薬の魔物の解雇理由(くすまも)のネタバレ解説・考察まとめ
『薬の魔物の解雇理由』とは桜瀬綾香による日本のオンライン小説、ライトノベル作品。略称は「くすまも」である。コロナEXより、真丸イノが作画を担当したコミカライズも発売されている。人と人ならざる者たちが存在するおとぎ話のような世界でこの地に迷い込んだネアは、魔物と契約する歌乞いの役職に就くこととなる。ネアと契約した魔物のディノが様々な不思議な生き物たちとの交流しつつ、美味しい日常と季節のイベントを堪能し時折起きる大事件を解決する異種婚姻ファンタジー作品。
『薬の魔物の解雇理由』の概要
『薬の魔物の解雇理由』とは2016年より桜瀬綾香がオンライン小説『小説家になろう』へ掲載している小説である。2021年よりToブックスより書籍化。次にくるライトノベル大賞2021年総合4位に選出された。2022年3月27日に桜瀬綾香は逝去されている。2023年3月、作画を真丸イノが担当したコミカライズ版『薬の魔物の解雇理由』が@COMICより発売。『このライトノベルがすごい!2023(宝島社刊)』単行本・ノベルス部門第8位にも選出されている。またコミカライズ版第2巻は2024年6月に『薬の魔物の解雇理由@COMIC』に発売。
ネアは家族を全員亡くしていた。かつて家族と一緒に過ごしていた古い屋敷を守りつつ明日の食事にも困る極貧な生活を送っていたが、ある日、いつの間にかおとぎ話のような森の中にいた。森で途方にくれていたネアは騎士達に保護されて領主館へと連れてこられ、唱歌により魔物と契約する「歌乞い」に任命されたことを知る。歌乞いは唱歌によって魔物と契約する職業。全てが勝手に決められてしまう中、契約する魔物だけは自身で選びたいという決意のもとネアは1人で歌乞いの契約の儀式を行い魔物を召喚する。その召喚に応じた魔物がディノだった。美しい世界の季節の祝祭や様々な不思議な生き物。作中に出てくる美味しい料理。物語を揺るがす大惨事の発生など、読みどころたっぷりの異種婚姻ファンタジーである。
『薬の魔物の解雇理由』のあらすじ・ストーリー
就職と婚約者
ネアハーレイ・ジョーンズワークはイングランドの古い屋敷で孤独に暮らしていた。ネアが生まれて間もない頃から親戚達が事故で亡くなり、大事な弟は病気で亡くなってしまった。そして両親が亡くなっったことでネアは1人になった。しかし、両親の死は事故ではなく、ジーク・バレットの一族の事業の障害になったという理由で事故にみせかけて殺されていたことが判明した。ネアは家族が望まないとわかりつつ、ジークが任された式典でネア自ら毒を飲み、式典を台無しにするという復讐を選ぶ。毒を飲んだことでネアの体はぼろぼろになり、心臓に疾患を抱えることになった。ネアが長い入院生活を終えた後、ジークが台無しになった式典の責任を取らされる形で粛清され、彼の乗った車が海に落ち帰らぬ人になったという訃報を聞いた。
ネアに残されたのは家族がいなくなった古い屋敷。明日の食事にも困る暮らしをしていた時、ネアはいつの間にか森の中にいた。おとぎ話のような美しい森の景色を堪能していた時、騎士達がネアを迎えに来た。この世界では違う場所から落ちてきた存在を迷い子と呼び、迷い子は基本的に稀有な美貌や魔術を有しているという前例がある。しかし、ネアはどちらの基準も満たしておらず最初は迷い子として認識されない状態だった。軽い聞き取りの後、騎士たちに保護されたネアはヴェルクレア国ウィーム領のリーエンベルクと呼ばれる領主館で宣託の巫女エインブレアとウィーム領主エーダリアから、歌乞いという異世界の職業斡旋を受けることとなる。しかし、歌乞いの契約はすでに締結されている状態だった。歌乞いは特殊な職業であり、社会的な地位と収入を得ることができる。唱歌によって魔物を呼び寄せ契約し、魔物からその特性の魔術の恩恵を得ることができるものらしい。契約の魔物は例外なく歌乞いに執着するため伴侶や子供を得ることができなくなることを説明され、一般的な幸せが全て閉ざされたことをネアは理解する。さらに歌乞いは契約した魔物から魔術の恩恵を得ることができるが、対価として魔物の願いを叶える必要性がある。契約した魔物が直接歌乞いを傷つけることはしないが、魔物の願いは歌乞いの寿命を削ることも説明される。そしてネアは宣託によって国家の顔になる歌乞いに選ばれたため、ネア以外にその役を任せることができないとのこと。国に属する歌乞いになり様々な負担、不自由をなくすためエーダリアの婚約者という肩書も与えられたが、折を見て婚約を解消するとも説明され2人の態度から歓迎されていないことがわかってしまう。その理由はネアの魔術の気配が薄く、彼女の素養では前任の国の歌乞いほどの魔物を捕まえることはできないと2人から判断されていたせいだった。国の歌乞いになるのは決定していることなので、歌声に集まる魔物がいなくても他の歌乞いが懇意にする魔物をつけることができると説明される。魔物も彼らに用意されてしまっては唯一の味方を得る機会が閉ざされてしまう。自分の契約する魔物すら選べないかもしれないと焦ったネアは夜に領主館を抜け出し森のなかでひとりでこっそり歌乞いの召喚と契約の儀を行った。すると、「なんでも願いを叶えてあげるから、私の願いをきいてくれるかい?」と、凄艶な美貌を持つ魔物がネアの前に現れそう言った。
虹色の魔物と契約
魔物は美しいほど高位だと説明を受けていたネアは、エーダリアの側近のグラストが契約している魔物のゼノーシュよりも美しい彼の外見を見て今、眼の前にいる魔物は高位の魔物なのだと分かってしまう。エーダリアたちの態度から見て、自分自身に高位の魔物が来るとは考えてもみなかったネアは予想と違って困惑したと同時に、すぐに自分には手に負えない存在だと自覚した。召喚したのは、この世界の理や世界のあり方を司る万象の魔物だった。概念系の魔物は対価が多いと聞いていたネアは、最初の願いすら叶えることができないかもしれないと魔物に謝った。その魔物は命は削らないから日常的に自分をぞんざいに扱って欲しいという願いを言う。欲求に紐付くたったひとつの心からの願いがぞんざいに扱われることだったので、ネアは自身が契約した魔物が特殊な嗜好を持っていると確信する。ネアはこの魔物は自分の手に負えないと考えつつも、ディノと名乗った魔物が名前を呼んだだけで嬉しそうにする様子を見て可能な限り大事にしようと思った。
2人は領主館に戻った。ネアは高位の魔物と契約したことで政治的に利用されることを嫌い、ディノが万象の魔物なのを隠すことを望む。当たり障りがなく排除はされなくて望まれもしない魔物を希望したため、ディノから薬の魔物と偽ることを提案された。魔術の異変を察知してエーダリアとその側近であるグラスト、彼と契約している魔物ゼノーシュの3人がやって来たが、ゼノーシュはディノを視界に入れた瞬間膝をつき、エーダリアはディノを見て気絶する。エーダリアがディノに見惚れて気絶したと思ったネアは、お金を稼いだ後にディノをエーダリアに引き継いで転職すればいいと計画を立てたのだった。
グリムドールの鎖
その後ネアはエーダリアに「自分の条件を呑まなければ解雇しても構わない」と脅しつつ、労働条件や報酬の支払いについて話し合うこととなった。そして各国の歌乞いが今、1つの魔術道具を巡って抗争状態にあることや、ヴェルクレアで魔術道具の探索の指揮を執っているのがエーダリアであることなど、ネアが国の歌乞いに就任した経緯も説明された。ことの発端は仮面の魔物の存在だ。人間の容姿や声を別の人間に変えてしまう仮面を作る魔物によって、他国の王族の1人が何者かに仕立て上げられ姿を消した。仮面をつけられた者はその仮面の者に成る。自分の名前も記憶も失い人格と容姿を塗り替えられてしまう。仮面を外すのは容易だが、情報を書き換えられた人を探すのが難しい。そのため要人を保護するのに魂に鎖をかける特殊な魔術道具「グリムドールの鎖」が必要になり、各国で争奪戦が起きているのだという。その探索にあたれるのが国を代表する歌乞いに限られたのは、関わるものを限定しないと戦乱の世に逆戻りしかねないという各国の首脳陣の決断によるものだったらしい。ネアは仮面の魔物を押さえたらとどうかと提案してみたが、仮面の魔物は公爵位の魔物と説明をされる。爵位の高い魔物はそもそも人間には殺せないが、公爵位が崩壊するときは国が1つなくなるらしい。高位の魔物の見分け方はその身の色彩に白を持つこと。生粋の白を持つ魔物はあまり存在せず、白が一筋混じっただけでもこの世界では公爵位になる。ネアはこの説明を受けてディノが考えようによっては随分白いということに気付く。緩やかな癖のある長い髪は光の角度で様々な色合いが淡く混ざり合い、あまりにも多くの色が重なっているため生粋の白とは言い難い。しかし、虹色の艶がある白だと考えることもできるということに気付く。さらにまつ毛も白く、水のような揺らめきがある紺色の瞳も白や白金ともとれる万華鏡のような光が散らばっていた。ネアは「公爵位の魔物か」とディノに尋ねるが、「違うよ」と否定されたのだった。
転職活動
幸いなことにグリムドールの鎖探しはすぐには始まらなかった。ヴェルクレアは大国なため、世界のどこにあるかわからないグリムドールの鎖をやみくもに探す悪策は行わないらしい。ネアは最初の3日間はリーエンベルク内の案内や、美味しい食事を堪能することができる日々を送ることとなる。薬の魔物としての仕事も始まり、それに慣れてきた頃、ディノは食事や仕事以外は頻繁に姿を消すようになった。ネアはひとりの時間を持っててほっとする反面、どこか理不尽な孤独感を味わっていた。その時ネアは、空腹で行き倒れていた少年姿の魔物を発見する。クッキーが大好きな様子だったため、ネアはその魔物に「クッキーモンスター」と名付けた。その魔物はグラストと契約しているのだが、対価でグラストの寿命が削られるのが嫌で空腹を我慢していたため、行き倒れていたのだ。魔物という生き物は老獪で恐ろしいけど、それでも愛する相手に対してはとてもひたむきなのだということをネアは認識する。
ネアが孤独を感じていた時、ディノが大量の魔術道具と宝飾品と共に戻って来た。ディノが不在だった理由は、ネアが見ていた魔術書の付録図鑑から彼女が興味を惹かれていそうなものを、世界中から探し出していたためだった。ネアはその品々を返してくるように言ったが、自分のために苦労して持ってきてくれた気持ちを尊重し、彼が選んだ一品のみ受け取ることにする。ディノがネアに贈ったのは、夜明けの光が七色に入る不思議な指輪だった。ネアはディノを大切にしたいと思いつつ彼を慈しむ術を考える。ディノは髪を引っ張られることや爪先を踏まれることを気に入っていた。その常人に理解し難い嗜好にやはり大切にするのは身が重いとネアは考えてしまう。その時に貰った指輪がディノの爪と同じ色だということと、ディノの爪の色が一部色褪せていることに気付いてしまった。ディノが爪から作った指輪を自分に贈ったのかもしれないという可能性に至ってしまったネアは、彼を適切な専門家へ託してやるべきだと考え転職活動を本格的に行う決意をした。
ネアはディノの不在時にひとりでウィームの街へと向かっていた。別の魔物の歌乞いになるべく魔物を探していたのだった。そこでネアは素敵な煉瓦を見つけて思わず足を止める。この煉瓦を作っていたのは煉瓦の魔物だった。そこでネアは煉瓦の魔物と少し話してから街中へと進んでいく。ひとしきり街を見て回った後、木の上に座っている男性を見つけたネアは「あなたは魔物さんなのですか?」と話しかける。男性は急に話しかけられたため困惑していたが、ネアは魔物の発生について衝撃を受けていた様子で、酵母の魔物がパンの生地から出現したことを男性に語っていた。ネアが男性に「なんの魔物さんなのですか?」と尋ねたら男性は「木通の魔物だ」と名乗る。「だから木の上にいらっしゃったのですね。転職先としてはあまり好ましくないと言わざる得ません」とネアは彼を転職先に選ぶのを諦めた様子だった。煉瓦の魔物とはネアは徐々に仲良くなり契約を狙うつもりであった。1番の候補は酵母の魔物だった。ネアにとって煉瓦の魔物も魅力的だったが酵母の魔物とは同性なので仲良くなりやすそうだと考えていたのだ。しかし、ネアは魔物の狭量さを忘れていた。この転職活動をディノが見逃すはずがなかったのだ。
煉瓦の魔物は話しかけてきたネアを気に入っていた。煉瓦の魔物はすでに契約者の歌乞いがいたが、色恋は別だと考えていた。ネアと進んで話すようになり煉瓦の魔物は彼女から髪結い用のリボンのプレゼントをもらう。煉瓦の魔物がリボンを眺めながら夜道を歩いていた時、「羨ましいことだ。私もまだあの子から贈り物をもらったことはないんだよ?さて君をどうしよう?」と、ディノが彼の前に現れたのだった。
『薬の魔物の解雇理由』の登場人物・キャラクター
主要人物
ネア
本作の主人公。本名はネアハーレイ・ジョーンズワース。この世界では偽名を使っている。青みがかった灰色の長い髪に鳩羽色の瞳を持つ整った顔立ちをしている。ディノによって異世界に落とされた迷い子。その過程で体をこの世界に適応できるように作り変えられていて、前の世界と異なる髪や瞳の色になっている。事なかれ主義で面倒なことに関わるのは基本的に避ける性格。しかし、よく事件や事故に巻き込まれる。元の世界では極貧の暮らしをしてきたため、食べ物に対する執着心が強い。ディノと歌乞いの契約を結ぶことと成ったが、ネアは自分自身にディノは身の丈に合っていないと考えており、5話では新しい魔物と契を結ぶために転職活動を行っている。
ディノ・シルハーン
ネアと歌乞いの契約をする凄艶な美貌を持つ魔物。ディノが名前でシルハーンはディノが司るものを意味している。理やこの世界の在り方を司る万象の魔物。高位の魔物と契約をしたことで政治的利用されるのを嫌ったネアにディノ自身は薬の魔物と偽ることを提案し、表向きには薬の魔物としている。老獪さと幼さが同居していて、言葉の表現が不器用。自分のことはぞんざいに扱っていいという願いをネアに言っており、椅子になるという発言を日常的にしているためネアからは被虐趣味者と誤解されている。ネアをこの世界に引き落とした張本人。引き落とす過程でこちらの世界で生きやすいようにネアを作り変えている。
エーダリア
ネアの直属の上司で、コミック1巻では婚約者だった人物。ウィーム領の領主であり、ヴェルクレア国の元第二王子。旧ウィーム王家の最後の末裔。ガレンエンガディンと呼ばれる魔術師の長でもある。銀貨色の銀髪に鳶色の瞳。ネアからは絵のように綺麗な男性と評されている。魔術のこと以外では常識人であり苦労人。ネアと知り合ってから胃痛に悩まされる日々を送っている。
ゼノーシュ
目次 - Contents
- 『薬の魔物の解雇理由』の概要
- 『薬の魔物の解雇理由』のあらすじ・ストーリー
- 就職と婚約者
- 虹色の魔物と契約
- グリムドールの鎖
- 転職活動
- 『薬の魔物の解雇理由』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- ネア
- ディノ・シルハーン
- エーダリア
- ゼノーシュ
- グラスト
- ウィーム
- 煉瓦の魔物
- 酵母の魔物
- 木通の魔物
- ヴェルクレア
- エインブレア
- その他
- ジーク・バレット
- ユーリ・ジョーンズワース
- ジョーンズワース夫妻
- 『薬の魔物の解雇理由』の用語
- 世界設定
- 迷い子
- 歌乞い
- ガレン
- 種族
- 魔物
- 魔術
- 魔術可動域
- 魔術汚染・魔術侵食
- 魔術抵抗値
- 地名
- ヴェルクレア
- リーエンベルク
- 魔術道具
- グリムドールの鎖
- 『薬の魔物の解雇理由』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- ネア「私には不相応としていずれ手放すだろうけど…名前を呼んだだけでこんなにも嬉しそうにするこの魔物を可能な限り大事にしてやろう」
- ゼノーシュ「だから僕はグラストが寂しくないようにグラスのそばにいたいし、グラストがあの子に作ってあげていた白いケーキが食べたいんだ」
- ネア「この生き物がたまらなく愛おしくなってしまうのは、こんなふうに慈しめるものがずっとなかったからだろうか」
- ディノ「あまり私以外のものに心を動かさないで欲しいな」
- ネア「本当にディノを愛してくれるものに委ねるのであれば私もこの執着をなだめることができるはずだ。 それでも…私にもあなたを守ってあげれるだけの力があればいいのに」
- 『薬の魔物の解雇理由』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- ネアは呪われた一族の唯一の生存者
- ジーク・バレットはあちらの世界の主人公
- 薬の魔物の解雇理由の続編