MONSTER(モンスター)のネタバレ解説・考察まとめ

『MONSTER』とは、浦沢直樹による漫画およびそれらを原作としたアニメ作品。
舞台は1980年代後半から90年代後半のヨーロッパ。
日本人の天才脳外科医・テンマは強盗事件にまきこまれ重傷を負った少年・ヨハンの命を助ける。しかし、その9年後にヨハンと再会したテンマは、彼が平気で殺人を繰り返す殺人鬼であることを知る。
殺人鬼・ヨハンを生き返らせてしまったことに責任を感じたテンマは、その責任を果たすため、ヨハンを抹殺する旅に出る。

「3匹のカエル」からニナとともに脱走し、国境近くをさまよっていたヨハンが見た風景。

『MONSTER』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「人の命は平等じゃないんだもの。」(1巻1章『ヘルDr.テンマ』)

死亡した患者の家族に責められ、悩んでいたテンマを励ますためにエヴァが言ったセリフ。

テンマが運び込まれたトルコ人の患者の手術の準備に取り掛かっていたところ、有名なオペラ歌手が搬送されてきた。
院長の命令により、テンマは後から運び込まれたオペラ歌手の手術を担当し、別の医者がトルコ人の患者を担当したところ、オペラ歌手は助かり、トルコ人の患者は死んでしまった。
後日出会ったトルコ人の患者の妻にそのことを責められたテンマは、自分のした行動が間違っていたのではないかと悩んでいたのだ。

それに対して、エヴァは「人の命は平等ではないからテンマは悪くない」と返す。
しかし、テンマは『生まれによって命の価値は違う』というエヴァの主張に戸惑う。

テンマが命の価値について考えるシーンに繰り返し登場する重要なセリフである。
エヴァにとってはテンマを慰めるために言った言葉だが、人の命は平等だという考えを持つテンマにとっては強い抵抗感とともに印象に残るセリフとなった。

「バリバリグシャグシャバキバキゴクン。」(9巻3章『なまえのないかいぶつ』)

フランツ・ボナパルタの絵本『なまえのないかいぶつ』のなかに繰り返し登場する一節。
『なまえのないかいぶつ』はヨハンの人格形成に大きな影響を与えた絵本である。その中に繰り返し登場する印象的なフレーズである。
成長後、偶然この絵本を読んだヨハンは、強いショックを受け気絶してしまう。

「おかえり。」(11巻8章『悪夢の扉』)

幼少期の記憶をたどるニナの頭の中に、絵本を抱えた少女がこちらに微笑みかけながら「おかえり」と言っているシーンが繰り返し浮かぶ。

その少女は幼少期のニナだという。
ニナは、「赤いバラの屋敷」に連れていかれた兄・ヨハンを、「3匹のカエル」で絵本を読みながら待ち続けていた。
やがてヨハンが帰ってきて部屋のドアを開けると、ニナは微笑みながら「おかえり」と言った。

しかし、実際は「赤いバラの屋敷」に連れていたのはニナのほうであり、「3匹のカエル」で絵本を読んで待っていたのがヨハンだった。
ヨハンとニナの母親は、ボナパルタらに居場所を知られるのを少しでも防ぐため、ヨハンにも女の子の格好をさせ、まるで1人しか子供がいないかのようにカモフラージュしていたのだ。
ニナが帰ってくると、ヨハンはニナに微笑みかけながら「おかえり」と告げた。

「赤いバラの屋敷」に連れていかれたニナは、フランツ・ボナパルタに「人間はなんにでもなれる」「君たちは美しい宝石だ。怪物になってはいけない」という言葉をもらったことにより、自分の中に潜んでいる凶悪性が目覚めず、ヨハンのような「怪物」にならずに済んだ。
しかし、「3匹のカエル」に残ったヨハンは、1人で母親と妹の帰りを待ちながら、人格改造実験に使われた絵本・『なまえのないかいぶつ』を繰り返し読み、帰ってきた妹から「赤いバラの屋敷」で起きた惨劇の話を聞いたことで凶悪性が目覚めてしまい、殺人や洗脳を繰り返す「怪物」になってしまう。

もし「おかえり」と言っている少女が本当に自分だったら、ニナもヨハンのような怪物になってしまっていたかもしれないのである。
ニナの記憶に繰り返し登場する、重要なセリフである。

「人間はね………何にだってなれるんだよ」(15巻6章『ニナの記憶』)

「赤いバラの屋敷」での惨劇を見てしまったニナにフランツ・ボナパルタが言ったセリフ。

「いいかい、よく聞くんだ……今、見たことは、全部忘れるんだ。遠くへ逃げるんだ……できるだけ遠くへ………人間はね……何にだってなれるんだよ。君たちは美しい宝石だ……だから、怪物になんかなっちゃいけない……」

優秀な戦闘員を育成するための人格改造実験に関わっていたボナパルタだが、実験に巻き込まれたヨハンとニナの母親に恋をしたことでその実験をやめるべきだと考えるようになる。そして、実験の関係者全員を毒殺し、その場にいたニナを逃がす。

人間は、怪物のような悪の面と善の面を両方持っている。ニナにもヨハンのような怪物になってしまう可能性はあったのかもしれない。しかし、この言葉を聞いたことにより、ニナは自分の中の悪の部分を抑え、善の部分を伸ばすことができ、怪物にならずに済んだのだ。

ニナの断片的な記憶の中に繰り返し登場する重要なセリフである。

「Dr.テンマ……すまなかった。」(18巻2章『休暇の終わり』)

最終巻にて、テンマと再会したルンゲ警部が言ったセリフ。

アイスラー記念病院の院長殺害などの事件を起こしたのはテンマであると思い込んでいたルンゲ警部。
テンマの「殺人事件はヨハンという少年の仕業である」という証言を聞いた後も、ヨハンというのはテンマのもう1つの人格で、実際には存在しない人物だと結論付け、テンマを連続殺人犯として追っていた。
しかし、調査をするうちに「赤いバラの屋敷」や「フランツ・ボナパルタ」のことを知ったルンゲ警部は、ヨハンは実在するのではないかと考え始める。

フランツ・ボナパルタの手がかりを追っていたルンゲ警部は、小さな田舎町・ルーエンハイムにたどり着く。
しかし、その町では、ヨハンとその関係者が仕掛けた集団狂気により、殺し合いが起こってしまう。
街の住民らを保護する中で、同じくボナパルタの手がかりを追ってルーエンハイムを訪れていたテンマと再会するルンゲ警部。
ルンゲは自分が保護していた住民をテンマに引き渡し、さらに彼にボナパルタの居場所を教える。そして、テンマに一言、「すまなかった」と言い残し、ヨハンの手下・ロベルトが滞在するホテルへと去っていく。

連続殺人犯だとしてテンマを追い続けていたルンゲ警部が、ヨハンの存在とテンマの無実、自分の誤りを認めるという重要なシーン。セリフ自体は短いが、この前後の彼の行動などの中でも、テンマを犯人だと思い込んでいた自分を悔いるルンゲ警部の気持ちが感じられる。

「悲しみはどんどん薄れていって……楽しかった記憶ばかりが残っていく……人間て、都合よくできてるわよね……」(18巻10章『明日は来る』)

最終巻にて、Dr.ライヒワインの診療所を訪れたエヴァが言ったセリフ。

父の死後、結婚と離婚を繰り返し、さらに復縁を持ち掛けたテンマに振られたエヴァは、アルコール依存症になり自暴自棄な生活を送っていた。
偶然ヨハンの顔を見てしまったことでヨハンとその関係者に命を狙われることになる。

ヨハンの関係者である「赤ん坊」の部下・マルティンは、数日間エヴァの身の回りの世話をさせられた後、エヴァを殺害することを命じられる。
しかし、彼は命令に背いてエヴァを逃がし、それがきっかけでヨハンの関係者に殺害される。

父親の死、3度の離婚、アルコール依存症となった自暴自棄な生活、そして自分を助けてくれたマルティンの死など、様々なことを経験してきたエヴァ。
しかし、Dr.ライヒワインの治療などによりアルコール依存症を克服し、仕事も見つけた今となって振り返れば、悲しかった記憶はどんどん薄れ、楽しかった記憶ばかりが残っているのだった。

感情的な理由でテンマを窮地に陥れ、さらに父親の死などの逆境に耐えられずに自暴自棄な生活を送るなど、精神的にもろい面が目立ったエヴァが、様々な人との出会いを通して立ち直ったということを感じさせる感慨深いセリフである。

『MONSTER』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

「テンマ」の元ネタ

『PLUTO』に登場する天馬博士。

主人公のケンゾー・テンマは、漢字で書くと「天馬賢三」という名前である。
テンマの名前は、手塚治虫の作品『鉄腕アトム』に登場するマッドサイエンティスト「天馬博士」に由来していると思われる。

『MONSTER』の作者・浦沢直樹の作品には、『20世紀少年』に登場する科学者・キリコ(『ブラックジャック』のドクター・キリコがモデル)など、手塚治虫作品へのリスペクトが感じられる箇所が多く登場する。
また、浦沢直樹は、手塚の作品である『鉄腕アトム 史上最大のロボット』をリメイクした作品、『PLUTO』を描いていたこともある。

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