蟲師の名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

『蟲師』とは、漆原友紀による漫画作品およびそれを原作としたアニメ、実写映画、ゲーム作品である。1999年から2008年まで『月刊アフタヌーンシーズン増刊号』にて連載。蟲師を生業としている主人公ギンコが、旅をしながら蟲とヒトを繋いでいく。時にヒトに寄り添い、時に蟲に寄り添い、ヒトがどうあるべきかを模索していく物語である。蟲に翻弄されるヒトの無力さや愚かさを生々しく描かれており、それでも逞しく生きていくヒトのしたたかさに読者は共感を覚える作品である。

「生まれた地に戻りさえすれば また生涯 他の些細な蟲からは守ってくれようとするモノだがな」

羽裏に故郷の山を描く絵師。

とある男が絵師になるため町の絵師に弟子入りするため村を出た。父親は絵師になることを反対していたが、姉は応援し、はなむけに村で採れるもので織った羽織を贈る。しかし生活が立ち行かなくなった男は姉からもらった羽織を売ってしまう。そのうち男は徐々に絵師として頭角を現し、村を離れて10年経つ頃には有名な絵師になっていた。故郷を離れてしばらくは絵の仕事に没頭していたため、里から届いた手紙も知らずに捨てていた。ある時、体調が優れなくなった男は故郷に帰省をしたところ、地滑りで故郷が崩壊していたこと知る。父が地滑りで死んだこと、姉が病死したことも、すべて捨てた手紙に書かれていたという。男は絶望し、絵師を辞めた。村でひっそりと暮らすようになった頃、ギンコがこの村を訪れる。ギンコは羽裏に不思議な絵が描かれた羽織の研究のために村を訪れたと言う。ギンコが持つ羽織が、かつて自分が売ってしまった羽織だと気付く。姉がこの里のもので織り上げた羽織は、たくさんの産土(うぶすな)という蟲と織り込まれた代物だった。産土はどこにでもいる蟲で、植物にも動物にもヒトにも宿っている。しかし故郷から離れて暮らしていた男の身体からはやがて産土が抜け、生命力が失われつつあった。「生まれた地に戻りさえすれば、また生涯他の些細な蟲からは守ってくれようとするモノだがな」とギンコは男に話すのだった。

「会いに行きゃいいだろう 水路は変わらずつながっているんだ 自分で漕ぐのが無理なうちは誰かの船に乗っけてもらえばいい」

スミに会いに行くゆら。

ある水路を船で渡っている最中、ギンコは水路沿いにある家屋に住む女性が目に留まる。女性はまるで抜け殻のように放心状態のようだった。ギンコは女性の家を訪ねることにする。女性・ゆらは、時々意識を失い、離れて暮らすスミという女性と会話をしていると言う。そんなゆらの様子を父親は心底心配していた。スミは、以前ゆらの家の女中をしていた女性で、ゆらはスミに非常に懐いていたのだ。ゆらから話を聞いたギンコは、ゆらとスミの間に水脈(みお)が通ったのだと推察した。水脈とはヒトとヒトの意識の間に存在し、目には見えない通路のことをいう。「かいろぎ」という蟲は、そんな「水脈」に住み着き、宿主と同調する。ゆらはかいろぎに身をゆだねるがあまり、ほとんどの時間意識を失っていた。ギンコは、そんなゆらの様子を見て、このままでは意識が戻らなくなると危惧する。しかしゆらは頑なに水脈を使ってスミに会いに行くことをやめようとしない。スミは、ゆらの父によって女中を辞めさせられ離れ離れになっていた。ゆらがスミに懐くあまり、ゆらはどんどん家に閉じこもり、スミとしか交流しないことを心配したためだった。ゆらが自立するため、スミも苦渋の決断で女中を辞めたという経緯があった。しかし離れ離れになったことにより、かえって自身の殻に閉じこもるようになってしまった。そんなゆらや父を見てギンコは「会いに行きゃいいだろう。水路は変わらずつながっているんだ。自分で漕ぐのが無理なうちは誰かの船に乗っけてもらえばいい」と言う。無理に関係を断つ必要は無いこと、繋がりがあるからこそ生きる糧が生まれることを説く。

化野(あだしの)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

希少な珍品に目がない化野

ギンコ(左)の薬箱をどうしても探りたい化野(右)。

化野は、蟲が見えない一般のヒトだが、蟲に関する代物を集める趣味がある。ギンコは化野が蟲にのめり込みすぎないよう、時折わざと贋作を化野に売っていた。そんなギンコに対し「お前の売りにくるモノは真贋入り乱れているからな」と、ギンコの薬箱を無理やり暴こうとする。

狩房淡幽(かりぶさたんゆう)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「それでも生きてるんだよ」

いつかギンコと旅をしたいと願う淡幽。

狩房淡幽は「禁種の蟲」を封じる能力を持つ女性である。狩房家は数世代に1人、「禁種の蟲」を封じる能力者が産まれ、淡幽もその1人だ。能力者は、体の一部が墨のような痣を持ち産まれ、痣のある個所は動かせない。片足に痣を持つ淡幽は満足に歩くことが出来なかった。この能力は、蟲師が蟲を屠ってきた体験を聞き、書物に書き写すことで成立する。淡幽はさまざまな蟲師から体験談を聞くにつれ「微小で下等な生物への驕り。異形なモノ達への理由なき恐れが招く殺生」だと感じ、精神を病んでいく。そんな時、淡幽はギンコに出会う。蟲師とは蟲の殺生しか出来ぬものだと思っていた淡幽だったが、ギンコは蟲を生かすという稀有な蟲師だった。そんなギンコの蟲師としての考えに淡幽は惹かれていく。淡幽の「禁種の蟲」を封じていくごとに、呪いは解けていくのだが、その速度はひどく遅い。自身が蟲封じを成し遂げられなければ、また次の子孫にこの能力は受け継がれていくのである。淡幽は自身が蟲封じを成し遂げ、足が自由に動かせるようになったら、ギンコと世界中を旅して回りたいと願っていた。ギンコは冗談っぽく「自分はいつ死ぬかわからないがな」と答えるが、淡幽は「それでも生きてるんだよ」と言う。それは自身の願いのためだけではなく、ギンコに生き延びてほしいという祈りも込められている。

「たとえ……状況は変わらずとも 我々はひとりじゃない ひとりじゃないんだよ」

狩房家付の蟲師・薬袋家のクマドは、表情の変化に乏しい青年だった。そんなクマドの様子を昔から気にかけている淡幽。淡幽はギンコに「間を置くとクマドがまったく別人のように思える事があった。姿形は変わらないのに何故か他人に思えてならないのだ」と語る。クマドは、薬袋家に生まれたにも関わらず、生まれつき蟲が見えない体質だった。そのため、クマドは、一族によって魂を抜き替えられる禁術を受けていた。人工の蟲を魂の代わりに身体の中に入れられたクマド。その魂が劣化すると、別の新しい魂を入れ替える。淡幽にはそのことを告げられてはいなかったが、魂が入れ替わった時の些細な変化を探幽は感じ取っていた。クマドはいつも無表情で、一族からも孤立をしている人間だった。そんなクマドに対し探幽は「たとえ……状況は変わらずとも 我々はひとりじゃない ひとりじゃないんだよ」と、一人ではないことを伝えたのだった。

薬袋たま(みないたま)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「そのようなものは お嬢さんに会えました事ですっかり消え申した……」

自身のせいで自由に生きられないことを負い目に思う淡幽(右)とそれを優しく否定するたま(左)。

薬袋たまは狩房家付の蟲師である。たまの先祖が「禁種の蟲」を狩房家の人間に封じたことから両家の関係は始まる。「禁種の蟲」の呪いにより、狩房家の人間には数代に1人、蟲封じの能力者が産まれる。蟲封じ能力者と、薬袋家の蟲師が先祖代々蟲封じを行ってきたのだ。淡幽が蟲封じをの能力を持ち産まれてきたことで、たまにも蟲封じの任務が課されることとなった。淡幽は自身の家の歴史を知らされ「私のために蟲師にならねばならん宿命を負わされたのだ」と負い目に感じる。淡幽は「自分を恨んでいるだろう」とたまに問う。探幽の心根の優しさや、責任感の強さを知っているたまは「そのようなものは お嬢さんに会えました事ですっかり消え申した……」と優しく否定するのだった。

イサザの名言・名セリフ/名シーン・名場面

心密かに山の平穏を願ってきたイサザ

旅の途中でとある山に立ち寄るイサザ。

イサザは、光脈筋や蟲に関する情報を蟲師に売ることで生計を立てる「ワタリ」をしている。ワタリとは蟲が見えるために、故郷を追い出された者達が最後に行き着く集団である。ワタリは移動する光脈筋を追い、旅をしながら生活している。光脈筋とは、山に流れる生命そのもののことである。イサザは幼い頃からワタリをしており、ギンコとも少年時代からの知人だ。イサザがまだギンコに出会う以前、彼は年に一度、とある山を訪れていた。その山の地主の子供、沢(タク)はイサザと同世代であり、短い時間であるが仲を深めていく。しかし交流が続いた数年後、光脈筋が移動し、突然旅順から山が外れてしまう。満足に別れの言葉も交わすことが出来ないまま山を離れることになった。沢のことが気がかりではあったが、どうすることも出来ず時は流れる。イサザが最後に山を訪れてから半年後、山は光脈筋からそれたことで不安定となり、大規模な土砂崩れに見舞われた。父を亡くしたばかりの沢は幼いがために、地主としての統率力はない。結果、多くの人間が山から離れてしまった。それでも何とか食いしばり、残った者達で、長い時間をかけて山を一から耕し暮らしていた。沢は長い年月が過ぎてもイサザのことを忘れはしなかった。土砂災害から15年が経った頃、ギンコが沢の山を訪れる。蟲師のギンコであれば、ワタリのイサザのことを知っているかもしれないと考えた沢は、イサザについて尋ねる。するとギンコは「ここのこともあいつに聞いて来たんだよ」と言う。それを聞いた沢は、ゆっくりと山を見つめながら「……そうか。………ならいい。これでいい……」とつぶやく。長い間、文も交わさず交流が途絶えていた2人ではあったが、互いに気に掛け合っていたことが分かるエピソードであった。

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