G線上のあなたと私(漫画・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『G線上のあなたと私』は集英社の『Cocohana』に掲載された、いくえみ綾による少女漫画。突然婚約破棄された小暮也映子。偶然耳にした曲をきっかけに大人のバイオリン教室に入り、北河幸恵、加瀬理人と次第に親しい関係を築いていく。それぞれが恋愛・仕事・家族などの悩みを抱えながらも、バイオリンを通じて自分に向き合い、生きる価値を見出していく。人間模様もしっかりと描かれていることで、恋愛の甘さだけではない大人の物語として楽しめる。テレビドラマ化もされ、リアリティのあるセリフが多くの視聴者の共感を呼んだ。

夫も姑も留守にする日、幸恵が多実のピアノ伴奏でG線上のマリアの練習しようと也映子と理人を自宅に招いた。4人で練習していると翌日帰宅するはずだった姑が現れ、気兼ねなく練習できることを楽しみにしていた幸恵は「最初からわざと嘘の予定を教えられていたのだ」と悔しがり涙を流した。そんな幸恵に「楽しくしてた方が勝ちだ」と理人は声をかけ、幸恵も楽しかった気持ちの方が大事だと思い直し、笑顔を取り戻した。
この言葉からは、理人は無表情で口数も少ないけれど、不器用ながらも周りを思いやる気持ちをもっていることがわかる。自分の楽しかったという気持ちと、幸恵を励ましたいという思いが伝わる言葉だ。也映子も幸恵も驚くほど、普段見せない彼の優しさが表れている貴重なセリフとなっている。

久住眞於「時間を 無駄に使うことになります 加瀬さん」

バイオリン教室の2回目の発表会の演奏直後、眞於に想いを伝えた理人だったが「時間を無駄にすることになります、加瀬さん」とはっきりと拒絶された。
眞於は講師という立場上、理人の好意に対して曖昧な態度しかとれないことにストレスを感じながら、彼には自分のことは諦め前に進んでもらいたいと思っていた。今までの理人の気持ちまで否定するような冷たい言い方だったが、完全に望みがないことを伝えることこそが、彼のためになるという思いが伝わってくる。そのおかげで「もういいや」と思えた理人は「すっきりした」と也映子に話した。そして眞於も、理人の想いをきっぱりと断ることができたことで心の整理がつき、前を向けるようになった。眞於と理人の2人にとって前向きになれた言葉である。

加瀬理人「今日かわいいから」

幸恵は参加できなかったが発表会は無事に終わり、也映子と理人は打ち上げで居酒屋へ。二十歳になった理人もお酒を一緒に飲み、酔いが回った2人。帰り際、店にバイオリンを置き忘れ理人は取りに行くが、戻ってくるときに也映子を見失う。周りを見渡し、見つけた也映子に駆け寄ってきた理人は「ナンパされていなくなったかと思った。今日かわいいから」と口にした。
この発言は也映子が理人を強く意識し始めるきっかけになった。「酔っていて何も覚えていない」という理人だったが、酔っているからこそ素直な気持ちが表れている。決定的な言葉はないが、無意識に手をつなぐなど2人の距離が近づいていることがわかる言葉。

小暮也映子・加瀬理人「結束を 固めますか」

付き合い始めた也映子と理人。どこか遊びに行こうかという理人の提案で、也映子は行き先を温泉にする。翌日は理人は学校、也映子は新しい職場での仕事、そして眞於の結婚を祝うサプライズを計画しているという慌ただしい日程なため、やや不満げな理人に也映子は「結束固まるかと思って」と、その日程にした理由を話す。温泉旅行での夜、「結束を固めますか」という言葉をきっかけに2人はさらに関係を深めるのだった。
それぞれ学校や就職など環境が変わる2人だが、お互いを想う気持ちはますます大きくなっていることがわかる言葉である。バイオリンを通じて仲間として高まった結束が、恋人としても強く確かなものになっていることが表れている。

『G線上のあなたと私』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

作者の趣味もバイオリン

主人公たちと同様、作者もバイオリンを習っている。漫画を描くために始めたのではなく、以前から興味をもっていた。姉と一緒に習っている。昔はピアノを習っていて、クラシックは20代前半から好きになった。子供の頃からの忘れっぽさも影響しているのか、何度も練習して曲を覚え先生から合格をもらっても、次の曲を習うと覚えたはずの曲が弾けなくなってしまう。練習する時間が限られるのでなかなか上達しないが、思った以上に楽しく、バイオリンは趣味としてこれからもずっと続けると語っている。ちなみに作品内では楽器の奥深さには何ら触れられていない。

出身地が同じ漫画家の協力

コミックス収録分はすべて『僕等がいた』の作者・小畑友紀に手伝ってもらっている。2人は同じ北海道出身。仕事中のエピソードとして、冬同じ部屋で作業していると、寒がりで家の中でも厚着をしているいくえみとは正反対に、小畑は暑いのか段々と薄着になっていき、寝るときには下着のような薄着になっていたということがあった。2人は同じ北海道出身で、小畑はいくえみのアニバーサリーブックに寄稿もしている。

舞台は作者の地元

『G線上のあなたと私』の舞台は北海道である。作者の出身地であり、実在の場所も登場。作者自身のおすすめの場所として、終盤で也映子と理人が旅行の話をしている場所、札幌駅から大通りまで続く地下歩行空間(通称チカホ)を挙げている。この地下歩行空間の完成によって、札幌市民は寒さを気にせず駅からススキノまで歩いて行けるようになった。いくえみは「もっと早くできてほしかった」と話している。

再集結したドラマ制作陣

ドラマ『G線上のあなたと私』主演の波留は2017年放送の火曜ドラマ『あなたのことはそれほど』でも主人公を演じた。演出も両ドラマは同じ金子文紀・竹村謙太郎・福田亮介が務めた。『あなたのことはそれほど』は同じくいくえみ作品が原作。高視聴率を記録し、大きな話題を呼んだ。いくえみ本人も、「前回のドラマとほぼ同じスタッフで心強く、脚本も登場人物により深みが出ていて面白い」とコメントしている。

『G線上のあなたと私』の主題歌・挿入歌

主題歌:緑黄色社会「sabotage」

作詞・作曲:長屋晴子

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