ピアノ・レッスン(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ピアノ・レッスン』とは、1993年にオーストラリアで制作された恋愛映画である。口が利けない女性エイダは、まだ見ぬ夫スチュアートが住むニュージーランドへ娘フローラとピアノと共に渡る。海辺でピアノを弾くエイダに惹かれたスチュアートの友人ベインズは、土地と交換でエイダのピアノを手に入れる。荒々しくも情熱的なベインズに戸惑いながら、ピアノを介してベインズに惹かれていくエイダの燃えるような恋愛が官能的に描かれていく。ホリー・ハンターが主演を務め、ジェーン・カンピオンが監督を務めた。

『ピアノ・レッスン』の概要

『ピアノ・レッスン』とは、1993年にオーストラリアで制作された恋愛映画である。

まだ見ぬ夫が住むニュージーランドへ渡った口が利けない女性エイダ・マクグラスが、自身の感情と言葉を表現する手段であるピアノを介して夫の友人で粗野な性格でありながらも情熱的な男ジョージ・ベインズに惹かれていく姿が官能的に描き出されていく。

6歳の頃から口が利けない女性エイダ・マクグラスは、娘フローラ・マクグラスと共にまだ見ぬ夫アリスディア・スチュアートが住む未開の地ニュージーランドへ渡る。
口が利けないエイダにとってピアノは彼女の感情表現の手段であり、相手に自分の思いを伝える言葉でもある。
しかし、スチュアートは「重すぎる」という理由でピアノを運ぶことを拒否し、浜辺に置き去りにしてしまう。

スチュアートの友人であり、ニュージーランド先住民マオリ族に同化した地主ジョージ・ベインズはある日、海辺でピアノを弾いて喜びをみなぎらせているエイダに惹かれていく。
エイダに心惹かれたベインズはスチュアートに「土地とピアノを交換したい」と申し出る。

ベインズはエイダに「ピアノの弾き方を教えてくれたら返す」と提案し、戸惑いながらもエイダはベインズの提案を受け入れる。
ベインズの提案とは、鍵盤の数に応じてエイダにキスをしたり、スカートを上げさせたりしていくというものであった。

ベインズにはピアノの弾き方を覚えるという気持ちはなく、ただエイダとの情事に身を焦がしていたいという気持ちがあったのだ。
やがて服を脱がせる、ベッドに横になるなどベインズの要求は大きくなっていくが、粗野な性格でありながら情熱的なベインズにエイダはレッスンの度に惹かれていくのであった。

しかし、「エイダを淫売にしてしまっては自分が情けない。夫を持つ女と愛し合えない」という思いから、ベインズはピアノをエイダに返すのであった。

第66回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞、脚本賞、撮影賞、編集賞、衣装デザイン賞の8部門にノミネートされ、
口が利けない女性エイダ・マクグラス役を演じたホリー・ハンターは映画の中で自らピアノ演奏を披露してアカデミー主演女優賞を受賞した。

エイダの娘フローラ・マクグラス役を演じたアンナ・パキンはアカデミー助演女優賞を、受賞当時当時史上2番目の若さである11歳で手にした。

監督は『ある貴婦人の肖像』、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』などで知られるジェーン・カンピオンが務め、アカデミー脚本賞を受賞した。

『ピアノ・レッスン』のあらすじ・ストーリー

遠く離れた未開の地ニュージーランドへ

1852年、スコットランド。
エイダ・マクグラスは6歳の頃に母親を亡くして以来、話すことをやめている。彼女はピアノを弾くことで自身の喜怒哀楽を表現しており、ピアノはエイダにとって何よりも大切なものであった。
エイダは夫となる男アリスディア・スチュアートが住むニュージーランドへ嫁ぐことになり、一人娘フローラ・マクグラスと共にスコットランドを離れる。

荒れ狂う海を渡って未開の地ニュージーランドへたどり着いたエイダとフローラは、天候が悪かったことから海岸でテントを張って一夜を過ごした。

翌朝、ニュージーランドの先住民マオリ族を引き連れてスチュアートがエイダとフローラを迎えに来た。
エイダの荷物を運び始めるが、彼女のピアノだけは「重過ぎる」という理由でスチュアートは運ぶことを拒否した。

エイダは娘フローラを通して「ピアノを運んで欲しい」と懇願するが、スチュアートは聞く耳を持たなかった。
エイダは海岸に置き去りにされたピアノをただ見つめ続けるだけであった。

エイダに惹かれていくジョージ・ベインズ

ぬかるんだ道を歩いて住まいに到着したエイダであるが、気持ちは浜辺に置き去りにされているピアノに向いていた。結婚式を挙げることを拒んだエイダは夫となったスチュアートと写真だけ撮ったが、写真に入れてもらえないエイダの娘フローラは不機嫌になった。

フローラはスチュアートの叔母モラグに、母親エイダが言葉を話さなくなった理由は「結婚式の日に父親が雷に打たれて死んだから」と作り話をして同情してもらった。

次の日、スチュアートはニュージーランドの先住民マオリの土地を買い付けに行くために数日の間家を留守にした。
エイダは娘フローラと共に夫スチュアートの友人でマオリに同化しているジョージ・ベインズの住む小屋を訪ねる。
「ピアノが置き去りにされている浜辺へ連れて行って欲しい」と頼むが、ベインズは「できない」と言って拒否する。

いつまでもエイダとフローラが小屋の前にいることを目にしたベインズはついに根負けし、エイダとフローラをピアノが置き去りにされている浜辺へ連れていった。

エイダは浜辺に連れてきてもらってすぐ、ピアノを弾き始める。生き生きとした表情を見せながらエイダはピアノを弾き、その音に合わせてフローラは砂浜の上で踊る。
ベインズはピアノを弾くエイダと彼女が奏でる音色に心を奪われていく。

ベインズからの提案

ある日、ベインズはエイダの夫で友人でもあるスチュアートに「土地とピアノを交換したい」と持ちかけた。
スチュアートは「音楽好きのベインズか」と驚きを見せながらベインズからの提案を受け入れた。

エイダは自分の大切なピアノが土地と交換されたことに激しい怒りを見せるが、「犠牲に耐えることが家族だぞ」とスチュアートはエイダに怒鳴り、ベインズにピアノの弾き方を教えるように言うのであった。

ピアノは海風にさらされ、ベインズが住む小屋に運ばれるまでに何度も落とされてしまう。
自分の大切なピアノが無事であると思っていないエイダはベインズにレッスンをする気持ちなどなかった。

しかしベインズは調律師を雇い、エイダのピアノの調律を依頼した。
エイダがベインズの住む小屋にやって来てピアノを弾くと、調律されていることにエイダは驚きを隠せなかった。

エイダはベインズにピアノを教えることを承諾するが、ベインズは「ピアノを弾いているところを聞いて覚える」と言った。

雨が降るある日、ベインズの小屋でエイダはピアノを弾いていた。突然、ベインズはエイダの首筋にキスをした。
あまりに突然の事に驚くエイダに対し、ベインズは「ピアノを取り戻す方法がある。ピアノを取り戻したいだろう?」とエイダに言った。

「白鍵ひとつにつき体を触らせろ」とベインズはエイダに持ちかける。エイダは自分の大切なピアノを取り戻すために「黒鍵ならば」とベインズの提案を受け入れたのであった。

燃え上がるエイダの恋

レッスンをするという名目でエイダはベインズと情事を重ねていく。
「ピアノの鍵盤の数だけやりたいと思っていることをさせてくれれば、大切なピアノを返す」とベインズはエイダに言う。

エイダは自分の言葉であるピアノを取り戻したいがためにベインズの提案を受け入れるが、彼の要望は次第にエスカレートしていく。
「スカートを上げろ。服を脱げ、体に触らせろ」と鍵盤の数を増やしてベインズは自分のやりたいことを実行していった。
さらには添い寝をすることまでベインズはエイダに要求していく。

教会で上演される感謝祭の演劇にエイダの娘フローラが出演することになり、スチュアートとエイダは劇を見に行く。その場にベインズもやって来るのだが、エイダの隣に座ることを拒否されてしまう。
ベインズはエイダの手を握るスチュアートの姿を目にして我慢がならず、退席してしまうのだった。

真剣にベインズはエイダが弾くピアノの音に耳を傾け、いつしかエイダはベインズに惹かれていく。
荒々しくも情熱的なベインズに対してエイダは鍵盤5鍵で裸になって体を触らせることを許すのであった。

母親エイダとベインズの情事をエイダの娘フローラは板の隙間から覗いていた。
外に締め出されていたフローラはエイダに対して不満を持っており、義理の父親に対して「ベインズはピアノを弾いてなんかいない。ただ聞いているだけだ」と話した。

スチュアートの怒り

ベインズは裸になったエイダの体に触れたことを恥ずかしく思い、無償で彼女が大切にしているピアノを返すことに決めた。ベインズはピアノを小屋から運び出し、スチュアートの家に運んだ。
エイダは「なぜピアノを返すのか?」と尋ねるが、「エイダを淫売にしてしまっては自分が情けない。夫を持つ相手と愛し合えない」とベインズは言い、ピアノをエイダに返した。
ピアノが返されたことでスチュアートはピアノと交換した土地を返さなければならないと慌てるが、「無償でピアノを返す」と言って、スチュアートを安心させた。

スチュアートは妻であるエイダに「ピアノを弾いてくれ」と頼むが、エイダはベインズの行動に納得がいかないことからピアノを弾くことを拒否し、娘フローラに弾かせた。
エイダはベインズの気持ちがわからなくなり、途方に暮れるだけだった。ピアノは弾きたいものの、ベインズのことが気になって仕方がないのだ。

娘が止めるのにも構わずにエイダはベインズが住む小屋に向かっていった。「君を不幸にすることなどできない」とベインズは本当の気持ちをエイダに告白した。
それを聞いたエイダは心打たれ、ベインズとエイダは体を重ねるのであった。

エイダに裏切られたと感じたフローラは義理の父親であるスチュアートにエイダとベインズの関係を話してしまう。
スチュアートはこっそりとベインズが住む小屋へ行き、妻であるエイダが友人のベインズと抱き合う様子を目にしてしまうのであった。

自分が目にした妻の行動に不信感を募らせたスチュアートはエイダと無理矢理体を重ねようとするが、エイダは決してスチュアートを受け入れなかった。夫であるスチュアートの不満を知ったエイダはベインズと会わない代わりにスチュアートを安心させるために彼の体に触れ、満足させる。

ある日、スチュアートがまた仕事で家を留守にすることになり、エイダはそれを見計らってピアノの鍵盤を外してベインズに対する愛の言葉を刻んだ。
愛の言葉を刻んだ鍵盤を「ベインズに渡して欲しい」と言って、フローラに預ける。

だが、ベインズのことを認められないフローラはエイダから渡された鍵盤をスチュアートに渡してしまう。
鍵盤に刻まれた言葉を見て激しい怒りを覚えたスチュアートは家へ急いで戻り、エイダに詰め寄ると斧でエイダの人差し指を切り落とした。

エイダは泣き叫ぶことなく呆然とし、雨に打たれながら泥の中に座り込むだけだった。

愛する人と愛する娘との新しい生活

母親エイダが義理の父親スチュアートによって斧で指を切り落とされた光景を目にしたフローラは、自分の行動が招いた恐ろしい結果を知った。
スチュアートから渡されたエイダの指と伝言を持って泣き叫びながらベインズの小屋へと向かっていった。

泣き叫ぶフローラから伝言を聞いたベインズは悲しみと怒りを覚えるが、泣き叫ぶフローラから「またあなたに会うのなら、エイダの指を切り落とす」と聞かされる。

エイダを愛したいと思っていたスチュアートは熱に浮かされた彼女を無理に犯そうとする。その時、エイダは目を見開いてじっと見つめ、スチュアートは声なき声を聞いたと感じた。
スチュアートはベインズの住む小屋へ行き、「エイダと共に出て行くがいい」と伝えた。

エイダはベインズとフローラと共に今まで住んでいた土地を離れることになった。大切なピアノと共にボートに乗ったエイダであったが、「ピアノを捨てて欲しい」と告げる。
彼女の言葉通りピアノは海に捨てられるが、ピアノに結ばれたロープにエイダは自分の足を絡ませてしまう。
海に沈もうとしていたエイダであったが、ピアノだけを海に沈め、自分は沈まずに海上へと出てきた。

ニュージーランドの北にある町でエイダはフローラとベインズと共に新しい生活を始めた。
ベインズに義指を作ってもらったエイダはニュージーランドの北にある町でピアノ講師となった。
話す訓練を始めたエイダであるが、夜になると海に沈んだピアノのことを考えるのであった。

『ピアノ・レッスン』の登場人物・キャラクター

主人公

エイダ・マクグラス(演:ホリー・ハンター)

日本語吹き替え:戸田恵子
口が利けない女性。6歳の頃に母親を亡くして以来話すことをやめ、ピアノで自身の感情を表現している。娘フローラ・マクグラスと共にまだ見ぬ夫アリスディア・スチュアートが住む未開拓のニュージーランドへスコットランドから移り住む。スチュアートの友人で、ニュージーランドの先住民マオリに同化している白人ジョージ・ベインズに興味を持たれる。ベインズが土地と交換で手に入れたピアノを取り戻すために、黒鍵の数だけベインズにピアノの弾き方を教えていく。戸惑いながらも、荒々しくも情熱的なベインズに次第に惹かれていく。娘フローラはベインズとエイダが情事を重ねていることを密告し、怒り狂ったスチュアートに斧で右手の人差し指を切り落とされてしまう。
ベインズと娘フローラと共にニュージーランドを出て、ある町で新しい生活を始めることに決めた。

エイダ・マクグラスの家族

フローラ・マクグラス(演:アンナ・パキン)

日本語吹き替え:坂本真綾
エイダ・マクグラスの娘。母親エイダ・マクグラスと共に未開の地ニュージーランドへスコットランドから移り住む。
口が利けない母親エイダと義理の父親アリスディア・スチュアートの間を取り持つことがある。
エイダが浜辺で弾くピアノの音に合わせて無邪気に踊る姿を見せる一方、母親とジョージ・ベインズがピアノのレッスンと称して情事を重ねている姿を目にし、そのことをスチュアートに密告した。
エイダとベインズの情事に怒り狂ったスチュアートがエイダの右手の人差し指を斧で切り落とした時には激しく泣き叫ぶ。
母親エイダとベインズと共にニュージーランドを離れた場所にある町で新しい生活を始める。

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