Kurt Rosenwinkel(カート・ローゼンウィンケル)の徹底解説まとめ
Kurt Rosenwinkelとは、アメリカ出身のジャズギタリストである。1990年ごろから活動をはじめ、多くの世界的ミュージシャンと共演を果たしている。2020年代のジャズギターを代表するギタリストであり、プロアマ問わず、多くのミュージシャンが彼のフレーズや演奏法を参考にしている。ダークで浮遊感のあるフレージングや難解なメロディの作曲が特徴だが、リリカルにも聞こえるバランスが絶妙である。そのためテクニカルな技術以上に音楽的な要素で非常に評価が高い。
『Plays piano』
これまで様々な形で自らのサウンド・ハーモニーを追求してきたRosenwinkel。それは時にエレクトリカルで多層なレイヤーがかけられたハーモニー、プログラミンによる装飾のアルバムであったり、ラージアンサンブルによるアルバムであったりなどそれぞれが特徴的なものであった。そんな彼が次の試みとして制作したのが、ソロピアノによるアルバムだ。9歳のころから楽器を始めたが、それはギターではなく、ピアノでの出発だった。その後も必ずしもギターだけにとらわれることなく、時として多様な楽器を自ら操ることによって楽曲を制作してきた。『Caipi』がその代表的な例になるだろう。コロナの影響でロックダウンがはじかったタイミングで制作された本アルバムは、ある意味でピアノは自らのルーツに立ち戻る試みと言えるかもしれない。楽曲の特徴に移ろう。ソロピアノということもあるだろうか、前半部の『Music』『Lost song』『Wisper of love』に代表されるように、ピアノの旋律はやさしさに満ちておりアプローチは非常にクラシック的である。特に『Wisper of love』はとめどなく伴奏を続ける中でメロディが流れ、テンポの推進力を感じさせないのも特徴的である。不協和音も重ねつつ、ダークさと清らかさを両立させた雰囲気を作り出すのはローゼンウィンケルの特徴とも言えるが、それが非ジャズのアプローチになっていることは、このアルバムのあとにリリースされる『The chopin project』を考え合わせると注目すべき点である。後半はこれまでアルバムに収録されている曲を再演するなど、ジャズの文脈でソロピアノをとらえていることがうかがえる。例えば『Hommage a Mitch』などは、左手はウォーキングベースの形を保ちながら、フレーズは非常にブルース的である。
Label: Heartcore Records
Released: 2022
1. Love Signs
2. Music
3. Lost Song
4. Whispers of Love
5. The Cross
6. For Da
7. Cycle Five
8. Hommage à Mitch
9. Reassurement
10. Heavenly Bodies
Personnel
Kurt Rosenwinkel: piano
『berlin baritone』
多数のレイヤーで以てハーモナイズし、音響空間を作り上げてゆくRosenwinkelの2010年代に対し、2020年代はよりミニマルなスケールでのサウンドが追求されているかもしれない。すでに紹介した『plays piano』はソロピアノのプロジェクトであるし、この『berlin baritone』も彼のソロギターのセレクト集だ。アメリカのギターブランド「コリングスギター」からバリトンギターを送ってもらったことをきっかけに制作に取り組んだアルバムだが、ここではまるでRosenwinkelが家の中でゆったりギターを弾いているような、非常にハートフルでやわらかいギターを聞くことができる。1曲目の『Peace Please』6曲目の『Mellow D』はその代表だろう。譜面もなく唐突に弾き出したギターをそのまま録ったようにも思わせる即興的サウンドは、メロディのラインとそれを支える伴奏のラインが絡み合い、一人でセッションをしているような、いくつもの階層を行き来する。このような巧みさは、むしろソロギターに際立っているといえよう。
Label: Heartcore Records
Released: 2022
1. Peace Please
2. Just Chillin
3. First Impression
4. Feelin the Blues
5. Under It All
6. Mellow D
7. Life of a Flower
8. Zarathustra
9. Metro City
Personnel
Kurt Rosenwinkel: baritone guitar
『Undercover』
ヴィレッジバンガードでのライブ盤は『The remedy』でも録音されているが、今作はよりファンキーなビートで演奏され、前回のライブ盤のような激しい熱量やスリリングなアンサンブルとは一線を画している。その激情とドライブ感で以て演奏されているのはこのアルバムでは2曲目『The past intact』であろう。アップテンポなスウィングで、ギターはクールなメロディとレガート的なバップフレーズで曲を特徴づけ、スペースの空いたうねるようなベース、曇りのあるハーモニーで世界観を支えるピアノ、ギターと同じくクールにドライブするドラムが楽曲をエキサイトさせてゆく。とはいえ全体を通して楽曲はよりスマートに構成されており、各フレージングも非常にリリカルである。3曲目『SOLÉ』や5曲目『MUSIC』はバラードであり、どこか牧歌的なギターサウンドと温か実のあるピアノの美的旋律をより鮮明化して見せてくれるが、微かに混じるハードボイルドなニュアンスがアクセントになっている。
Label: Heartcore Records
Released: 2023
1. Cycle Five
2. The Past Intact
3. Solé
4. Our Secret World
5. Music
6. Undercover
Personnel
Kurt Rosenwinkel: guitar
Aaron Parks: piano
Eric Revis: bass
Gregory Hutchinson: drums
『A lovesome thing』
ピアニストのジェリアレンとRosenwinkelのデュオアルバムで、2012年9月、パリのフィルハーモニー・ド・パリで録音されたアルバムである。かねてより2人で何か仕事をしたいとお互いに熱望していたことからスタートしている。残念ながらアレンは2017年に亡くなってしまったため、このアルバムは最初で最後の共演となってしまった。アルバムに収録されている楽曲は5曲と少ないが、どれをとっても豊かで奥深いハーモニーと二人の息ぴったりなインプロヴィゼーションの呼応は、楽曲にロマンチックさや魅惑さを与え、聞くものに酩酊感を与える。注目すべきは5曲目、セロニアスモンク作曲の『Ruby my dear』で、ここではそれまでギターのメロディを支えるように世界観のパレットとなっていたピアノではなく、ギターのミステリアスなイントロから始まって世界観を作ってゆく。ここでの二人のインプロヴィゼーションは絶妙にかみ合い、ロマンチックなだけでない、幽玄なエッセンスも感じられるセッションに昇華させている。
Label: Motéma Music
Released: 2023
1. A Flower Is a Lovesome Thing
2. Embraceable You
3. Geri’s Introductions
4. Simple #2
5. Ruby My Dear
6. Kurt’s Introductions
7. Open-Handed Reach
Personnel
Geri Allen: piano
Kurt Rosenwinkel: guitar
『The Next Step Band Live at Smalls 1996』
2001年リリースの『The next step』は若かりしRosenwinkelがニューヨークのクラブ「スモールズ」で共に演奏していた仲間で作ったアルバムだった。この『The Next Step Band Live at Smalls 1996』はおよそ20年ぶりに当時のメンバーが再結集して行うツアーライブの記念にリリースされたものである。1996年「スモールズ」でライブ演奏された録音が収録されているが、この時点で後々彼の代表曲となって繰り返し演奏される『Zhivago』をはじめ、『The next step』に収録されている多くの楽曲が、この時点ですでに生み出されていたことがわかる。彼の稀有な作曲性が垣間見えるアルバムであろう。
Label: Heartcore Records
Released: 2024
1. A Shifting Design
2. Use of Light
3. Zhivago, feat. Brad Mehldau
4. Alpha Mega
5. A Life Unfolds
6. The Next Step
Personnel
Kurt Rosenwinkel: Guitar, Piano on The Next Step
Mark Turner: Tenor Saxophone
Jeff Ballard: Drums
Ben Street: Acoustic Bass
Brad Mehldau: Piano (3)
Kurt Rosenwinkelの代表曲
Zhivago
動画は最新リリースのものだが、初出は2001年『The next step 』から。以後Rosenwinkelの代表的な楽曲となり、様々なアルバムやライブで演奏が重ねられる。タイトルの由来はアメリカ映画の『ドクトル・ジバゴ』から
A shifting design
この楽曲も初出は『zhibago』と同様、『The next step』であり、多くのアルバムやライブで再演される。『The Next Step Band Live at Smalls 1996』のライブでも1曲目にコールされ、「The next step band」のサウンドはこれだと提示した象徴的な楽曲である。
Kurt Rosenwinkelのミュージックビデオ(MV/PV)
Casio Vanguard
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目次 - Contents
- Kurt Rosenwinkelの概要
- Kurt Rosenwinkelの活動経歴
- 音楽に触れた幼少期~高校時代まで
- ひたすらセッションを繰り返した大学時代
- 初めての海外ツアーに回ったプロ活動初期
- 2000年代の活動
- ニューヨーク在住時代
- next stepバンドでの正式な初レコーディング
- Q-tipとの出会い
- 多くのミュージシャンとの共演
- 2010年代以降の活動
- Kurt Rosenwinkelのプロフィール・人物像
- Kurt Rosenwinkelのディスコグラフィー
- リーダーアルバム
- 『east coast love affair』
- 『intuit』
- 『The enemies of energy』
- 『the next step』
- 『Heartcore』
- 『Deep song』
- 『The remedy Live at Village Vanguard』
- 『Reflection』
- 『Our secret world』
- 『Star of Jupiter』
- 『Caipi』
- 『Searching the Continuum』
- 『Angels around』
- 『The chopin project』
- 『Plays piano』
- 『berlin baritone』
- 『Undercover』
- 『A lovesome thing』
- 『The Next Step Band Live at Smalls 1996』
- Kurt Rosenwinkelの代表曲
- Zhivago
- A shifting design
- Kurt Rosenwinkelのミュージックビデオ(MV/PV)
- Casio Vanguard
- Heavenly Bodies
- The Past Intact
- Kurt Rosenwinkelの名言・発言
- 「音楽は、世界の振動的な説明とのやりとりの方法であり、相互作用です。」
- 「時間が経つにつれてもっとたくさんの曲が生まれてきて、ああ、あれは実は星座なんだと気づきます。」
- 「限界があるから、メリットも生まれる」
- Kurt Rosenwinkelの裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- Rosenwinkelが教えるソロの極意はシンプルに「ただ曲のテーマを繰り返し歌い続ける」こと
- Rosenwinkelの作曲は難しい
- 学生時代は貧乏