天は赤い河のほとり(篠原千絵)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『天は赤い河のほとり』は、1995年から2002年まで『少女コミック』にて連載された篠原千絵による漫画である。時空を超えて紀元前14世紀の古代ヒッタイト帝国へとやってきた主人公ユーリが、後の皇帝となるカイルと出会い、自らの運命を切り開いていく歴史ロマンス漫画。王道の少女漫画でありながら、ロマンに溢れ史実とオリジナルのバランスが非情に優れた作品。第46回小学館漫画賞少女部門受賞作品。

『天は赤い河のほとり』の概要

天は赤い河のほとりは、1995年から2002年まで「少女コミック」にて連載された漫画である。原作者は多くのヒット漫画を手掛けている篠原千絵。単行本全28巻。文庫版全16巻。時空を超えて紀元前14世紀の古代ヒッタイト帝国へとやってきた主人公ユーリが、後の皇帝となるカイルと出会い、自らの運命を切り開いていく歴史ロマンス漫画である。第46回小学館漫画賞少女部門受賞作品。2018年3月より宝塚歌劇宙組にて舞台化が決定。遥か昔に栄えたヒッタイト帝国を舞台に、現代に生きる少女がタイムスリップしたことから物語は紡がれていく。王族間の陰謀、周辺の国々との戦争など、数えきれない試練を主人公ユーリが強い意志で乗り越えていく成長物語でもある。

『天は赤い河のほとり』のあらすじ・ストーリー

時空を超えて

物語のヒロイン、鈴木夕梨(ユーリ)は恋人とデートを楽しんでいるときに、突如現れた謎の手によって水の中に引きずり込まれ、古代ヒッタイト帝国へとやってきてしまう。ユーリをこの国に連れて来た手の正体は、自身の子供を次期皇帝にしようと企むヒッタイト帝国のナキア皇太后であった。ユーリはそのための生贄として選ばれたのであった。この窮地を、帝国の現皇帝シュッピルリウマ1世の第3皇子であるカイル・ムルシリに救われたユーリ。運命の出会いである。そして彼女は元の世界へ戻るまでの間、ナキアから身を守るため、名目のみではあるものの、彼の側室として生活することとなった。

日本へ戻る為に必要なものが、身に着けていた服であると知ったユーリ。ナキアのいる館へカイルの召使ティトと一緒に向かうことに。しかしすぐに見つかってしまい、ティトはユーリの身代わりとなって捕まってしまう。そして結果的に殺されてしまったのである。その後、日本へ帰れる機会に恵まれるも、ティトの仇を打つまでは帰らないと誓い、ヒッタイトに残ることを決意する。

ナキアはヒッタイト帝国の皇后であり神官でもある。彼女は水を操ることができ、その水の力は人を洗脳したり媚薬のような役割をしたり、毒薬にもなるまさに魔の力。

「ティトはユーリによって殺された」。ナキアの企てによりそう思い込んだティトの家族は、ユーリに毒薬となる魔の水を飲ませ彼女を仮死状態にする。目が覚めたユーリは追手から逃げるが、その途中でティトの父親タロスに会う。追手から逃れたいユーリはタロスに逃がして欲しいと訴えるが、タロスはこれを拒否し、たくさんの武器が置いてある部屋へユーリを案内する。そしてその中から剣を1本選ばせた。ユーリを逃がすのではなく、追手と戦わせるためだ。覚悟を決めたユーリは、細工や装飾で施されたたくさんの立派な剣の中から錆びついた1本の剣を選んだ。一つだけ他とは違う異質さが、今の自身を表しているように映ったからである。そしてその剣を持ってティトの仇であるカシュガ族のズワに立ち向かって行き、見事ズワを倒しティトの仇を打つことに成功した。彼女が選んだ剣とは、オリエントの覇権を握る宝剣、鉄の剣であった。迷うことなくその剣を選んだユーリに、タロスは戦いの女神、イシュタルの姿を見る。この時の勇姿はヒッタイト兵にもイシュタルの化身として映り、ユーリは称賛を受けた。

ザナンザ皇子の死と孤高の軍人ラムセス

カイルの弟であり第4皇子のザナンザ・ハットゥシリが遠方の戦より帰還した。彼はカイルの目指す治世には欠かせない人物の一人であった。ナキアによって招待された王宮のパーティーへ参加したその夜、ザナンザは魔の水に操られユーリを誘拐してしまう。誘拐して連れてきた街では、敵対しているミタンニ軍が侵攻し、あっという間にそこら中火の海と化してしまう。正気に戻ったザナンザは、街に残りミタンニの動向を探ることに。そしてユーリをカイルの元へ向かわせ、救援を呼ばせた。無事にカイルと合流できたユーリはヒッタイト軍を率いてザナンザのいるキッズワトナへ戻り、無事彼を救出することに成功。ザナンザとユーリの活躍によりヒッタイトはミタンニの侵攻を回避することができた。そしてここからミタンニとの戦いは一気にに加速することになる。

激しい戦いの中、一時ユーリがミタンニの黒太子に捕らえられるも、ミタンニ軍兵士のクーデターにより黒太子は側室のナディアを連れてバビロニアへ脱出。ヒッタイト軍の勝利に終わり、ユーリも無事カイルの元へ戻ることができた。

ヒッタイト帝国へと戻ってきたユーリとカイルは、お互いへの思いが日々大きく募ってきていることに気付いていた。しかし、ユーリはいつか日本へ帰る人であり、彼女自身もそれを望んでいる。そのために、気持ちを隠し通すしかなく、ユーリもカイルもお互いに苦しんでいた。そんな折、隣国エジプトの皇女アンケセナーメとカイルの縁談話が持ち上がる。

ザナンザは、ためらうカイルの代わりにアンケセナーメと結婚することに。婚礼のためにエジプトへ出発する彼を、国境まで見送りに行くことを希望したユーリ。しかしその道中、一行は急襲されザナンザは刺客によって殺されてしまう。ユーリもまた背中に矢を受け瀕死に。これはエジプトとの友好を望まないナキアによって仕組まれた罠だった。そんな中一人のエジプト兵が現れる。エジプトの軍人ラムセスである。ユーリはラムセスにヒッタイトまで自分を連れていくように懇願する。

ザナンザとユーリが死亡したという知らせはヒッタイトまで届き、エジプトとヒッタイトは一触即発状態。ヒッタイト国内も混乱の極みであった。そこへユーリを連れたラムセスが現れ辺りは騒然となる。ヒッタイト兵たちが見守る中、ユーリの背中に刺さった矢をカイルがその場で抜くことに。誰が作った矢じりでどの国の兵士のものかが分かるため、この一件でエジプトの仕業ではないことを証明したユーリ。全面戦争は避けられ鎮静化に成功したものの、ナキアの企てであることまでは証明できなかった。

その一部始終を見ていたラムセスは、ユーリが他の女たちとは違うことにすぐに気付く。王の隣に立ち、同じ目線で同じ立場で考えることのできる女であることに気付いた。以降特別な存在としてユーリを見るようになり、いずれ自分の妻にしたいと考えるようになる。

偽りのイシュタル

七日熱。ヒッタイト国内では恐ろしい伝染病が流行しており、ナキアは清潔な看護施設を作り、病人を手厚く保護。評判がどんどん上がっていた。一方ユーリはというと、カタパという街に偽物が現れ贅の限りを尽くすその姿に悪評が広がっていた。カイルの評判までもが下がってはいけないと、カタパの街に一人乗り込むも、捕らえられ伝染病患者がひしめく”谷”へ放り込まれてしまう。ユーリの偽物問題もナキアの企みであり、ナキアはユーリが七日熱に感染し病死することを望んでいた。

しかし、何日経ってもユーリは感染しない。それどころか、進んで患者を看護する姿が評判を呼ぶように。しばらくしてからカイルが谷へユーリを迎えにきたことで彼女が本物であることが発覚。結果的にカイルとユーリはさらに評判を上げることとなる。そして、偽物を騙ったウルスラは、ユーリの一言から彼女の元で働くこととなる。

殺害された皇帝とカイルの隠し子騒動

ヒッタイト皇帝アルヌワンダ2世が殺害された。そしてその現場にいたユーリは殺人事件の容疑者となってしまう。これもまた、ナキアの企みによるものであり、彼女はこの件の真犯人をユーリに仕立て上げようとしていた。しかし、その場にいたのはユーリだけでなく、ナキアの息子ジュダも一緒であった。そのため、彼の証言によりユーリは解放されるも、ナキアは魔の水を自身の息子に飲ませてジュダを思いのまま操り始める。そのせいで、一時解放されていたユーリに再び殺人事件の犯人としての疑惑が浮上することに。

一方カイルのほうは隠し子騒動に頭を悩ませていた。昔の恋人ギュゼル姫が現れ、姫の息子はカイルとの間にできた子であると訴えるのである。それが嘘偽りであることはカイルには分っていた。ギュゼル姫もまた、ナキアの魔の水によって操られていたのである。それに気付いたカイルは呪いの水をギュゼル姫から吐かせることに成功し、姫自身に子供の親がカイルではないことを証明してもらえたのであった。同じように、ジュダも魔の水で操られているのではという疑惑をナキアに向けるカイル。しかしナキアはここで真っ向から否定をし、もし自分を疑うのであれば、故国バビロニアと戦争になることを覚悟せよと宣言し、これ以上ナキアの企みを暴くことは不可能となる。

ウルスラの死とカイルの即位

ユーリは濡れ衣を着せられている間、ハッティ族の街に身をひそめることに。誰かが犯人として捕まらなければユーリが戻って来られないことを知った侍女ウルスラは、死を覚悟した上で自身が皇帝暗殺の真犯人だと名乗り出る。ウルスラの恋人カッシュが「一緒に逃げよう」と助けに来たが、カイルが皇帝(タバルナ)に、ユーリが皇妃(タワナアンナ)になる日を夢見て、彼女は処刑されてしまう。後にこの事実を知ったユーリは涙を流してウルスラの死を悼んだ。

皇帝暗殺の事件がウルスラの死によって解決をし、カイルは新皇帝陛下として即位した。しかしユーリの心は晴れぬまま。ウルスラの死を受け入れることができず、日本に帰るまではイシュタルとしてカイルの傍にいることを誓う。

ユーリの決意

隣国のアルザワやエジプトが不自然な形でヒッタイトへ侵攻してきたことで、国内にスパイがいる可能性が出てきた。ユーリはそのスパイをいとも簡単に見つけ出したが、スパイを指揮する大元までは掴めない。両国からの刺激がある以上、兵を2つに分けて派遣する必要が出てきた。エジプトへはカイル、アルザワへはユーリがイシュタルとして出陣することに。半月後の春の空には暁の明星(イシュタル)が上り日本に帰る条件が整うため、お互いが出兵するともう二度と会えなくなる。その現実を改めて突きつけられた形となったカイルとユーリ。ユーリはアルザワを落とし、愛する人の手にオリエントの覇権を残して日本へ帰ろうと決意して出陣するのであった。そして見事無血開城でアルザワを落とすことに成功。

一方で首都ハットゥサでは新たな神殿が建てられようとしていた。その神殿が建つ場所は、ユーリが日本へ帰るために必要な泉がある場所。ナキアはカイルとユーリが留守の間に泉を壊して、ユーリが二度と日本へ帰れないように動いていたのであった。遠い戦地でそのことを知ったユーリは、急いでハットゥサに戻ることに。カイルもまた、エジプト遠征の地でナキアの企みを知り、それを阻止すべく兵を動かそうとしていた。そんな最中、カイルがラムセスの放った弓によりケガを負ってしまう。それを知らせるかのように、ハットゥサに戻る途中、ユーリが身に着けていた髪飾りにヒビが入って突如割れるという不吉なことが起こる。この髪飾りは以前カイルから受け取ったものだった。カイルの身に何かがあったことを悟ったユーリは、ハットゥサではなくカイルの元へと急ぐのであった。二度と日本へ戻れなくても、カイルの元で共に生きることを決意したユーリ。そしてユーリが合流したことによりエジプト対ヒッタイトの初戦は見事ヒッタイトの圧勝で幕を閉じた。

正妃候補者たち

日本には戻らずカイルの元に残ったユーリ。彼女を一生大切にし、いつか必ず正妃にしようと心に誓う。しかし戦いが終わりハットゥサへ戻ると、後宮にはいつの間にか多くの正妃候補の姫君たちが住み、カイルの帰りを待っていた。否応なしに後宮での女同士の争いに巻き込まれ、日々嫌がらせを受けるユーリ。ある日ユーリの寝所にサソリが放たれるという事件が起こる。それまで大人しくしていたユーリだったが、自分だけでなくカイルにも危険が及ぶ可能性があったことを考えるといても立ってもいられなくなり、犯人である姫君の前で怒鳴りつけた。その迫力に圧倒され、以降姫君たちによるユーリへの嫌がらせはピタリとなくなった。その後後宮では殺人事件が発生したり、弓兵隊長ルサファによるユーリの誘拐等が発生するも無事に解決。全てはナキアの企てだということは明白だが、その証拠をまたしても暴くことができず頭を悩ませる。

タワナアンナの条件

国内ではユーリをカイルの皇后(タワナアンナ)にという声が大きくなっていた。しかしユーリには高貴な身分も家柄もない。そこでナキアは一つの提案をした。ユーリが近衛長官(ガルメシェディ)を見事務め上げれば正妃として認めるという内容であった。過去に女性がこの任を務めたことはなく、ナキアはユーリが戦の中で命を落とすことを望んで発言したのであった。ナキアの提案を受けたユーリに、カイルはルサファを補佐官に任命する。しかし、ルサファはまたもやナキアの陰謀により、強姦の罪を着せられ、”炎夏の秤”にかけられることに。これは「神々の裁き」の名を借りた事実上の死刑宣告である。炎天下という過酷な環境下において、首と四肢をしばりつけられた状態で5日間耐え抜くというものであり、到底生きて戻っては来られない。しかしユーリの咄嗟の機転により、この刑を無事にくぐり抜けたルサファは、心から慕うユーリに対し、いつか彼女のために死のうと、彼女を守り抜くことを心に誓うのであった。

エジプト戦線へと向かうべく、友好国のウガリットへ向かったユーリたちだが、ヒッタイトに不信感を持つウガリット王の異変により防衛線は無防備状態。エジプトの指揮官がラムセスということもあり、下手な小細工が効かないことが分かったユーリはエジプト軍の野営地に忍び込む。エジプト軍が休んでいる間に、彼らの戦力を削ぐために馬を放っていたユーリは偶然にもラムセスに見つかってしまう。ラムセスによって連れ去られ、そこで自身が妊娠していることに気付く。その後カイルの元へ戻ることができた際に妊娠していることを報告。2人は心から喜び合った。しかし、ナキアにこの事実が伝わればまたユーリに危険が及ぶことになる。そこでカイルは、ヒッタイト帝国内のカルケミシュで密かに出産してもらうことを決めた。カイルは戦地へ残り、ユーリは船でカルケミシュへ。しかし船旅の途中で一人の船員の裏切りにより、ユーリたちは夜の海へ落ちてしまう。咄嗟に彼女の後を追ったルサファとともに、2人はその後行方不明に。しばらくしてユーリの安否が不明であることを知らされたカイルは、心が乱れ戦に集中できずエジプト戦で初めて退却する事態となる。一方ルサファは、動けないユーリとともに通りかかった船に助けられる。その後ラムセスによって助けられ、一命を取り留めるもお腹の中の子供は助からなかった。ユーリはショックで何も考えることができないでいた。

ラムセスとの共闘

そんなユーリを見かねたラムセスは、カイルが体調不良を起こしている事実を伝える。エジプト側がヒッタイト皇帝の詳細を知っているという不自然さに、ユーリは国内にスパイがいるのでは、と疑うようになる。自分が今エジプトにいる意味はあるのだと、カイルのためにユーリはラムセスと手を組んで情報を掴むべく行動を起こしていく。そしてエジプトに君臨している皇太后ネフェルティティとナキアが通じているという確かな証拠を手に入れることに成功。その証拠を持ってカイルの元へ向かうユーリ。再会を果たしたユーリは、子供を流産してしまったことを告げ、カイルの腕の中で涙を流す。

一方エジプトのネフェルティティは証拠を突き付けられたことにより失脚したものの、エジプト軍はヒッタイト帝国へと進軍してきた。カイル率いるヒッタイト軍とエジプト王ホレムヘブ率いる両国の戦いが始まった。この戦いの中で、ラムセスとカイルは1対1の決闘を繰り広げる。一人の男として、この相手にだけは絶対に負けたくない。そんな思いがお互いを突き動かしていた。一方カイル不在となったヒッタイト軍をユーリは見事指揮し、エジプトとの講和へ持ち込むことに成功。以後カイルの治世においてはエジプトと戦うことはなかった。

ナキアの没落

カイルの側近イルバーニは、ついにナキアの忠臣ウルヒを捕らえることに成功する。一方ユーリを正妃にという声が改めて国内では高まっていた。そして正式にユーリが正妃になることが決定する。同じくして拘束されていたウルヒも、ナキアの魔の力により牢より逃げ出すことに成功。そしてこれまでの数々の暴挙を元老院に責め立てられるナキアの元に現れ、ユーリに危険を及ぼしたのも前皇帝陛下を殺害したのも自分であることを告げ、ナキアを抱きしめて自害した。ナキアは王宮から離れた場所で生涯幽閉となり、事実上失脚した。しかしナキアはまだ、ユーリとカイルを引き離すことを諦めてはいなかった。強制的にユーリを日本に返そうと企んでいるのであった。

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