ブリッジ・オブ・スパイ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ブリッジ・オブ・スパイ』は、2015年のアメリカ映画。第二次世界大戦後に勃発したアメリカとソ連による冷戦を描き、当時実際に発生した「U-2撃墜事件」の史実に基づいて制作されている。スティーブン・スピルバーグ監督とトム・ハンクスがタッグを組んだサスペンス映画。冷たい雪の吹き荒ぶ中、スパイの弁護を引き受けることになった弁護士の男の孤独な戦いが濃厚なタッチで描かれている。観客はもちろん、批評家からも絶賛の声が集まり、第88回アカデミー賞をはじめ、数多くの映画賞で様々な部門にノミネートされた。

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第二次世界大戦後にドイツを二分した「東西冷戦」の象徴であり、東ドイツ政府が西側への国民の逃亡を防ぐために1961年に建設した防壁。東ドイツと西ベルリンを隔てるように作られ、人々の移動を物理的に遮断。東ドイツから西ベルリンへ渡ることは重罪とされ、投獄や射殺などの厳罰が課されていたが、1989年に壁は壊され、1990年に正式に東西ドイツが再統一された。作中では東ドイツから西ベルリンに自身の恋人を逃がそうとしたアメリカ人留学生のプライヤーが逮捕され、捕虜となった。

U-29

パワーズたちがソ連の偵察任務のために乗せられることになった偵察機。速度は遅いが超高高度を飛べるという特色がある。自爆装置を搭載しており、パイロットたちはソ連側に見つかった際は証拠隠滅のため、機体と心中することを命じられていた。

グリーニッケ橋

ドイツのハーフェル川にかかっている大きな橋で、ドノヴァンの交渉の末、ソ連とアメリカがアベルとパワーズを交換することになった場所。当時はドイツの東西分断により封鎖され、一般人の通行は固く禁じられていた。

チェックポイント・チャーリー

東ドイツが、拘留したプライヤーを解放すると指定してきた場所。

『ブリッジ・オブ・スパイ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ドノヴァン「では、何が我々をアメリカ人と規定するのだ? それはただ1つだけだ。1つ、たった1つ。このルールブックだ。それを我々は憲法と呼んでいる。」

アベルとの面会後、裁判の延期を判事に申し立てに行ったドノヴァンが、自分に付き纏い、アベルの情報を聞き出そうとするCIAのエージェントに言ったのが「では、何が我々をアメリカ人と規定するのだ? それはただ1つだけだ。1つ、たった1つ。このルールブックだ。それを我々は憲法と呼んでいる。」という一言だ。
ドノヴァンはこの言葉で、「どんな悪人だったとしても、法の下で裁かれる権利がある」と言外に、しかし力強く主張している。法治国家の弁護士という職務にしっかりと矜持を持っていることがにじみ出た一言。この姿勢で真摯に依頼と向き合ったドノヴァンは、頑なだった判事や被告人であるアベルの心を動かし、少しずつ信頼を勝ち得ていく。

アベル「ストイキー・ムジク。彼らはそう言っていた。“不屈の男”というような意味だ。」

少しずつ信頼関係を築いたドノヴァン(右)とアベル(左)

ソ連のスパイであるアベルの弁護をしていたドノヴァンは、有罪を宣告されたアベルの命を助け、少しでも彼の刑を軽くすべく、最高裁でも戦おうと考えていた。そんなドノヴァンの姿を見たアベルは彼や彼の家族の身を案じつつも、父の友人にドノヴァンをなぞらえ、「ストイキー・ムジク。彼らはそう言っていた。“不屈の男”というような意味だ。」という言葉を残している。その男はパルチザンに何度殴られても立ち上がり、その気迫でパルチザンを怯ませたという逸話を持っている人物だった。強いバッシングを受け、身近な人々からの非難の声に晒されながらも、自分を守ろうと奮闘するドノヴァンに対し、アベルからの最大の賛辞と感謝の言葉である。こうして心を開いたアベルは後に国に帰る際、ドノヴァンに肖像画を贈っている。

『ブリッジ・オブ・スパイ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

『ブリッジ・オブ・スパイ』の「ブリッジ」とはスパイ交換が行われたグリーニッケ橋

実際のグリーニッケ橋。観光名所として多くの人が訪れている。

U-2撃墜事件でソ連の捕虜となったフランシス・ゲイリー・パワーズの解放のために動く弁護士、ジェームズ・ドノヴァンの実話を基にして描かれた本作『ブリッジ・オブ・スパイ』。題名にある「ブリッジ」は英語で橋を意味する言葉であるが、人質の交換はドイツのハーフェル川にかかっている、グリーニッケ橋という大きな橋の上で行われた。
当時はドイツの東西分断により封鎖され、一般人の通行は固く禁じられていたこのグリーニッケ橋だが、ベルリンの壁崩壊と同時期に自由な行き来が再開された。その後は冷戦時代を象徴する名所として、多くの観光客が訪れる場所となっている。

前半で「人権の在り方」と後半で「人間の良心」を描いた本作

この映画は大きく分けて2つのパートに分けられる。前半はトム・ハンクス演じる弁護士がスパイ容疑のかかった男を弁護し、終身刑が濃厚だった状況から見事に懲役刑を勝ち取るという物語。スパイに対する冷酷な国民感情が丁寧にかつ荒々しく描写され、それに立ち向かう弁護士の蛮勇ともいえる言動が一際煌めいており、彼はスパイというよりも、「アベルという人間」を守ったというように見ることができ、自らの信念を貫き通す姿勢はいついかなる時においても美しいものだと改めて感じられる。
後半は国家間で人質の交換という、この映画で最も重要なパートだ。奔走する弁護士に相手国から、また味方であるはずの自国からも様々なプレッシャーが襲い掛かる。しかし、ここにおいても彼の信念は変わらず、自らが最善と信じたものに向かって突き進んでいく。最後に示されるのは人間に残された、高潔な良心。前後半で濃密なテーマを描き切った本作は、打算的な思惑の向こう側に示されたその清らかな心を、誰もが持っているのだと信じたくなる作品に仕上がっている。

派手さがなくても魅入ってしまう理由は「圧倒的なリアリティ」

この映画に派手なシーンは存在せず、「サスペンス映画」とジャンル付けはされているものの、実際はヒューマンドラマに近いものとなっている。アクションシーンはないし、爆発もなし。どんでん返しもなければ、膝を打つような奇抜な設定も皆無。そんな本作が観客を魅了する要素としては、圧倒的なリアリティがあるといえる。
描かれているのは国家における危機といった、大きな出来事。しかし、それらの出来事は我々の実生活にも当てはめられるものだ。人々の悪意の発露だったり、信念を捻じ曲げた妥協。これらは実際に起こり得ることである。丁寧かつ静かに描かれたシーンの数々に魅入られるのは、おそらくそれらを荒唐無稽な話ではなく、実体験染みたものとして受け止めているからだ、という称賛の声が、本作には相次いでいる。

『ブリッジ・オブ・スパイ』の主題歌・挿入歌

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