美しい彼（小説・ドラマ）のネタバレ解説・考察まとめ

『美しい彼』の概要

『美しい彼』とは、2014年12月19日にキャラ文庫より出版された凪良ゆうが描くBL小説である。2021年にはドラマ化が決まり、11月19日から放送が開始された。ドラマは大ヒットし、2023年2月8日からはシーズン2も放送されている。主人公平良一成（ひらかずなり）を演じるのは子役から活躍をしている萩原利久。もう1人の主人公清居奏（きよいそう）を演じるのは、FANTASTICS from EXILE TRIBEでボーカルを務める八木勇征だ。2人の芝居は凪良からも太鼓判を押されるほど、『美しい彼』という作品を体現している。ドラマの監督は酒井麻衣、脚本は坪田文が務める。ドラマ化では、小説のエピソードの順番が変わったり新エピソードが追加されたりしている。その工夫により、映像化の強みを活かした作品となっている。『美しい彼』はBLアワード2022で圧巻の1位に輝き、ギャラクシー賞マイベストTV賞第16、17回グランプリを受賞した。
軽度の吃音を持つ平良一成は人と馴染むことが出来ず、学校ではいつもカースト底辺のぼっちだった。高校のクラス替えで生まれ持ってのキングのような清居奏と出会い、平良は清居から目が離せなくなる。清居は誰にも媚びず、誰にでも平等に冷酷だが、当然のようにカースト上位に君臨していた。平良は清居のパシリとして高校生活を送ることになるが、平良はキングに仕える兵だと言わんばかりに喜んで彼に従った。平良の一途な熱っぽい視線に清居もまた、特別な感情を抱くようになる。過ごしてきた環境や見ている景色が違う2人が、すれ違いながら想い合う様を描く純愛物語である。

『美しい彼』のあらすじ・ストーリー

清居奏との出会い

高校3年生になる平良一成（ひらかずなり）は、趣味であるカメラを弄りながら、地球は丸いと言うけれど本当は三角形のピラミッドだと考えていた。軽度の吃音症を持ち、言葉が詰まって周りに溶け込めない平良は、自分をその最下層だと思っている。そんな平良を心配して過保護に育てる優しい両親は、平良が小学生の頃に一眼レフを買い与え、色々なところに連れて行ってくれた。それでも平良は、どんな景色も綺麗だとは思えなかった。平良が17歳の春に急遽両親の転勤が決まったが、平良は高校卒業までのあと1年、広い家で1人暮らしをすることにした。平良は新学期のクラス替えに伴って行われる自己紹介が絶望的に苦手だ。登校中、本来なら温かいお風呂や子供用プールに浮かんでいただろうアヒル隊長が下水を漂っているのを見つけ、その姿を自分と重ねた平良は思わずカメラを構えた。平良はクラスの自己紹介で盛大につまずいた。「平良一成です」と言おうとするが、「ひ、ひ、ひ、ひ、ひ…」と次の言葉が出てこない。平良が言葉が紡げずに絶望していたその時、清居奏（きよいそう）という美しい少年が入ってきた。平良の意識は引力に従うように清居に持っていかれ、夢中で見つめている間に、地獄の自己紹介を免れた。クラス替えから1ヶ月が経ち、平良はクラスの空気となった。清居はクラスのカースト上位に君臨し、彼の周りにはいつでも人が集まっている。平良は自分と1ミリも交差していないような清居のことを、生まれついてのキングのようだと感じ、自己紹介の時以来いつも目で追いかけている。その日、平良が入った教室で、清居が居眠りをしていた。平良は驚きつつも、その美しい顔を覗き込み「綺麗…」と呟いた。清居が目を開けたので、平良は盛大に驚いてプリントをばら撒いてしまう。平良は咄嗟に、クラス替えの自己紹介の時、清居が遅れてきたおかげで助かったことについて礼を言った。清居は「お前、きもい」と言い放ち、教室を出て行ってしまう。静かだった学生生活が終わりを告げようとしていた。

清居奏のパシリを始める平良一成

平良と清居、清居を取り巻く城田（しろた）たちスクールカースト上位のグループの担当する掃除場所が一緒になる。1人黙々と掃除をする平良に清居が、ファミレスの列に並び、席が空いたら連絡するようにと声を掛けた。平良は頷き「でも、どうやって連絡すれば…」と聞くと、清居は平良の手に自分の携帯番号を書いた。平良はパシリにされただけだというのに、清居に使われることに喜びすら感じていた。城田たちが、自己紹介の時に「ひ、ひ、ひ、ひ…」と言葉を詰まらせた平良をひぃ君と呼び、囃し立ててくるのも耳に入ってこない。平良はファミレスでの城田たちの会話から、清居がボーイズコンテストに応募していることを知り、やはり清居は特別なのだと心を躍らせた。それから、平良は清居たちのパシリになる。平良は清居の頼むジンジャーエールを買いに行くことを使命としており、城田たちのおつかいはついでだ。ある日、いつものようにおつかいを頼まれた平良が財布を出そうとしていると、クラスメイトの吉田（よしだ）が掃除用のバケツの水をぶちまけた。吉田は「頼むよひぃくん！こういうのはひぃ君だろ！」と平良に掃除をするように声をかけてきた。平良が戸惑っていると、清居が吉田に声を荒げる。清居は自分のことが後回しにされるのが我慢ならないという自分勝手な理由で、平良を守ったのだ。清居は平良にお金を渡し、早く行くように促す。渡された金額が多いことを指摘した平良に清居は「アイスでも食えば？」と雑に声をかけた。自分勝手で強い清居の輝きに見惚れながら「行ってきます」と平良は走り出す。平良は余ったお金を綺麗なフラスコに入れて、手元に残しておくことにした。清居の手から自分の元に渡ってきたそのコインを、平良は写真に収めた。

清居奏の努力

平良は偶然、清居がダンススクールに通っていることを知った。努力していることを知られたくなかった清居は、平良にダンスに通っていることを口止めした。平良は「口が裂けても言わない」と言う。清居は平良に顔を近づけ「言わないと殺すって言われたら？」と聞く。平良は清居の目を見つめ「殺されるよ」と答えると、清居は「きも」と短く返した。その夜、平良は清居への気持ちが恋だと自覚する。清居たちは、夏休みになると勉強という名目で平良の家に集まった。自分の家なのに居場所を失った平良は、買い出しのために家を脱出し、ぼうっと景色を見つめていた。そんな平良に自転車に乗って突っ込んできたのは、なんと清居だ。清居の命令に従い、平良は清居を乗せて自転車を漕ぐ。夢のような時間だったが、警察官に見つかって、結局学校に呼び出された。平良と清居は、罰として体育用具の掃除を言いつけられたが、清居は「あっちー」とホースを手に取り、水を浴び始める。平良が水に濡れた綺麗な清居を真剣に見つめていると、清居は平良にホースを向けた。逃げる平良に清居は「お前、いつも俺のことばっか見てるよな」と言う。平良は逃げながら「それは、清居君が綺麗だから」と返す。清居は気持ち悪いから君付けで呼ぶなと言い、平良は戸惑いながらも頑張ると答えた。2人は夏の日差しを浴びながらホースの水を掛け合い、誰もいなくなった平良の家に戻った。清居が残っている花火を見つけ、火を点ける。花火をする清居も美しい。平良は清居にカメラを向け、ファインダー越しに「清居」と呼ぶ。清居が平良の方を向き「呼べたじゃん」と微笑んだから、平良はたまらずシャッターを切った。

清居奏への信仰

ボーイズコンテストの決勝で、清居は入賞を逃した。クラスメイトの前ではなんでもない顔をしていた清居が、廊下の壁を叩いて悔しがる姿を平良は見た。クラスメイトたちとファミレスで打ち上げをしていたが、清居はずっと機嫌が悪い。清居がふらっと外に出ていくのを見かけた平良は、思わず追いかけていた。平良に気付いた清居は呆れながらも「ガキの頃、テレビの中に入んのが夢だったんだよ」と話してくれる。平良は、清居への想いが変わることはないと伝えたくて、「好きだ！清居は俺にとっての1番だ。誰とも比べられない、特別だ！」と清居に告白をした。夏休みが終わった秋の学校では変化が起こる。清居が階段を登っている途中、上からトマトジュースがかけられた。清居とつるんでいたはずの城田たちが清居を貶めようとしていた。城田はトマトジュースまみれにされても平然としている清居の胸ぐらを掴んだ。我慢の限界を迎えたのは、一部始終を見ていた平良だった。平良は狂気に満ちた表情で、城田を何度も殴った。平良は清居を救ったなどとは考えない。むしろ、汚水を流されているだけだった自分が救われたような気さえした。教師から説教を受けた平良が教室へ戻る途中、空き教室の机に突っ伏している清居の姿が目に入り、平良は導かれるように清居の前の席に座った。2人だけの時間だ。清居は「キス、したいとか思ってんの？」と聞き、平良に右手を差し出す。平良は清居の手を両手で掴み、跪いて静かに口づけをした。平良は清居への想いを神への信仰のようだと思っている。そんなことがあったからといって平良と清居が一緒に過ごすようになることもなく、呆気なく卒業式を迎える。平良は当然のように教室を出た清居を追いかけていた。清居に「俺になんか言うことないの？」と聞かれても、何も思い付かず謝る平良に、清居は突然口付けをした。清居は照れ隠しのように平良を押し倒し「じゃ、またな」と去っていった。

清居奏の本音

清居のいない無味無臭な大学生活を過ごす平良だが、大学では写真サークルに入り、小山和希（こやまかずき）という友達も出来た。小山に誘われて出かけたのは、お店全体を舞台として劇が行われるシルクロードカフェ。そこで平良は清居と再会する。清居を忘れようと続けてきた努力が一瞬で崩れ去ったが、平良は嬉しさでいっぱいだった。平良と清居はまた繋がり出す。清居は平良が小山と付き合っているのか気になる様子で、困惑する平良に「あいつと俺どっちが好きなんだよ」なんて言葉も吐いた。清居は高校を卒業した後、平良からの連絡を待っていた。
清居は母子家庭の鍵っ子で、小さい頃からみんなが笑っているテレビの中のアイドルに憧れていた。母の再婚で優しい父親が出来たが、2人の間に子どもができてからは居場所が無くなり、アイドルのように求められてみたいと清居は強く思うようになる。高校生になった清居は、自分を唯一無二の存在のように見つめてくる平良と出会った。清居はあの平良の目線が忘れられなかった。卒業式でのキスの後、清居は平良のことを想っていたが、そのことに平良は絶対に気付かない。平良こそが無意識で自分勝手な王様だと清居は思う。平良が観劇に来た日、清居が舞台に立つと、求めていたあの視線が突き刺さった。目につけばどうしたって平良のことを考えてしまう。後日、清居は稽古の練習という名目で平良の家に行くことにした。清居が平良の家に入ると、小山が平良を抱きしめ、告白をしている最中だった。怒った清居は出ていき、平良は落ち込んだ。小山は平良に「ごめん。好きになって」と謝り、「でも、俺、平良が好きだ」と言った。小山は平良の頬に触れようと手を伸ばすが、平良に止められてしまう。自分は清居に敵わないと悟った小山は「さよなら、平良」と声をかけ、家を出ていった。

お互いの気持ちを知り始めた2人

清居と喧嘩別れしたままの平良は、小山の手回しで、清居の出演する舞台の照明スタッフとして手伝いをすることになった。舞台で芝居をする清居を照らすのは、平良にとって至福の時間だった。後片付けの時、2人だけになると、清居は平良にまた自分の前に現れたことを怒る。うまく言葉が紡げない平良に清居は苛立ち「もううざい！」と近くにある台の足を蹴った。台はバランスを崩し、上に積み重なった段ボールが清居の上に降ってくる。平良は咄嗟に清居を庇い、清居の上に平良が乗るように倒れ込む。平良は清居が右手の中指を負傷していることに気付き、血が流れているその指を舐めた。我に返った平良は慌てて清居の上からどく。その様子に困惑する清居は「俺はお前のなんなの？」と平良に問う。平良は「世界で1番好きな人」と即答。清居が「じゃ、俺と付き合いたいって思うのか？」と聞くと平良は「思わない」と答えた。平良は清居を崇めているため、1人の人間として見ておらず、それが清居を苦しめる。清居は平良と距離を置くことを決意。清居が平良からのメッセージを無視していると、「今晩清居が助けてくれた場所で朝まで待つ」と留守番電話が残され、「追いかけるのはこれを最後にする」というメッセージで締めくくられていた。清居は結局学校へ向かい、平良に抱いていた恋心や不満を不器用ながら打ち明ける。平良は「俺は、清居が好きで好きでたまらなくて、そんな神様みたいに思ってるのに、自分の手が届くなんて思わなくて…」と言い、清居は「俺は神様じゃねぇよ」と涙を流す。平良は相変わらずの熱っぽい視線で清居を捉えながら「俺、清居に触って良いかな？」と聞く。清居は「今までと同じなら嫌だ」と拗ねたように答える。平良は「清居、好きだ」と言い、清居を抱き締めた。清居を抱き締める手に力を入れた平良は息遣いも荒く、清居を机の上に押し倒してキスをした。そうして平良は清居の服のボタンを外し始める。すれ違い続けた2人は初めて身体を重ねた。

平良一成と清居奏のお出かけ

平良と清居は一緒に出かけた。お洒落な洋服が並ぶお店に連れて行かれて戸惑う平良だが、清居が持ってくる服を試着していく。高校時代から憧れていた清居とショッピングをしているという幸せすぎる状況に、平良は恐ろしさすら感じた。その後は、2人並んでかき氷を食べたり、コーヒーを飲んだりした。せっかく着飾ったのに全く自信を持たない平良に清居は「今のお前は、ちょっと、その、惚れ直すくらいイケてる」と言った。ニヤけた平良が「え、惚れ…」まで言いかけたところで、清居は平良の脛を蹴った。そして、2人はモデルや俳優が集まる飲み会に参加。場違いな雰囲気に尻込みした平良だが、清居が行く場所ならと覚悟を決めて足を踏み出す。清居が初めて連れてきた友達という肩書きも相まって、平良は女の子から想像以上にモテた。家に帰ると、清居は平良の服を脱がし、女の子にベタベタ触られた服を洗濯機に放り込む。清居は謝り続ける平良に「本当は少し嬉しかったんだろ？」と聞いた。「そんなわけないよ。写真だって断った」と平良は言う。清居が理由を聞くと平良は「ポートレートは好きな人だけ撮りたい。清居だけ」と真剣な顔で答えるので、許してしまう。清居は自分の彼氏がかっこいいのだと見せつけたかった。でも、誰かに取られそうになって寂しくなった。清居は「今日は、するからな」と上目遣いで言う。平良が「今日もいいの？」とニヤけると、清居は平良の頭を叩いて部屋を出ていった。翌朝、清居は平良が抱えていた写真を見て「満月？」と聞いた。平良は「14番目の月。満月になる一歩手前の満ち足りない月」と教えてくれる。平良は清居への好きすぎて満ち足りないこの気持ちを14番目の月のようだと思う。清居が平良の膝を枕に横になり「平良、どっこも行くな」と言い、平良は「うん」と微笑んだ。清居は平良が本当に永遠なんてくれるのだろうかと考えてしまい、気を紛らわすように「なんか喉乾いたな」と呟いた。それを聞いた平良は突然奇声を上げ、ジンジャーエールを買い忘れたと慌てて1人出ていってしまう。キモいと思う清居だが、心の中で「キモくなくっちゃ平良じゃない」と納得してしまう。なんで平良なんかを好きになったのか清居は分からなかった。

平良一成のフォトコンテストへの挑戦

平良は小山から写真家の野口大海（のぐちひろみ）が審査員を務める「ヤングフォトグラフィカ」という写真コンテストへの応募を勧められるが、乗り気にならない。小山は兄からの頼まれごとで、清居の稽古場に顔を出した。小山は清居に家事など生活のことを全部平良に任せて、平良の家に転がり込んでいると指摘し、清居は思わず口を尖らせる。小山は簡単な常夜鍋のレシピを清居に渡した。それが平良を想ってのことだと分かった清居は感謝の言葉を口にした。清居は家に帰って、早速料理をした。我ながらなかなかの出来に思える。帰ってきた平良に料理を振る舞い、清居もそこで初めてそれを口にし、あまりの不味さに咳き込んだ。平良を見ると嬉しそうに味わいながら食べている。清居は堪らず平良から皿を取り上げ、「料理って難しんだな」とポツリと呟いた。そして清居は平良にヤングフォトグラフィカへの応募を勧める。清居は「お前が撮った写真が1番良い」と平良に伝え、「撮ってくれよ、俺の写真。同じ、世界で」と続けた。それを聞いた平良は、清居と同じ世界で隣にいるために、グランプリを獲ってプロになるという無謀に挑む。しかし、結果は1次審査落選。平良は写真なら向いているかもと思っていただけに、酷く落胆した。翌日、平良の母から息子の様子を見てほしいと頼まれた従姉妹の菜穂（なほ）が家を訪れる。平良は菜穂に清居とは友達だと話した。菜穂が帰った後、事情を聞いた清居は、平良の親のことを気にかけ始める。清居を安心せようと平良が「清居と俺の親はなんも関係ないから」と言うと、清居は激怒した。「今俺がどんな気持ちかわかるか」と怒鳴る清居に平良は「わかんない」と即答。必死に言葉を選んだ平良は「俺は清居を分かりたくない」と言った。清居は「お前は片想いが好きなんだろ？じゃそこに居ろよ。ごめんな、お前のこと好きになって」と涙を流して、家を出ていく。清居は家に戻ってきたが、平良に向き合う覚悟が出来るまで、キスとかしないと宣言した。

平良一成の目標