私がいてもいなくても(いくえみ綾)のネタバレ解説・考察まとめ
『私がいてもいなくても』とは、いくえみ綾による友情、恋愛、仕事、家族をテーマにした少女漫画作品。2001年(平成13年)から2002年(平成14年)まで『別冊マーガレット』に連載された。18歳のフリーター・安部晶子は、中学時代の同級生で、今は売れっ子漫画家として活躍する神田川真希と偶然再会し、アシスタントとして働き始める。やがて晶子は真希の恋人の日山一に次第に惹かれていく。それなりの日常を過ごしながらもどこか満たされないものを感じていていた主人公が、自分の居場所を見つけ、成長していく姿を描く。
『私がいてもいなくても』の概要
『私がいてもいなくても』は、いくえみ綾による友情、恋愛、仕事、家族をテーマにした少女漫画作品である。2001年(平成13年)から2002年(平成14年)まで『別冊マーガレット』に連載され、単行本全3巻が発行されている。
主人公の安部晶子(あべしょうこ)は実家で暮らす18歳のフリーター。仕事も恋愛も人間関係もそれなりながら、兄の拓也(たくや)を溺愛する母親に嫌気が差し、どこか満たされないものを感じている。ある日、中学時代の同級生で今は売れっ子漫画家として活躍する神田川真希(かんんだがわまき)と偶然再会し、アシスタントをつとめたことをきっかけに真希のもとで社員として働き始める。真希の恋人で売れない漫画家の日山一(ひやまはじめ)と出会い、次第に惹かれていく晶子は、真希、一との関係を通じて自分を見つめ直すようになり、元彼の菅野剛司(かんのたけし)、親友の袖野美穂(そでのみほ)、真希のアシスタントの細野カレン(ほそのかれん)、関係がしっくりいってなかった家族たちとの人間関係も変化していく。悩み、傷つきながら成長していく不器用な主人公たちを描く人間ドラマである。
作中で日山一は『あっさりショコラ』という作品で人気漫画家となるが、いくえみ綾の別作品に同タイトルの短編作品集がある(全1巻)。
『私がいてもいなくても』のあらすじ・ストーリー
安倍晶子と神田川真希の再会
安部晶子(あべしょうこ)はもうすぐ19歳のフリーター。仕事は長続きせず、恋人の剛史(たけし)には浮気ぐせがあり、自分と違ってまっすぐで迷いのない親友の美穂をうらやむ日々で、心は満たされない。実家で暮らしているが、大学生の兄・拓也(たくや)を溺愛し、自分のことを顧みない母親に嫌気が差していた。
そんなある日、晶子は中学時代の同級生であり、売れっ子漫画家の神田川真希(かんだがわまき)と偶然再会する。晶子にとって真希は「そんなに仲良くなかった」友だちの一人にすぎなかったが、中学時代から漫画を描いていた真希は晶子に漫画を褒めてもらった経験があった。
後日、晶子は真希からアシスタントの仕事を頼まれ、彼女の仕事を手伝うことになる。
晶子は仕事場で真希の恋人で売れない漫画家の日山一(ひやまはじめ)と出会うが、話しかけても愛想がなく、寡黙でぶっきらぼうな日山と馴染むことができない。その日の帰り、事前の連絡なく剛史の家に立ち寄った晶子は、剛史の浮気現場に遭遇してしまう。
それでも剛史と別れることができず、ずるずると関係を続ける晶子は、仲直りの席で「一緒に住もう」と誘われ、剛史の部屋で同棲を始める。その部屋は偶然、日山の住む部屋の隣だった。
日山が隣人だと知った剛史は晶子と日山との仲を疑い始める。それがきっかけで剛史と口論となった晶子は実家に戻る。
心機一転、真希のサイン会に足を運んだ晶子だが、才能も収入もあり、ファンから慕われる真希の姿を目にし、うらやましく思う。それに比べてなんの取り柄もなく、誰からも必要とされない自分を省みて落ち込むのだった。
晶子と日山は真希のために資料の撮影に出かける。その最中に日山は熱中症で倒れてしまう。彼氏が自分のために倒れたにも関わらず、心配するでもない真希に対し、晶子はなんだか釈然としない。これまでも真希の無神経な言動に接してきた晶子は、日山は「真希のどこが好きなんだろう…」と疑問に思う。いつしか晶子は時折優しさを見せる日山に惹かれるようになっていた。晶子は思わず日山にキスをしようとし、日山への思いに気づく。
晶子、真希、日山の三角関係
晶子は自分の存在価値のなさに悩み、寂しさを抱えるが、真希の仕事を手伝ううちに自分が必要とされていると感じるようになる。そんな中、真希から誘われる形で真希のオフィス「MACKY&CO.」の社員となった。
晶子の実家では兄の拓也が母と衝突し、家出してしまう。たまたま駅で拓也を見かけた晶子は、母の様子を心配し、拓也を探し始める。その最中、暇つぶしに日山に電話をかける晶子。電波が悪く「大事なことじゃない」と言ったところで切れてしまったが、「大事なこと」までしか聞き取れなかった日山は慌てて晶子のもとに駆けつける。
晶子と日山は食堂に入り、2人だけでごはんを食べる。お互いのことを話し、距離が縮まる2人。しかし、2人でいるところを真希のアシスタントの細野カレンに見られていた。
拓也は美穂が働くキャバクラの同僚・亜利沙(ありさ)のヒモとなっていた。晶子がそのことを母に告げると、母は激昂。母は拓也が家を出てからも口座に金を振り込み続けており、「そんなわけない」と必死になって否定する。その姿を見た晶子は母に期待するのをあきらめ、家を出る決意をする。
真希はインターネットで自分に対する悪評を見つける。売れっ子漫画家として人気となる一方で、ネットには真希に対する悪評や誹謗中傷があふれていた。次第に真希は仕事に行き詰まっていく。
一方、連載が決まった日山は「MACKY&CO.」を辞めると真希に告げる。真希は日山に結婚を持ちかけるが断られ、そのショックもあって漫画が描けなくなってしまう。
さらに晶子と日山が2人で会っていたことをカレンから知らされ、2人の仲を疑うようになる。真希は一人暮らしを始めた晶子の家を訪れ「(日山)一はあげないよ」と告げる。
関係の破綻、そして再スタート
晶子と日山が接近し、仲を疑う真希。真希からのプロポーズを断る日山。日山への思いが募る晶子。こういった出来事が続き、3人の仲はぎくしゃくし始める。作品が描けなくなった真希は、しばらく休養することになった。
拓也は亜利沙と同棲していたが、亜利沙を捨てて晶子のアパートに転がり込んでくる。
これまで2人はまともに会話したことがなかった。初めてまともに話をするが、母のことを「死にゃいーんだあのババア」と言う拓也に、その母の愛が欲しくても得られなかった晶子は激昂する。2人は初めて胸の内をお互いにぶつけるのだった。
日山は絶縁状態だった父が亡くなったことを新聞で知り、死に顔を見に数年ぶりに実家に帰る。その帰りに晶子と偶然会い、2人は飲みに行く。
日山の父は大学教授で、代々学者の家柄だった。そんな家に幼い頃からなじめず「自分はいてもいなくてもよかったんだ」と話す日山。彼もまた親の愛を得られず、寂しい思いを抱えて生きてきたのだった。親の顔を見てもなんの感情も湧かず、自分のことを「きっとどこかおかしい…」と語る日山に涙する晶子。そんな晶子に日山は「俺みたいに… なったらだめだよ」と告げる。
その頃、自宅で休養する真希のもとに、晶子の父から電話が入る。晶子の母が倒れ、晶子の連絡先を知らない父は、真希を通して晶子と連絡をとろうとしたのだった。慌てて晶子に連絡する真希。病院に行くのをためらう晶子だが、日山に強引に連れてこられる形で病院にかけつける。心配した真希も病院に来ており、晶子と真希は久々に再会する。お互いにわだかまりを抱え、感情が高ぶった2人は殴り合い、罵り合う。
晶子がアパートに戻ると、拓也はすでに出て行った後だった。晶子は拓也の留守電に母が倒れたことを伝え「ほんとうに死ねばいいとおもってるんじゃなかったら顔見せにきてください」と告げる。深夜、拓也は密かに母を見舞いに訪れる。
後日、晶子は「MACKY&CO.」をやめることになり、私物をとりに真希のもとを訪れる。
努めて平静を装う晶子に、「その態度が気に食わない」と罵倒する真希。2人は再び衝突し、これまでためこんでいた本音をぶつけ合う。その中で晶子は、中学時代に真希の漫画を褒めたことが彼女の心の支えになっていたことを知る。それまで自分は何も持っていないと思い、何かが欲しいと切望するばかりだった晶子だが、知らないうちに誰かに何かを与えているのかもしれないと気づくのだった。
お互いに本音をぶつけ合ったことでようやくわかり合え、前向きになれた晶子と真希。真希は再び漫画を描き始め、真希と日山は元の鞘に収まる。晶子は日山への想いを胸にしまい、再び「MACKY&CO.」で働き始める。真希、日山、そして母とも新たな関係を築き、前に進み出すのだった。
『私がいてもいなくても』の登場人物・キャラクター
主人公
安部晶子(あべしょうこ)
主人公。子どもの頃から兄の拓也を溺愛する母からの愛を得られず、母へのわだかまりを持っている。
高校卒業後はフリーターをしながら実家で暮らしていたが、中学時代の同級生で今は人気漫画家して活躍する神田川真希と再会したのを機に、アシスタントとして働くようになる。
作品開始時は菅野剛史と交際していたが、剛史の浮気グセが原因で別れる。真希のもとでともに働く日山一に対し、初めはいい印象を持っていなかったが、その優しさに触れるうちに惹かれるようになる。
やがてそれが原因で真希との関係が悪化。拓也と同居したのもきっかけとなり、自分を見つめ直していく。
主要人物
神田川真希(かんだがわまき)
「神田川マキ」のペンネームで活躍する人気漫画家。安部晶子とは中学時代の同級生で、晶子に漫画を褒めてもらったことが漫画家としての原点となっている。
恋人である日山一はアシスタントとして仕事をサポートしてもらう存在。『オリオンの恋人』という作品を連載しており、アニメ化や映画化されている。
人の気持ちに鈍感で、無神経な発言が多い。その性格と、晶子と日山が接近したことによって次第に晶子との仲が悪化し、仕事に支障をきたすようになる。
日山一(ひやまはじめ)
神田川真希の恋人。愛称は「ひーさん」。
売れない漫画家で真希のアシスタントを勤めている。真希のもとで働くことになった晶子にとって最初はいい印象ではなかったが、次第にその優しさに触れ、惹かれていく。
家族に対してわだかまりがあり、父親とは絶縁状態だった。やがて雑誌に『あっさりショコラ』を連載するようになり、人気となる。
安部晶子の関係者
菅野剛史(かんのたけし)
Related Articles関連記事
あなたのことはそれほど(あなそれ)のネタバレ解説・考察まとめ
『あなたのことはそれほど』とは、2010年10月号から2017年8月号にかけていくえみ綾が『FEEL YOUNG』にて連載していた漫画、およびそれを原作としたテレビドラマ。漫画は単行本全6巻、ドラマは全10話である。既婚者の渡辺美都が偶然初恋の相手である有島光軌と再会し、不倫関係に陥る様子と葛藤を描く。渡辺美都の夫である涼太の愛情表現がだんだんと歪んでいくのも見どころだ。ドラマ版では美都役を波留が演じ、美都の夫である涼太役を東出昌大、有島光軌役を鈴木伸之、有島の妻の麗華を仲里依紗が演じた。
Read Article
潔く柔く(漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『潔く柔く(きよくやわく)』とは、いくえみ綾による漫画、およびそれを原作とした実写映画作品。瀬戸カンナ、赤沢禄を中心に、森由麻、沢内瑞希、永友亜衣、笹塚一恵、千家百加、安養寺音々、川口朝美の複数の主人公たちによる恋愛模様をオムニバス形式で描く。各エピソードはそれぞれどこかでつながっており、複数のエピソードに登場する人物も多い。連載終了後に番外編『潔く柔く 切切と』が掲載された。2009年の第33回講談社漫画賞少女部門を受賞。2013年に新城毅彦によって実写映画化された。
Read Article
G線上のあなたと私(漫画・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ
『G線上のあなたと私』は集英社の『Cocohana』に掲載された、いくえみ綾による少女漫画。突然婚約破棄された小暮也映子。偶然耳にした曲をきっかけに大人のバイオリン教室に入り、北河幸恵、加瀬理人と次第に親しい関係を築いていく。それぞれが恋愛・仕事・家族などの悩みを抱えながらも、バイオリンを通じて自分に向き合い、生きる価値を見出していく。人間模様もしっかりと描かれていることで、恋愛の甘さだけではない大人の物語として楽しめる。テレビドラマ化もされ、リアリティのあるセリフが多くの視聴者の共感を呼んだ。
Read Article
漫画家ごはん日誌 たらふく(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『漫画家ごはん日誌たらふく』とは、50名の漫画家が自身の食についてのエピソードを元に描いた漫画を掲載した漫画本である。漫画家50名が1名2ページで、日ごろ食べているごはんや、漫画家自身が持っている食についての考えをラフなスタイルで描いている。後半には、特別インタビューとスペシャル対談が記載されている。人気漫画家が日常どのようなモノを食べているかを知ることが出来る本であり、更に食とは何かを考えるきっかけとなる作品である。本書は2015年5月に刊行された『漫画家ごはん日誌』の続編である。
Read Article
「いくえみ男子」は、どうして女子のハートをつかむのか?
漫画好きの女性たちの間で、圧倒的な支持を受けているのが「いくえみ男子」! そこには「王子様が好き!」「少女マンガも好き!」でも「少女マンガに出てくる白馬の王子様は恥ずかしくなってしまう……」「現実味もないし、笑ってしまう」という女子のリアルな声が反映されていました。
Read Article
タグ - Tags
目次 - Contents
- 『私がいてもいなくても』の概要
- 『私がいてもいなくても』のあらすじ・ストーリー
- 安倍晶子と神田川真希の再会
- 晶子、真希、日山の三角関係
- 関係の破綻、そして再スタート
- 『私がいてもいなくても』の登場人物・キャラクター
- 主人公
- 安部晶子(あべしょうこ)
- 主要人物
- 神田川真希(かんだがわまき)
- 日山一(ひやまはじめ)
- 安部晶子の関係者
- 菅野剛史(かんのたけし)
- 袖野美穂(そでのみほ)
- 晶子の母
- 安部拓也(あべたくや)
- その他
- 細野カレン(ほそのかれん)
- 亜利沙(ありさ)
- 『私がいてもいなくても』の用語
- オリオンの恋人
- 神田川マキ
- MACKY&CO.
- あっさりショコラ
- 『私がいてもいなくても』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 安部晶子「あんたのねえ!男らしそーでいて実はそーゆーケツの穴の小さいとこがムカつくのーっ」
- 日山一「それぁ 変だねぇ 眠ってる人間の 体を気遣う 優しさがあんのにねぇ」
- 日山一「真希は人を羨む前に自分のできることはやるからね」
- 安部晶子「わかんない… 愛されたことないもん 一生わかんないよ あんたの気持ちなんか」
- 神田川真希「うれしかったよ… …嘘でも すごく… …すごく」
- 『私がいてもいなくても』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 日山一『あっさりショコラ』といくえみ綾の同名作品
- いくえみ男子