シジュウカラ(漫画・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『シジュウカラ』とは、坂井恵理による恋愛漫画作品。2018年から2023年まで『JOUR』にて不定期連載された。夫も息子もいる女性漫画家と、18歳年下の男性漫画家との10年間にわたる恋愛模様を描く。繊細な心理描写、性的虐待・搾取、児童虐待、貧困、ネグレクトといった社会問題を果敢に描く姿勢が評価され、第23回文化庁メディア芸術祭・審査委員会推薦作品に選ばれた。2022年には山口紗弥加、板垣李光人主演でテレビドラマ化もされた。

『シジュウカラ』の概要

『シジュウカラ』とは、坂井恵理による恋愛漫画作品。双葉社刊行の女性向け月刊漫画雑誌『JOUR』(ジュール)にて、2018年6月号から2023年6月号まで不定期に連載された。
単行本は、双葉社より紙版が全10巻刊行されている。
作者坂井恵理は、SF的な設定で援助交際や男女の性欲という問題に挑んだ『ラブホルモン』、男性も妊娠する世界を舞台に男女のジェンダーギャップを浮き彫りにする『ヒヤマケンタロウの妊娠』など、社会問題を巧みに取り入れた作風で評価の高い女性漫画家。
本作でも、18歳年下の美青年との不倫という設定の物語を、性的虐待・搾取、児童虐待、貧困、ネグレクトといった重い社会問題を絡めて描き、第23回文化庁メディア芸術祭・審査委員会推薦作品に選ばれるなど、高い評価を獲得した。
2022年には、『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』などの映画で知られる大九明子監督、山口紗弥加、 板垣李光人、 宮崎吐夢ら出演でテレビドラマ化。1月8日から3月26日までテレビ東京系列の「ドラマ24」枠で放送された。
漫画家綿貫忍(わたぬきしのぶ)は、13歳の息子と一回り年上の夫との3人暮らし。若くして漫画家デビューを果たしたものの全く売れず、20年間大御所漫画家のアシスタントを務めている。夫の綿貫洋平(わたぬきようへい)は忍の仕事に理解がないうえ、ことあるごとに彼女をおばさん呼ばわりするなど、モラハラ気質。そんな現実を生きる40歳の忍の前に、漫画家志望の青年橘千秋(たちばなちあき)が現れる。18歳年下の千秋は、なぜか忍に対して思わせぶりな態度を取る。18歳という年齢差、自分は女性で千秋は男性、そんな立場をわきまえた忍だが、気持ちは徐々に千秋に傾いてゆく。
どこにでもいる中年女性の前に、美青年が現れて2人が恋に落ちるという、読者の願望を代弁するような設定ながら、繊細な心理描写のリアリティと、社会問題に鋭く切り込む姿勢で厚みのある人間ドラマに仕上げている点が魅力。

『シジュウカラ』のあらすじ・ストーリー

綿貫忍と橘千秋の出会い

綿貫忍(わたぬきしのぶ)は、もうすぐ40歳を迎える漫画家。若くしてササキシノブ名義でデビューしたものの売れず、大御所少女漫画家の杜殿津マリ(とどのつまり)のアシスタントとして20年間活動している。
家族は、一回り年上の綿貫洋平(わたぬきようへい)と、13歳の息子綿貫悠太(わたぬき ゆうた)。悠太は素直な少年に育ったものの、洋平との仲は微妙。洋平は、育児にも家事にも協力的ではなく、忍に対してことあるごとに「おばさん」といった言葉を投げつけてくる。

そんなある日、忍がかつて「ささき蜜柑」名義で発表したレディースコミック『地獄にホットケーキ』が、電子書籍で大ヒット。思わぬ大金を手に入れ、新作のオファーを受けた忍は、アシスタントを雇うことに決める。
近所に住んでいることから選んだのは、漫画家志望の22歳橘千秋(たちばなちあき)。待ち合わせ場所に現れた千秋は、一見漫画家らしからぬ美青年だった。

忍と千秋の漫画制作は順調に進み、ある日、夕飯の席に招かれた千秋は、忍に対して「おばさん」を連発する洋平に、「“先生”です。“おばさん”」なんかじゃありません」と言い返す。その後も、忍を誘惑するかのような言動をとる千秋に、自分が男だったら勘違いしてしまうかもしれないと危うさを覚えつつ、自分の年齢と立場をわきまえてふるまう決意をする忍であった。

橘千秋の過去

見覚えのある道であることに気付く忍

ある日、千秋の家を偶然通りかかった忍は、自分の記憶との一致に愕然とする。その家には見覚えがあった。まだ悠太が赤ん坊だった13年前、なかなか家に帰らない洋平の浮気を疑った忍は、洋平の後をつけ、浮気相手の家を突き止めた。記憶の中のその家は、千秋の家と同じ。そして、その家から出てきた少年は「ちあき」と呼ばれていた。
橘千秋は、綿貫洋平の浮気相手橘冬子(たちばなとうこ)の息子だったのだ。
事情を問いただす忍に千秋は、他人の家を壊しておいて自分は幸せな家庭を築いていた洋平が許せず、忍を誘惑することで洋平の家庭も壊すつもりだったと語る。
「それを“許した”忍にも責任がある」そう語る千秋の言葉は、忍の胸に深く突き刺さった。

改めて千秋の家に詫びに行った忍は、かつて自分が執筆した漫画誌『月刊スパイス』を発見する。それは、喧嘩ばかりしていた父親と母親、母親の浮気、父親の暴力といった現実に打ちのめされていた千秋が、繰り返し読んでいた一冊。千秋の心を支えていた漫画の作者ササキシノブは、忍だったのである。

ある日、千秋の幼馴染山口星宙(やまぐち せいら)から、千秋の衝撃的な過去を知らされる。
千秋は高校時代、近所の女性たちに身体を売って金を稼いでいた。相手には、星宙の母親もいた。忍は千秋の過去に衝撃を受けるが、やがてその気持ちは千秋への思いやりに変わってゆく。
「前に…その…お金もらってそういうことするの…“割のいいバイト”って言ってたけど…」「本当は嫌だったんじゃないの?」
その言葉を聞いた千秋は、かつての自分の本当の気持ちに気付き、涙を流す。
そんな千秋に対して、夫とのセックスがつらいことを告白する忍。千秋はそんな忍の手を取り、「先生、僕と逃げましょう!」と言うのであった。

海辺の町への逃避行

それから1週間後、海辺の町に、忍と千秋の姿があった。
まるで恋人同士のように、2人きりの時間が流れていく。
そして、夜、忍の布団に入ってきた千秋は「忍さん、する?」と問いかける。しかし、忍はそんな千秋を抱きしめて、「もういい、そんなことしなくて、もういいの」と優しく告げる。
そんな忍の様子に何かを察した千秋は、彼女のトランクを開ける。トランクは空だった。
忍は、千秋と逃げるつもりなどなかったのだ
そんな忍にキスをしながら、千秋は切なくつぶやく。
「カバン…空っぽでいいから帰らないでよ…」

家に戻りはしたものの、このまま、洋平と暮らし続けることはできない。役所に離婚届を取りに行った帰り、忍は千秋と会う。
忍と二人で暮らすために過去の売春体験を漫画にしたと語る千秋だが、忍は悠太のためにもいまは一緒に逃げられないと告げる。
忍が帰宅すると、洋平が倒れていた。

5年後のふたり

そして、5年後。大学生になった悠太が家を出る。洋平の病は深刻で、仕事も辞めざるを得なくなり、セックスもできなくなる。
一方の忍は、漫画家として一定の成功をおさめ、2本の連載と二人のアシスタントを抱える身になっていた。夫婦の力関係は変化したが、未だに関係は冷え切っている。

あの日から、忍と千秋は会っていない。千秋のエッセイ漫画は話題を呼ぶが、その後が続かず、「一発屋」という不名誉な評価が付きまとう状態。
千秋は「妻」紺野みひろ(こんのみひろ)と同居していた。父親から性的虐待を受けていたみひろは、千秋の漫画『となりのおばさんに買われていました』に深く共感し千秋と付き合うことになった。しかし、二人の関係は不安定で不健康だった。

ある時、忍は友人の漫画家藤原ともり(ふじわらともり)から、担当編集者岡野克己(おかのかつみ)を紹介される。岡野は、忍が高校時代所属していた漫画研究会の同級生で、元彼氏だった。バツイチ、独身だという岡野と忍は不倫関係になる。

忍と千秋の再会

忍と岡野の不倫関係は続き、洋平との関係はますます冷え切ってゆく。悠太から「僕をお父さんと別れない理由にはしないでよ」と告げられた忍は、こんどこそ離婚を決意する。

そんなある日、岡野の会社の創刊パーティーで、忍と千秋は5年ぶりの再会を果たす。忍と岡野の不倫関係を知った千秋は衝撃を受けるが、忍に自分の思いを伝えようと決意し、あるネームを描き始める。
千秋は新作のネームを岡野に渡し、忍にもメールで送信する。そこに描かれていたのは、千秋と忍を主人公にしたラブストーリー。
岡野はすぐにネームのふたりが千秋と忍であることに気付く。そして、作品へのアドバイスという形で、忍への千秋の思いが、母親を求める子どものそれでしかないと指摘する。
岡野は、その足で忍の仕事場に行き彼女を抱こうとするが、千秋のメールを見て動揺していた忍には、やんわりと拒否されてしまう。

一方、帰宅した千秋にみひろが、「あたしはただ…あなたに愛されたい…」と迫る。身体を売っていた時の幻覚を見てしまい、みひろを振り切って家を飛び出す千秋。
そんな千秋に電話を掛けた忍は、彼のただならぬ様子に驚き、慌てて迎えに行く。
5年間ずっと忍に会いたかったと語る千秋のもとに、みひろが手首を切ったという知らせが届く。

みひろの暴走

千秋は自宅に駆けつけるが、みひろは無事だった。しかし、千秋が忍のもとにいたと感づいたみひろは千秋のスマートフォンを破壊し、彼を家に閉じ込めてしまう。
もう一度千秋と話したいと考えた忍は、岡野に千秋の住所を聞いて会いに行く。みひろはそんな忍を殴ろうとするが、千秋と駆け付けた岡野に抑えられ、倒れてしまう。

目覚めたみひろを看病していたのは忍だった。自分はもう千秋とは会わないと語る忍に、それでも千秋の中に忍がいるのが許せないとみひろは叫ぶ。
「あたしのこと男に頼るしかない汚い女だって思ってるくせに!」とまで言うみひろの姿に、忍は涙を流す。
みひろがそんなにも自分自身を追い詰めてしまっていること、そこに至るまで誰も彼女に手を差し伸べなかったこと、それが「悔しい」と泣く忍の涙が、頑なになっていたみひろの心を開いた。
みひろは昼間忍の仕事場に通い、その間、千秋は漫画の仕事に集中することになる。忍の家で漫画の手伝いをしたりして過ごすうち、みひろの心は徐々に安定してゆく。
距離をとったことで、千秋との関係も程よいものになる。
やがて、忍が資料としてもっていた人形の写真集がみひろの心をとらえた。みひろは少しずつ、自分の世界を持ち始める。紙粘土を買ってきて人形を作り始めたり、人形の展示会で友人を作り、その友人と外泊したりするようになった。
人形教室に通って人形作家になりたい、ついに将来の夢を語れるようになったみひろを、忍は暖かく励ます。

思いを確かめ合うふたり

千秋は再び「18歳年上の女性との恋愛もの」に挑むと岡野に宣言する。
「以前お見せしたネームが岡野さんへの挑戦状だとしたら、今度は忍さんへのラブレターのつもりで描きます!」
岡野はそんな千秋に、担当編集者として「楽しみにしてます」と答える。

クリスマスイブ。岡野は忍に指輪を差し出してプロポーズするが、千秋のことを思う忍は受け入れられない。そんな忍に、岡野が差し出した「ホントのプレゼント」は、千秋のネームだった。
そこには、千秋の忍への思いが切々とつづられていた。
「いまから僕に証明させて、僕がどんなにあなたを愛しているか」
千秋のもとに駆け付けた忍は、彼の胸に飛び込んでゆく。2人はようやくお互いの思いを確かめ合う。

『となりのおばさんに買われていました』映画化

やがて、みひろは千秋から自立して友人と暮らし始め、岡野と忍は漫画家と担当編集者の関係に戻ることとなる。
一方、忍と離婚した夫の洋平は、行きつけのスナックのママと付き合うが、彼女に騙されて退職金を持ち逃げされてしまう。
アパートからも追い出され、困窮した洋平は忍や悠太から生活費と家賃をたかるようになる。

忍との結婚を考えている千秋は、不本意ながらも自分の過去を描いた漫画『となりのおばさんに買われていました』の映画化を承諾する。

覚悟していたとは言え、自分の過去の心の傷を「映画化」することに耐えられず追い込まれてゆく千秋。生活を改めない冬子との関係も彼を追い詰める。
そんな千秋を心配して電話をかける忍、しかし、その電話をとったのは冬子だった。
忍と冬子ははじめて正面からぶつかる。千秋と結婚しても浮気されるのがおちだという冬子に対して、忍は「千秋君とは結婚しません」と宣言する。
忍との結婚を望む千秋はそんな忍を咎め、結婚しないなら無意味だからとその場で映画化の話に断りを入れる。
映画化の話に内心苦しんでいた千秋の姿を見た忍は、「私が千秋君のこと全力で守る」と言い、2人で暮らすことを提案する。

一旦は断りを入れた映画化の話だが、制作会社の太田(おおた)に誠実な謝罪を受け、千秋は、今度は前向きに検討することとなる。

2人一緒の生活が始まり、まるで新婚夫婦のような幸福感に包まれる千秋と忍。
そのころ冬子は、自分から千秋を奪った忍への憎しみを深める。そして、かつての不倫相手である洋平に連絡を取り、「選ばれない者同士」の2人は急接近する。
洋平と冬美は一緒に暮らし始め、そのことを知った千秋と忍は複雑な感情にとらわれる。

冬子の身体は日ごとに悪くなり、荒れた生活のなか洋平の心は「なぜ、こんなことに」という思いに囚われていく。そんな洋平の前に、今度はアジア系のホステスが現れ、再び洋平はこのホステスに貢ぎ始める。

洋平に見捨てられた冬子の病状は悪くなり、今度は長期の入院をすることに。そんな、冬子の面倒を見る千秋と、それを心配する忍。
そんな忍のもとに、悠太から電話が。洋平が借金を踏み倒してアジアの国へ逃亡したこと、ホステスにも捨てられたが日本には帰りたくないと言っていることを悠太から聞いた忍は、「一生そうやって逃げてればいいわ」と、洋平を完全に見捨てるのであった。

『名もなき詩』

忍は新しい漫画の案を練り始めるが、なかなか形にならない。そんなある日、忙しい千秋に代わって冬子の買い物を手伝うことになった忍は、かつて千秋を買っていた星宙の母親と会う。彼女の態度に、強い怒りをぶつける忍。
そんな忍の姿を見た冬子の態度は軟化し、2人は少しだけ打ち解ける。冬子の人生を聞かされた忍の中で、新しい漫画のアイデアが固まり始める。

忍は、離婚経験のある友人あや子や、みひろたちから人生を聞き取り、少しずつ漫画を形にしてゆく。

千秋は忍にプロポーズするが、もはや「結婚」を信じていない忍はそれを断る。その代わり忍は千秋に、毎年クリスマスに思い出の場所で「好き」だと言ってほしいと頼む。

やがて、冬子は亡くなる。ササキシノブの新作『名もなき詩』は、ネットで一定の共感を読んだものの、大ヒットには至らなかった。それでも、確実に読者の胸に届いたことで、漫画家になってよかったという思いを再確認する忍だった。

ある日、忍の家にたくさんの友人たちが集まってくる。
岡野、漫研の友人だったよっきゅんとあや子、アシスタント先の杜殿津マリと、友人の漫画家藤原ともり、人形作家として頑張っているみひろ。そして、誰よりも愛する人千秋。
その日、綿貫忍は50歳になった。

『シジュウカラ』の登場人物・キャラクター

綿貫家

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