ホモ・サピエンスの涙(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ホモ・サピエンスの涙』とは、2019年に制作された、スウェーデンのドラマ映画である。監督脚本はロイ・アンダーソンである。全33シーンをワンシーンワンカットで撮影し、ほぼアナログ手法を使ってスタジオで撮影された。ヴェネチア国際映画祭では、銀獅子賞を獲得した。
時代や年齢、性別も様々な人々の人生を淡々とシュールに描いた作品である。話に繋がりは無く、断片的シーンの連続である。
絵画のような美しいシーンの数々と、絶望と希望を繰り返す人間の滑稽な姿が魅力である。

バーで酒を飲む歯医者

我儘で勝手な患者に、うんざりして治療室から出て行ってしまう歯医者の男。常に不機嫌そうな顔をしている。つまならそうに酒を飲んでいる最中に、妙な男から声を描けられるがそっけない態度で冷たくあしらう。

旧友に無視される男(演:ヤン・エイエ・フェルリンク)

買い物帰りの男

学生時代の旧友スヴァルケル・オルゾンに久々に会ったが、無視された男。無視されるのには理由があり、スヴァルケルを学生時代に傷つけた事が原因だと思われる。二度も偶然出会ったのに無視されたことを根に持ち、妻に文句を言っている。そもそも男は学生時代からスヴァルケルの事が気に食わず、自分より立派になっている事が癪に障るのである。

スヴァルケル・オルゾン(演:コニー・ブロック)

博士号をとった優秀な男である。学生時代に友人から傷つけられたことを、中年になった今も許せずにいる。その為、偶然にも自分を傷つけた嘗ての友人と再会するが、無視をしている。

アドルフ・ヒトラー(演:マグナス・ウォールグレン)

世界征服の野望が、砕けようとしていたアドルフ・ヒトラー。共にいる将校三人は、敗北を悟り諦めきっているが、ヒトラーは頼りなく「シーク・ハイル(勝利万歳)」と言ってはいるが、本人も負けを悟っている。

ナレーター(演:ジェシカ・ルーサンダー)

魚屋の前で女を殴って客に取り押さえられる男

シーンごとに、女性のナレーションが入っている。ほぼシーンに説明がなく、シーンの繋がりが殆どない中でナレーションが入る事で、分かりやすくなっている。監督であるロイ・アンダーソンは、ナレーションを入れた理由について「話を前に進めるということ。それから、観てくれる人の興味をかき立てるという大きなポイントを意識しました」と言っている。

『ホモ・サピエンスの涙』の用語

ホモ・サピエンス

タイトルにもなっているホモ・サピエンスとは、ラテン語で賢い人間を意味する。人類の学名であり、生物学的にはヒト属ヒト科をさす現生人類のことである。
18世紀スウェーデンの植物学者カール=フォン=リンネの用語である。属名ホモは人間を意味し、種名であるサピエンスは知恵を意味する。

ビリー・ホリディの「All Of Me」

ムーディな曲が流れるクラブで、シャンパンがたまらなく好きな女と、女の横に座る男が登場する。その店で流れる曲の紹介がされる。
歌っているビリー・ホリディとは、1915年生まれのアメリカのジャズシンガーである。彼女は多くのアーティストに影響を与えた。人種差別や薬物依存症、アルコール依存症との闘いなどの壮絶な人生を送った事でも有名である。彼女を元に作られた映画もあり、『ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実』1972年制作のアメリカ合衆国の伝記映画(監督シドニー・J・フューリー、主演ダイアナ・ロス)や、『ビリー』2019年のドキュメンタリー映画(脚本・監督ジェイムス・エルスキン)などである。
劇中使われている曲「All Of Me」は失恋の曲である。1931年にジェラルド・マークスとセイモア・シモンズが作曲した。この曲が作られてから様々なアーティストに歌い継がれてきた。ビリー・ホリディもその中の一人である。長く愛され続けている名曲である。

『ホモ・サピエンスの涙』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

男「なぜか癪に障る」

料理を作る男(手前)料理を待つ妻(奥)

男は学生時代の古い友人スヴァルケルに、街でばったり二回もあったのに無視をされたことを根に持っている。そもそも男はスヴァルケルを傷つけた過去があり、恨まれているのも仕方がないのだ。男は、愛する妻に手料理を作っている時も、ネチネチとスヴァルケルの文句を言っている。頭があまり良くなかったはずなのに博士号をとり、自分より凄いのに納得がいかないのだ。しかし男は男なりに幸せな人生を送っている。様々な場所に妻と旅し、歳を重ねても妻と仲が良いのである。男がスヴァルケルを羨む必要はないのに、なぜだか気に食わないのである。何とも言えない敗北感や、忌々しさを思わず口にした言葉が「なぜか癪に障る」である。妻は男に、「なぜそんなに拘るの?」と男に尋ねるのだが、男は再び一言「癪に障る」とだけ言うのだった。
本作の原題『Om det oändliga』は無限についてという意味がある。男はスヴァルケルを傷つけた過去があるが、この調子で文句や悪口を口にしたことが原因であることは、検討がつく。結局男はスヴァルケルを馬鹿にして下に見ているから、癪に障るのである。また同じ過ちを繰り返しているのである。男は死ぬまでこの気持ちを抱え、スヴァルケルに会うたびイラついたり、無視されたことを悲しんだりする事だろう。

男がバスの中で大泣きするシーン

バスの中で大泣きする男(中央)

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