静かに引き込まれる。映画「エレファント・ソング」に浸かる。
不思議な魅力を持った映画でした。舞台はほとんど1つの部屋で進み、展開も遅々としか進まない。しかし退屈という感情をそこに覚えることは、少なくとも私にはありませんでした。物語が足元から徐々に全身を侵食していくような、そんな感覚。映画「エレファント・ソング」をご紹介致します。
あらすじ・ストーリー
謎の失踪を遂げた同僚を捜そうとする、精神科医のグリーン(ブルース・グリーンウッド)。彼は同僚の姿を最後に見たという患者マイケル(グザヴィエ・ドラン)から、詳しい話を聞くことにする。象に異常な執着を見せる彼と対面し、失踪事件を解決する手掛かりをつかもうとするグリーンだったが……。
この映画は全編を通して波のようだった
この映画は確かにミステリー作品と呼べるものでしょう。始めに謎が提示され、その謎を解くための物語が展開されるわけですから。しかし単純なミステリーとは違い、舞台はほぼ1つの部屋で進み、さらに言うとスクリーンに映るのはほとんど主演の2人のみ。演技合戦とは少し趣が違い、まるで人と人とが分かり合おうとしてくっついては離れ、くっついては離れを繰り返しているように見えました。そしてそれはそのまま、物語上における波のような役割を果たしているわけです。
物語が一所で展開されるということは、それだけ人物の語りが重要ということになります。シーンの切り替えといった分かりやすい緩急のつけ方ができませんからね。しかし、この映画はその点を見事にクリアしています。演技に引き込まれ、虚実の入り混じったマイケルの言動に翻弄されてしまいます。感情豊かな彼の話術に、グリーン共々騙されているような気分になってしまいました。あっぱれです。
ミステリー作品としてはかなり地味な映画
確かに優れた作品ではありますが、ミステリーとして見るとやはり地味という感想は避けられないでしょう。真相もそうですし、動機というか、マイケルの考えもまあ最後の最後でちょっと失速しちゃったかなという感は否めません。ネタバレになってしまうので言明はしませんが、ミステリーとしてはかなり穴の開いた(しかもとびきり大きな)オチとなっており、そこはかなり残念でした。もっと他のオチを用意できたのでは、と思うくらいに。
しかし、それを補ってあまりある雰囲気があるのもまた確かです。思わせぶりなマイケルの回しもあって、とても一部屋で展開されているようなものとは思えない作品となりました。新たなミステリーというか、一人の人間が精一杯の自己主張をしているような、そんなヒューマンな要素もあったように思われます。
まとめ
ハラハラドキドキの映画も良いですけど、たまにはこういった静かな映画も良いですね。落ち着いて見られるとはまた違った感じですが、少なくとも心臓に悪かったり、思わず飛び跳ねるようなシーンはなく、ソファに身体を埋めながら観賞したい作品です。ミステリーでこういった映画も珍しいと思いますので、興味のある方はぜひご観賞ください。