家栽の人(漫画・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『家栽の人』は1988年~1996年に『ビッグコミックオリジナル』で連載された毛利甚八作・魚戸おさむ画の裁判を扱った人情物青年漫画、及び本作を原作としたテレビドラマである。家庭裁判所の裁判官桑田義雄が裁判を進めていく中で裁判に関わる人々の心情を書いた人情系漫画。多くの悩みや問題を抱えて裁判所にやってくる人々を桑田が裁判を通じて救っていく。また、桑田に様々な感情を持ちながら桑田と関わっていく裁判所の個性的な職員たちも魅力的だ。

目黒支部長、桐島判事補、桑田の三人は、傷害致死事件を起こして地裁に逆送された少年の裁判を担当することになった。裁判は検察の有利に進められたが、桑田は犯行現場と逮捕した場所が離れている割に経過時間が短いと疑問を持つ。目黒も倉本判事に自動車を運転して貰って犯行現場と逮捕現場を移動して、犯人の有罪に疑問を持ち、傷害致死に関しては無罪の判決を出す。そのことで桑田に興味を持った検察官の徳川政治(とくがわまさじ)は、同期である目黒に接近。桑田がとんでもない人物と付き合っていると伝える。
桑田が「お化け屋敷の森」で出会った学者は変人として有名であり、住居不法侵入と公務執行妨害の前科があり準禁治産者でもあった。桑田と学者の関係を知った目黒は桑田に学者との付き合いをやるめるように説得するが、桑田は聞き入れず、学者との交友を続ける。

単行本11巻「モクレン」

不穏な状況の中、東京地裁から石嶺渉(いしみねわたる)が判事として春河支部に転属してくる。写真が趣味の石嶺は、妻のセーラと共に写真撮影のために春河市を周っていたが、その道中で子供たちと一緒に熱心に草を観察する桑田と出会う。石嶺は桑田を最初「前時代の化石のような人物」と憐れみを持った目で見ていたが、やがて自分が少しもその場を楽しんでいないことに気づき、離れていく。だが、それから何故か写真を撮るために外出するたびに桑田と出会ってしまう。春河支部での業務を開始した石嶺だが、家裁の判事の仕事はお飾り程度と考えていた。調停を引き延ばしたくなくて無理に切り上げてしまうなど、渋谷調査官や高崎書記官のような桑田に影響を受けた職員からの評価は芳しくない。ある時渋谷が再犯を犯す可能性の高い少年を不処分とするように報告し、少年は再犯してしまう。石嶺は渋谷に詰め寄るが、渋谷は少年の反省を促すために行い、桑田からそういったやり方を教わったと言った。そうして石嶺の桑田に対する不信感が深まっていく。

その後石嶺はシンナーを吸引して補導された少年を担当することとなるが、最初は渋谷の「少年は十分に反省できており、保護観察が適当」という意見を無視して少年院に送致しようとする。しかしもう一度少年にあってみると反省して大人しい態度であるように見えて判決に迷いが生じるものの、最終的に中等少年院送致の処分を決定する。しかし、このことで自分の判断を信用できなくなってしまう。次の話で石嶺はまたシンナーを吸引した少年を担当することになるが、少年の付添人として雇われた弁護士の三越三郎(みつこしさぶろう)が訪ねてくる。三越はトラックの運転手から弁護士に転職した上に三人の子供を連れて裁判所に来る変わった人物だった。三越は少年がシンナーを毎日のように常習していたという証拠がなく、あるのは警察で取った自供だけだという点を突きつける。石嶺は当初考えていた少年院送致を取りやめて少年を保護観察とした。しかし少年は直ぐにまたシンナーを吸引してしまう。少年の母親に呼ばれて現場に駆け付けた三越は、母親が少年が暴れるのが怖くて自らシンナーを買ってきたことを告白される。少年と話した三越は、少年から「少年院に行ってもいい」「親父が酒浸りになってから、オフクロが俺に付きまとうようになった」「オレ、親父の代わりじゃない!」と聞かされる。少年にシンナーをやめさせるため、また少年の気持ちを考えてみるために、三越は同じ売人からシンナーを買ってきて少年と両親の前で吸引して見せる。一方石嶺は、少年犯罪を裁く難しさを支部長の目黒や同僚の桐島判事補に相談していたが、迷いが消えずにいた。桐島の勧めで桑田に相談すると、薬物依存はどういう原因で始まってどういう処置をして治療するのか、そこから始めないと判断出来ないと言われる。そこで薬物依存のカウンセリング施設に相談に行くが、なんとそこには三越の姿もあった。そこで「重度の依存症の患者は少年院に隔離しても立ち直れない。彼らは薬物と友人関係のような状態になっている」と説明される。「立ち直るには『底付き感』という、心底『このままではダメだ』というものを感じた時に初めて生きなおしてみようと考えるようになる」と説明を受けた。最終的に二人は最初の一歩として、少年の家庭の不和の原因となっていた父親が居酒屋で飲んでいるところに現れる。二人は「友達の押し売り」と称して一緒に飲み始め、父親の不安感を共有した。

単行本12巻「カサブランカ」

中山やよいは、春河市で売春で生計を立てている17歳の少女だ。反抗的な性格でホテルで客に暴力を受けてしまうが、帰り道に9歳の男の子と出会う。男の子に帰る場所が無いと察したやよいは、彼を自分の住むアパートに連れて帰って一緒に暮らし始め、家族のように絆を深める。ある日二人は警察官を避けるために森の中に入り、そこで桑田と友人の学者と出会う。夜にまた桑田と出会ったやよいは、箸を使えない男の子のために桑田から箸の使い方を教わるが、偶然通りかかった石嶺判事補にその場を見られてしまう。その後客に送られてアパートに帰るやよいだが、その客はアパートまでついてきてやよいに関係をを迫ってくる。

石嶺は、売春で生計を立てていた少女が自宅で客と揉めて押し問答の末包丁で刺してしまったという事件を担当することとなった。少女と面会した石嶺はすぐに以前桑田と一緒にいた少女だと気づく。桑田にそれとなく事件のことを話してみる石嶺だが、桑田は「目を開けて少年をよく見てください」と答える。一方居場所を失った男の子は、学者のいる森を訪れていた。
少女が鑑別所で食事をしていないことを知った石嶺は、少女の脅しだと考えていた。そんな中少女の書いた絵に少女と男の子が食事を取っている場面とそこにユリの花が飾ってあるのを見て、桑田が昼休みにユリの種を探して外出していたのを思い出す。再び少女と面会した石嶺は少女を自分の手で反省させて救い出す決意を固めるが、桐島から桑田が少女と面識があるために少女の審判を断ったことを聞き、鑑別所の塀の向こう側からメッセージを伝えようとする男の子と桑田と学者を発見する。どうやらこっそりと桑田の後をつけたようだった。この件について目黒支部長に抗議する石嶺だが、支部長室に呼ばれると、男の子の過去と、おそらく事件の被害者を刺したのは男の子であろうということを聞かされる。石嶺はその場の普通ではない空気を感じたとして、いつもの冷淡なやり方を変えてやよいと男の子を面会させて、一緒に食事も取らせる。少女は短期の少年院送致とし、男の子は裁判所が探し出した母親に引き取られることとなった。しかし、作中で明言はされていないがおそらくこの件の責任を取って、桑田は春河を去ることとなる。支部長室の空気がおかしかったのはそのためであった。

桑田が居なくなってから春河支部の職員たちは元気がなくなってしまうが、ある日近所の住民達が桑田への恩返しとして支部の庭を手入れしたいと申し出てくる。桑田は散歩をしながら町の多くの人の悩みを解決していたのだ。申し出を聞いた石嶺は目黒に相談するが、自分で決定するように言われてしまう。石嶺は申し出を受け入れ自らも作業を手伝うのだった。

高原地方裁判所編

単行本13巻「ウツギ」

桑田は高原市にある高原地方裁判所に勤務することとなった。その高原市栄中学校(さかえちゅうがっこう)でボヤ騒ぎが発生する。同校の生徒の寺尾(てらお)と町田(まちだ)が疑われるが、担任の緒方(おがた)は二人を信じており話を聞くと言って自宅に招き焼き肉を奢る。しかし二人は実はその帰り道でカツアゲをしていた。そのことを知った緒方達教師は、二人を夜の沼地に連れて行って麻袋に詰めてロープで縛り沼に沈めるという凄まじい体罰を行う。後日寺尾の母親が町の弁護士事務所を訪ねると、そこには春河でシンナーを使用して家裁に送致された少年の付添人をした弁護士三越三朗がいた。事務所の所長である義父と喧嘩をして飛び出してきたのだという。体罰のことを聞いた三越は、寺尾の母親が桑田からこの場所を紹介されたことを聞き法廷で会えればと気合を入れる。一方で桑田の息子の守は、桑田に学校に行きたくないことを話す。
寺尾の同級生である川上(かわかみ)は、体育をサボって保健室で勉強していたのを教師の足立(あだち)に見つかり、足立から厳しく指導されるようになって以来不登校気味の生徒だ。アクアリウムが趣味の川上が沼に水草の採集に来ると、そこには寺尾と、沼で泳いでいる守がいた。守は一人の時は沼で泳ぐことを禁止されているため、河原でシンナーを吸っていた寺尾に声を掛けて連れて来たのだった。そこに桑田もやってきて、四人は交流を深めていく。そんな中、栄中学校の体罰事件が新聞に取り上げられ世間の注目を集める。一方寺尾の母親は裁判の決意を固め、学校に一千万円の賠償金を請求、学校側は拒否し裁判となる。

ある日退屈していた守は、沼の木の上に冬になっても皆で遊べるように小屋を建てることを提案する。守・寺尾・川上の三人の他に、寺尾と共に体罰を受けた町田や川上の友人である不登校の生徒横内篤(よこうちあつし)にも協力してもらって、五人で小屋を完成させる。
栄中学校の体罰の裁判で裁判長を務めることになった薬師寺新伍(やくしじしんご)は、同僚の桑田の息子が不登校であり、桑田が仕事の後に勉強を教えていることを知って桑田をこっそり尾行する。そこで原告である寺尾の母親と話しているのを見て興味を抱いた薬師寺は、原告と面識があるのを承知で桑田を裁判に参加させる。

単行本14巻「グミ」

いよいよ裁判が始まるが、原告側の弁護士の三越は現場検証を提案。現場で自ら麻袋に入って夜の沼に入って見せるうえに、桑田と判事の佐伯祐介(さえきゆうすけ)のも同じように沼に入る。裁判は原告の有利なように進むかと思われたが、被告側が用意した二人目の弁護士・英憲太郎(はなぶさけんたろう)は原告の弱みを見つけるべきだ主張する。
そのころ寺尾は川上から格技場に放火したのは自分だと告白され、隣の中学校の不良のリーダーの勝俣(かつまた)にそれを見られて脅されていることを相談する。その後英が寺尾に接触し、自身のバイクに乗せながら寺尾に危険な行為をするよう焚きつける。そんな中、教員の会議で新聞社に情報を漏らしたと疑われた緒方は心労から沼で自殺を図るが、守たちに助けられる。寺尾や川上と話した緒方は自身が体罰を憎んでいると自覚する。翌日川上が足立に柔道の補習を命じられるが緒方が代わり柔道の補習を受けるとして表れ、足立に散々に投げられる。緒方は足立が弱者を痛めつけることを楽しんでいると確信、学校を変えて見せると宣言する。
ここまで原告側が圧倒的に有利に進めてきた裁判だが、寺尾が証言台に立った時に英が登場し、寺尾が学校が認識していたよりはるかに多くの非行行為を行っていたことを追求する。焦った寺尾は周囲に凄んで見せてしまい、裁判官の心象を大きく悪くしてしまう。

単行本15巻「オランダナデシコ」

自分のしたことに落ち込む寺尾だが、川上が勝俣に万引きを強要されているところを助け、元気を取り戻した。その後寺尾は沼に来なくなってしまうが、守と川上は寺尾を助けるために裁判所に侵入し、薬師寺に格技場に放火したのは寺尾ではないことを伝える。川上は法廷に出廷し、自身が放火を行ったこと、足立と弦巻の暴力に生徒たちが日々脅えていたことを告白する。
追い詰められた弁護士の英は、寺尾と桑田に交友があることを突き止め二人の写真を撮って利用しようとする。沼で二人が一緒にいるところを撮影するが、寺尾が一人になったところに勝俣が手下を連れて現れる。勝俣は寺尾に恥をかかせた詫びに作った小屋に火をつけるように命じるが寺尾は逆らい、勝俣に重傷を負わせて警察に逮捕されてしまう。逆転の機会に喜ぶ教師達だが、証言台に立った校長の関良治(せきりょうじ)は自分たちの歪みを正すために自分が新聞社に体罰のことを伝えたことを告白する。

最後の手段として英は桑田と寺尾が写った写真を見せて桑田を脅迫する。しかし桑田は「寺尾少年も彼の母親も被告の教師たちも、裁判という場に引き出された以上、事件の被害者と言えるでしょう」「それでもこの裁判が次に起こる同じようにもつれた事件を解くカギになるかもしれない」「寺尾君の苦しみや、教員たちの悩みが、無駄にならないいい裁判にしませんか?」と説得し、英は写真のことは裁判で言わなかった。裁判は市が200万円、教師達が10万円の賠償金の支払いを行う判決となった。
川上は東京へ引っ越し、寺尾は少年院に入ったあと保護司の元で働き各々の道を進んで行く。守は東京にある不登校児を集めた学校に通うことになり、桑田も東京に近い春河支部に戻ることとなった。

テレビドラマ版『家栽の人』

TBSで三回、テレビ朝日で二回テレビドラマ化されている。
1993年に片岡鶴太郎主演で12話放送され、1996年にはスペシャルとして放送された。
2004年には時任三郎主演で「水曜プレミア」で単体でドラマ化。内容はオリジナルである。
2020年、2021年に船越英一郎主演でテレビ朝日で放送された。船越英一郎はこの漫画のファンであるとのこと。
最初の片岡鶴太郎主演のドラマの舞台は春河支部ではなく春河家庭裁判所となっている。登場人物は渋谷調査官や鳥海判事など春河支部編のキャラクターに準ずるが、スペシャルでは新任調査官として出水早苗(いでみずさなえ/演:清水美砂)が登場する。スペシャルは漫画版単行本12巻の売春で生計を立てる少女やよいの事件が描かれる。
時任三郎版の舞台は漆原家庭裁判所となっており、内容は完全にオリジナルである。船越英一郎版も同様にオリジナルであるが、単行本6巻第5話の「ビワ」の事件をモチーフにした事件が登場する。

『家栽の人』の登場人物・キャラクター

主人公

桑田義雄(くわたよしお/演:片岡鶴太郎・時任三郎・船越英一郎)

緑山家庭裁判所に所属する裁判官。後に岩崎地家裁春河支部、さらに高原地方裁判所へ転任する。性格は非常に穏やかで誰にでも丁寧に接するが、稀に審判で少年やその親に対して厳しい態度を取ることがある。常にぼんやりしているように見えるため最初は訝しく感じる人も多い。しかし裁判官としては非常に優秀であり、事件の不審な点を見抜く洞察力、休日に自信の足で調査を行う行動力、そして少年達を救うという強い信念で事件を解決していく。
趣味は植物を見たり育てたりすることと散歩。裁判所の庭をいつも手入れしており、桑田がいる裁判所には四季折々の花が咲いている。話す時も話を植物に例えることが多く、周りが困惑することも。昼休みや休日の多くを散歩に費やしており、植物を見つけてはじっくり眺めている。システムノートに町の植物の位置をぎっしりと書き込んでおり、町の地理に非常に詳しく、それが仕事で役に立つこともある。
司法試験に一発で合格し、司法修習生時代の成績は抜群、裁判官としての事務処理能力も優秀で東京への栄転を打診されていたが断っている。作中でも最高裁判所調査官への転任を打診されるが、断って春河支部への転任を希望する。これについて本人は、野生のスミレは50種類以上あるがようやく数種類の見分けがつくようになったが、少年たちも同じで毎日違う悩みをもってやってくる。彼らのことを考えていたいと答えている。
家族は妻と小学生の息子の守がいる。妻は作中に一切出てこないが守は作品終盤から登場するようになり、作中最後の事件である栄中学校体罰事件では主役級の扱いである。父親は高等裁判所の長官(作中で最高裁判事に就任)であり、東京で一人暮らしをしている。本音では、桑田に東京に来て一緒に暮らして欲しいと思っている。

緑山家庭裁判所職員

山本博(やまもとひろし)

緑山家庭裁判所に勤務する調査官補(後に調査官に昇進)。桑田を尊敬しており、少年たちのために熱血に仕事に取り組む。

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