の一員となり、裏の教育委員会に立ち向かっていく。

『炎の転校生』(島本和彦)のあらすじ・ストーリー

嵐を呼ぶ男の来訪

射津幌市立鳥羽砂高等学校に入学した滝沢昇(たきざわ のぼる)は、自分が所属することとなった1年11組が消滅の危機にあることを知る。もともと11組は手違いで作られた教室であるらしく、ここを潰して茶室という名の教員用娯楽室を作ろうという計画が進んでいたのだ。球技大会にかこつけてこの計画が進められていることを知った昇は、そんな横暴を許せるものかと奮起して、高村友花里(たかむら ゆかり)を始めとするクラスメトたちと協力して教師たちの目論見を叩き潰そうと盛り上がる。
そんな彼の前に立ち塞がったのは、伊吹三郎(いぶき さぶろう)という同級生の少年だった。友花里に片思いしている伊吹は、彼女にカッコいいところを見せつつ恋敵になりかねない昇を早急に排除しようと考え、球技大会で直接対決。互いにKO勝ちを狙うバレーボールというすさまじい内容の勝負を繰り広げた末に痛み分けとなる。

球技大会の進行が大幅に遅れることとなった2人の熱戦は、教師たちの計画を大きく狂わせることとなった。頭を抱える彼らの前に、昇の父である滝沢昇一(たきざわ しょういち)が現れ、悪事の証拠を突きつけて成敗する。
実は昇一は学校に潜む悪を討つために活動する秘密教育委員会の一員で、昇はそうとも知らずに父の仕事に首を突っ込んで引っ掻き回していたのだった。仕事を終えた昇一は、次なる任務地である私立熊ケ尾学園高等学校に向かい、これに家族もついていくこととなったため昇も転校。昇に友情以上のものを感じ始めていた友花里、彼を宿命のライバルと一方的に決めつけて自ら倒すことにこだわる伊吹もこれに続き、3人はあちこちの高校で事件に巻き込まれていく。

裏の教育委員会の暗躍

私立弱肉学園高等学校に転校した昇は、ここで空手部の高野千明(たかの ちあき)やボクシング部の城之内考一(じょうのうち こういち)と一戦交え、彼らとの間に友情を築く。やがてここに友花里や伊吹といったいつもの面々も加わった5人組は、文字通り弱肉強食を是とする学園の校則を巡って教師たちと対決。しかし新たな敵の出現によって、学園の未来を懸けた決闘は水入りとなる。
日本全国の教育機関に裏から働きかけ、莫大な金と権力を我が物とする裏の教育委員会。彼らの息のかかった“移動する学園”こと大陸学園高等学校が、弱肉学園を物理的に潰すべく迫っているというのだ。弱肉学園が苛烈な校則を敷いてまで生徒たちを鍛えていたのは、これに対抗するためだったのである。駆け付けた昇一の指示を受けた昇は、仲間たちと共に大陸学園の進行を阻止するべく動き出す。

最終的に弱肉学園は大陸学園に潰されるも、その土地にある内に昇たちによって動きを停止。これを新たな校舎にすることとなる。一方、昇一もまた裏の教育委員会の幹部である伊吹園次郎(いぶき そのじろう)を捕らえるために大陸学園に乗り込んでいたが、大陸学園が動きを停止した際の激震で吹き飛ばされて窓から外に落下。共に放り出された園次郎は幸運にも軽症だったが、昇一は重傷を負って意識不明になってしまう。
大陸学園の制御室からそれを見た昇は、「事情はよく分からないが、父があの男に倒された」と衝撃を受ける。不意にドラマチックな場面の当事者となってしまった園次郎は、“一緒に窓から落ちて自分だけ助かった”ではあまりにカッコ悪いと悩み、咄嗟に「必殺暗黒流れ星」と叫び、今回は自分たちの負けだと言って大物感を漂わせつつ立ち去っていく。

「炎の転校生」の誕生

昇一はそのまま病院へと担ぎ込まれ、意識の無いまま入院。働き手を失った滝沢家が今後の対策を検討する中、昇は秘密教育委員会からのスカウトを受ける。昇の力を見込んで、優秀なエージェントだった昇一が復帰までの代理になってもらおうというのだ。昇はこれを承諾し、「炎の転校生」という新たなコードネームを与えられる。
秘密教育委員の一員となった昇は、裏の教育委員会が暗躍する様々な高校へと転校しては、そこで進められている間抜けにして邪悪な計画を次々と打ち破っていく。一方で父を倒した園次郎と、彼の使う謎の必殺技「暗黒流れ星」への対抗心をも燃え上がらせる。

そんな彼の前に現れたのが、褐色の肌を持つ大男だった。彼は昇の快活でひたすら前向きな人柄を気に入り、これを高く評価し、時に言葉で時に拳で彼を鍛えて新たな力を授けていく。昇もまたこの名前も知らない大男のことを師として尊敬していくが、実は彼こそが裏の教育委員会のトップである伊吹一番(いぶき いちばん)なのだった。
一方、昇に一方的に“宿命の敵”扱いされた園次郎は、「次にあの小僧と戦うまでに、なんとか秘密教育委員会の敏腕エージェントを一撃で倒す威力のある必殺技を完成させないと格好がつかない」と、適当に口にしただけの「暗黒流れ星」の開発に躍起になっていた。カルテを盗んで昇一の傷の具合を確認した園次郎は、試行錯誤の末に人体にこれと同等のダメージを与える方法を確立し、その修得に励む。

家族の再会

私立なうまん高等学校に赴いた昇は、まだ入院していなければならないのに仮面をつけてこっそり抜け出してきた昇一の前で、ついに園次郎と直接対決の時を迎える。園次郎が編み出した「暗黒流れ星」は、“高い所に敵を連れ出して飛び掛かって一緒に落ちる”というシンプルながらすさまじい代物で、紛れもなく「秘密教育委員会の敏腕エージェントに高い所から突き落とされたような大ダメージを与える」だけの威力を持ち、自身の命をもかけた荒業だった。
しかし、決闘の舞台となったなうまん高校の生徒たちが「なんだか分からないが上から人が降ってくる」と驚き、窓から手を伸ばして昇と園次郎をキャッチ。生徒たちとの友情の力により、昇は園次郎の暗黒流れ星を打ち破る。園次郎に恋人がいることを知っていた昇は、暗黒流れ星の練習によりすでに深手を負っていた彼を許し、「幸せになってください」と伝えて去っていく。

その園次郎と一番は、伊吹の生き別れの父と兄だった。彼らはアクシデントによって離れ離れとなった妻(園次郎からすると母)と末の弟を見付けるために金と権力を求め、その手段として裏の教育委員会を設立。伊吹を見付けたことで「もう役目は果たした」と裏の教育委員会を解散しようとするが、部下たちに反乱を起こされて一番が拘束されてしまう。
これまでの抗争で秘密教育委員会側も大きなダメージを受けており、裏の教育委員会は一気に勝負を付けようと総攻撃をかける。昇の拠点ともなっていた弱肉学園もその対象となり、彼の仲間も連れ去られてしまう。

この場に居合わせていなかった昇は、事情は分からないまでも仲間を助けなければと裏の教育委員会の拠点でもある私立高等学校ジャッカルに突入。その場の勢いで一番を倒して師匠超えを果たし、彼から「自分はもうやめた」と聞いて現在の裏の教育委員会のトップもついでに成敗。ここ最近自分の前にたびたび現れていた仮面の男の正体が昇一であることにも気づき、滝沢家と伊吹家2つの家族は再会する。
かくして日本の教育界に根を張っていた裏の教育委員会は壊滅。これで一件落着かというとそんなことはなく、昇は今度は海外の悪しき教育委員会と戦わされることとなる。父や伊吹家の面々と共に海を渡った昇は、八面六臂の活躍を続け、ついに全ての悪しき教育委員会を撃破。卒業式当日になって友花里が待つ弱肉学園へと帰還し、自分たちの勝利と炎のように駆け抜けた高校生活を誇るのだった。

『炎の転校生』(島本和彦)の登場人物・キャラクター

主要人物

滝沢昇(たきざわ のぼる)

CV:関俊彦

本作の主人公。明朗快活で猪突猛進、単純で善良な正義漢。勢いに乗っている時はとことん強いが、精神的にはわりとダメなところがあり、落ち込む時は周囲が戸惑うほど徹底的に落ち込む。首元の長ハチマキがトレードマーク。
空中でバク転しながら放つ「滝沢キック」、相手に飛び掛かってから反対側の壁を蹴って殴りつける「滝沢国電パンチ」など、数多くの必殺技を持つ。

高村友花里(たかむら ゆかり)

CV:日髙のり子

本作のヒロイン。昇に負けず劣らずの運動神経と、常に明後日の方向に暴走していく彼をそれとなく軌道修正させる面倒見の良さを備えた少女。
射津幌市立鳥羽砂高等学校の生徒だったが、昇のことを気に入り彼を追いかける形で転校を繰り返していった。

伊吹三郎(いぶき さぶろう)

CV:玄田哲章

昇のライバルを自称する少年。武器全般の扱いに長け、ベルトであれボールであれ何かを持たせると途端に実力を発揮する。貧乳好きで、友花里に好意を抱いていたが、「自分と母は父に捨てられた、愛の無い家庭に育った」との想いから言い出せずにいた。
射津幌市立鳥羽砂高等学校の生徒だったが、友花里が昇を追って学校を去ると、これを追う形で自身も転校。成り行きや自身のプライドで昇と共闘するようになっていった。

秘密教育委員会

滝沢昇一(たきざわ しょういち)/X仮面(エックスかめん)

秘密教育委員会の敏腕エージェント。裏の教育委員会の計画をいくつも打ち破り、彼らからも要注意人物と目されていた。
物語途中で園次郎と対決し、優勢に戦いを進めるが、窓の外に放り出されて高所から地面に落ちたことで重傷を負う。長らく意識を失っていたが、昇が園次郎との決戦を迎える頃になって目覚め、「状況がよく分からない」、「入院中に外出していることがバレると怒られる」といった理由から仮面を被り、「X仮面」を名乗って行動するようになる。

裏の教育委員会

伊吹一番(いぶき いちばん)

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