炎の転校生(炎転)のネタバレ解説・考察まとめ
『炎の転校生』とは、熱血漫画家として名高い島本和彦による、学校に巣食う悪と戦う転校生の活躍を描いた少年漫画。島本和彦がデビュー直後に描いた作品で、画風も構成も粗が目立つものの「熱血を装ったギャグ」という同氏の作風が確立した傑作とされている。略称は「炎転」(ほのてん)。
滝沢昇は、親の都合で転校を繰り返す高校生。しかしなぜか彼が転校する高校には常に悪党が跋扈しており、毎度大立ち回りを演じることとなる。実は昇の父は学校に潜む悪を討つ秘密教育委員会の一員で、彼は自ら父の仕事に首を突っ込んでいた。
伊吹一番(いぶき いちばん)
裏の教育委員会の長。筋骨隆々とした褐色の肌の偉丈夫。細かいことにこだわらない懐の深い人物で、時々自分の理屈だけで納得して行動することも少なくない。秘密教育委員会のエージェントとなった昇と出会い、互いに正体を知らないまま交流。時に悩む昇を言葉で励まし、時に暴走する昇を拳で諫め、師に等しい存在となっていった。
実は伊吹の父で、アクシデントによって生き別れた息子と妻を見付けるために権力を求めて裏の教育委員会を設立した。
伊吹園次郎(いぶき そのじろう)
裏の教育委員会の幹部。大陸学園で陣頭指揮を執る中、乗り込んできた昇一と対決。追い詰められるも昇一共々窓の外に放り出され、自分だけ軽傷ですむという悪運の強さを見せつける。しかしここを昇に目撃され、「運よく助かったでは格好がつかない」との判断から「必殺技の“暗黒流れ星”によって勝利した」と宣言してしまったことから、本当に暗黒流れ星の開発に迫られることとなる。
実は伊吹の上の兄で、生き別れた母と弟を見付けるために裏の教育委員会で働いていた。異様に金に執着する性格も、「金があればなんでもできる、きっと母と弟を見付けられる」という想いが根底にある。
『炎の転校生』(島本和彦)の名言・名セリフ/名シーン・名場面
伊吹「心に棚を作れッ!!」
弱肉学園の未来を懸けた決闘に協力する約束をしたはずの城之内は、決闘の時間になっても現れず、昇たち生徒側の不戦敗が決定する。どういうことなのか問い詰めたいとは思うものの、自分は自分で対戦相手との決闘に負けてしまった昇は、「自分に城之内をどうこう言う資格はないのではないか」との悩みを抱える。
そんな昇に、、伊吹は「心に棚を作れ」と雄々しく告げて、「自分のやらかしを反省することと、他人の失態を責めることは別の問題だ」と諭す。よくよく考えるとかなり情けないことを言っているような気もするが、人生には時々こういった割り切りも大切である。
昇「今は、きみにうらみはないが…そのうち必ずできる!!そうなる前に…おれはきみを倒そう!!」
昇の活躍を警戒した裏教育委員会が弱肉学園に派遣してきたのは、肌が黒い以外は彼と瓜二つの容姿と同じ能力を持つ“ブラック滝沢”こと滝沢流(たきざわ ながる)だった。ごく普通の生徒として過ごすブラック滝沢を見ていた昇は、転校を繰り返し自分の居場所に彼が少しずつ浸食していることに気付き、「ブラック滝沢は特に何も悪いことをしているわけではないが、友花里ちゃんを渡すわけにはいかん」と決意する。
「今は、きみにうらみはないが…そのうち必ずできる!!そうなる前に…おれはきみを倒そう!!」とは、その際に発した昇の決意表明である。実際にブラック滝沢は裏の教育委員会の手先だったわけだが、そうでなければただの言いがかり同然。それをかくも清々しく言い切れるところが、昇という少年と本作の魅力だ。
友花里「汚物でも…滝沢くんが好きよ」
叩きのめされては立ち上がり、その都度成長を続け、ついに一番を打ち倒した昇。しかし、最後の最後に自身の勘違いから騙し討ちするような形になってしまい、昇は「こんな卑怯な勝ち方なんて許されない、俺は勝ってはならない人間なんだ」とすさまじい勢いで自分に絶望する。
そんな彼に、友花里は優しく寄り添い、「汚物でも…滝沢くんが好きよ」と優しく語り掛ける。涙すら流して自分を励ます友花里の姿を見た昇は、「卑怯でも納得できなくても勝ちは勝ちだ、誇れ少年」との一番の称賛もあってようやく胸を張る。この際、こっそり友花里が「どうせ明日には言うことが変わっているわ」と内心で語っていることも含めて、2人の仲の良さがよく表れているシーンである。
『炎の転校生』(島本和彦)の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
作者島本和彦が自ら熱唱した歌から作られたアニメ版主題歌
本作のアニメ版の主題歌は、「島本和彦が歌ったものから作成する」という他に例の無い経緯を辿って作られた。
アニメ制作時に「作者ならこの作品の魅力の根幹が分かるはず」という理屈からこの話が持ち上がり、これを島本和彦が断り切れずに承諾。音楽の知識などまったくない島本和彦が歌詞を作り、まったく独自の感覚で熱唱し、これを譜面に起こしたのである。この顛末は、島本和彦の『燃えよペン』の中で漫画的脚色を施した上で詳細に語られている。
『炎の転校生』(島本和彦)の主題歌・挿入歌
OP(オープニング):関俊彦「炎の転校生」
Related Articles関連記事
アオイホノオ(漫画・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ
『アオイホノオ』とは漫画家の島本和彦が小学館の漫画雑誌『ゲッサン』に連載している青春コメディ漫画と、それを原作としたドラマ作品である。1980年代の大阪を舞台に漫画家を目指す大学生、焔燃(ほのおもゆる)が若者特有の様々な誘惑や葛藤の中、プロの漫画家としてデビューし活躍する姿を描く。また1980年代当時の漫画やアニメが実名で登場している。2014年には柳楽優弥主演でドラマ化された。
Read Article
逆境ナイン(島本和彦)のネタバレ解説・考察まとめ
『逆境ナイン』とは、熱血漫画家として名高い島本和彦による、高校野球を題材とした漫画。略称は『GK9』。いかにも漫画らしいコメディ色の強い荒唐無稽な内容だが、その中で語られる数々の名言が胸を打つ傑作として知られる。2005年に実写映画化された。 野球部の廃部を告げられた野球部主将の不屈闘志は、「甲子園で優勝したら廃部撤回」という約束を校長相手に一方的に取り付ける。無理だ無茶だと訴える部員たちを励まし、猛練習に励み、時に自身が「もうダメだ」と泣き叫びつつ、不屈は甲子園の優勝を目指して突き進む。
Read Article
燃えよペン(島本和彦)のネタバレ解説・考察まとめ
『燃えよペン』とは、熱血漫画家として名高い島本和彦による、漫画家を題材とした漫画。全1巻と短い作品ながら、後ろ向きなようで果てしなく前向きな名言や、人の弱さを雄々しく肯定する迷言の数々が登場する捧腹絶倒の内容で知られる。主人公は架空の人物だが、描かれるエピソードの中には島本和彦の実体験に漫画的な誇張を加えたものも多く、半ば自伝的な作品となっている。 炎尾燃は、漫画制作に心血を注ぐ熱血漫画家である。私物を破壊したり、アイドルに会わせろと編集者に要求しながら、彼は今日も全力で漫画に打ち込む。
Read Article
あの有名人が多数! ある漫画家の恐るべき過去、アオイホノオ
島本和彦氏の半自伝マンガ、アオイホノオ。 実写ドラマ化もされ、現在絶賛連載中の作品です。 多数の有名人が登場するこの作品を、今回は紹介したいと思います。
Read Article
天使か悪魔か何者か!?タダモノではない幼女、少女たち
少女や幼女、それは庇護されるべき存在。まるで天使のような存在。しかーし!漫画、アニメなど創作の世界にはいるんです。侮ってはいけない天使たちが…一部は小悪魔と言っていいかもしれません。
Read Article
スーパーロボット大戦参戦作品まとめ(その8)
「エヴァ」以外のガイナックス作品から、スーパーロボット大戦シリーズ参戦作品をまとめます。思いのほか、熱いロボットアニメが揃いました。
Read Article
漫画家志望は参考に……するな!? 漫画家マンガ、吼えろペン
熱血?漫画家・島本和彦氏の、「漫画家」を描いたマンガが、吼えろペンシリーズです。 漫画家志望者に対する指導書に……なっているようななっていないような感じの作品ですが、 紹介したいと思います。
Read Article
目次 - Contents
- 『炎の転校生』(島本和彦)の概要
- 『炎の転校生』(島本和彦)のあらすじ・ストーリー
- 嵐を呼ぶ男の来訪
- 裏の教育委員会の暗躍
- 「炎の転校生」の誕生
- 家族の再会
- 『炎の転校生』(島本和彦)の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 滝沢昇(たきざわ のぼる)
- 高村友花里(たかむら ゆかり)
- 伊吹三郎(いぶき さぶろう)
- 秘密教育委員会
- 滝沢昇一(たきざわ しょういち)/X仮面(エックスかめん)
- 裏の教育委員会
- 伊吹一番(いぶき いちばん)
- 伊吹園次郎(いぶき そのじろう)
- 『炎の転校生』(島本和彦)の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 伊吹「心に棚を作れッ!!」
- 昇「今は、きみにうらみはないが…そのうち必ずできる!!そうなる前に…おれはきみを倒そう!!」
- 友花里「汚物でも…滝沢くんが好きよ」
- 『炎の転校生』(島本和彦)の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 作者島本和彦が自ら熱唱した歌から作られたアニメ版主題歌
- 『炎の転校生』(島本和彦)の主題歌・挿入歌
- OP(オープニング):関俊彦「炎の転校生」