Kurt Rosenwinkel(カート・ローゼンウィンケル)の徹底解説まとめ

Kurt Rosenwinkelとは、アメリカ出身のジャズギタリストである。1990年ごろから活動をはじめ、多くの世界的ミュージシャンと共演を果たしている。2020年代のジャズギターを代表するギタリストであり、プロアマ問わず、多くのミュージシャンが彼のフレーズや演奏法を参考にしている。ダークで浮遊感のあるフレージングや難解なメロディの作曲が特徴だが、リリカルにも聞こえるバランスが絶妙である。そのためテクニカルな技術以上に音楽的な要素で非常に評価が高い。

『The remedy Live at Village Vanguard』

リーダーアルバムの7作目はライブ盤のリリースである。 最後の『Myron’s World』以外は全てRosenwinkelが曲を手掛け、ライブ盤ということもあって、各楽曲は全て10分を超え、たった8曲にも拘わらずそう時間は約2時間の長さを誇っている。だが、その長さに対して、退屈感は全くない。むしろこれまでのアルバムで最も情熱的で白熱した演奏が楽しめ、レコーディング盤では見られないライブ特有のパフォーマティブな側面が見られる。一言で言い表すと「音の洪水」と形容できるであろうか、ハイテンポな3拍子の1曲目『Chords』からして、この盤のムードのほとんどが詰まっている。ジェットコースターのようにメロディが乱高下し、それに合わせてドラムが爆発的なダイナミズムを生み出してゆく。そうしたスリリングさもライブならではと言えるだろう。これまで全体のサウンドを重視して曲を作ってきたRosenwinkelのギターも、ここではよりテクニカルに振り切っている。流れるように止まることなく生み出されてゆくフレーズはそれを象徴しているだろう。一聴してとにかく「かっこいい」の言葉に尽きる。録音されることを前提としない、その場限りの、音楽の刹那性がここでは表現されている。

Label: Wommusic
Released: 2008

CD1:
1. Chords
2. The Remedy
3. Flute
4. A Life Unfolds
CD2:
1. View From Moscow
2. Terra Nova
3. Safe Corners
4. Myron's World

Personnel
Kurt Rosenwinkel: guitar
Mark Turner: saxophone
Aaron Goldberg: piano
Joe Martin: bass
Eric Harland: drums

『Reflection』

これまでのアルバムで自身の曲を出し続けてきた彼が、ここであえてスタンダードという伝統的な曲に取り組んだバラードのアルバム。セロニアスモンク、サックス奏者ウェインショーターの楽曲をフィーチャーし、そこに自身の曲も取り入れた構成になっている。 彼の書く曲は時として、ウェインショーターやセロニアスモンクのようだと言われることがあるが、彼が2人からの影響を受けていることがわかる選曲になっていよう。それは使い古された楽曲のテーマを再解釈し、これまでの自身の足跡からどれほど遠い地点までたどり着くことができただろうかという側縁を探る試みであるかもしれない。事実アルバムの楽曲が示すサウンドは彼に特徴的な、一見奇妙に見えるハーモニー、突然変調するムードであり、しかしそれらが不思議と美しいメロディに聞こえ、一つの統一体として調和していることである。表題曲『eflection』の作曲者であるモンクの原曲は鋭い発音と、それが断片的に提示されるピアノであるが、Rosenwinkelの演奏は滑らかにメロディが流れ、バックのハーモニーも豊かに進行してゆく。また、主なコンセプトとムードは「穏やか・瞑想的であること」だが、それをもともと作ろうと思って作ったわけではなく、結果的にそうなったという事のようだ。当初はジョーヘンダーソンの情熱あふれる『inner Urge』、キーボード奏者ラリーヤングのブルージーな曲『Backup』もそのセッションテイクに入っていたが、最終的にアルバムに収録されることは無くなり、情熱とドライブ感の激しさは、結果的に温かみのあるメロウな旋律と、豊かなハーモニーがコンセプトとして採用されるようになった。

Label: Wommusic
Released: 2009

1. Reflections
2. You Go To My Head
3. Fall
4. East Coast Love Affair
5. Ask Me Now
6. Ana Maria
7. More Than You Know
8. You've Changed

Personnel
Kurt Rosenwinkel: guitar
Eric Revis: bass
Eric Harland: drums

『Our secret world』

Rosenwinkelのこれまでは、音楽のテクスチャーに様々な要素を利用して、サウンドにどのような豊かさと厚みを生み出すことができるかという試みの連続体であった。それは例えば電子音にスポットを当て、プログラミングで様々な音素を活用した『heartcore』や、従来のジャズバンドの形式をとりながら、各プレイヤーの音のパレットを結び合わせたアンサンブル『deep song』に明らかだろう。この試みポルトガルのアンサンブルグループ 「Orquestra Jazz de Matosinhos」との共演によって、新しい試みに取り掛かっている。作曲そのものはRosenwinkelの従来の楽曲を使用しながら、編曲・アレンジは全てカルロスアゼベド、ペドロゲデス、オハッドタルモアという3人の編曲家、アレンジャーによって成り立っており、大編隊特有の華やかなハーモニーが曲を際立出せている。Rosenwinkelのギターサウンドと明るいホーン隊のサウンドは、これまでのアルバムには見られなかった軽やかさをもたらし、新しい世界観を生み出している。そのサウンドはもちろんクラシック的ともいえるだろうが、例えば『Dream of old』のように、一曲の中で様々なモチーフが流れて起承転結を作ってゆくドラマチック性を持つ。Rosenwinkelの多くのアルバムでも見られることだが、ソロよりも1曲のサウンド全体をデザインする発想が、ここでもシネマティックな形で機能していよう。『Use of light』は『The next step』でも演奏された曲だが、今作ではよりリリカルな展開を見せこのアルバムのハイライトとしても評価が高い。

Label: Wommusic
Released: 2010

1. Our Secret World
2. The Cloister
3. Zhivago
4. Dream of the Old
5. Turns
6. Use of Light
7. Path of the Heart

Personnel
Kurt Rosenwinkel (chitarra)
José Luis Rego, Joao Mortagua, Joao Pedro Brandao, Mário Santos, José Pedro Coelho, Rui Teixeira, Nuno Pinto (sax, clarinetti, flauti)
Nick Marchione, Erick Poirrier, Susana Santos Silva, Rogerio Ribeiro, José Silva (trombe e flicorni)
Michael Joussein, Alvaro Pinto, Daniel Dias, Goncalo Dias (tromboni)
Abe Rabade (pianoforte)
Demian Cabaud (contrabbasso)
Marcos Cavaleiro (batteria)
Carlos Azevedo (arrangiamenti, conduzione, pianoforte)
Pedro Guedes (arrangiamenti, conduzione,)
Ohad Talmor (arrangiamenti, conduzione)

『Star of Jupiter』

このアルバムのコンセプトは一目瞭然であろう。人間の内面や幾何学的なタイトルを曲に名付けてきたRosenwinkelが、抽象的なモチーフを好んでいるのは想像に難くない。本作も表題曲の『Star of Jupiter』や冒頭の『Gamma band』11曲目の『De ja vu』等に現れているように、宇宙のイメージや幻想を1つのモチーフとして新しいサウンドを生み出そうとして椅子。その音色は極めてロック的であるが、その音は過度に歪ませたりノイズを出したりせず、あくまでクリアなトーンの上に、自らの声に神秘的なエフェクトをかけてハーモナイズしている。彼のダークでミステリアスな旋律が非常にクールに色合いを変えており、それはとらえ方によっては無機質性すら感じられるだろう。ここにおいて、Rosenwinkelが初期『the enemies of energy』のころから追及し続けてきたきわめて現代的なハーモニックサウンドは、このアルバムにおいて結実している。なお、『Homage A' Mitch』は90年代に彼が通っていたクラブ「Smalls」のオーナー、ミッチボーデンへのトリビュートになっている。

Label: Wommusic
Released: 2012

CD1:
1. Gamma Band
2. Welcome Home
3. Something, Sometime
4. Mr. Hope
5. Heavenly Bodies
6. Homage A'Mitch
CD2:
1. Spirit Kiss
2. kurt 1
3. Under It All
4. A Shifting Design
5. Deja Vu
6. Star of Jupiter

Personnel
Kurt Rosenwinkel: guitar and vocals
Aaron Parks: piano
Eric Revis : bass
Justin Faulkner: drums

『Caipi』

およそ10年を費やして制作した『caipi』、主にブラジルの音楽を下地としつつもこれまで追求し続けてきたハーモニーを、ほぼ全ての楽器(ピアノ・ギターベース・ドラム・パーカッション・ヴォーカル・シンセサイザー)を自ら操ってデザインしている。また今作ではギタリストのエリッククラプトンがゲストとして『Little Dream』のソロを担当していることも異質だろう。本人曰く、「ブラジル音楽だとは思っていない」と語っているように、そこにはブラジル音楽だけでなく、ポストロック、アンビエント、ヒップホップなど多様な音楽の影響がうかがえよう。だがそれは『Heartcore』での発想を受け継ぎながらボーカルの役割において新たな試みを行っている。90年代の録音において、ギターのサウンドと同時に自らの声を加えたことから始まり、2005年の『deep song』における声の電子化を経て、本作で初めて歌詞付きの曲が登場するのである。もちろんRosenwinkel自身の声だけでなく、ゲストボーカルの力を借りながら独特のハーモニーを作り出してゆくのだが、それがもたらす世界観は、『Star of Jupiter』とはまた異なる神秘性だ。例えば『casio vanguard』シンセの重層的なハーモニーと、ユニゾンして歌われるギター、リバーブがかけられたボーカルのメロディラインは深く共鳴しあう独特の美しさを醸し出している。歌詞はRosenwinkel本人とバックキャストによってポルトガル語と英語で歌われ、喜の感情あるいは人生・愛・自然などの抽象的なイメージで形作られている。ちなみに『Ezra』は彼の息子に向けて書かれたバラードであり、ここではRosenwinkelの歌声が目立っている。

Label: Heartcore Records
Released: 2017

1. Caipi
2. Kama
3. Casio Vanguard
4. Summer Song
5. Chromatic B
6. Hold On
7. Ezra
8. Little Dream
9. Casio Escher
10. Interscape
11. Little B

Personnel
Kurt Rosenwinkel: guitar, bass, piano, drums, percussion, synthesizer, voice
Pedro Martins: voice, drums, keyboards, percussion
Frederika Krier: violin (2,5,10)
Andi Haberl: drums (2)
Antonio Loureiro: voice (3)
Alex Kozmidi: baritone guitar (3)
Kyra Garey: voice (4)
Mark Turner: tenor saxophone
Eric Clapton: guitar (8)
Zola Mennenoh: voice (10)
Amanda Brecker: voice (7,8,9)
Chris Komer: French horn (11)

『Searching the Continuum』

『caipi』の制作を終えて新しいプロジェクトとして動き出したのがこのKurt Rosenwinkel Bandit65」という名義でリリースした『Searching The Continuum』である。本アルバムは世界各国でのライブのうち、ストックホルム、マドリード、フィラデルフィア、ウィーン、ベルリン、ロサンゼルスでそれぞれ録音したものを収録したものとなっている。演奏している日時は異なるものの、一つのコンセプトに貫かれている。シンセサイザーやエレクトロニクスをふんだんに取り入れた音響が幾重にも絡み合い、即興的に繰り広げられるのはこのアルバムを貫く一つのコンセプトであろう。もちろん電子的な音響は『caipi』にも特徴的だが、そこで見られたサウンドを精緻に配置していくのではなく、よりインプロヴィゼーションという即興のスタイルに力を入れて演奏されている。しかしそのインプロヴィゼーションがジャズの文脈を踏まえつつも、目指されているのはよりアンビエントな音楽であろう。思えば数々のアルバムにおいてハーモニーを多層化してある種の空間的な奥行きを生み出す試みは繰り返されていたことを考えると、アンビエントとジャズの交差を作品化するという発想も、決して突飛なものではない。そうした電子音やパーカッションの音色が生み出す空間は宗教色すら感じさせる例えば1曲目『Inori』は先述したインプロヴィゼーションと宗教的サウンドが感じられる好例だろう。或いは3曲目『Interstellar Suite』は三味線のような音色と、ざわめくようなパーカッションから入ってゆく響きはおどろおどろしさと神秘性、宇宙的な抽象性が両立するような緊張感が張り詰めている。

Label: Heartcore Records
Released: 2019

1. Inori (Stockholm)
2. Sagrada (Madrid)
3. Bloomer (Philadelphia)
4. Interstellar Suite (Vienna)
5. At the Gates (Berlin)
6. In Time (Los Angeles)
7. Magical (Philadelphia)

Personnel
Kurt Rosenwinkel: guitar, voice, electronics,
Tim Motzer: electro-acoustic guitar synth, electronics
Gintas Janusonis: drums, percussion, electronics

『Angels around』

Rosenwinkelが、いわゆるスタンダード曲を集めたアルバムを出したのは『intuit』『reflections』があげられるが、この『angels around』もそのようなジャズのスタンダードを集めたものとなっている。それらを時系列的に聞き比べてみるのも興味深いかもしれない。『intuit』ではドライブ感のあるバップフレーズがちりばめられている、いわゆるストレートなジャズの演奏になっているが、本作は『reflection』のダークで都会的なムードとよりソリッドなサウンドが目立つ。『reflection』同様、ここでもセロニアスモンクの曲『Ugly beauty』が採用されているが、原曲にあるようなぎこちなさや不協和音は取り除かれ、よりテーマがメロディアスに表現されている、その他原曲から再解釈を加えた表現がなされているのは6曲目、曲の『Time Remembered』であろう。ピアニスト、ビルエヴァンス作曲であり、彼を取り上げたドキュメンタリー映画のタイトルにもなっている楽曲である。原曲の緊張感はピアノの旋律の美しさと、重厚なベースから生まれているが、このアルバム原曲のムードを大きく変え、ボサノバ、ロック気味のモチーフで演奏している。緊張感はそのままに、ソリッドなギターの音色は独特なメランコリックさを生み出している。ギターの音色に寄り添うように演奏されるドラムもアルバムでは重要な要素となっているだろう。それは『The Remedy』でドラマーのエリックハーランドが演奏した、うねるような激しい音の洪水と比べても、非常にスマートに曲を乗りこなしている様相が見られよう。

Label: Heartcore Records
Released: 2020

1. Ugly Beauty
2. Ease It
3. Self Portrait in Three Colors
4. Simple #2
5. Punjab
6. Time Remembered
7. Angels Around
8. Passarim (bonus track)
※ Passarimのみは国内版CDにのみ収録

Personnel
Kurt Rosenwinkel: guitar
Dario Deidda: bass
Gregory Hutchinson: drums

『The chopin project』

前作『Plays piano』でクラシックへの可能性を見せたRosenwinkelの次の試みはスイス人ピアニスト、ジャンポールブロードベックのプロデュースの元、クラシック音楽のジャズ的解釈であった。Rosenwinkelはインタビューの中で、ショパンの楽曲とジャズピアニスト、バドパウエル・バリーハリスとの共通項を、ハーモニーの構造に着目して紐付けているが、その言葉通りに、plays pianoでは見られなかったような、ハーモニー感、そしてよりソリッドでドライブ感のある演奏を繰り広げる。非常にバップ的な形式で演奏されている『prelùde in B-miner』を筆頭として、一聴すると、これがショパンの楽曲を下地にしていることに気が付かないほどに現代的なスタイルのジャズサウンドなっている。
Label: Heartcore Records
Released: 2022

1. Étude in E-flat minor (Op. 10, No. 6)
2. Prélude in E-flat minor (Op. 28, No. 14)
3. ‘Raindrop’ Prélude in D-flat major (Op. 28, No. 15)
4. Valse in C-sharp minor (Op. 64, No. 2)
5. Prélude in C major (Op. 28, No. 1)
6. Nouvelle Étude in A-flat major (No. 2)
7. Prélude in B minor (Op. 28, No. 6)
8. Nocturne in C-sharp minor (Op. 27, No. 1)
9. Prélude in A minor (Op. 28, No. 2)
10. Prélude in E major (Op. 28, No. 9)
11. Bonus track: Mazurka in F minor (Op. 68 No. 4)

Personnel
Kurt Rosenwinkel: Guitar
Jean-Paul Brodbeck: Piano
Lukas Traxel: Acoustic Bass
Jorge Rossy: Drums

5g343-1030
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