荒くれKNIGHT 黒い残響完結編(吉田聡)のネタバレ解説・考察まとめ

『荒くれKNIGHT(ナイト) 黒い残響完結編』(吉田聡)とは、2007年から2016年まで『ヤングチャンピオン』誌上で連載された。人気漫画『荒くれKNIGHT』、『荒くれKNIGHT高校爆走編』に続く、”荒くれシリーズ”第3弾となり、第2弾までの主役・善波七五十(ぜんばないと)率いる暴走族”輪蛇(りんだ)”ではなく、ライバルチーム”虎武羅(こぶら)”に焦点を当てている。”虎武羅”初代リーダー・大鳥大悟(おおとりだいご)が本作の主役で、当初は弱小チームに過ぎなかった”虎武羅”の成長物語でもある。

『荒くれKNIGHT 黒い残響完結編』(吉田聡)の概要

『荒くれKNIGHT 黒い残響完結編』とは、日本の漫画家・吉田聡による暴走族をテーマにした漫画作品。2007年から2016年まで『ヤングチャンピオン』(秋田書店)誌上で連載された。全20巻で完結。1995年から2006年まで連載された第1弾『荒くれKNIGHT』(全28巻)、2006年からスタートした第2弾『荒くれKNIGHT高校爆走編』(全11巻)と続く”荒くれシリーズの”第3弾として登場した。それまでは湘南最強最悪の暴走族チーム”輪蛇(りんだ)”に焦点を当て、3代目リーダーである善波七五十(ぜんばないと)が主役だったが、本作は、”輪蛇”と張り合う湘南の2番手チーム”虎武羅”の逆襲の物語となっている。発足当初は弱小チームだった虎武羅を輪蛇に次ぐNo.2のポジションにまで引き上げた伝説の初代リーダー・大鳥大悟(おおとりだいご)が主役だ。この作品の続編となる第4弾が2018年に始まった『荒くれKNIGHTリメンバートゥモロー』である。

ストーリーは”虎武羅”の次期リーダー候補・井脇(いわき)が、”虎武羅”に入る直前の風景から始まる。弱小チームから現在の強豪チームに引き上げた伝説のリーダー大鳥大悟の奮闘を、”虎武羅”の稲垣(いながき)が外見は大鳥にそっくりだが何かと悩み多き後輩の井脇に語り出す。かつては湘南の最凶最悪チーム”がらがら蛇”のパシリとして発足した弱小チーム”虎武羅”が、喧嘩自慢の巨漢・大鳥が関わり出すようになり、チームの勢いに変化が出てくる。大鳥本人は、名の売れている”輪蛇”を潰すための対抗ツールとして”虎武羅”を面白半分で当初は捉えていた。だが、仲間思いの優しくも熱い”虎武羅”の先輩・根岸の人柄に触れ、感化される。そうした中、輪蛇にかつて潰された”がらがら蛇”の残党と”輪蛇”との巨悪同士の骨肉の争いが激しさを増す。弱小”虎武羅”もその渦に否が応でも巻き込まれるが、大鳥の桁外れの戦闘力で幾多の戦いに勝利し、虎武羅は徐々にだが名前をあげていく。ただ、大鳥自身は一匹狼時代にすでに痛めていた満身創痍の肉体が悲鳴をあげており、リタイヤ寸前のポンコツ状態に近付いていた。周りの仲間たちも度重なる戦闘で、大怪我や家庭の事情で退場を余儀なくされる中、”がらがら蛇”の残党が”輪蛇”潰しの踏み台として”虎武羅”掃討戦に乗り出す。多勢に無勢の圧倒的に不利な戦況下、仲間たちの捨て身の奮闘で、大鳥は”がらがら蛇”の元総帥・青蛇(あおへび)との一騎打ちまでこぎつける。激しい戦いの末、青蛇には敗れた大鳥だったが、青蛇も大ダメージを負い、”虎武羅”抹殺戦そのものは痛み分けとなる。その5週間後、抜け殻状態の大鳥に出会い、そのたたずまいに衝撃を受けたのが、”虎武羅”の現リーダー・伊武恋次郎(いぶこいじろう)だった。バトンは引き継がれた。そして、この伝説を稲垣から聞いた井脇も”虎武羅”入りを改めて決意して、”虎武羅”魂の継承を誓うのだった。

一方、2008年8月に政府が正式に景気後退を認めた。それにより、2002年2月から始まった戦後最長の景気拡大に終止符が打たれた。米国の景気後退や原油高などがその要因とされたが、国内の空気がどこか不景気な色に染められていく中、世情もそれまでの突出した”個”への憧れから、仲間を作って繋がりを求める”コミュニティ”志向が進んでいった。そうした流れの影響を、2007年から始まった同作品も受けている。

『荒くれKNIGHT 黒い残響完結編』(吉田聡)のあらすじ・ストーリー

彷徨(さまよ)う井脇(いわき)、伝説に遭遇する

空虚な思いを抱えた、”虎武羅”に入る前の井脇。

中堅の暴走族”ローグス”のNo.2だった喧嘩自慢の大男・井脇(いわき)が、トップのやり口に反抗してチームを離脱することになる。見せしめのため、井脇を潰しにかかったローグスだったが、井脇ひとりに全員返り打ちにあう。「根性のねぇ仲間はいらねぇ」とうそぶく井脇だったが、結局、”ローグス”の中の誰も自分についてくる者はおらず、虚しさで途方に暮れる。ライバル視している春間勇樹(はるまゆうき)は、”輪蛇(りんだ)”の次期リーダー候補として湘南中の注目を集めており、井脇も春間に会うたびにその風格の重みを感じ始めていた。焦る井脇は、”ローグス”の見本としても一目置いていた”虎武羅”の本拠地に単身乗り込み、”虎武羅”入りを申し出るが、居合わせた幹部の稲垣(いながき)にあっさり断られる。なおも食い下がる井脇に対して、稲垣は、外見は井脇にそっくりの大男だったという、仲間思いだった初代リーダー・大鳥大悟(おおとりだいご)の伝説を語り始める。

最凶の喧嘩師が救世主に

中堅規模の暴走族チーム”魔神(まじん)”が勢力拡大を狙って、弱小”虎武羅”の吸収に乗り出す。新たに”魔神”に参加してきた凄腕の用心棒・花形(はながた)の存在も、勢力拡大に乗り出す一つのきっかけだった。脅しをかけてくる”魔神”に、当初は白旗をさっさとあげるつもりだった”虎武羅”。だが、本拠地を突然急襲され、暫定リーダーの庭住(にわずみ)が拉致され、”虎武羅”の象徴とされる大切な旗まで奪われてしまい、残された根岸らは逆に奮い立つ事態に。敗北覚悟で”魔神”に突進する”虎武羅”だったが、戦力差はいかんともしがたく、敗戦濃厚に。そこへ、それまで付かず離れずで、用心棒気取りだった大鳥が助っ人にふらりと現れて、”魔神”の新しい用心棒・花形と対峙する。実は、大鳥は以前、花形らとの悪の4人組”花鳥風月”として、東京中の不良たちを勝手気ままに潰して回っていた時期があった。旧知の間柄だったため、大鳥の強さを十二分に知る花形は、周囲がドン引きするような本物の鎌を持ち出して応戦。背筋も凍る死闘となるが、素手の大鳥が勝利して、事実上、”虎武羅”の公式戦初勝利となった。以後、花形も強力助っ人として”虎武羅”に加入する事になる。

甦った”がらがら蛇”総帥との決戦

湘南No.1チーム”輪蛇(りんだ)”の出身母体でもある、史上最凶最悪と恐れられた暴走族チーム”がらがら蛇”。その残党が、”がらがら蛇”を壊滅させた輪蛇(りんだ)への復讐に乗り出す。”がらがら蛇”の元四天王の一人・二道(にどう)が、”がらがら蛇”の生き残りや輪蛇に恨みを持つ不良をかき集めて、謎の集団・”蟲(むし)”を秘密裏に結成する。輪蛇を潰すための秘策として、まずは”虎武羅”討伐を計画する。”輪蛇”の2代目リーダー木原篤(きはらあつし)に重圧をかけて自滅を誘う作戦だ。同時に、二道は弱体化していた暴走族チーム・”百目小僧(ひゃくめこぞう)”を乗っ取り、それも”輪蛇”抹殺に使おうと画策する。素性の分からない新人を、二道から大量に送り込まれて内部分裂を起こす”百目小僧”に対して、すでに大鳥の豪快さに惚れて”虎武羅”入りしていた”百目小僧”の元総長・矢又(やまた)は”百目小僧”に電撃復帰を決意する。”虎武羅”のため、二道の狙いを阻止するため、捨て石となる覚悟の矢又。圧倒的不利な戦いの末、二道に背後で操られていた陣営と相打ちに持ち込む。次々と”蟲(むし)”に襲われて、倒されていく”虎武羅”の幹部たち。一方、謎の軍団”蟲”に対して、警戒を強める”輪蛇”は、加納(かのう)兄弟らが”虎武羅”への加勢を主張する。リーダーの木原は”虎武羅”を襲っている”蟲”が正体不明である以上、深入りはせず、静観を厳命する。”輪蛇”の内部でも”虎武羅”にシンパシーを持つものたちが、木原の命令に背いて”虎武羅”の援軍に向かう。その結果、輪蛇の精鋭8人が倒されてしまった事が後に判明して、怒りの木原が独裁化していくキッカケとなる。”虎武羅”の絶体絶命のピンチが続く中、起死回生を狙い、大鳥は敵の総本陣とみられる”がらがら蛇”の元リーダー・青蛇(あおへび)が陣取る緑陰(りょくいん)学園へ向かう。30人の屈強な精鋭に守られた青蛇の元に先に現れたのは、”がらがら蛇”の元四天王・美濃原(みのはら)だった。超人の異名を持つ美濃原はそれまで、”虎武羅”と付かず離れずの関係を保っていたが、大鳥の”たたずまい”に触発され、大鳥に加勢することを決意。一人で青蛇の護衛をすべてなぎ倒すが、スタミナ切れとなり、待ち構えていた青蛇に一蹴される。そこへ、駆けつけた大鳥もすでに満身創痍の体であることを、青蛇に見破られる。壮絶な戦いの末、失神して崩れ落ちる大鳥だったが、青蛇も大ダメージを受けてその場に動けなくなる。その時、”輪蛇”から”虎武羅”にスパイとして入り込んでいた神楽(かぐら)が、正式に”虎武羅”の一員として現れ、大鳥の体を抱えて、その場から逃げ去る。

伝説の男・大鳥のラストファイト

”輪蛇(りんだ)”から”虎武羅(こぶら)”に勝手に移籍していた神楽(かぐら)に、大鳥は意識不明のまま緑陰学園から救出された。神楽は、”虎武羅”と”蟲”の戦いを近くの路上で監視していた”輪蛇”の元仲間に大鳥をいったん託して、”輪蛇”の元仲間の制止を振り切って、再び、緑陰学園へ戻っていく。青蛇との最終決戦に向かう神楽だが、その結末となる両者の消息は誰も知らない。一方、青蛇に倒された直後、神楽に救われて、”輪蛇”のメンバーに路上で介抱されていた大鳥だったが、謎の軍団”蟲(むし)”を実質的に統率していた”がらがら蛇”の元四天王・二道(にどう)が突如一人で現れる。大鳥を介抱していた”輪蛇”のメンバーは、大鳥を守ろうとするが、鉄パイプで倒される。そこで、意識を取り戻した大鳥と、二道の激しい死闘の末、なんとか返り討ちにした大鳥だったが、周りにはもう誰も残っていなかった。遠巻きで”輪蛇”が、”虎武羅”と謎の軍団”蟲”の総力戦を静観する中、”虎武羅”の幹部たちは全滅したが、謎の軍団”蟲”も霧散していた。

大物たちの終焉、次の世代へ。

青蛇戦から5週間後、抜け殻のようになった大鳥が一人で街をふらついていると、”輪蛇”に入るために当時動き回っていた小僧時代の伊武恋次郎(いぶこいじろう)に出会う。後に”虎武羅”入りする伊武は、この時は虎武羅のジャンパーを身にまとった大鳥を軽く見てしまう。だが、大鳥に自慢げに見せられた、輪蛇の2代目リーダー・木原篤(きはらあつし)と大鳥が仲良く2ショットで撮られている写真に驚愕する。木原は伊武の憧れの人でもあったからだ。何気ない会話を交わす内に、伊武は大鳥の不思議なたたずまいに興味を持ち始め、”輪蛇”入りをいったん棚上げして、こっそりと大鳥の後を追いかけ回すようになる。その頃、”輪蛇”のリーダー・木原の悪い噂が街に流れいてた。”輪蛇”を恐怖で縛り上げる独裁者のように振る舞い始めている、というのだ。覚悟を決めた大鳥は久々に髪をポマードで整え、単身”輪蛇”の隠れ家に乗り込み、ライバルであり親友でもある木原を呼び出す。本来は敵である”虎武羅”の大将の登場だったが、喜びを隠せない”輪蛇”の幹部たち。暴君化しつつある木原を止められるのはもう、大鳥しかいないと分かっているからだった。大鳥は最後の贈り物として、リーダーの心得を木原に伝える。木原は誰にも言えない”輪蛇”のリーダーとしての苦しみを大鳥に告げ、号泣する。その場面を遠くで見つめていた伊武は、ただ呆然と砂浜にへたりこんでいた。

それからしばらく経ったある日、大鳥は唐突にバイク事故で大怪我を負ってしまう。病院に運び込まれ、ベッドの上で「やっと俺の役目が終わる」と、駆け付けた木原に笑顔で伝える。木原も「大鳥大吾 グッドファイト」と笑顔で応え、大鳥と拳を合わせた。その時、”輪蛇”の幹部・加納から”輪蛇”入りの勧誘を受けた伊武は、顔面蒼白なまま、病院の壁にただもたれかかっていた。そうした一連の大鳥の物語を伝え聞き、”虎武羅”の3代目リーダーとなっている伊武の次を担うであろう井脇が、発奮する。次代に”虎武羅”の魂を繋いでみせると。

『荒くれKNIGHT 黒い残響完結編』(吉田聡)の登場人物・キャラクター

暴走族チーム”虎武羅(こぶら)”

大鳥大悟(おおとりだいご)

へっぽこのパシリだった”虎武羅”の黎明期を支えた暫定リーダー・庭住(にわずみ)や根岸(ねぎし)らの後継者として、正式な初代リーダーになった人物。それ以前は潰し屋として”花鳥風月”という4人組で、東京で勝手気ままに暴れ回っていた。そんな悪党・大鳥がある時、湘南に流れ着いた。”虎武羅”には当初、己の腕力のみしか信じないクールな用心棒として面白半分に参加していたが、一匹狼時代に知り合った好敵手・木原篤(きはらあつし)が、”輪蛇”の中で急成長する様子に戸惑いつつ、”虎武羅”の先輩・根岸の優しい”ありよう”にも影響を受けて、大鳥は生き方を変える。”虎武羅”よりも巨大な幾多の強豪暴走族チームとの激しくも不利な戦いを重ねる事で、単純な腕力自慢の一匹狼から、多くの仲間に慕われる頼もしいリーダーへと成長していく。

伊武恋次郎(いぶこいじろう)

虎武羅の現リーダー

”虎武羅”の3代目リーダー。暴走族チーム”輪蛇”の2代目リーダー・木原篤(きはらあつし)に憧れて、輪蛇入りの道を模索している頃、青蛇(あおへび)に敗れて抜け殻状態になっていた伝説のリーダー・大鳥大悟(おおとりだいご)に偶然出会う。覇気はないものの不思議な魅力を感じさせる大鳥に興味を持った伊武は、”輪蛇”入りをいったん棚上げして、大鳥を追いかけ始める。そして、木原を呼び出し、リーダーとしての心得を木原に説く大鳥の存在感や、号泣する木原に衝撃を受ける。そんな中、バイク事故で病院に担ぎ込まれた大鳥は、かけつけた木原に「やっと俺の役目は終わる」とベッドの上から笑顔で伝える。その場面に、伊武も震えながら居合わせた。そして、いま、”輪蛇”史上最強と称される”真夜中の太陽”善波七五十(ぜんばないと)に引けを取らない戦いを、伊武は繰り広げている。

根岸(ねぎし)

”虎武羅”の黎明期を支えた大鳥の先輩。力だけで生きてきた大鳥をたしなめ、みんなに慕われるリーダーとしての生き様を教え諭す。中学時代は不良として鳴らしていたが、心優しき男である。クリーニング屋の跡取り息子であり、土地の再開発でクリーニング屋が引っ越すことになり、”虎武羅”も卒業する。

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