その女、ジルバ(漫画・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『その女、ジルバ』とは有間しのぶが『ビックコミックオリジナル増刊号』2011年7月号から2018年9月号まで連載していた漫画、およびそれを原作としたドラマ作品。大型スーパーの倉庫で働く薄井新は40歳独身。老後の不安から高齢BARで見習いホステス「アララ」として働き始める。もう中年だと人生を諦めていたアララもお客からはヤングギャル扱い。皆で歌い、踊り、お店に溶け込むにつれアララは生きる希望を取り戻していく。第23回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞。2021年に池脇千鶴主演でドラマ化し高評価を得ている。

公園のベンチでアララと白浜は再会したが、お互いの事を思い出せずにいた。アララが帽子の花を落とした時に白浜が花を拾い、帽子につけ直す。その時に白浜が「妙だな。前にもこんなことが…君に似たタヌキを知ってる。」と言う。するとアララが「ええ!!私はあの時のタヌキです。」と答え周りの通行人をざわつかせる。人々は「昔話は本当だったのか」「たしかにタヌキの面影が」と口々にささやき合うコミカルな場面である。

アララ「生き方なんて、どこでどう変えたっていいんだ。」

みかが退職を決意したいきさつを聞き、自分が会社に対して怒りに近い焦りを感じていたと気付いたアララ。その時くじらママから「アララ、もう店の専属(うちのこ)になっちゃいなさいよ。」と誘いを受ける。そのあとにジルバの宝石箱の隠し引きだしから、マスターがジルバに贈った金の腕輪を発見して、アララはジルバママの日本での半生が追憶と後悔だけではない幸せもあった事を知り喜ぶ。

次の日地下鉄から風が強く吹いている地上に出るときにアララの頭に「生き方なんて、どこでどう変えたっていいんだ。」という思いが浮かぶ。アララの表情は納得したのように穏やかであった。

村木 みか「「自分可哀想がり」終了。数えきれないほどこうして一人で立ち直ってきた。年の功だよ。」

みかの退職日。平日の電車に乗ると、みかは突如「怖い。」と不安に襲われる。
「もう本当に何もかもなくなった。仕事も自分の部屋も人間関係も。」「どこでこうなったかなあ。」と顔をバックで隠し泣き崩れる。しかし自分が降りる駅に着くとムクッと顔を上げて「よし、終了。」と思いながらバックをゴソゴソする。

みかはチンと鼻をかみながら「「自分可哀想がり」終了。」と自分の気持ちに区切りをつける。
「いったんどん底まで落ち込んだからあとは上がるだけ。大丈夫…!!」そして立ち上がり「数えきれないほどこうして一人で立ち直ってきた。年の功だよ。」と歩き出した。

その姿はさっきまで号泣していたのが嘘みたいに力強い。人生に絶望した後にすぐ気持ちの切り替えが出来る心の強さは、是非見習いたいシーンである。

マスター「人が人を理解するなんてできないと思うよ、おれは。見ても聞いても話しても取りこぼすんだ。」

常連客の滝口(たきぐち)が高校の同級生の田所をつれて来店したとき、皆でダンスホール時代のお店の話で盛り上がった。ジルバとの思い出話を聞くアララはマスターに、「マスター…あたしだけ、ジルバママにお会いしてないの残念だなあ。話聞くばっかり。」と愚痴をこぼす。すると野菜を切りながらマスターは「別にうらやましがるこたないさ。おれだってどの程度ジルバを知ってたやら。」「人が人を理解するなんてできないと思うよ、おれは。」背を向けながらマスターは続ける。
「見ても聞いても話しても取りこぼすんだ。」と。その言葉からマスターがジルバの事を理解できなかった後悔と悲しみの深さをうかがわせる。ジルバの死の直後にマスターは「長い間、何一つわかってやれてなかった。」と号泣し自分を責めていた。

「虚は実。光の強さは闇の濃さ」

回想のジルバの表情は暗く、虚空を見つめ窓辺に座っていた。その姿は普段の明るいジルバから一変し、年月が過ぎても家族を亡くした悲しみを忘れられないでいるジルバの「闇」が表現されたシーンである。

アララ「この数年で、たくさんの痛手を見た。受けとめきれない大きな傷、抉(えぐ)られる傷。傷が大きいほど、なぜか人は自分を責めるのも。」

仕事終わりに食事に行ったお店で、で、くじらママの過去の告白にじっと耳をかたむけてきたアララ。「いやあね、こんな話を始めてしまって。それとも懺悔かしら。」と言い「だましてたと同じよね、みんなを。」と自分を責めようとするくじらママ。それに対してアララはくじらママの手を強くにぎり、「ママは!!なんにも悪くない!!」と言い切る。

その時アララの脳内に震災直後の福島の人々の姿が浮かび上がる。崩れた街、がれきの中から救出される人、悲しみに泣き崩れる人々、その人にインタビューしに行くキャスター、その様子ををスマートフォンで撮影する人々。
「言葉が、見つからない。」と涙を流すアララ。実際に被災した人々が体験したであろう、悲惨で残酷なシーンである。

「この数年で、たくさんの痛手を見た。受けとめられない大きな傷、抉られる傷。傷が大きいほど、なぜか人は自分を責めるのも。」
「罪や恥のように、自分の傷を責め続ける人に、あたしはバカのようにこれしか言えない…」

「ママは悪くない!」泣きながらアララは言った。アララのくじらママや被災した人々への願い。アララの優しさを見事に表現したシーンである。

『その女、ジルバ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

中高年女性の心に響いたドラマ 最後に「ジルバロス」がトレンド入り

2021年1月より東海テレビでスタートしたドラマ版『その女、ジルバ』。当初主演である池脇千鶴の以前の容姿からの変貌が視聴者を驚かせた。「劣化」などの言葉がSNSで挙がったが、演技派女優の池脇が冴えなく将来の不安を抱える40歳から美しく輝いていくホステスのアララに変貌する姿を見事に演じ切り絶賛された。草笛光子や中尾ミエという女優の重鎮たちがセリフに説得力を与え、コロナ禍の中で先の見えない将来への不安を抱えた女性たちの心に響いた名作である。最終回にはSNS上で「ジルバロス」がトレンドワードとなる。

『その女、ジルバ』は作者の故郷・福島への祈りの物語

2018年に7年間の連載を終了した『その女、ジルバ』。5巻のお礼とあとがきには取材に協力していただいた方々への感謝の思いが綴られている。
有間しのぶの故郷は福島県の会津で、主人公のアララも同じ会津出身の設定である。震災後も苦労する人々や福島の情景が詳細に語られているのは、地元愛と福島のリアルを読者に伝えようとする作者の意思が感じられる。また、参考資料として掲載されている書籍や新聞・ネットの閲覧が莫大な量になっている。資料も様々なジャンルですべて漫画に反映されている事がわかる。

『その女、ジルバ』は第二次世界大戦、ブラジル日本人移民、東日本大震災の資料。そして兵庫県、大阪、東京、神奈川県、群馬県、福島県にお住いの方々の、各談話からの史実に基づいたストーリーである。

マンガ食堂で「その女、ジルバ」の料理が再現

『マンガ食堂‐漫画の料理、レシピを再現』。人気漫画の料理を再現しているサイトである。
ここでアララが白浜がお店に来店した時にふるまった「”ちーぶらげ”とガーリックライス」の料理が再現されている。他にマスターが作る「二種類の味のステーキ丼」や、ひなぎくがアララの引っ越しの時皆に食べさせた「ダイナマイト鳥団子鍋と〆の玉ねぎのポタージュスープ」も掲載されている。

『その女、ジルバ』の主題歌・挿入歌

主題歌:山本 彩「ドラマチックに乾杯」

元NMB48メンバー及び同グループの元キャプテンである山本彩(やまもと さやか)が主題歌を熱唱。MV「ドラマチックに乾杯~その女、ジルバLounge ver.~」は実際のドラマのセットを使用し撮影された。

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