あさきゆめみし(大和和紀)のネタバレ解説・考察まとめ

『あさきゆめみし』とは、大和和紀によって1979年から月刊『mimi』で連載された漫画作品。のちに『mimi Excellent』に移り、1993年に完結した。紫式部の『源氏物語』を漫画化した作品で、帝の子である主人公・光源氏を通して、平安時代の貴族社会における恋愛模様や権力闘争、栄光と没落を描く。少女漫画として、当時の現代的な解釈や独自のエピソードを盛り込みつつも『源氏物語』全54帖をほぼ忠実に描いている。海外向けに多言語に翻訳されているほか、小説化や舞台化など、多方面で展開されている。

朧月夜との仲が発覚し、右大臣と対立して追い詰められた光源氏は須磨に隠棲する。
右大臣に遠慮する人々は源氏とのつきあいを絶ってしまう。
その中で唯一、頭の中将だけが源氏を訪ねてくる。驚く源氏に、頭の中将は「…きたよ とうとう」と微笑む。
「右大臣の目がうるさかろうに」と心配する源氏に、頭の中将は「こんなことが罪にあたるならわたしも共に流されるさ」と返す。
親友であり、ライバルでもある2人だが、その友情の厚さがよく現れる場面。のちに政敵にもなる2人だが、決定的な対立にいたらなかったのは、この友情が根底にあったからだといえる。

玉鬘「これ以上なにものにも流されることなく…自分の足でここに立ちたいのです…!」

頭の中将と夕顔の娘であり、光源氏の養女である玉鬘は、周囲に流され、運命に翻弄されるままに生きてきた。
冷泉帝に尚侍としての入内が決まるが、その直前に髭黒によって強引に妻とされてしまう。
嘆き悲しむ玉鬘だが、髭黒と生活し、その子どもたちと接するうちにようやく自分の居場所を見つけられたと感じるようになる。
そして「これ以上なにものにも流されることなく…自分の足でここに立ちたいのです…!」と、自分の意志で力強く生きていくことを決心するのだった。
今作中では割愛されたが、後年、髭黒に先立たれた玉鬘は、子どもたちを抱え、零落した家を復興するべく奮闘することになる。

紫の上「ああ…この女の自由のないこの世から…わたしは早く去ってしまいたい…」

紫の上は光源氏から最も愛された女性で、作中で最も幸せな人生を送った女性だといえる。
しかしそのような紫の上でさえ、源氏が女三の宮を妻に迎えると衝撃を受け、自分の身の不安定さに気づかされる。
紫の上は次第に悩みを深めていき「ああ…この女の自由のないこの世から…わたしは早く去ってしまいたい…」と思うようになる。
無常感をつのらせていくその姿から、読者は昔も今も変わらない女性が生きていくことの難しさを感じさせられるのである。

光源氏「そしてさようなら…わたしの愛したすべてのすばらしい女人たちよ…」

紫の上を失った光源氏は深い悲しみに包まれる。やがて身辺整理をしながら過去を思い返すようになり、幸せになれるはずの人生を自ら壊すようなことをしてきたと、後悔と懺悔の日々を過ごす。
そしてこれまでに愛した女性たちを思い「そしてさようなら…わたしの愛したすべてのすばらしい女人たちよ…」と別れを告げ、「わたしたちはいつかまた必ず逢えるのだから…」「もはやこれ以上嘆くまい」と誓うのだった。
この後源氏は出家し、世を捨てる。

『あさきゆめみし』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

『源氏物語』とは

平安時代に紫式部によって書かれた長編恋愛小説。
天皇の皇子として生まれ、美貌と多くの才能に恵まれた光源氏の恋愛模様や浮き沈み、苦悩を通し、貴族社会の内実を描き出す。
終盤は光源氏の子である薫を主人公とし、宇治が主な舞台であることから「宇治十帖」と呼ばれる。
「世界最古の小説」であると考えられ、現代では世界的な文学として広く知られている。

古典の入り口としての『あさきゆめみし』

『あさきゆめみし』は、古典で最も有名な『源氏物語』を漫画化したことにより、作品世界の理解を深め、古典への興味を持たせることにつながる入門的な作品としても高い評価を受けている。
そのため「学習マンガ」的な捉え方もされており、受験対策で購入されたり、親が子に買い与えることによって、毎年受験シーズンと新学期シーズンに売り上げがあがるとされる。
そのような事情もあり、非常に息の長い人気を誇る作品である。
2021年に放送されたテレビ朝日『林修の今でしょ!講座』の「東大生が選ぶ勉強になる漫画」という企画においては、第8位を獲得した。

幻のアニメ化

作者の大和和紀の他の代表作に『はいからさんが通る』がある。
『はいからさんが通る』はアニメ化されてヒットしたが、放送時間帯にモスクワオリンピックの中継をすることが決まり、そのあおりを受けて急遽打ち切りとなった。
このような背景があり、のちに『あさきゆめみし』にアニメ化の話があった際は原作者サイドが断り、アニメ化は幻となった。

平安時代当時の結婚制度

作中で光源氏は、正妻がありながら次々と恋愛を重ねる。平安時代の結婚は「通い婚」と「一夫多妻制」が普通であり、これを踏まえないと話の理解がしづらい。
当時の結婚は、夫婦が別々に生活し、夫が妻の家に通う「通い婚」が一般的であった。男女ともに経済的に自立しており、恋愛は自由になされていた。
女性は軽々しく人に顔を見せる習慣がないため、男性は相手の顔を見たこともないまま、噂だけで相手を探し、手紙のやり取りを重ねる。そして相手の女性に仕える女房に手引きを頼んで夜這いをかけるのである。
作中で光源氏や髭黒、匂宮などが相手の女性の寝室まで強引に入り込み、そこで相手の美貌や時には醜さに驚いたり、無理やり自分のものにしてしまうのは、そのためである。
「一夫多妻」のため男性は多くの妻や妾を持ち、その中で特に地位が高く、他の妻たちをまとめられる力量を持つものが正妻として男性の家に入る。正妻は1人であり、他の妻は妾となる。

原作『源氏物語』との相違点

「宇治十帖」を含む『源氏物語』54帖が、ほぼ原作に忠実に描かれているが、多少の改変は見られる。
原作における第1帖「桐壺」において、桐壺に関する記述は簡潔だが、今作では桐壺と桐壺帝の馴れ初めから描かれている。
そのほか、髭黒と結婚した後の玉鬘や、女一の宮、真木柱など、簡略化されたり、省略されたエピソードがある。
また、原作では痩せてみすぼらしいとされる花散里が、今作では豊満な女性として描かれている。これは容貌が他より劣るとされる花散里を描くにあたり、現代ではスレンダーであることが美しいとされるが平安時代はふくよかなほうが美しいとされていたためである。

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