あさきゆめみし(大和和紀)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『あさきゆめみし』とは、大和和紀によって1979年から月刊『mimi』で連載された漫画作品。のちに『mimi Excellent』に移り、1993年に完結した。紫式部の『源氏物語』を漫画化した作品で、帝の子である主人公・光源氏を通して、平安時代の貴族社会における恋愛模様や権力闘争、栄光と没落を描く。少女漫画として、当時の現代的な解釈や独自のエピソードを盛り込みつつも『源氏物語』全54帖をほぼ忠実に描いている。海外向けに多言語に翻訳されているほか、小説化や舞台化など、多方面で展開されている。

『あさきゆめみし』の概要

『あさきゆめみし』とは、大和和紀による漫画作品である。1979年から月刊『mimi』で不定期に連載され、後に『mimi Excellent』に移り1993年まで連載された。
これまでに単行本(講談社コミックスmimi、全13巻)、大型版(全7巻)、文庫版(全7巻)、完全版(全10巻)が出版されており、シリーズ累計発行部数は1800万部をこえる。各言語に翻訳され、海外でも出版されている。
「宇治十帖」を除く部分が児童文学の青い鳥文庫で時海結以(ときうみゆい)によって小説化され(全5巻)、2000年に宝塚歌劇団によって舞台化・映像化されている。また、UULAにて今作に音声と特殊効果を加えて映像化したムービーコミックスが配信された。
2016年にガイドブック『あさきゆめみしの世界 大和和紀画業50周年記念』が宝島社より、新装版『あさきゆめみし絵巻』(上下巻)が講談社より出版されている。
桐壺帝(きりつぼてい)の第二皇子である主人公・光源氏(ひかるげんじ)は、光り輝くような美貌を持ち、文武の才能に恵まれる。その声望は第一皇子をはるかにしのぎ、一時は皇太子とされることも考えられたが、混乱を避けるため臣籍降下して源氏の姓を与えられた。源氏は幼い頃に母の桐壺更衣(きりつぼのこうい)を亡くしたことから、亡き母によく似ているといわれる継母の藤壺(ふじつぼ)を恋慕い、その面影を求めて葵の上(あおいのうえ)、紫の上(むらさきのうえ)、女三宮(おんなさんのみや)、六条の御息所(ろくじょうのみやすどころ)、空蝉(うつせみ)、夕顔(ゆうがお)、末摘花(すえつむはな)、朧月夜(おぼろづきよ)、花散里(はなちるさと)、明石の上(あかしのうえ)など、多くの女性と恋を重ねていく。序盤から中盤は光源氏の挫折と栄光、苦悩、後半は光源氏の子である薫(かおる)の恋愛遍歴を通し、平安時代の貴族社会を華やかに描き出す。
古典で最も有名な『源氏物語』を少女漫画化し、人気を博した作品で、古典への裾野を広げたとして評価も高い。

『あさきゆめみし』のあらすじ・ストーリー

光源氏の誕生

先の左大臣の娘・桐壺(きりつぼ)は、有力な後見がないまま入内(じゅだい)する。
他の女御(にょうご)、更衣(こうい)たちから疎まれ、さまざまな嫌がらせを受けるが、桐壺帝(きりつぼてい)の寵愛を受けるようになった。
桐壺は桐壺帝の第二皇子となる男子(のちの光源氏)を産む。桐壺帝と美しい若宮(わかみや)に囲まれて幸せの絶頂を迎えるが、これまでに増して周囲からの妬みを買ってしまう。
その心労から体を壊し、若宮を残して息を引き取った。

3年たち、若宮はさらに美しく育ち、その利発さから次の帝にと期待する声があがり始める。
しかし、帝位につけば国が乱れると予言されたことから、「源(みなもと)」の姓を与えられ臣下に降された。「光源氏」とは「光るように美しい源氏」を意味し、「光る君」「源氏の君」と称されるようになる。
しばらくして、先帝の四の宮(第四皇女)が入内し、藤壺の女御(ふじつぼのにょうご)と呼ばれるようになる。藤壺は源氏の母である桐壺と生き写しだった。源氏は藤壺に母の面影を追い、それが恋へと変わっていく。

12歳になった源氏は元服し、これまでのように気安く藤壺と会えなくなった。
左大臣の娘・葵の上(あおいのうえ)を妻に迎えるが、彼女とはそりが合わない。しかし、その兄であり源氏にとってはいとこにあたる頭の中将(とうのちゅうじょう)とは親友となった。

やがて源氏は、先の東宮の未亡人で当代随一の貴婦人と称される六条の御息所(ろくじょうのみやすどころ)に興味を持つ。
当初は源氏をわずらわしく思った六条の御息所だが、いつしか彼が訪れるのを心待ちにするようになる。強引にせまる源氏をついに受け入れるが、源氏への想いに流される自分に恐ろしさを感じるのだった。

ある日、源氏は乳母(めのと)の見舞いに行き、隣の家の垣根に咲く夕顔の花に目を留め、その家の主である夕顔の君と恋に落ちる。夕顔はその素性を明かそうとしないが、源氏は彼女にのめり込んでいく。
一方、源氏に新しい恋人ができたことを知った六条の御息所は、嫉妬に狂い始める。
源氏は逢い引きの場として寂れた屋敷に夕顔を連れ込むが、そこに六条の御息所の生霊が現れ、源氏に恨み言を言う。取り憑かれた夕顔は昏睡状態となり、そのまま息を引き取った。
実は夕顔は頭の中将の側室で、正室の嫉妬にあって姿を消し、市井に隠れていたのだった。それを知った源氏はその娘を引き取ろうとするが、従者である惟光(これみつ)に反対される。そのうちに夕顔の娘は姿を消してしまった。

夕顔の死後、体調がすぐれない源氏は祈祷のため北山の寺を訪れ、そこで藤壺によく似た少女と出会う。その少女は藤壺の兄である兵部卿の宮(ひょうぶきょうのみや)の娘だった。
都に戻った源氏は藤壺と再会し、強引に関係を持ってしまう。
一方、兵部卿の宮の姫も都に戻っていたが、祖母である北山の尼君が亡くなり、身寄りがなくなってしまった。それを知った源氏は姫を自分の館に連れ帰り「紫」と名づける。
やがて藤壺は懐妊するが、それは桐壺帝の子ではなく、源氏との不義の子ではないかと思い悩む。桐壺は男子を生み、源氏が後見となった。

紫宸殿(ししんでん)で行われた宴の後、ふと弘徽殿に入り込んだ源氏は、素性も知らぬ若い姫と出会い、契りを交わす。
この姫君は皇太子・東宮への入内が決まっている右大臣の六の君・朧月夜(おぼろづきよ)だった。

程なくして桐壺帝が譲位し、源氏の兄である朱雀帝(すざくてい)が即位した。
藤壺が生んだ若宮が東宮となり、六条の御息所の娘が斎宮(さいぐう)となることが決まる。
そんな中、源氏の正妻である葵の上が懐妊し、それを知った六条の御息所はますます嫉妬に狂う。
賀茂祭(かもさい)の日、見物に出かけた葵の上の一行は、同じく見物に来ていた六条御息所の一行と争いを起こす。葵の上の一行による乱暴で恥をかかされた六条の御息所は、葵の上を深く恨む。
その後、葵の上は六条の御息所の生霊に取り憑かれ、病に臥せってしまう。葵の上は難産の末、のちに夕霧(ゆうぎり)と呼ばれる男児を産むが、生霊により憑り殺されてしまった。
六条の御息所はみずからの生霊を恐れ、娘が伊勢斎宮になったのを機に共に伊勢に下ることを決意する。源氏は六条の御息所のもとを訪れ、別れを惜しむのだった。

源氏は夕霧を葵の上の実家である左大臣家に託し、久しぶりに自宅である二条院に戻る。
出迎えた紫の君は美しい姫に成長していた。源氏は強引に紫の上と契りを交わすが、突然のことに紫の上は衝撃を受ける。
紫の上はふさぎこんでしまうが、やがて源氏を受け入れた。

須磨への隠棲

桐壺院(きりつぼいん)が病のため崩御した。これにより右大臣の権力が増し、その威勢に押される源氏は鬱屈した日々を送る。
源氏は藤壺(ふじつぼ)への恋慕が抑えきれなくなり、忍んで行くが強く拒絶される。源氏との関係が露見することを恐れた藤壺は、桐壺院の一周忌の際に突然出家した。

朧月夜は、源氏との関係が世間に知られたことが原因で、本来よりも低い身分の尚侍(ないしのかみ)として出仕していた。
源氏と朧月夜は密かに逢瀬を重ねるが、ある晩、右大臣にその現場を押さえられてしまう。激怒した右大臣と弘徽殿の女御(こきでんのにょうご)は、源氏を葬り去ろうと画策する。
追い詰められた源氏は、自ら須磨へ隠棲することを決意する。これは後見する東宮に累が及ばぬようにするためでもあった。
須磨に移った源氏は寂しい日々を送るが、美しいと評判の姫・明石の君(あかしのきみ)の噂を聞きつける。
やがてその父である明石入道(あかしのにゅうどう)が源氏のもとを訪れ、その招きに応じて明石へ移る。

明石入道はこれを機に明石の君を源氏に差し出そうとするが、当の明石の君は身分が違いすぎると気が進まなない。
それでも源氏は明石の君と手紙のやり取りを交わし、彼女の人柄や教養にひかれていく。
やがて明石の君のもとを訪ね、契りを交わした。

都では右大臣が亡くなり、朱雀帝(すざくてい)は眼病を患い、弘徽殿の女御もまた病に臥せる。
朱雀帝は弘徽殿の女御の反対を押し切り、源氏を許すことを決意する。
源氏は都に戻ることになったが、源氏の子を身ごもった明石の君は別れを嘆く。

都での栄光

都に戻った源氏は、大納言に昇進する。
東宮が元服を迎えたのを機に、朱雀帝は譲位し、冷泉帝(れいぜいてい)が即位した。源氏は内大臣に昇進し、左大臣は太政大臣に任命される。
明石の君は姫君を出産し、源氏は乳母と祝いの品を送った。

同じ頃、六条の御息所と娘の斎宮は都に戻ってきた。
まもなく六条の御息所は病に倒れる。死期をさとった六条の御息所は、見舞いに訪れた源氏に斎宮の将来を託し、この世を去った。
源氏は斎宮を自分の養女とし、朱雀院が斎宮に執心なのを知りつつ、冷泉帝に入内させる。

源氏のかつての恋人の一人である末摘花(すえつむはな)は、源氏が須磨に隠退した後は後見を失い、生活は困窮を極めていた。
源氏は花散里(はなちるさと)を訪ねる際、通りかかった荒れ果てた家が末摘花の家であることに気づく。ここで末摘花が今も変わらず自分を待ち続けていたことを知り、心を打たれて彼女の庇護を約束する。

石山寺に参詣した源氏は、常陸の介(ひたちのすけ)の妻である空蝉(うつせみ)の一行と出会う。
空蝉は若い頃の源氏の恋の相手で、1度だけ結ばれたあとは源氏を拒み通し、源氏にとって忘れられない存在となっていた。
やがて常陸の介が亡くなると、継子の河内守から言い寄られたこともあって、空蝉は出家してしまう。
源氏は自身の二条院の館に空蝉を引き取り、西の対には花散里を、北の対には末摘花と空蝉を住まわせることになった。

源氏が後見となって入内させた斎宮は梅壺に入り、梅壺の女御(うめつぼのにょうご)となった。
冷泉帝と梅壺の女御は絵画という共通の趣味があり、これをきっかけに梅壺の女御は冷泉帝の寵愛を受ける。
先に娘を女御として入内させていた頭の中将は、冷泉帝の気を引こうと名画を集め始める。
これをきっかけに、冷泉帝の前で光源氏側である梅壺の女御と頭の中将側である弘徽殿の女御が、絵合わせで対決することになった。
互いに古今の名画を出品し、なかなか勝負がつかないが、源氏は最後に自身による須磨の絵日記を出品する。これに人々は心を打たれ、勝負は梅壺の女御の勝利となった。

明石から明石の君と姫君、母の尼君が上京する。
源氏は二条院の東の対に明石の君を迎えるつもりだったが、都での暮らしや身分の低さを不安に感じる明石の君は大堰川近くの山荘に住むことになった。
姫君は源氏にを委ねられ、紫の上の養女として育てられることになる。

年が明け、太政大臣が亡くなり、都の周辺では天変地異が相次いだ。さらに藤壺が病で亡くなり、源氏は悲嘆にくれる。
一方、冷泉帝は藤壺に仕えていた僧から、自分が実は源氏の子であることを知らされる。衝撃を受けた冷泉帝は源氏に帝位を譲ろうとするが、源氏はそれを固辞する。

源氏の息子・夕霧と内大臣である頭の中将の娘・雲居の雁(くもいのかり)は幼馴染であり、いとこである。ともに育った2人は密かに恋仲になっていた。
12歳になった夕霧は元服を迎えるが、源氏はあえて夕霧を優遇せず、低い位にとどめて大学料に入れる。これは息子に実力をつけてほしいという源氏の親心だった。
同じ年、源氏の養女である梅壺の女御が冷泉帝の中宮となり、名を秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)とする。
自分の娘を中宮にと願っていた内大臣は、今度は雲居の雁を東宮妃にと期待をかける。そのような中で夕霧と雲居の雁との関係を知り、怒って2人の仲を引き裂いてしまう。

玉鬘の流転

内大臣である頭の中将と亡き夕顔の子である玉鬘(たまかずら)は、夕顔の死後に乳母の一家とともに筑紫(つくし)に移り住み、この地で成長した。
京に戻る機会をうかがいつつも果たせずにいたが、地元の有力者から強引に求婚され、ついに京に逃げ帰る。

上京した玉鬘は、長谷寺参詣の途上で、夕顔の侍女だった右近(うこん)と偶然再会する。
右近は夕顔の死後、光源氏に仕えており、玉鬘は彼女の手引きで源氏の養女として迎えられることになった。
玉鬘の美しさに男たちは心を奪われ、養父である源氏でさえも言い寄るありさまで、玉鬘を困惑させる。

やがて玉鬘は尚侍(ないしのかみ)として出仕することになる。
玉鬘に熱心に求婚していた髭黒(ひげくろ)の右大将は、それを知ると侍女に頼み込んで強引に寝所に入り込み、無理やり玉鬘と契りを交わしてしまう。
無骨者の髭黒と結婚することになった玉鬘は気を落とし、実は自分は源氏を愛していたのだとようやく気づくのだった。
髭黒は玉鬘を迎えるために自宅の改築に取りかかる。髭黒の北の方には気鬱の持病があったが、これを見て絶望し、実家に帰ると言い出す。
決して北の方への愛がなくなったわけではない髭黒は引き止めるが、急に狂乱した北の方に香炉の灰を浴びせられる。
これに嫌気がさした髭黒は玉鬘のもとに入り浸り、それを見た北の方の父・式部卿宮(しきぶきょうのみや)は、髭黒が留守の間に北の方と子供たちを自邸に引き取ってしまう。
それを知った髭黒は式部卿宮家を訪れるが、妻と娘の真木柱(まきばしら)との対面は許されず、やむなく息子たちだけを連れて帰った。

年が明けても玉鬘はふさぎこんだままで、見かねた髭黒は出仕することをすすめる。
冷泉帝(れいぜんてい)は参内した玉鬘に魅了されるが、それを見て慌てた髭黒は玉鬘を自宅に連れ帰ってしまう。
玉鬘は髭黒邸で暮らすようになるが、その中で誠実で優しいが不器用な髭黒の人となりに気づく。
筑紫を離れてから流されれるまま生きてきた玉鬘だが、ここでようやく自分の居場所を見つけ、髭黒の妻として生きていくことを決意するのだった。

女三の宮の降嫁

18歳になった夕霧のもとにはいくつか縁談の話がきていたが、夕霧は煮え切らない。
夕霧の縁談の噂を聞いた雲居の雁は衝撃を受ける。
数年前に夕霧と雲居の雁の仲を引き裂いてしまった内大臣の頭の中将は、雲居の雁の処遇に悩んでいた。
あれ以来、夕霧とは疎遠になっていたが、それまでは親子のような親密な関係を築いていたことをふと思い出し、2人の仲を許す決意をする。
長年離れ離れとなっていた夕霧と雲居の雁だが、ようやく結婚することができた。

同じ頃、源氏の娘・明石の姫君の入内が決まる。
養母である紫の上は、実母の明石の君に配慮して後見役を譲った。ここで2人は初めて対面し、お互いに相手の美点を見出して認め合う。
長い間競争相手だった紫の上と明石の君だが、心を通わせ、打ち解けていく。

源氏は四十の恩賀に准太上天皇の位を授けられる。
源氏の兄である朱雀院は出家するが、後見人がいない娘の女三の宮(おんなさんのみや)の将来が不安でならない。
多くの貴公子が婿候補にあがるが、思い悩んだ結果、女三の宮を源氏に託すことを決める。
源氏は困惑し、固辞しようとするが、女三の宮がかつて恋い焦がれた藤壺にゆかりの姫君であることから、ついに結婚を承諾してしまう。
それまで正妻格だった紫の上は激しく動揺するが、それを隠して女三の宮を迎える準備を進める。

女三の宮と結婚した源氏だが、そのあまりの精神面の幼さと、藤壺に似たところが少しもないことに失望する。
一方、朱雀院が出家したことで、その妃たちも里に戻った。かつての恋人である朧月夜も実家に帰ったことを知り、源氏は久しぶりに会いたいと使いを送る。
朧月夜は拒否するが、源氏は押しかけて強引によりを戻してしまう。

太政大臣となった頭の中将の息子・柏木(かしわぎ)は、かつて女三の宮との結婚を望んでいたが、彼女が源氏と結婚した後も、未練を残していた。
六条院での蹴鞠(けまり)の催しに訪れた柏木は、女三の宮の姿を偶然見てしまう。
それ以来、柏木はますます女三の宮への思いを募らせていくのだった。

入内して「明石の女御」となった明石の姫君が懐妊する。
宿下がりを許された明石の女御は、実家である六条院に戻り、明石の御方の母であり自身の祖母である尼君と出会う。
そこで初めて自分が明石の御方の娘であることを知り、初めて親と子、祖母と孫として名乗りをした3人は感激の涙を流す。やがて明石の女御は男子を出産した。

4年後、紫の上は出家を願うようになり、源氏に切り出すが、考え直すように説得される。
その後、紫の上は急な病に倒れ、源氏はつきっきりで看病する。
紫の上は一度絶命するがかろうじて蘇生する。その際に六条御息所の霊が現れ、紫の上にとりついていたことがわかり源氏は恐怖する。

一方、柏木は、女三の宮の姉である女二の宮(おんなにのみや)と結婚するが、女三の宮のことが忘れられずにいた。
やがて源氏が紫の上の看病につきそって屋敷が手薄になると、その隙をついて女三の宮と密通してしまう。
しばらくして女三の宮は懐妊するが、それは源氏ではなく柏木の子だった。源氏は事の真相に気づき、それを知った柏木は罪におののきやがて病にふせってしまう。
女三の宮はのちに薫(かおる)と呼ばれる男子を出産するが、罪の意識もあってすっかり弱り切ってしまう。
心配した父の朱雀院が見舞いに訪れるが、出家を強く願い、その日のうちに朱雀院の手で髪をおろしてしまった。

柏木の病状はますます悪化し、皆に惜しまれながらその生涯を終えた。
当初は薫を避けていた源氏だが、ふと抱き上げたときにその容姿の美しさに感嘆する。その中に柏木の面影を見て涙するのだった。

源氏の死

親友の柏木を失った夕霧は、彼の遺言を守って未亡人となった「落葉の宮(おちばのみや)」と呼ばれる女二の宮への訪問を重ねる。
次第に夕霧は落葉の宮に心惹かれていくようになった。
落葉の宮は、母である一条御息所(いちじょうのみやすどころ)の病気加持のために小野にある山荘に移る。
一条御息所の見舞いを口実に山荘を訪れた夕霧は、その想いを落葉の宮に伝えるが、拒まれる。そのまま夜を明かし朝帰りしたことから、2人の仲は世間の噂となってしまった。
これを知った一条御息所は、夕霧が落葉の宮をもてあそんだと勘違いし、心労のため急死する。落葉の宮は悲しみのあまり出家する事を願うが、父の朱雀院(すざくいん)からとがめられ、落ち込む。
心を開かない落葉の宮に業を煮やした夕霧は、落葉の宮の一条の本邸に彼女を連れ戻し、強引に妻としてしまう。
これに雲居の雁は怒り、夫婦喧嘩となる。雲居の雁は夕霧が落葉の宮のもとに行っている間に、子どもたちを連れて実家に帰ってしまった。

紫の上はその後も体調がすぐれず、ますます出家を願うようになっていた。しかし源氏は許そうとしない。
紫の上の発願で法華経千部の供養が盛大に行われ、明石の御方や花散里も訪れる。自らの死期をさとった紫の上は彼女たちと別れを惜しむ。
秋になり、ついに紫の上が息を引き取り、源氏は深い悲しみにくれる。
年が明けても源氏の悲しみは癒えず、これまでの人生を振り返り、今まで愛した人々への思いを募らせる。
やがて源氏は出家することを考え、身辺の整理を始めた。

ある日、明石の御方は出家した源氏がこもっている山に見たこともないような美しい雲がかかっているのに気づく。
それを見た明石の恩方は源氏が亡くなったことを察し、あの美しい雲の中で源氏と紫の上が再び出逢えただろうかと思いを馳せるのだった。

宇治十帖

光源氏の死後、数年が経った。
今上帝の三の宮である匂宮(におうのみや)と源氏の子である薫が、当代きっての貴公子だとされている。
薫の体には生まれつき芳香がそなわっており、匂宮(におうのみや)は対抗心から薫物(たきもの)に気を配ったため「匂ふ兵部卿、薫る中将」と呼ばれていた。
薫の兄である夕霧は、雲居の雁と落葉の宮のもとを一日交代に月に十五日ずつ律儀に通い続けている。
夕霧は匂宮を婿にと望むが、源氏に憧れて自由な恋愛を好む匂宮にはその気はない。

薫は自身の昇進のめざましさや出生に疑問を感じて悶々とし、仏教に救いを求めるようになっていた。
ある日、薫は宇治山の阿闍梨(あじゃり)から、桐壺院の子で源氏の異母弟である八の宮について知らされる。
冷泉院が東宮だった時代、これを廃して八の宮を東宮にしようとする弘徽殿の女御の陰謀があった。しかしその企てはうまくいかず、八の宮はその後、世の中から忘れ去られていた。今は宇治で俗体のまま仏道に専心し、2人の姫を育てている。
それを知った薫は八の宮のもとに通うようになり、その姫君たちに心惹かれる。その話を聞いた匂宮も姫君たちに興味を持つ。

厄年を迎えた八の宮は宇治の山寺に参籠しに出かけ、そこで急な病に倒れて亡くなった。
それを知り、薫と匂宮は宇治を訪れる。薫は姉の大君(おおいぎみ)に、匂宮は妹の中の君(なかのきみ)に惹かれていくが、姫たちはなかなか心を開かない。
大君は八の宮の意志を継ぎ、宇治の家を守って独身を貫く決意をしており、薫と中の君を結婚させたいと考えていた。
匂宮は宇治に通い続けるが、母である明石の中宮に反対されてしまう。そしてかねてから話のあった夕霧の六の君との結婚が決められる。それを知った中の君は嘆き悲しむ。
もともと体の弱かった大君は、これを聞いて心労で倒れ、若くして亡くなった。最後には大君と心を通わせつつ、結ばれぬままに終わった薫は深い悲しみに沈む。
薫の悲しみを知った明石の中宮は、そこまで想われる女性の妹なら匂宮が心惹かれるのも無理はないと思い直し、匂宮と中の君の関係を許す。
ようやく匂宮は中の君を自邸に迎え、妻とした。六の君と匂宮との結婚を目論んでいた夕霧は、今度は薫に六の君を嫁がせようと打診するが、断られてしまう。

今上帝は、母を亡くし、有力な後見人もいない娘・女二の宮(おんなにのみや)の行く末を案じていた。そこで薫との結婚を望み、薫は渋々承諾する。
これを知った夕霧は、やはり六の君を匂宮に嫁がせることを決意する。
匂宮は気が進まないまま六の君と結婚するが、その美しさの虜となり、中の君のもとから足が遠のくようになる。
気落ちする中の君をなぐさめる薫だが、やがて彼女へ想いを寄せるようになっていく。拒む中の君は、薫の気持ちをそらすために亡き大君に似た異母妹の浮舟(うきふね)がいることを彼に伝える。

浮舟は、八の宮とその女房だった中将の君とのあいだに生まれた娘だが、八の宮には認知されず、中将の君の再婚相手である陸奥の守(むつのかみ)のもとで育てられた。
左近の少将(さこんのしょうしょう)と婚約するが、財産目当ての少将は浮舟が陸奥守の実子でないと知ると、実の娘である妹に乗り換えてしまう。
浮舟を不憫に思った中将の君は、彼女を中の君に預ける。ここで浮舟を見かけた匂宮は、その美しさに心惹かれて言い寄ろうとする。そこに明石の中宮が病に倒れたと知らせが入り、ことなきを得るが、それを聞いた中将の君は驚いて浮舟を三条の小屋に隠す。
浮舟が三条に隠れていることを知った薫はこれを訪ね、彼女を宇治に連れ去ってしまう。
一方、浮舟のことが忘れられない匂宮は、彼女が宇治にいることを突きとめるとひそかに訪れ、強引に契りを結んでしまった。
浮舟は情熱的な匂宮に惹かれつつも、薫との間で思い悩む。

やがて、薫と匂宮との板挟みに苦悩する浮舟は死を決意し、宇治川に身を投げる。
浮舟の死を知った中将の君、そして薫と匂宮は驚き、嘆き悲しむのだった。

死んだと想われていた浮舟だが、たまたま通りかかった横川の僧都一行に救われ、生きていた。
意識を回復した浮舟は、死に損なったことを知ると出家を願うようになる。
世話をする尼の亡き娘の夫だった近衛中将(このえのちゅうじょう)が求婚するが拒み続け、ついに尼の留守中に出家してしまった。
そのうちに浮舟が生きていることが薫の耳に入る。薫は浮舟の生存を確かめようとするが、浮舟は拒み続ける。
そして、いつか男と女の垣根を越えた御仏の弟子として再会し、その日こそ夢の浮き橋を渡り、静かに手をとりあうことができるだろうと考えるのだった。

『あさきゆめみし』の登場人物・キャラクター

主人公

光源氏(ひかるげんじ)

序盤から中盤までの主人公。
桐壺帝の第二皇子。母は桐壺の更衣。
幼少時から美貌と才能に恵まれ「光る君」と称される。元服を迎える頃になると皇太子を差し置いて次の帝にと期待する声が高まるが、世が乱れるのを防ぐため臣下に降されて源性を名乗る。

亡き母である桐壺に似ているという藤壺を恋い慕い、その面影を求めて様々な女性と恋愛遍歴を重ねる。
正妻として左大臣の娘である葵の上がいるが、夫婦仲は悪く、紫の上を理想の女性として育てる。紫の上は葵の上の死後、事実上の正妻となる。
やがて藤壺と一線を越えてしまい、藤壺がのちに冷泉帝となる皇子を生むと、その後見を務めた。

夢占いにおいて「3人の子供をなし、ひとりは帝、ひとりは中宮、真ん中の劣った者も太政大臣となる」といわれる。これはそれぞれ、藤壺との間に生まれた冷泉帝、明石の御方との間に生まれた明石の中宮、葵の上との間に生まれた夕霧のことである。

桐壺院が亡くなって右大臣の権力が増大すると、その圧力や朧月夜との醜聞もあって須磨に隠退する。ここで明石の君と結ばれ、後に明石の中宮となる姫が生まれた。
のちに許されて都に戻ると東宮の後見として復帰した。
朱雀帝が譲位し、冷泉帝が即位すると、かつての恋人・六条の御息所の娘でのちに梅壺の女御・秋好中宮となる斎宮となる斎宮を養女として迎え、冷泉帝の妃とする。
その後は順調に昇進を重ね、太政大臣となると、広大な邸宅・六条院を造営し、ここに妻やかつての恋人たちを住まわせ、世話をする。
40歳を迎えると冷泉帝から准太上天皇の待遇を与えられ、栄華を極めた。

朱雀院が出家する際、その娘である女三の宮の降嫁を打診される。女三の宮は藤壺の姪にあたり、今なお藤壺への思いがおさえがたく、この結婚を受け入れてしまう。
しかしいざ結婚すると、幼い女三の宮に失望する。
源氏からの愛を受けられない女三の宮は柏木と密通し、薫を産む。出生の秘密は隠され、源氏の次男として育てられた。
紫の上が亡くなると嵯峨に隠遁し、出家生活を送ったあとに生涯を終えた。

光源氏の血縁者

桐壺帝(きりつぼてい)/桐壺院(きりつぼいん)

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