逆境ナイン(島本和彦)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『逆境ナイン』とは、熱血漫画家として名高い島本和彦による、高校野球を題材とした漫画。略称は『GK9』。いかにも漫画らしいコメディ色の強い荒唐無稽な内容だが、その中で語られる数々の名言が胸を打つ傑作として知られる。2005年に実写映画化された。
野球部の廃部を告げられた野球部主将の不屈闘志は、「甲子園で優勝したら廃部撤回」という約束を校長相手に一方的に取り付ける。無理だ無茶だと訴える部員たちを励まし、猛練習に励み、時に自身が「もうダメだ」と泣き叫びつつ、不屈は甲子園の優勝を目指して突き進む。

『逆境ナイン』(島本和彦)の概要

『逆境ナイン』とは、熱血漫画家として名高い島本和彦による、高校野球を題材とした漫画。略称は『GK9』。『月刊少年キャプテン』にて、1989年から1991年にかけて連載された。
連載開始前は『全力タイフーン』というタイトルのサッカー漫画として打ち合わせが進んでいたが、1話と2話の展開を思いついた島本和彦が予定を引っ繰り返して本作を描き上げた。すでに先のタイトルで予告を出していたこともあり、当然ながら編集部は大いに混乱したが、1話と2話のクオリティの高さに感服してGOサインを出したという逸話を持つ。

荒唐無稽な魔球が登場し、100点差を覆して逆転勝利するなど、いかにも漫画らしいコメディ色の強い内容だが、その中で語られる数々の名言と迷言が胸を打つ怪作として知られる。島本和彦作品の中でも非常に評価が高く、本作を同氏の最高傑作とする声も多い。
2004年には続編となる『ゲキトウ』の連載が開始され、2005年には実写映画が公開された。また、島本和彦直筆の同人誌も数作作られている。

全力学園高校野球部主将の不屈闘志(ふくつ とうし)は、ある時校長から野球部の廃部を告げられる。ならばと不屈が「甲子園優勝旗を校長室に飾りたくないか」と提案すると、校長はその大言壮語に興味を示し、今年の夏の全国高等学校野球選手権大会が終わるまでは廃部の決定を保留する旨を彼に伝える。
「大会序盤での敗退が当たり前の自分たちに優勝なんて無理だ、できるわけがない」と訴える部員たちを励まし、猛練習に励み、時に自身が「もうダメだ」と泣き叫びつつ、不屈は目的に向かって邁進。しかしそんな不屈たちの前に甲子園常連の強豪校やテスト、怪我に恋に不和に記憶喪失と“まだこの手があったぞ、さぁ苦しめ”と言わんばかりの様々な逆境が次から次へと手を変え品を変え容赦も加減も飽きることもなくこれでもかこれでもかと立ちはだかる。
「来た…来やがった…これだ、これが逆境だ!」
努力と気合と時の運と実力と勢いと言い訳と割り切りと開き直りと口喧嘩と男の魂でそれらを次々と乗り越え、不屈たち全力学園高校野球部一同は甲子園優勝を目指して突き進む。

『逆境ナイン』(島本和彦)のあらすじ・ストーリー

野球部の危機

全力学園高等学校野球部主将の不屈闘志(ふくつ とうし)は、ある時校長から「弱小の部に広いグラウンドは不要との声が上がっている、私は勝ってくるところにしか興味は無い」と野球部の廃部を告げられる。ならばと不屈が「甲子園優勝旗を校長室に飾りたくないか」と提案すると、校長はその大言壮語に興味を示し、「同地区の野球強豪校日の出商業高等学校との練習試合に勝てれば、今年の夏の全国高等学校野球選手権大会が終わるまでは廃部の決定を保留する」旨を彼に伝える。
部員たちは「地区大会序盤での敗退が当たり前の自分たちに優勝なんて無理だ」と訴えるが、不屈は「なら俺に“優勝なんて絶対に無理だ”と思わせてみろ」と挑発。一晩中かけて「できるわけがない」と罵声を浴びせ続けてもなお諦めない不屈に、部員たちはすっかり呆れると同時に毒気を抜かれ、「こうなったら主将と一緒に甲子園優勝を目指そう」と盛り上がる。

いつになく本気で、いつになく真面目に練習に励む不屈と野球部員たちを見て、校長は彼らに少しずつ期待を寄せるようになる。不屈もまた自分たちの成長に手応えを感じ、「日の出商業は別地区の強豪校との練習試合を間近に控えており、その肩慣らしのつもりで全力学園との練習試合を承諾してくれた」という話を聞いて、そう簡単には行かないぞとほくそ笑む。
だがしかし、慣れない猛練習による疲労は、部員たちの体に予期せぬ影響を与えていた。「間違って半田ごてをつかんで手を火傷した」、「うっかりバイトのシフトを入れてしまった」、「小テストで赤点を取って追試を受けなければならなくなった」、「女の子にフラれてやる気が出ない」と様々な理由から次々と部員が脱落し、気付けば試合当日にまともにプレイできるのはピッチャーの不屈とキャッチャーの大石だけになっていた。

それがどんな結末を迎えるにしろ、今年の野球部は躍進するかもしれないと期待していた校長はこの事態を惜しみ、不屈に「残念だったな」と声をかける。しかし不屈は「まだこの俺の腕が残っている」と豪語し、これほどの苦境の中にあっても日の出商業に勝ってみせると言い切るのだった。

雨の中の奇跡

日の出商業との練習試合前日、不屈は怪我をしないまま残ったキャッチャーの大石を自宅に招いて入念な打ち合わせをする。自分たち以外の残りの7人はクラスの暇な人を集めてチームを組む手はずになっていたが、日の出商業との戦力差は絶望的もいいところだった。ピッチャーである自分が全てのバッターを打ち取り、自分たち2人で1点でも取ればそれで勝てると言い張る不屈だったが、その晩暗い中で寝惚けたままトイレに行こうとした大石に踏まれて利き腕を脱臼してしまう。
かくしてやってきた試合当日。不屈たちの絶望的な状況を表現するかの如く、その日は朝から雨が降っていた。それぞれの事情で練習試合に参加できなくなった部員たちは、不屈の怪我を知って慌てて彼の下に集まる。心配そうに見詰める彼らに、不屈は「今日の試合は勝つぞ」と雄々しく宣言。そんな彼を見て、部員たちは「不屈を1人で処刑台同然の負け試合に送り出すわけにはいかない」と再び野球部に戻ってくる。

大雨の中、試合場に向かう不屈と野球部員たち。廃部を言い渡した校長までもが「よくぞここまでやった」と陰ながら称賛する中、彼らは日の出商業の野球部員たちと対峙する。相手の主将である高田二流(たかだ じろう)は、「この雨の中で試合をしては体調を崩す。明日の強豪校との試合の方が大事なので、悪いが我々は試合を放棄する。君たちの不戦勝にしてくれ」と言って去っていく。
「勝った、勝ったぞ。何はともあれ、俺たちの勝ちだ!」
奇跡の大勝利に、涙を流して歓喜する不屈たち。校長は狂喜乱舞する彼らをしばし見詰め、約束通り野球部の廃部を一時保留にすることを決めると、「こんなことでは私は満足しないぞ」と言い残して立ち去るのだった。

新たな仲間たち

強豪校との練習試合に快勝するも、「実力で全力学園高校に負けた」ような風評を立てられた高田たちが大いに憤慨する一方、不屈たちは甲子園優勝に向けて再始動。空席となっていた監督に、野球のことは特に詳しくないが含蓄ある言葉と謎の迫力と説得力で人を奮い立たせる社会科教師サカキバラ ゴウを迎え、万全の体制で大会に臨む。
しかし、そんな彼らの前に「期末テスト」という巨大な壁が立ち塞がる。赤点を取れば補習を受けねばならず、当然部活動どころではなくなり、もともと部員数ギリギリな野球部は窮地に立たされる。不屈に至っては「全然勉強していない」と今さら頭を抱えて泣き喚くレベルで、部員たちから「主将のお前がそんなことでどうする」と罵声を浴びせられる。

それでも不屈は、サカキバラに勧められた勉強法でなんとか赤点を免れる。しかし不屈にあれだけ言っておいて意外と勉強していなかった野球部員の半数は赤点を取ってしまい、今年の大会への参加が絶望的となる。
この事態に慌てふためいた不屈は、追加の部員を大急ぎで探す。ハギワラ リョウ、亀谷万念(かめや まんねん)、長嶋茂(ながしま しげる)、源完人(みなもと かんと)といった新メンバーを新たな仲間とした全力学園高校野球部は、突如現れたダークホースとして地区大会を勝ち進んでいく。

恋の迷路

かつてない勢いで勝利を重ねていく中、不屈は桑原真実子(くわばら まみこ)という少女と出会い、これに一目惚れする。大会途中でアクシデントから腕を痛めた不屈が、これを診てもらおうと通った医者の娘でもある彼女は、「あの人は最近校内で話題の野球部の主将だし、無理をして試合に出て腕を酷使するつもりではないか」と心配し、せめて1日は彼を野球から遠ざけようと遊園地に誘う。
桑原にすっかり骨抜きになっていた不屈は、「あの子が自分を誘ってくれるなんて」と感激してこれを承諾するが、その日は野球部の試合がある日でもあった。恋に夢中になるあまりそれをうっかり忘れていた不屈は、桑原と共に遊園地に遊びに出掛けてしまい、その帰りに不屈無しでなんとか勝利した野球部の面々と遭遇。部の中での立場を失ってしまう。怪我を悪化させないために、不屈がこの日試合に出ることは不可能な話ではあったが、今さらそれを説明しても誰にも信じてはもらえない状況だった。

「部の仲間に合わせる顔が無い、腕を壊して詫びるしかない」と暴れる不屈だったが、家族に諭されて恥を忍んで部に復帰。部員たちはあてつけのように猛練習に励み、結果として野球部は短期間に大きく実力を上げる。やがて代理のピッチャーを務めていたハギワラの擁護もあって不屈は再び野球部の仲間として認められるに至るも、そのハギワラから「野球と惚れた女のどちらを選ぶのか」と二者択一を迫られる。のた打ち回るほど悩んだ末に不屈が選んだのは、野球部の仲間たちと共に甲子園を目指すことだった。
地区予選決勝前日、不屈は夏に向けて髪を短くした桑原と会い、「君の気持には応えられない」と伝える。しかし桑原は“父の患者でもある同じ学校の生徒を心配していた”だけで不屈に恋心があったわけではなく、これを知った彼は大いに恥をかく。自分の思い込みで振り回す形となったことを詫び、桑原との関係をすっぱり断ち切った不屈は、改めて甲子園を目指す。そんな彼を見て、桑原は「髪を切るのが1日早かった」と優しく笑むのだった。

100点差の大逆転

地区大会決勝の相手は日の出商業だった。1回表、相手の打球をピッチャーライナーで顔面に食らった不屈はいきなり気を失ってしまう。次に彼が目を覚ました時、試合はすでに9回表で、全力学園は日の出商業に3対112と空前絶後の大差を付けられていた。さすがに不屈もショックを受けるが、桑原に激励されて持ち直し、「ここから逆転してやろう」と仲間たちを鼓舞する。
部員数がギリギリで交代できる者がいないという事情もあり、不屈は倒れている間ずっと外野で放置されていた。ピッチャーとして再びマウンドに立った不屈は、この土壇場で男の魂をボールに込める“男魂”(おとこだま)という魔球に開眼。日の出商業の攻撃を綺麗に断ち切る。

逆境でこそ力を発揮する不屈は、部の仲間たちと共に9回裏での逆転に懸けて猛攻を仕掛けていく。そのすさまじい気迫は50点以上の得点を生み出すものの、交代もできないままぶっ通しで試合を続けていた不屈以外の面々は体力が尽きて動けなくなってしまう。日が暮れたこともあって勝負は翌日に持ち越されるも、自分と怪我をしているハギワラ以外は体力を使い果たして入院するという非常事態に、「試合できるのが俺しかいない状況でどうすればいいのか」と不屈は絶望する。しかし、「お前が寝ている間、仲間たちは観客からの哀れみと嘲笑を受けながら、お前が目覚めて再び一緒に戦ってくれることを信じて、半日もの間相手の猛攻に耐えていたのだ」というサカキバラの話を聞いて、結果がどうなるにしろ仲間の想いを無駄にはできないと覚悟を決める。
翌日。死をも覚悟したような心境で試合場に向かった不屈は、審判たちから「全力学園は不屈以外に選手がいないから“透明ランナー制”を採用する」という決定を聞かされる。これは攻撃側の選手が出塁したら、”そこに選手がいる”という想定の上でボッターボックスに戻ることを繰り返すものだった。そんなルールがあったのかと驚きつつ、不屈はこれを利用して暴れに暴れ、ついに109点差を引っ繰り返し、奇跡の大逆転勝利を達成するのだった。

優勝旗の行方

甲子園出場を果たした全力学園野球部。負けた悔しさから、「せめてコイツらに勝ってもらわないとやりきれない」という高田たちに特訓に付き合ってもらったことで、不屈たちはさらに実力をつけていく。しかし、ここで産休を取った教師の代打のだったサカキバラが学校を去ることとなる。代わりに戻ってきた安藤トロワ(あんどう トロワ)は、サカキバラ以上に野球のことを知らない教師だったが、不屈たちは背に腹は代えられず彼女を新監督として甲子園に臨むこととなる。
大きく実力を上げた全力学園野球部は、甲子園で行われる全国大会をも順調に勝ち進んでいく。しかし決勝戦の相手は、不屈と同じく逆境であればあるほど力を発揮する高校球児だけが集まった強力学園高校で、その監督は新たに就任したサカキバラだった。

さらに決勝戦当日、不屈が事故に巻き込まれて記憶を失ってしまう。自分の名前も野球のルールも忘れてしまった不屈だったが、部員たちはそれでも彼を信じて強力学園の攻撃を耐え凌ぎ、「逆境に強いのが不屈だけだと思うな」と奮起。試合は一進一退の様相を呈していく。
9回の攻防の中、アクシデントでハギワラが倒れ、不屈に出番が回ってくる。マウンドに上がった不屈は、全身全霊を込めた男魂で最後のバッターを打ち取り、誰もがありえないと考えていた甲子園優勝を果たす。かくして全力学園高校の校長室には甲子園優勝旗が飾られ、野球部はその後も活躍していくのだった。

『逆境ナイン』(島本和彦)の登場人物・キャラクター

全力学園高等学校

不屈闘志(ふくつ とうし)

CV:櫻井孝宏
演:玉山鉄二

全力学園高校野球部の主将。逆境であればあるほど力を発揮する熱血漢で、サウスポーのピッチャー。時に雄々しく時に強引に仲間を導く優れたリーダーシップの持ち主だが、精神的には意外と脆くしょっちゅう弱音を吐く。

桑原真実子(くわばら まみこ)

CV:田中理恵

全力学園高校に通う少女。学校近くで小さな診療所を開いているシルベスター・スタローン似の父を持ち、彼のところにやってきた不屈のことも気遣う。
不屈のことは異性の友人としてそれなりに気に入っていたらしく、彼が「野球に集中したい」と断腸の思いで自分への想いを断ち切った時は、「髪を切るのが1日早かった」とつぶやく。以降は学校の仲間として彼を応援し、ストレートに好意を示すようにもなっていった。

月田明子(つきた あきこ)

CV:堀江由衣
演:堀北真希

全力学園野球部のマネージャー。暴走しがちな不屈を、場合によっては蹴飛ばしてでも軌道修正させるしっかり者。料理はあまり上手ではないらしく、彼女の差し入れが思わぬ事件を引き起こしたこともある。
実写映画版では桑原が登場しないため、事実上のヒロインを務める。

ハギワラ リョウ

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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