君の膵臓をたべたい(キミスイ)のネタバレ解説・考察まとめ

『君の膵臓をたべたい』とは、2018年に公開されたアニメーション映画。
住野よる著の2015年の同名小説を原作とした作品であり、2017年には実写映画版が公開されている。スタッフは本作が初監督となる牛嶋新一郎が監督・脚本を担当。制作会社はスタジオヴォルン。
孤高な主人公の少年「僕」と膵臓の病で余命わずかの快活な少女の青春模様や、キャラクターの葛藤・成長が描かれる。劇中の経過時間は約4ヶ月ほどで、独特なタイトルの本当の意味が劇中終盤でようやく明かされる。

『君の膵臓をたべたい』の概要

『君の膵臓をたべたい』とは、2018年9月1日に公開されたアニメーション映画。略称はキミスイ。
住野よる著の2015年の同名小説を原作とした作品であり、2017年には実写映画版が公開されている。スタッフは本作が初監督となる牛嶋新一郎が監督・脚本を担当。アニメーション制作会社はスタジオヴォルン、配給はアニプレックス。
上映時間108分。

原作は住野よるのデビュー作であり、小説投稿サイト「小説家になろう」への投稿を経て2015年6月19日に双葉社から出版された。
その後、2016年にオーディオドラマ化、2017年に実写映画化が展開された。
本作の企画は原作の出版日よりも前から始まっている。2015年の小説出版前に、アニメーション販売・配給会社アニプレックス所属のプロデューサー柏田真一郎が、双葉社から送られてきたサンプル本の中であった本作を読んでアニメ化を決定した。

監督・脚本の牛嶋はTVシリーズの『ワンパンマン』で助監督 、『ALL OUT!!』で副監督の経験はあったが、監督は本作が初である。脚本会議には住野よるも参加しており、シナリオは牛嶋と住野の二人が中心となり制作された。
アレンジが成された実写版と異なり、本作はほとんど原作小説に忠実な内容となっている。

ストーリーは、孤高な主人公の少年「僕」と膵臓の病で余命わずかの快活な少女の青春模様や、キャラクターの葛藤・成長が描かれる。劇中の経過時間は約4ヶ月ほどで、独特なタイトルの本当の意味が劇中終盤でようやく明かされる。

劇中の舞台は、富山県高岡市をモデルとしている。時代設定は不明だが、劇中ではスマートフォンは登場せず、携帯電話が用いられている。

映画の入場者特典として、本編のその後を描いた書き下ろし小説『父と追憶の誰かに』が配布された。

『君の膵臓をたべたい』のあらすじ・ストーリー

葬儀

8月19日、高校のクラスメイトの山内桜良(やまうち さくら)が死んだ。
葬儀では多くの友人が別れを惜しんでいて、その中でも彼女の一番の親友だった恭子(きょうこ)の悲しみは深かった。

しかし「僕」は葬儀にも通夜にも出席せず家にこもっていた。
やがてふと携帯電話を手に取る。送信履歴には桜良に最後に送ったメールが残っていた。文面はたった一言、「君の膵臓を食べたい」。

時は遡り、学校の図書室で、図書委員の「僕」と桜良は本の整理をしていた。
桜良は突然、テレビで見た話題について語り始めた。それは肝臓が悪ければレバーなどを食べるという民間療法の一種であり、彼女は「僕」に「君の膵臓を食べたい!」と言い出した。
彼女がこんな話ができるのは「僕」だけだった。

病院にて

4月22日。その日「僕」は病院に来ていた。
待合室のソファに誰かの忘れ物らしい文庫本が置かれているのを見つけた。その表紙には手書きで「共病文庫」と書かれている。中のページを見てみると、そこには日記が綴られていた。その内容は「私は膵臓の病気でもうすぐ死んでしまう」というものだった。

するとその場に山内桜良が現れた。桜良は「共病文庫」と書かれたその本は自分のものだと告げる。彼女の余命が僅かなのは本当らしい。
そして何故か「僕」を気に入ってしまった桜良は「僕」が担当する図書委員に立候補し、2人で委員の仕事を行うようになった。

一日の価値

距離を縮めていく「僕」(左)と山内桜良(右)

図書室の片づけなんかに残り少ない命を使っていいのか「僕」が尋ねると、桜良は
「死ぬまでにやりたいことなんて誰にでもあるけど、誰もがそれをやっているわけじゃない。一日の価値は全部一緒なんだから、何をしたかの差なんかで私の今日の価値は変わらない」と自分の考えを述べる。

その日の放課後、彼女に連れ出され、「僕」と桜良は昼食に焼肉を食べに向かった。シビレ(牛の膵臓)を含めた様々なホルモン焼きを注文する桜良。

2人はあらゆる点で正反対だった。
しかし桜良はそんな正反対であることすら楽しんでいた。

暗くなり別れて帰宅すると、自宅のテレビのニュースでは、通り魔事件を報道していた。

真実と日常

放課後、「僕」は再び桜良に付き合わされ、2人で「スイーツパラダイス」という甘味専門のバイキング店へ向かった。こういう場所は女友達や彼氏と来る場所ではないのかと「僕」は文句を言うが、彼氏ならつい最近別れたと咲良は言った。

その後、2人は海へ行き、桜良は裸足になって海辺ではしゃぎだした。
「僕」は桜良の余命が僅かであることを理解しながら、彼女に過剰な気遣いや同情はせず普通に接し、桜良はそんな「僕」と過ごす時間を心から謳歌していた。
余命を覚悟しているのなら、何故自分なんかと過ごそうとするのか。そう問いかける「僕」に対し、桜良は「君はきっとただ一人、私に真実と日常を与えてくれる人なんじゃないかな」と語る。

突然の旅行

テスト休みになると、桜良から「電車で遠出しよう」とメールが届く。「僕」は深く考えずに了承するが、彼女の言う遠出とは、新幹線で九州の福岡まで向かうというものだった。
福岡へ向かう新幹線の中で、共病文庫に何かを書き込んでいる桜良は、「僕」に下の名前を尋ねる。
「僕」は共病文庫に自分の名前は書かないでほしいと言った。彼女が死んだ後で遺族がその本を読んで、自分との関係を問われるのが面倒だからだった。

福岡に到着すると、2人は観光を楽しんだ。また、「僕」は泊まりを想定していなかったため着替えがなく、桜良がコーディネートした普段よりも洒落た服を購入する。
夜になると、2人は宿泊先のホテルに向かう。しかし予約に手違いがあり、1部屋に2人一緒に泊まることになってしまった。

先に入浴した桜良に、風呂場から鞄の中にある洗顔クリームを持ってきてほしいと頼まれる。咲良の鞄の中には、大量の錠剤や注射、測定器などが入っていた。

その後、何かで遊びたいという話になり、「真実か挑戦」というゲームをすることにする。ゲームのルールに則り2人は様々な質問をし、互いを知っていった。

その後、2人は再度福岡を観光した後、新幹線で帰路に着いた。

死ぬまでにやりたいこと

テスト休み明けに、桜良と2人で図書室で委員の仕事をしていると、本についての話になった。
桜良は本をほとんど読まなかったが、一冊だけ好きな本があるという。それは、サン・テグジュペリの『星の王子さま』だった。
「僕」が『星の王子さま』は未読だと話すと、桜良は本を貸してあげるからと自分の家に招待する。

本を貸し借りするだけの予定だったが、雨が激しく降っていたため、2人はテレビゲームをして過ごした。そんな最中に彼女が発した「何があっても私を彼女にする気はきっとないよね」という問いに、「僕」は「ないよ」と返答する。

突然咲良が背中に抱きついてきた。桜良は共病文庫に「死ぬまでにやりたいこと」をリストアップしており、その中の一つが「恋人でも好きな人でもない男の子と、いけないことをすること」だと語る。
唖然としながら「僕」はこれまでにない怒りに駆られた。そしてキスしそうな距離まで近づいてきて、笑って噴き出した桜良の両腕を掴み、ベッドに押し倒して睨みつける。
しかし、いつも明るく笑顔だった桜良が初めて涙を流していることに気がつき、「僕」は彼女を解放すると桜良の家を飛び出した。

家へ帰る途中、クラスの学級委員の隆弘に声をかけられる。クラスでも目立たず協調性もない「僕」のような人間が、桜良と一緒に時間を過ごしていることが、相当気に入らないらしい。
先程の経緯で疲弊して苛立っていた「僕」は、彼に「あの子(桜良)は、しつこい人間は嫌いだそうだよ。前の彼氏がそうだったらしい」と告げた。
それを聞いた隆弘は憤慨し「僕」を殴打する。桜良が以前付き合っていて最近別れた彼氏とは隆弘のことだったのだ。

殴り倒された「僕」と隆弘の元に、桜良が現れた。そして隆弘に「もう二度と、私と私の周りにいる人達に近づかないで」と告げた。隆弘は逃げるようにその場を去っていった。

「僕」は、「やっぱり僕みたいな人間が人と関わるべきじゃなかった」「本気で君のことを想ってくれている人と一緒にいるべきだ」と語る。
しかし、桜良はそれを真っ向から否定した。「君が今までしてきた選択と、私が今までしてきた選択が、私達を会わせた。私達は、自分の意思で出会った」と強く告げる。
その言葉に「僕」はしばらく何も言えなかったが、「僕にできることは少ないと思う」と返した。

こうして仲直りし、びしょ濡れになった「僕」は、再び桜良の家で着替えと『星の王子さま』の文庫本を借りる。桜良は、一年後に返してくれればいいと言う。
別れ際、「死ぬまで仲良くしてね」と言う桜良に、「僕」ははっきりと肯定の意思を告げる。最期まで彼女に付き合うと決めたのだ。

病室にて

その後、2人は共病文庫に書かれた「2人でやりたいことリスト」に沿って、パスタを食べに行ったりボーリングやカラオケなど様々な時間を共に過ごした。

しかし数日後、「僕」は彼女が入院したことを知る。
「僕」は桜良のお見舞いへ行った。そして桜良に「君にとって生きるとはどういうこと?」と問いかける。
真面目な質問だったため、桜良はしばし悩んだ末「私にとって生きることは、誰かと心を通わせること。そのものを指して、生きるって言うんじゃないかな」と答えた。
そして桜良はもう一つだけお願いがあるといい「僕」にそっと抱きついた。それは、以前のような悪ふざけではなく、純粋な抱擁だった。

花火

次の日、「僕」は桜良からのメールで入院期間が2週間延びたことを知る。気が気ではなくなり、夕方に彼女の見舞いへ向かった。
病室での桜良は、一見いつも通りに快活だったが、「僕」はその様子をどこかおかしく感じていた。

日が沈み暗くなってくると、桜良はあることを提案する。2人が向かった先は展望台となっており、そこからは綺麗な夜景が見えた。
次の瞬間、大きな打ち上げ花火が上がった。
暫し2人は花火に見とれるが、今日彼女がここに来たのは、もう二度花火を見に来れないからではないかと「僕」の不安は大きくなった。そして、ここのところ桜良の様子がおかしいとも指摘する。

桜良は「なんでもないよ。君に嘘はつかない。死ぬときはちゃんと君に言うから」と告げ、再び花火を見つめた。

君の膵臓を食べたい

その後、桜良は予定通り2週間後に退院した。
退院記念に2人で出かけようという話になり、当日「僕」は早起きして出かける準備をしていた。桜良との約束は午後からだったが、「僕」は少し早めに家を出た。カフェに到着し、そこで待っていることを桜良にメールする。
カフェから見える景色が、これまでとは見違えるほどに眩しく見えた。
「僕」は本当は、桜良のような人間になりたかったのだ。人を認められて、人に認められ、人を愛し、人に愛される人間に。

すると、桜良から少し遅くなるというメールが届く。どう返信しようか迷う「僕」は、先程考えていた答えから「君の爪の垢を煎じて飲みたい」と打とうとするが、途中でやめる。
文面を書き直し、「君の膵臓を食べたい」とメールを送信する。

しかし、それから何時間経っても桜良はカフェに現れなかった。夜になり、仕方なく「僕」は家に帰ることにした。

帰宅すると、家のテレビではニュースが流れており、数か月前から報道されていた通り魔事件の犠牲者名に「山内桜良さん(17) 包丁で刺され死亡」と映っていた。

共病文庫の結末

桜良の葬儀が終わっても、「僕」は家から一歩も出ず、ただ本を読むだけで過ごしていた。だが彼女の死後10日目、桜良の家へ行くことにする。

桜良の家で彼女の母親と対面し、遺影に線香を上げ手を合わせ、借りていた『星の王子さま』を返す。それから「僕」は、桜良の母に膵臓の病気のことを知っていたことを告げる。そして共病文庫と書かれた本を読ませてほしいと頼んだ。
それを聞いた桜良の母は、涙を流しながら「来てくれて本当によかった」と呟き、共病文庫を「僕」に差し出した。

共病文庫は桜良の独白が日記形式で書かれていた。やがて「僕」と桜良が病院で会った4月22日の記述となった。そこには「僕」のことが書かれていたが、「僕」の名前の部分はボールペンで塗りつぶされていた。
その後は焼肉のこと、スイーツバイキングのこと、旅行のことなどが書かれていた。そして、互いに傷つけあった雨の日のこと、入院が決まったときのことも書かれていた。
明るく振舞っていたが、それは見栄を張っていただけで、本当は不安だったことも綴られていた。

そして彼女が刺されて死ぬ前日の8月18日、翌日の退院が決まり、残った時間を謳歌すると意気込んだ内容以降は空白だった。
8月19日以降は書かれていない。

8月18日まで読み終え、「僕」は共病文庫を桜良の母に返そうとする。しかし、まだ先があると言われ、共病文庫の8月18日以降のページをめくる。すると本の終りの方に「遺書」という文章があった。

学校の友人に向けたもの、家族に向けたもの、恭子に向けたもの、そして最後に書かれていたのが「僕」に向けての遺書だった。その遺書にも「僕」の名前は書かれてなかったが、「僕」に宛てたものなのは明白だった。

桜良は何度も「僕」に恋をしているのではないかと思ったことがあったという。だが自分達の関係は恋だとか友情だとかではとても表せないものだった。
そんな彼女が「僕」に訊きたかったことは、「どうして君は、私の名前を呼ばないの?」という内容だった。「僕」はいつも桜良のことを「君」としか呼ばなかったため、その理由が知りたかったのだ。
結局訊くことはできなかったため、桜良はその理由を想像し、それは「私を君の中の誰かにするのが怖かったから」ではないかと書かれていた。

「僕」は臆病な人だから、いずれ失うとわかっている桜良が「恋人」や「友人」の意味を持ってしまうことを恐れていたのではないか。

だが臆病と言いつつも、桜良は「僕」を非難しているわけではなかった。桜良はずっと「僕」に憧れていた。桜良は自分の魅力は他の誰かがいて初めて成立するものだと思っていた。
だが、「僕」だけはいつも自分自身であり続けていた。桜良も、自分だけの魅力が欲しかったのだという。そして最後に、こう書かれていた。

「私はやっぱり…君の膵臓を食べたい」

kazuya2004m3
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