Kurt Rosenwinkel(カート・ローゼンウィンケル)の徹底解説まとめ

Kurt Rosenwinkelとは、アメリカ出身のジャズギタリストである。1990年ごろから活動をはじめ、多くの世界的ミュージシャンと共演を果たしている。2020年代のジャズギターを代表するギタリストであり、プロアマ問わず、多くのミュージシャンが彼のフレーズや演奏法を参考にしている。ダークで浮遊感のあるフレージングや難解なメロディの作曲が特徴だが、リリカルにも聞こえるバランスが絶妙である。そのためテクニカルな技術以上に音楽的な要素で非常に評価が高い。

楽曲は『caipi』より。このアルバムには同じようなワードが含まれている楽曲が多い、「Little Dream」と「Little B」、「Chromatic B」と「Little B」、「Casio Vanguard」と「Casio Escher」などである。これらの楽曲はアルバム中でも特に相互に関連性を示唆されていよう。実際に楽曲を聞きながら、それらの関連を考えてみるのも面白いかもしれない。MVではレコードを思わせる回転のモチーフ、そして何より目を引くのは20世紀に起こった芸術スタイルであるダダイズム・シュールレアリズムを彷彿とさせるようなコラージュアートで以て現実の写真とでフォルマイズされたイラストが融合している点だ。このMVではより宗教色を押し出したものだと言えるだろう。英訳された歌詞には「人々が命を飲み込み、生まれ変わる」といった転生のイメージや、「太陽や雨のように、ただ愛は果てしないことを見るために生きる」のような愛と自然を結び付けるイメージが語られている。ここで描かれている描かれるシチュエーションは海辺や都市の風景であり、どことなく南国の開放的なのどかさを思わせるものになっているが、そこでの自然、太陽や海(水)のイメージは、人間の愛情と生命に結びつけて考えることができよう。

Heavenly Bodies

楽曲は『Plays Piano』より。MVではあるのものの、非常に変化が少ない。ジャケットの画像、頭上に浮かんでいる夕暮れを思わせる雲が左から右へと流れてゆく、それだけのMVだ。ただし、何らかの暗示を思わせるMV・アルバムジャケットでもある。橙の雲の向こうには青空が広がっており、ジャケットの中心にはRosenwinkelの後ろ姿、両側は壁に囲まれ、彼は消失点に向かって私たちから消えるように遠ざかる。これまでのMV同様、抽象的なモチーフが使用されていて、多様な解釈を可能にしている。

The Past Intact

楽曲は『Undercover: live at the village vanguard』より。そもそもヴィレッジヴァンガードとは、アメリカにあるジャズライブハウスの名店、ピアノ奏者ビルエヴァンスやサックス奏者ジョンコルトレーンなど、数々のジャズ史に残るようなプレイヤーがヴィレッジヴァンガードでのライブを音源化してきた。本アルバムもその名店での音源となっている。白黒の映像に古めかしいフィルムの質感、MV全体はこのような演出で統一されているが、ヴィンテージ感満載の演出は、歴史あるクラブとの相を鑑みると説得力がある。その一方で現実世界からの隔絶感をもたらしているのも大きな効果となっているだろう。MVが進むと風景を万華鏡のように幾何学的に映し出した映像の連続に、雨水によってモザイク処理がなされた画面、実際のライブ映像は走馬灯のような短いショットの連続。これらは全て映像の演出であるが、どこか現実とは違う場所を思わせる。繰り返し述べるように、Rosenwinkelは抽象的、宗教的なモチーフを追求してきたミュージシャンである。彼のそうした資質が、MVでの、非現実の世界観演出に結実しているといえよう。

Kurt Rosenwinkelの名言・発言

「音楽は、世界の振動的な説明とのやりとりの方法であり、相互作用です。」

2022年でのインタビューで語られた一節『plays piano』のリリースに向けてアルバムのコンセプトを聞かれる文脈で語られた。彼によると、自分の音楽はシャーマニスティックな役割を担っており、自分は世界の善悪の均衡を保つ機能と交渉することができると語る。楽曲の中でつけられたタイトルは、初期から2020年代に至るまで、幾何学、宇宙、人間の心理、宗教などきわめて抽象的なものが多い。彼の音楽全体における意義はこのような世界に向けられているのだろう。

「時間が経つにつれてもっとたくさんの曲が生まれてきて、ああ、あれは実は星座なんだと気づきます。」

2017年のインタビューから。ここでもRosenwinkelの抽象的な世界観が形容されている例といえよう。Rosenwinkelはアルバムのために曲を作るのではなく、一つ一つ作曲していく中でアルバムに結実していく過程を語る。彼は曲を「星」と形容しており、それらがたくさん生成されてゆくことで生まれる有機的結び付きが「星座」、つまりアルバムなのだという。曲は独立したものではなく。彼に言わせれば他の曲同士を結び付ける「重力」があるのだ。

「限界があるから、メリットも生まれる」

Rosenwinkelはエレキギターに様々な限界を感じることが多いという。だがその制約が今の彼を作ったといってもいいだろう。6弦という制約の中で試行錯誤を繰り返すことが、無駄のないハーモニーを生み出し、彼自身の成長に結びついたのだと彼は語っている。

Kurt Rosenwinkelの裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

Rosenwinkelが教えるソロの極意はシンプルに「ただ曲のテーマを繰り返し歌い続ける」こと

Rosenwinkelのように演奏で複雑なギターテクニックを発揮する人物は、普段どのような練習を行っているのだろうか。ワークショップでの「ソロをどう練習すればよいか」にという質問へのRosenwinkelの答えは「曲のテーマ(ソロに入る前のメロディのこと)を歌えるようにする」という極めてシンプルなものだった。テーマを何度も何度も繰り返し演奏する。その中で「この音が使えるな」「このハーモニーにするとどうなるだろう」といったアイデアが生まれるのだという。演奏中は非常に難しく演奏しているようにみえるRosenwinkelであるが、発想や練習そのものは非常にシンプルな考えから出発していたのだった。

Rosenwinkelの作曲は難しい

ソリストというより、作曲や全体のサウンドに注目が集まるRosenwinkel。彼の作曲はギターによるものとは限らず、時にはピアノ、時にはベースその他など、いろいろな楽器によって生まれることがあるようだ。そのために、時として自分の技術では演奏できないような曲が作られてしまい、その曲の練習に苦労することなども多いようである。作曲にかける思いの強さの表れでもあり、同時に超絶テクニックを持つギタリストの意外な一面かもしれない。

学生時代は貧乏

90年代の中盤ごろ、彼のアルバムが発売されてプレイヤーとして軌道に乗るまでは、金銭面で大きな苦労があったらしい。それまで有名プレイヤーと組んで海外ツアーまで回っていた彼だったが、そのバンドをやめると、一時期は自宅の家財を売ったりして何とか食費に充てるなどの生活をしていたようである。

5g343-1030
5g343-1030
@5g343-1030

目次 - Contents